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四話
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《おかーま、ばれー》
「オーカマバレーな。」
この犬は丁寧な言葉遣いではあるが、言葉のセンスが無い。異国の文字については読むのも発音するのも苦手なようだった。
船は見慣れぬ港に着いた。
通りで乗客が少なかったわけだ。
陸続きで行けない事は無いのだが、ここは西の果ての森を抜けてたどり着く事ができる谷だ。こんな海路があったとは知らなかった。
ここにはイールビの昔馴染みの友人が住み着いたという噂だが。
あれから船はしばらく陸に着かなかった。
イールビはなぜか話したくなって、ガキの頃の話をたくさんした。昔は身体が弱かった事、運動を無理にはじめたら体力がついた事、剣術の道に進んで剣士を目指した事もあった。
どちらかといえば魔法学の方が向いていて、知識はあるもののまだ本格的に使用した事はない。
退屈しのぎに歌を歌ってやると犬は大層喜んで「自分も」と魔法の力で人の姿に変わって、いくつかアイドルソングのような聴いたこともない歌を歌いやがった。
不覚にもちょっと萌えた。ちょっとだけな。
人の姿のロッロ(こっちの方が呼びやすくてそう呼ぶ事にした)はデカい犬の時とは違ってどっちかというとコンパクトで色気のカケラもない女の姿だった。
もっと色気のある感じにならないか、とか、声も低くしてみろ等と注文をつけてはみたが、未熟な魔法のようでどれもうまくいかなかったり長続きしなかった。
もう少しで陸地が見えるって時に、奴の言った俺の歌の感想が癪に触ってマジでキレかけたらピーピー泣いた。
人間の言葉が下手くそな事があり、思いとは違う言葉を選んでしまう事があるようだった。
人の姿が幼い為か、その姿で泣かれると胸が痛むと同時にもっと虐めてやりたいって気持ちも生まれた。変だな。
船は半日ほどかけて俺達を桟橋に下ろすとそのまま、よその国へ行って、5日後にしかここに戻らないらしい。
谷の側に小さな街があり、そこに友人の家があったはずなのでとりあえずそこを目指す事にした。
《お友達の家があるのですか》
「そう。ムヒコーウェル姐さん。男から女かよくわかんねーけど、良い人だ。お前も紹介してやる」
《それは楽しみです》
ウキウキしていた犬の姿のロッロはふと足を止め、鼻をすんすん鳴らした。
《待ってください…この臭いは…》
「どうした」
《ひどく焼け焦げた臭いです…人の声も一切しません…》
「そんなバカな」
歩を進めると、街の入り口が見えたが、そのほとんどが焼失していた。
焼け残った建物も、所々破壊されている。
つい最近の事では無いようだ。焼けた後から草花が生えている場所もあった。
「そんな…一体何があったんだ」
《火事…ですかね…それにしては…》
「様子が違うな。故意的に破壊されている跡がある。なんらかのモンスターか、悪魔か、人か…」
言い終わる途中でロッロがフッと前方を見る。
《!!イールビ様、人がいます》
「なんだと」
《子供のようです。こちらに向かっています》
と、すんすん鼻を鳴らした。
「お前嗅覚だけはハンパないのな」
まもなくして、トボトボと赤毛の少女が現れた。
名前はタバス。とある男に執拗に着けられて逃げ回り、迷子になったという。
「大丈夫よ。行く先が無いなら、イヤザザ地区なら安心だよ。5日後に船が来るそうだから、それ乗って一緒に行きましょう」
ロッロは言葉が通じないのを心配して、人の姿になり、タバスを安心させていた。
船上で歌っていた謎のアイドルソングを歌うとタバスはその歌を知っていて、一緒に盛り上がっていた。
ロッロはその後もよく働いた。
