〜close friend〜 《mamaによるanythingスピンオフ作品》

むひ

文字の大きさ
16 / 21

十六話

しおりを挟む
 《あ…》

「どうした」

ロッロが耳をピクッと祠の外に向けて動かしたのをイールビが見た。
人の耳ではまだ聴こえないであろう遠くから、聞き覚えのある「ピューピュー」という声が聞こえる。
ジースーだ。
ロッロはよく知っていた。
ジースーと共に育っていく中で、何かをイメージしたり、ジースーの中でシュミレーションが行われている時、無意識にその音を小さく発するのだ。
ロッロも初めこそ不思議に思ったが、それがジースーの自然体なのだな、と然程気にしなくなっていた。
その音が聞こえる。
ジースーがすぐそこまで来ている証拠だった。

《オーニーズが来ます。それと、エニスという人…。そして今回はさらに2人、増えてます》

ロッロが聞こえた音の報告をイールビにする。それにイールビは鼻で笑った。

「ふん。ようやく来たか。傭兵でも雇って来たか?楽しめそうじゃねーか」

《どうしましょう。あまりひどい事は…》

「奴らを庇って油断しすぎるとさっきみたいにやられてしまうぞ。割と本気で行け。奴らもそんなヤワじゃねぇだろ」

《…わかりました》

「ケンカするくらいのつもりでいかんかい。俺も殺しはしねーよ」

《はい!》

作戦会議をしていると、間も無くしてオーニーズ一行が祠に入り口に来たのがわかった。

「ここが入り口だ。みんな、心してかかれ」

チュラーの声がする。

「チピ!!」

入り口付近で伸びているチピに駆け寄る音が聞こえたのでロッロは「いくよ」という意味でわざとらしく唸って飛びかかった。
珍しくジースーが攻撃してこない。

「ジースー!撃たんかい!気づいとったやろ!」

ロッロの牙を剣で受け止めたポッツが叫ぶ。

「うん、だけど手を出すなって、さっき」
「場合を考えや!」

ポッツが牙を振り払い、間も無く斬り込んで来たが、その癖はロッロも知っている。
ひらりとかわして、かすめる程度に爪を振った。
ロッロはポッツと戯れ慣れていたので、先程のチピのようにはいかない。
ポッツ相手ならば踊るように対応できた。
その様子にポッツも焦ったのか、

「チュラー、はよ詠唱してや!」

と、チュラーに投げかけた。
チュラーは既に詠唱中で、「今やってる!話しかけるな気が散る!」と詠唱の間に鋭く叫んだ。

「助太刀する」

ロッロは振り下ろした爪を初めて見る2人の盾によって弾かれた。
弾かれる瞬間2人を見たロッロは、美人の女剣士とダッタン国の紋章の入った服を着ている…軍の人間だろうか、と素早く観察していた。
ダッタン国の姫君の声を奪ったので、軍から人が動いてもおかしくないのだ。
とうとう来てしまったか、と思っていた。

その瞬間、エニスが背後に回り斬りかかる気配をロッロは感じ取ったので、力を込めて2人の盾を押し、よろけたのを見計らって素早く逃げた。エニスの剣は宙を切る。

「みんな離れろ!」

チュラーの叫びが聞こえると、ロッロに照準を合わせて魔法を撃とうとしていた。

「火の精霊よ我に力を!焼き尽くせ!」

火の玉がロッロ目掛けて飛んでくる。
イールビの分身が側に来る様子を見てわざと避けずにいた。
すると火の玉はロッロに当たる寸前で方向を変え、壁に激突し、消えた。

「危ない所だったな、ロッロ」

《…んもぅ》

わざと低く言ってくるイールビに、ロッロはカッコつけちゃって、なんて思っていたら、怒りを露わにしたポッツが立ち上がり「人の声を奪って!なんでこんな事するんや!」と叫んだ。
その様子に一瞬ニヤリとしたイールビはわざとらしく声を荒らげ、

「声がなんだ!だからどうした!命までは奪っておらん!私の気持ちがわかるか?妻を殺され国は犯人を探しもしない!だから私はムヒコーウェル様に魂を売ったのだ!自分の力で犯人を探し出し制裁を与える!ムヒコーウェル様を復活させるために声が必要なのだ!それも美声を持つ少女の声が!まだ足りぬ、邪魔をするな!!」

