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五話
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翌朝、イールビは目がさめるとタバスがいなかった。
ロッロは朝がかなり弱いらしく、何度揺すっても起きないので消えた焚き火の側に置いたままタバスを探した。
タバスは一部が焼け残った家の中からすぐに見つかったが、何かを持ったままぶつぶつと独り言を言っており、呼びかけても反応が無かった。
「おい、タバス…」
「…は……ムヒ……ル…」
「…?どうしたんだ?」
『我が名はムヒコーウェル』
「…え」
タバスが振り向くと、両手には禍々しい色の水晶玉が握られていた。
そこから放たれる紫の光がタバスを覆い、タバスは暗示にかかったように焦点が合わない目でこちらを見る。
『あら。懐かしい。イールちゃんじゃないの。益々いい男になって~!どしたのこんなとこで』
「姐さん、なんですか?」
『そうよ~!ちょっと訳あって今は谷の底に住んでるけど、私の家に来てくれたのかしら』
「あ…ここが姐さんの家でしたか。ほとんど焼けてしまっていて」
『そうね~!私が暴れちゃったからね~!』
「えっ…」
それまでは昔と変わらない明るい声に安心すらしかけていたムヒコーウェルの声色が突然低く変わる。
『ちょうどいいわ。一人だと色々と退屈だし、忠実な駒がいくつか欲しかったのよ~。イールちゃんなら大歓迎!私の元で働かない~?』
「なにを…」
『ちょーっと心の中を見せてね~』
「うわっ」
水晶玉から鋭く放たれた光が胸を貫く。
痛みは無いが、とても嫌な気持ちだ。
『ふぅん…辛い事があったのね……。でもそれって、貴方の所為ではないわよねぇ…。そうしにしたのはだぁれ?街のみんなじゃないかしらぁ……。辛かったでしょうねぇ…痛かったでしょうねぇ…』
「や、やめろ…」
『あら可愛いワンちゃん。私にも紹介して?
何ならその子もこの子も一緒に連れて来ればいいじゃない。一緒に可愛がってあげるわよ』
「うっ…」
『ねぇ。イールちゃん。全てを憎めば楽になれるわよ。さぁ一緒に世界を滅ぼしましょう』
「う、…っ…くそ…」
体が動かない。
闇の力に飲み込まれそうになったその時、
《イールビ様!!!》
と、大きな犬が家の前に現れたのが見えた。
「ロッロ、来るな…っ」
《そうはいきません!タバスちゃん、ごめん…》
と、タバスに体当たりをした。
タバスはよろけて、水晶玉を落とす。
床に落ちた水晶玉にヒビが入る。
『う…忠実な犬を飼っているのねぇ、イルちゃん…。でももう遅いわ!貴方は私の所へ来る…必ず、ね』
ビキ、ビキッと音を立ててヒビが広がり、ついに水晶玉がパーン!と派手に割れた。
破片にも魔力が残っているようで、禍々しい光に包まれた破片が身体を目掛けて飛んでくる。
《イールビ様…!!あっ…!》
「ロッロやめろ!ウッ!」
お互いがお互いを庇いあって、結局2人とも破片を受けてしまった。
抜き取ろう、とする前に溶けて消えた。
出血が全く無いのが不思議だが、確実に「何か」が体内に入ってしまったのがわかった。
「うっ……無事か、ロッロ」
《どうして!私などを庇わなければ!!私は魔族なのです。確かに強力な力ではありますが、こんなもの、大した事ありません!!瘴気の含まれたカケラでした。普通の人間が受ける方がダメージになるのですよ!》
珍しく早口で子供を叱るような口調が心に響く。しかしその目からはぽろぽろと涙が溢れていた。
「怒ってるのか…?初めてだな…」
口は動くが、身体はロッロもたれかかったまま立つ事が出来なかった。
ムヒコーウェルに心の中を暴かれた時の衝撃も蓄積しているようだった。
《…怒っていません。心配してるのです》
