人生の行き先

Hanakappa!

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第十七話 生きる道

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  私は、16年という長いようで短い生涯を終えた。日にちが変わるのと同時に消えてしまった。

遺体は学校に輸送されたが、私の亡骸を見た大勢の人は、感情が揺さぶられるように感じるものが多かったのか、全く泣かなかったと言う。


 正直あの時、私は嬉しかった。
みんなが私の手を最後まで握ってくれたからだ。一人一人の愛情が感じられるような人間になっていると言うことを思い知らされた。
私の手首にはみんなの涙の雫が何滴か垂れていた。とても温かった。

 鼻水を啜りながら泣き叫んだ悠木先生は私の制服のポケットにある手紙があることに気がついた。

「これは。」

「みんなへ、私はもう時期みんなの前からいなくなります。」

どうやら私の遺言書だった。
先生はそれを読んでみせた。

「やっと、私のあるべき場所を見つけることができたのに、こんなことなってしまうのは残念だ。もっとみんなといたかった。話したり、遊びに行ったり、小学校の時の明るかった私みたいに戻れるのではないかと、少し過信し過ぎていた。私には従姉妹、すなわち優奈という大切な人にも出会えた。先生も裕太さんもみんな、あなたがいてくれたからここまで来れたんだよ。これは、お母さんにも言わないといけない。優奈に出会えたのはお母さんが産んでくれたからだと言いたい。直接言いたかった。今まで私は心を閉ざして接してきたけど、本来の私に戻ることができたのなら、全てを忘れてもいい?いじめ、差別などこれまでにあった嫌な記憶を忘れてもいいの?家族や色んな人たちから逃げて、逃げて、逃げまくって影で自分を操ってしまう時があった。私が2回目の入院の時にそれが怖くて、自傷行為を何度も行ってきた。小刀で自分の顔と腕を刺したり、精神状態がおかしくなっていた時期もあった。けど、そんなどん底の人生から私はあなたたちにまるで地獄と天国を結ぶ一本の蜘蛛の糸のようにすくい上げてくれた。あなたたちがいてくれたから私は自信を持って、上から差し伸べられた手を私は掴んで今に至った。本当にありがとう。私がいなくなっても、みんなは立ち止まらずに、各々の人生の終着駅まで駆け抜けて欲しい。私はみんなのことを死後の世界つまり天国から見守ってるよ。もう会えないけど、私の死を糧にさらに成長してほしいと思ってるよ。最後に、本当にありがとう。逝ってきます。バイバイ、また明日。」

と、B5のルーズリーフ一枚の紙にびっしりと記されていた。この内容を読んでいた先生はもちろんのこと、客室にいた人間全てが重たい涙を流した。 

  バイバイ、また明日という言葉に心が刺さった。子供たちが下校中に友達と別れる時によく使われる一種のフレーズなのに、このフレーズを言う時の相手がいなくなったら、もうその台詞は言えなくなってしまうという怖さにゾッとした。

  しかし、私はあの時に何かが見えたのだ。
由香里がいなくなった時、私の目には一筋の光が見えていた。死者を天国に幽閉するための光だと思っていた。しかし、その光に由香里がどんどん吸い込まれていき、少しずつ由香里の本体が消えていくのが見えた。
このことに焦っていた私は先生やお父さんに聞き回ったが、一切そんなことは見えていなかったと言った。私にしか見えなかった光は一体なんだったのだろうか。