と、演じてみせた。
半分くらいは合ってるかな~…と思う反面で全部本当だったらどうしよ、と心がざわつくロッロだったが、今は黙っておく。

イールビが黒い霧をオーニーズめがけてかざした手に集めて玉となったものを放つ。
闇の魔法だ。
エニスが、「みんな逃げろ!!!!」と叫び終わる前に「任せろ!」とチュラーが炎で壁を作りそれを弾いた。

「嫌な予感がしてな、予め詠唱しておいた」

ジースーがイールビ目掛けて銃を撃つ。
弾は掠めるだけで、当たらない。

「おかしいなー。ちゃんと狙ってるのにズレるんだ」

と、首をかしげるジースーをイールビは笑って、

「バカめ。そんな弾なんぞ私には当たらんよ。ムヒコーウェル様に守られておるのだ。そろそろ邪魔者には死んでもらおう!」

と、また黒い霧を手に集め始めた。

「そうはさせん!」
女剣士が剣を振り上げる様子を見たロッロは彼女を傷つけぬよう体当たりをして狙いを外させる。

「さあ、終わりだ!」

イールビがオーニーズめがけて手をかざす。

「チュラー!はよ詠唱!」
「ダメだ!間に合わない!」
「俺が時間を稼ぐ!」

ポッツ、チュラー、エニスが順に叫ぶが、イールビに襲いかかろうとする相手にはロッロが体当たりをして邪魔をした。

「こんな時にあの力があれば…!」

エニスがぽつりと呟いた言葉に(あの力?)とロッロが首を傾げていると黒い霧はオーニーズ一行を包み込んだ。

「わぁぁあ!!熱い!!」

《ちょ、だ、大丈夫なやつですか》

苦しむオーニーズ達を見てコソコソとイールビに話しかけるロッロだったが、イールビは大丈夫だよ!とヒソヒソ返して来て、

《さっきのチピとかいうやつにかけたやつと同じだ。ドレイン魔法。苦しいが数日分の機動力を奪うだけだ。何日か寝りゃ治るやつ!心配すんなボケ!》

と心に直接話しかけて来て手短に説明をしてくれた。
表では「これが妻の受けた苦しみだ!」などと叫んでいたが。

オーニーズ達の悲鳴が急に消えた。
黒い霧に包まれているので中の様子はよくわからない。

《え、あの、大丈夫なやつですよね》

「何度もうるさい!大丈夫なやつ!だっ………あれ?」

ロッロがマントを爪でちょいとつまみながら心配してくるので、今度は直接声に出して叫ぶイールビだったが、どうも様子がおかしい、と思ったのか、魔法を散らし消した。
そこにオーニーズ達の姿がなかった。

「………。死んだのか?」

《ちょ!え!?大丈夫なやつって言ったじゃないですか!!》

ポカンとするイールビに涙目ですがりつくロッロ。
オーニーズにかけた黒い霧のドレイン魔法を解いてみればそこに姿は無く。

「いやおかしい。身体が消滅するような魔法じゃねーんだが」

と冷静になるイールビだった。

「誰かの転送魔法で助けられたか」

《な、なるほど》

「それしかねぇ。何も感じなかったって事はかなりの遣い手だな。ヤベーやつバックにいるのか」

《あ…三賢者と呼ばれる力を持った人達が、いるにはいますが…まさかそこにまで助力してもらっているとは…聞きませんね》

「ムヒコーウェル姐さんの事ヤベーって思ってんなら向こうから助けるだろうよ。なんだよ~拍子抜けだ。吸い尽くしてやろーと思ったのによ。魔力も体力もあるに越した事はねー」

先程まで低い声、暗い表情で演技していたイールビが頭の後ろで手を組んで「あーあ」と言う様子が急に子供っぽくて、ロッロは「ふふっ」と笑ってしまった。

「何笑ってるんだよ」

《…ギャップ萌え、でしょうかね》

「黙っとけ!萌えんなバカ!」

ロッロはゲンコツを頭に食らってしまった。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

処理中です...