薪を集めて、あまり得意ではないと笑いながら器用に魔法で火をつけた。
犬の姿になり、焼け残った建物から缶詰等の食料と鍋や食器を拾って来て、上手く調理してトメトのスープのような物を作った。
「あり合わせですが、念の為火を通しましたので大丈夫かと」
マグカップに分けて、俺とタバスに渡す。一口啜って味を確認するが、まさかその辺で拾ったモノからできたとは思えないほどどこか懐かしく安心する味だった。
「うん。ぐっじょぶ。何もねーよりはマシ」
我ながら素直でなくぶっきらぼうすぎたか、と思ったがロッロはニコッと笑っていた。
コイツは怒ったりしないんだろーか。
「わーい!赤だ赤!!辛いともっと好きなんだけどな!」
「ごめんね、辛いのも探したけど無かったの…タバズコ、シチビ…だよね。イヤザザ地区に戻ったらまた作るからね」
「全然いーよ!赤いだけでも好き!ありがとうママ!」
「ママ…!」
「あ。ごめんね。そんなに年変わらなそうなのに変かな。ママって感じがしたの」
「ううん。いいよ。ママでもなんでも。好きなように呼んでね」
「んじゃ、俺がパパなんか?」
「えー。イールビさんは…おじちゃん」
「は?お前、死なすぞ。おにーさんだろ」
「鬼ーさんかな」
「お前…。ていうかお前、なんかくせぇ」
「あ…鞄の中にカルーパンをずっと入れてたの、逃げるのに必死で忘れてて…ナットゥみたいな臭いになっちゃってて…さっき捨てたんですけどね。鞄に臭いは残りましたねぇ」
「俺ナットゥ苦手。くせぇから近寄んな」
「じゃ、薔薇の香水あるんでふっておきますね~!薔薇の香りを堪能してくださ~い」
「薔薇だと?不快だわ。バラバラにされてーんか?」
「怖っ!!何この人!怖っ!」
「ふふふ…!」
出会ったばかりとは思えないほどタバスは打ち解けて、警戒心は全く無くなっていた。
その夜はロッロが犬の姿に戻って、俺達をふわふわの毛皮で包んで眠ってくれた。
バカだけど何から何まで便利な奴だ。
「オーカマバレーな。」
この犬は丁寧な言葉遣いではあるが、言葉のセンスが無い。異国の文字については読むのも発音するのも苦手なようだった。
船は見慣れぬ港に着いた。
通りで乗客が少なかったわけだ。
陸続きで行けない事は無いのだが、ここは西の果ての森を抜けてたどり着く事ができる谷だ。こんな海路があったとは知らなかった。
ここにはイールビの昔馴染みの友人が住み着いたという噂だが。
あれから船はしばらく陸に着かなかった。
イールビはなぜか話したくなって、ガキの頃の話をたくさんした。昔は身体が弱かった事、運動を無理にはじめたら体力がついた事、剣術の道に進んで剣士を目指した事もあった。
どちらかといえば魔法学の方が向いていて、知識はあるもののまだ本格的に使用した事はない。
退屈しのぎに歌を歌ってやると犬は大層喜んで「自分も」と魔法の力で人の姿に変わって、いくつかアイドルソングのような聴いたこともない歌を歌いやがった。
不覚にもちょっと萌えた。ちょっとだけな。
人の姿のロッロ(こっちの方が呼びやすくてそう呼ぶ事にした)はデカい犬の時とは違ってどっちかというとコンパクトで色気のカケラもない女の姿だった。
もっと色気のある感じにならないか、とか、声も低くしてみろ等と注文をつけてはみたが、未熟な魔法のようでどれもうまくいかなかったり長続きしなかった。
もう少しで陸地が見えるって時に、奴の言った俺の歌の感想が癪に触ってマジでキレかけたらピーピー泣いた。
人間の言葉が下手くそな事があり、思いとは違う言葉を選んでしまう事があるようだった。
人の姿が幼い為か、その姿で泣かれると胸が痛むと同時にもっと虐めてやりたいって気持ちも生まれた。変だな。
船は半日ほどかけて俺達を桟橋に下ろすとそのまま、よその国へ行って、5日後にしかここに戻らないらしい。
