〜close friend〜 《mamaによるanythingスピンオフ作品》

むひ

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十五話

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 それからイールビとロッロは常に行動を共にしていた。
たくさん話をする中で、イールビは貴族の出身であり、言葉遣いや気遣い、礼儀作法に大変厳しい事がわかった。
魔族であり人の文化に乏しく育ったロッロには理解が追いつかない部分が多く、よく叱られ“お仕置き”をされていたが本人も満更ではなさそうで、いつしか歪んだ主従関係のような存在となった。

そして気まぐれに出かけては神力集めの為に女性や子供の美しく可愛らしい歌声を集めたのだった。
中にはダッタン国の姫君の歌声を奪うという大胆な作戦を決行したりもしてロッロは肝が冷えたが、どうやら犯人としては特定されていないようで祠周辺は一向に静かだった。

しばらくして。

人が祠に近づく気配を感じたロッロはイールビに伝え、分身と共に祠で待機した。

だがおかしい。
てっきりオーニーズ3人だと思っていたが、感じる気配は1人なのだ。

《敵ではないのでしょうか》

祠の入り口でロッロは例の“恐ろしい魔物”状態の犬に変身して待機していた。

「いや、明らかに、というか前の3人よりも激しい怒りや殺気を感じるな」

《ですよねぇ~…》

と、呑気に話をしていたら赤毛の青年が現れた。

「俺の妹の声を奪ったのはお前らか!!!」

溢れんばかりの殺気を放ち、トゲトゲしく言い発つする青年の名はチピ。
ロッロには見覚えがあった。
ロッロはこの青年の妹のハリーと仲良しで、一緒に遊んでいる時、たまに兄であるチピがハリーの側にいるのを見かけていた。
そのハリーの声も泣く泣く奪ったロッロは兄をこんな風にしてしまった事にとても胸が痛かった。

「いかにも」

ワザとらしく低い声で悪者(フィクサー )を演じるイールビに、チピはますます激情していく。

「妹の…ハリーの声を返せぇええ!!」

怒号と共に持っていた短剣でイールビに切ってかかろうとするチピだが、イールビは分身にしかすぎす捉えた、という瞬間に黒い霧となって散り、チピの背後にまた集まり実体化する。

「ふん。怒りで我を忘れたような者に私が切れるはずがない。ロッロ、やれ」

《…え、私ですか、や、やれって…》

「(いいから適当に遊んでやれ!)」

《わ、わかりましたよぅ…》

早口の小声で本心を言われ、ロッロはチピにひと鳴きしてから襲いかかってみるが、思いの外チピは素早く、手を抜いているとやられてしまいそうだった。

《あ、遊ばれてるのはっ…!私の方かもですっ!》

「お前ではそんなものか。ふん」

《あっ…》

チピを傷つけないように、体力だけを奪うつもりでチピの素早い連続攻撃をかわしていたロッロだったが、祠の中に転がっている小さな岩につまづいてよろけてしまう。

「そこだぁぁぁあ!!」

《しまっ────》

その隙を見逃さず、確実に急所を狙うチピにギュッと目を瞑ってしまうロッロだったが、痛みはいつまでも無く、訪れた静寂に目をゆっくりと開けた。

《あれ…》

「お前な~。どんだけドジ踏むんだよ。死ぬ気か」

イールビはいつもの口調で近寄って来て耳を引っ張ってコケていたロッロを起こした。

《いだだ!ちょっとぉ~!あれ。チピにぃは…》

「チピにぃ?なんやこいつも知り合いかよ。やりにくいな」

イールビの目線の先に大の字になってすっかり伸びたチピがいた。

《な!や、やりすぎでは…》

「まさか。ドレイン系魔法だわ。気絶はしておるがちゃんと加減してあるのであーる」

フッ、と鼻で笑うイールビを見てホッと安心したロッロは、

《そ、そうですか…あ。ありがとうございます…その、助けてくださって…》

と、申し訳なさそうに言った。

「部下の失態は上司の責任だろ」

《いつからそんな関係に…》

「うるせぇ。口答えすんな」

《はぃい…》

祠の外では、オーニーズがすぐそこまで、迫っていた。
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