  私は知らずに時が過ぎるのを待っていた。







2年後。私、優奈は高校を卒業した。
恵と裕太から卒業式で結構喜ばれた。

「優奈!卒業おめでとう!」
悠木先生が私のところに来てくれた。

「先生、もう呼び捨てはやめて。」

とても順調にうまくいっていると周囲から思われていたのだが、私はそうではなかった。

先生とも別れ、私たち家族は家に帰ろうと、駐車場から車を出発しようとする時に親にこう言ったのである。

「ちょっと、先帰ってて。用事ができた。」

私はすぐに車から出た。
親からは袖を掴まれたりして止められたが、それを見事に振り切った。

私の勘が働いた。
この周辺に誰かがいるということを。

目的地まで、私はひたすら走り回った。

 「どこにいるの?」
 「今何か聞こえた。」

学校の方から誰かの声が聞こえた。
私は土足で学校の中を走り回った。
廊下に響くローファーの音。私にはただの雑音にしか聞こえなかった。

もう足がもげてもいいという覚悟で学校内を駆けた。階段を使って探そうとしていたら、私はあることを思ってしまった。

いつのまにか屋上につながる階段到達していた。


私は額に少量の汗をかいていた。
「そろそろ屋上だ。」

私はもうわかっているんだ。
この先に誰がいるかなんて。


屋上に到達した。
今まで見たことのない青空が蒼茫としていた。
空気も今まで以上に快適だった。

私は一度深呼吸する。

周囲を見渡すと、誰もいなかった。

「私、やっぱり騙されてたんだ。早く帰ろう。」

と、開き直って傍にあった空き缶を足で蹴った。

私は呆れた。
声がする方向に人がいるのは必ずしもいるとは限らないということを。

しかし、私の後ろからある白い空間が見えた。

「な、何?」

すると、その空間から死んだはずの由香里が出てきたのだ。
その空間は、由香里がいなくなった光と同じ匂いがした。


私は思わず振り向いた。

「優奈。2年ぶりだね。」
「なんであんたがいるの?」

由香里との再会にとても感嘆としていた。

「もう。卒業したんだね。」
「うん。本当は由香里と一緒に卒業したかった。」
「あの時にもし戻ることができたならまた戻りたいな。」
「由香里・・・。」

私たちが再会した場所。
屋上のコンクリート。
由香里のお気に入りの場所でもあったし、私たちが共同で絵を描いたのが初めての場所ですごく思い入れが強かった。

「そういえば、私たちが高校で出会った頃は何も知らなかったよね。」

「確かに。」

「由香里がまだ私に心が開かなくて混乱してた時期だよ。」

「ほんとだよね。あの時優奈が何も言ってくれなかったら私何していたんだろう。」

 「私、入学式後の初めての学校のお昼休みに、ここで由香里が一人で物陰に隠れてご飯食べていたのを見てたんだ。」

「そうだったんだ。」

久しぶりに私たちは屋上で思い出話をした。もしこのまま由香里が生きていけるなら一緒に親も含めて暮らしたいと思った。

「あれからみんなはどう?」

由香里が違う話題にシフトチェンジした。
 
「みんなうまくやってるよ。」

私はみんながこの二年間何が起こったのかを由香里に伝えた。

由香里の死から半年後、私のお母さんと由香里のお母さんが和解をしたよ。
今でもたまにお互いの家に遊びに来るまでに発展していった。私初めて見たよ。姉妹という振る舞い方を。

私も由香里の家に何度も赴き、その度に仏壇に行って由香里にお祈りをしていた。

「由香里。元気にしてる?こっちはうまくやってるよ。天国でも快適に過ごせているかな。私は頑張るよ。由香里と妹さんとあなたのお父さんの分まで生きて、みんなに恩返しがしたい。」
と手を合わせているたびに思っているという。

裕太は病院の院長になった。
この2年で手術の経験を伸ばし続け、メキメキと院長への階段を登り続けていた。
院長になれた理由を聞くと、彼はいつもこういうんだ。

「由香里みたいに、もう病院で命を落としたくないからこの期間に一生懸命頑張れた。」
と言ったそうだ。

悠木先生は奥さんとの間に三つ子を授かった。毎日育児に協力的で、イクメンパパとして日々修行中である。奥さんからの信頼も厚い。私が2年生の時に産んだからもう1歳になっている。私も何度か三つ子を見に先生の自宅まで行くという機会があった。とても肌がぷにぷにしていてとても可愛かった。まだまだ子供を産む計画をしているらしい。10人以上の大家族に憧れを抱くようになったという。