谷の側に小さな街があり、そこに友人の家があったはずなのでとりあえずそこを目指す事にした。
《お友達の家があるのですか》
「そう。ムヒコーウェル姐さん。男から女かよくわかんねーけど、良い人だ。お前も紹介してやる」
《それは楽しみです》
ウキウキしていた犬の姿のロッロはふと足を止め、鼻をすんすん鳴らした。
《待ってください…この臭いは…》
「どうした」
《ひどく焼け焦げた臭いです…人の声も一切しません…》
「そんなバカな」
歩を進めると、街の入り口が見えたが、そのほとんどが焼失していた。
焼け残った建物も、所々破壊されている。
つい最近の事では無いようだ。焼けた後から草花が生えている場所もあった。
「そんな…一体何があったんだ」
《火事…ですかね…それにしては…》
「様子が違うな。故意的に破壊されている跡がある。なんらかのモンスターか、悪魔か、人か…」
言い終わる途中でロッロがフッと前方を見る。
《!!イールビ様、人がいます》
「なんだと」
《子供のようです。こちらに向かっています》
と、すんすん鼻を鳴らした。
「お前嗅覚だけはハンパないのな」
まもなくして、トボトボと赤毛の少女が現れた。
名前はタバス。とある男に執拗に着けられて逃げ回り、迷子になったという。
「大丈夫よ。行く先が無いなら、イヤザザ地区なら安心だよ。5日後に船が来るそうだから、それ乗って一緒に行きましょう」
ロッロは言葉が通じないのを心配して、人の姿になり、タバスを安心させていた。
船上で歌っていた謎のアイドルソングを歌うとタバスはその歌を知っていて、一緒に盛り上がっていた。
ロッロはその後もよく働いた。
薪を集めて、あまり得意ではないと笑いながら器用に魔法で火をつけた。
犬の姿になり、焼け残った建物から缶詰等の食料と鍋や食器を拾って来て、上手く調理してトメトのスープのような物を作った。
「あり合わせですが、念の為火を通しましたので大丈夫かと」
マグカップに分けて、俺とタバスに渡す。一口啜って味を確認するが、まさかその辺で拾ったモノからできたとは思えないほどどこか懐かしく安心する味だった。
「うん。ぐっじょぶ。何もねーよりはマシ」
我ながら素直でなくぶっきらぼうすぎたか、と思ったがロッロはニコッと笑っていた。
コイツは怒ったりしないんだろーか。
「わーい!赤だ赤!!辛いともっと好きなんだけどな!」
「ごめんね、辛いのも探したけど無かったの…タバズコ、シチビ…だよね。イヤザザ地区に戻ったらまた作るからね」
「全然いーよ!赤いだけでも好き!ありがとうママ!」
「ママ…!」
「あ。ごめんね。そんなに年変わらなそうなのに変かな。ママって感じがしたの」
「ううん。いいよ。ママでもなんでも。好きなように呼んでね」
「んじゃ、俺がパパなんか?」
「えー。イールビさんは…おじちゃん」
「は?お前、死なすぞ。おにーさんだろ」
「鬼ーさんかな」
「お前…。ていうかお前、なんかくせぇ」
「あ…鞄の中にカルーパンをずっと入れてたの、逃げるのに必死で忘れてて…ナットゥみたいな臭いになっちゃってて…さっき捨てたんですけどね。鞄に臭いは残りましたねぇ」
「俺ナットゥ苦手。くせぇから近寄んな」
「じゃ、薔薇の香水あるんでふっておきますね~!薔薇の香りを堪能してくださ~い」
「薔薇だと?不快だわ。バラバラにされてーんか?」
「怖っ!!何この人!怖っ!」
「ふふふ…!」
出会ったばかりとは思えないほどタバスは打ち解けて、警戒心は全く無くなっていた。
その夜はロッロが犬の姿に戻って、俺達をふわふわの毛皮で包んで眠ってくれた。
バカだけど何から何まで便利な奴だ。
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