「俺の心配なんて10年はえー。泣くなバカ」
ハハッと笑うと胸がズキっと痛んだ。
外傷は無いが、確実に、「何か」が身体や心を蝕んでいるのがわかった。
ロッロはそれも感づいたようだった。
《あいにく私は癒しの魔法を使う事ができません。貴方の中の瘴気を取り除く事も…。直接術者に懇願する他方法はありません》
「船は4日後……。なぁ。さっきのが俺の友人なんだが。この際会いに行くか?」
《えっ》
「彼女…ん…彼か?どっちでもいーか。魔女でさ。魔法もだが、薬や呪い…全ての事に長けているんだ。お願いすればなんとかなる、かも?」
《イールビ様に危険は無いのですか》
「お前の事も気に入ってたようだし?紹介しろって言われたぞ。道はひとつしかねー。このまま俺がここで死んでもいーんかよ」
《…わかりました》
「必ず来る…ってか、それしかねー。
お前がいなかったら、このまま死んでもいいって思っていたかもな」
《え…》
「なんでもねーよ。とりあえずタバスを起こしてやれよ。なんともねーのかそいつは」
《タバスちゃん…!タバス…あ。》
犬の姿のままタバスを揺さぶり起こそうとして気がついたのか、人の姿になる。
「タバスちゃん!!」
「…う、、ママ?」
タバスは幸いすぐに気がついた。
ぼんやりとはしているが、特に怪我もないようで、先程の水晶のカケラの被害も無さそうだった。
「大丈夫?!痛いところは?!」
「ママ…やさしーね、なんともないよ」
「ここで何してた」
「イールビおじちゃん、なんでそんなグッタリしてんの」
身体に力が戻らず、燃え残った柱の隅に上半身を預けて座る俺を見てタバスは完全に覚醒したようだった。
「俺の事はいーんだよ。何してたんだっつの」
「朝ごはん、何かないかなと、探しに来たら…綺麗な水晶見つけて、中を見てたら…女の人…?が見えて、それで…」
「バカタレ。ひとりで勝手に行動すんな」
「え、な、なに。何があったのさ」
水晶に操られていた時の記憶は無いのだろう。キョトンとして俺とロッロの顔を交互に見る。
「……ううん。無事で良かった。タバスちゃん…」
ロッロが消え入りそうな声で呟いた。
ロッロは朝がかなり弱いらしく、何度揺すっても起きないので消えた焚き火の側に置いたままタバスを探した。
タバスは一部が焼け残った家の中からすぐに見つかったが、何かを持ったままぶつぶつと独り言を言っており、呼びかけても反応が無かった。
「おい、タバス…」
「…は……ムヒ……ル…」
「…?どうしたんだ?」
『我が名はムヒコーウェル』
「…え」
タバスが振り向くと、両手には禍々しい色の水晶玉が握られていた。
そこから放たれる紫の光がタバスを覆い、タバスは暗示にかかったように焦点が合わない目でこちらを見る。
『あら。懐かしい。イールちゃんじゃないの。益々いい男になって~!どしたのこんなとこで』
「姐さん、なんですか?」
『そうよ~!ちょっと訳あって今は谷の底に住んでるけど、私の家に来てくれたのかしら』
「あ…ここが姐さんの家でしたか。ほとんど焼けてしまっていて」
『そうね~!私が暴れちゃったからね~!』
「えっ…」
それまでは昔と変わらない明るい声に安心すらしかけていたムヒコーウェルの声色が突然低く変わる。
『ちょうどいいわ。一人だと色々と退屈だし、忠実な駒がいくつか欲しかったのよ~。イールちゃんなら大歓迎!私の元で働かない~?』
「なにを…」
『ちょーっと心の中を見せてね~』
「うわっ」
水晶玉から鋭く放たれた光が胸を貫く。
痛みは無いが、とても嫌な気持ちだ。
『ふぅん…辛い事があったのね……。でもそれって、貴方の所為ではないわよねぇ…。そうしにしたのはだぁれ?街のみんなじゃないかしらぁ……。辛かったでしょうねぇ…痛かったでしょうねぇ…』
「や、やめろ…」
『あら可愛いワンちゃん。私にも紹介して?