教師になって初めての担任で由香里と出会って、教師の大切さに早く気がついたんだとか。
由香里がいなくなった後のクラスは閑散としてた。そのショックによって、食欲がなくなり、先生は15キロ体重が落ちた時もあった。
しかし、そんな苦境を乗り越えて、体重も元通りになり、教師を続けている。

そして、一番変わったのは私だ。
由香里を失った私は、ショックから半年学校に行かなくなってしまった。
自分の部屋に引きこもって、24時間ずっと泣き喚いたこともあった。

けれど、ある日、悠木先生が私の家に来てくれた。
「由香里に線香をあげに来たんだ。」

と言っていたが、私の部屋にガムテープが貼ってあったので、違和感を感じた先生が私の部屋の前に来た。

「優奈。いるんだろ?」
軽く声をかけてみた。

「はい。います。」
ドアの前に体育座りをしていた私は泣き止んだ。

「なんですか?私はもう学校に行く資格ないんです。先生には申し訳ないけど、学校辞めます。」

私は先生に強く怒鳴り散らした。

すると、先生がこう言った。

「お前は由香里がいなくなって、孤立無援状態になってるかもしれない。けど、お前はいい仲間たちに出会えたと思うよ。学校辞めたら、このまま人生捨てたようなものになるぞ。由香里もこんなことは望んでいなかっただろう。心が変わったのなら、明日学校に来なさい。先生、生徒たちと一緒に教室でいつまでも待ってるから。」

と言い残して、立ち去ったという。
釘が心臓を突き破られていた私の目には
熱いものが溢れ出た。あの言葉が刺さり、心を入れ替えた。

「大学に行って好きなものを勉強をしよう。」

自分の進路についても考えられるようになった。

私は由香里に今後について打ち明けた。

「私、東京の都市部の大学に行くんだ。っていうかここ東京だけどね。」

「まぁ確かに。でもここは23区ではないよ。」

「だから、この街と学校と家族に別れを告げないといけないの。」

「そうなんだ。」

「私の家に住んでいいよ。もう天国には帰らないでしょ。」

私は由香里が帰ってきたのかと思ってた。
けどそれは違ったのだ。


「実は、もう戻らないといけないんだ。」

私はあの時みたいに重く現実を受け止めていた。

「そうだよね、人がこんな簡単に生き返るなんてできるわけないよね。」

一度死んでしまったのならもう帰ってこれないという重りを心の中にしまっていたが、それよりも早く涙が出てしまった。

「涙が、私もう泣かないって決めたのに。」

「ということはもう二度と会えないの?」
私は泣きながら由香里に言った。

「うん。もうこれで会えるのが最後だよ。私も本当は生きたかったよ。」

由香里も悲しそうに言った。

その言葉に私は開き直ったのだ。

「わかってるよ。出会うってことはいつか別れるように世界はできているようなものだから。」

「優奈。みんなを頼んだよ。」

最後に2人はお互いの手を握ってから、
抱き合った。

由香里は何も感情が動かなかった。けど、心の中で涙を我慢している様子が伺えた。
それに比べて私は泣き止んだのにも関わらず、また流してしまった。

由香里が来ていた制服に一滴の雫が落ちた。


「元気でね。」
私が言うと、

「うん。」
由香里が返してくれた。


「バイバイ!」


「ええ。」




由香里は白い空間の中に取り込まれて、元の世界に帰ってしまった。


「とうとう行ってしまったのね。」

「ありがとう。あなたに会えて、嬉しかった。」

  私は屋上で1人、
私の腰ぐらいの高さの柵に手を組んで、
遥か遠くにある飛行機雲を天国に帰ってしまった由香里みたいにいつまでも見つめていた。


これも全て運命だった。

This is destiny.



The end


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みんなの感想(2件)

スパークノークス

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花雨
2021.08.13 花雨

作品登録しときますね(^^)

2021.08.14 Hanakappa!

作品登録ありがとうございます。

解除

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