何ならその子もこの子も一緒に連れて来ればいいじゃない。一緒に可愛がってあげるわよ』
「うっ…」
『ねぇ。イールちゃん。全てを憎めば楽になれるわよ。さぁ一緒に世界を滅ぼしましょう』
「う、…っ…くそ…」
体が動かない。
闇の力に飲み込まれそうになったその時、
《イールビ様!!!》
と、大きな犬が家の前に現れたのが見えた。
「ロッロ、来るな…っ」
《そうはいきません!タバスちゃん、ごめん…》
と、タバスに体当たりをした。
タバスはよろけて、水晶玉を落とす。
床に落ちた水晶玉にヒビが入る。
『う…忠実な犬を飼っているのねぇ、イルちゃん…。でももう遅いわ!貴方は私の所へ来る…必ず、ね』
ビキ、ビキッと音を立ててヒビが広がり、ついに水晶玉がパーン!と派手に割れた。
破片にも魔力が残っているようで、禍々しい光に包まれた破片が身体を目掛けて飛んでくる。
《イールビ様…!!あっ…!》
「ロッロやめろ!ウッ!」
お互いがお互いを庇いあって、結局2人とも破片を受けてしまった。
抜き取ろう、とする前に溶けて消えた。
出血が全く無いのが不思議だが、確実に「何か」が体内に入ってしまったのがわかった。
「うっ……無事か、ロッロ」
《どうして!私などを庇わなければ!!私は魔族なのです。確かに強力な力ではありますが、こんなもの、大した事ありません!!瘴気の含まれたカケラでした。普通の人間が受ける方がダメージになるのですよ!》
珍しく早口で子供を叱るような口調が心に響く。しかしその目からはぽろぽろと涙が溢れていた。
「怒ってるのか…?初めてだな…」
口は動くが、身体はロッロもたれかかったまま立つ事が出来なかった。
ムヒコーウェルに心の中を暴かれた時の衝撃も蓄積しているようだった。
《…怒っていません。心配してるのです》
「俺の心配なんて10年はえー。泣くなバカ」
ハハッと笑うと胸がズキっと痛んだ。
外傷は無いが、確実に、「何か」が身体や心を蝕んでいるのがわかった。
ロッロはそれも感づいたようだった。
《あいにく私は癒しの魔法を使う事ができません。貴方の中の瘴気を取り除く事も…。直接術者に懇願する他方法はありません》
「船は4日後……。なぁ。さっきのが俺の友人なんだが。この際会いに行くか?」
《えっ》
「彼女…ん…彼か?どっちでもいーか。魔女でさ。魔法もだが、薬や呪い…全ての事に長けているんだ。お願いすればなんとかなる、かも?」
《イールビ様に危険は無いのですか》
「お前の事も気に入ってたようだし?紹介しろって言われたぞ。道はひとつしかねー。このまま俺がここで死んでもいーんかよ」
《…わかりました》
「必ず来る…ってか、それしかねー。
お前がいなかったら、このまま死んでもいいって思っていたかもな」
《え…》
「なんでもねーよ。とりあえずタバスを起こしてやれよ。なんともねーのかそいつは」
《タバスちゃん…!タバス…あ。》
犬の姿のままタバスを揺さぶり起こそうとして気がついたのか、人の姿になる。
「タバスちゃん!!」
「…う、、ママ?」
タバスは幸いすぐに気がついた。
ぼんやりとはしているが、特に怪我もないようで、先程の水晶のカケラの被害も無さそうだった。
「大丈夫?!痛いところは?!」
「ママ…やさしーね、なんともないよ」
「ここで何してた」
「イールビおじちゃん、なんでそんなグッタリしてんの」
身体に力が戻らず、燃え残った柱の隅に上半身を預けて座る俺を見てタバスは完全に覚醒したようだった。
「俺の事はいーんだよ。何してたんだっつの」
「朝ごはん、何かないかなと、探しに来たら…綺麗な水晶見つけて、中を見てたら…女の人…?が見えて、それで…」
「バカタレ。ひとりで勝手に行動すんな」
「え、な、なに。何があったのさ」
水晶に操られていた時の記憶は無いのだろう。キョトンとして俺とロッロの顔を交互に見る。
「……ううん。無事で良かった。タバスちゃん…」
ロッロが消え入りそうな声で呟いた。
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