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1.小さな不安
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「ねえエリス、聞いたわよ!昨日も中庭でアルバートと一緒だったんでしょ?」
「もう、頬が緩みっぱなしだったって噂よ」
ここはセント・ベルデ学園高等部の棟。
休み時間の3年F組の教室。
友人たちが私の机に集まってきて、キラキラした目で問い詰めてくる。私、エリス・リバーウッドは教科書を片付けるふりをしながら熱くなる頬を隠した。
「べ、別に普通よ。いつも通り話してただけだってば」
「その『いつも通り』が羨ましいの!学園の王子様を独り占めなんてシンデレラみたい」
「本当よねえ。私たちなんて遠くから眺めるだけで精一杯なのに」
からかうような、でもどこか本気のため息交じりの言葉に「もう!」と笑って見せるしかなかった。
アルバート・レヴィン。
同学年のC組に在籍する彼は誰もが振り返るほどの美しい容姿と、誰にでも優しい振る舞いで学園中の女子生徒の憧れの的。
そんな彼が私の恋人。
その事実が毎日を夢みたいに輝かせてくれていた。家に帰ると、妹のマリベルがすぐに駆け寄ってきた。
「お姉様、おかえりなさい!……わっ、その胸のネックレス、すごく綺麗!アルバートさんから?」
「マリベル、ただいま。ええ、まあ…」
「いいなあ!私もいつか、アルバートさんみたいな素敵な人に見つけてもらえるかしら?」
「マリベルはテニス部に夢中だから、あなたの恋人はテニスでしょ?」
「お姉様ったら!それとこれとは別よ!」
妹は頬を膨らませ優しく微笑みかけた。
胸元の小さな宝石にそっと指で触れる。
これは数日前の18歳の誕生日にアルバートがプレゼントしてくれたもの。
あの日の夜、心をくすぐる言葉が耳に蘇る。
「エリス、誕生日おめでとう。君にとてもよく似合うと思って」
「アルバート……ありがとう。すごく綺麗だわ。宝物にする」
箱を開けた瞬間、繊細なチェーンの先で輝く青い宝石に胸が高鳴った。彼は私の首にかけてくれると、後ろからそっと抱きしめた。
「喜んでくれて嬉しいよ。でもこれは序章にすぎない」
「え……?」
「卒業したら、これよりもっと素敵な指輪を贈るよ。僕だけの大切な君に」
「アルバート……!」
「卒業したら結婚しよう」
それは初めて言ってくれた時から変わらない二人の約束。疑うことなんて一度もなかった。アルバートの言葉はいつだって私のすべてだったから。
―――――なのに。
ここ最近、アルバートの様子が少しだけおかしかった。学園の噴水前。待ち合わせ場所にいた彼に私は小走りで駆け寄った。
「アルバート、お待たせ!」
「……」
「アルバート?」
名前を呼んでも彼は噴水の水面をぼんやりと見つめたまま。私が彼の腕にそっと触れると、彼はようやく私に気づいた。
「あ、ああ、エリス。ごめん、気づかなかった」
「ううん、大丈夫だけど…。どうしたの?何か考え事?」
「いや、なんでもないよ。少し疲れているだけかもしれない」
そう言って彼は力なく笑う。
二人で並んで歩き出しても、会話が時々途切れた。いつもなら他愛ない話で笑わせてくれる彼がどこか遠くを見ているような上の空な時間が流れる。
「ねえ、アルバート。今度の週末、街に新しくできた本屋に行かない?すごく雰囲気がいいって評判なの」
「……ああ、そうだね」
「じゃあ、土曜の午後、時計台の下で待ち合わせよっか?」
「……うん」
彼の返事は心ここにあらずといった感じ。
私は胸元のネックレスをぎゅっと握りしめる。
彼のくれた幸せの証。
これを身につけているだけでどんな不安も消え去るはずなのに。
彼の横顔を見つめる。
(どうしたの、アルバート……。何か悩み事でもあるの……?)
私の心に小さくて黒い影が落ちた。
キラキラと輝いていた世界にほんの少しだけかげりが見えたような気がした。
「もう、頬が緩みっぱなしだったって噂よ」
ここはセント・ベルデ学園高等部の棟。
休み時間の3年F組の教室。
友人たちが私の机に集まってきて、キラキラした目で問い詰めてくる。私、エリス・リバーウッドは教科書を片付けるふりをしながら熱くなる頬を隠した。
「べ、別に普通よ。いつも通り話してただけだってば」
「その『いつも通り』が羨ましいの!学園の王子様を独り占めなんてシンデレラみたい」
「本当よねえ。私たちなんて遠くから眺めるだけで精一杯なのに」
からかうような、でもどこか本気のため息交じりの言葉に「もう!」と笑って見せるしかなかった。
アルバート・レヴィン。
同学年のC組に在籍する彼は誰もが振り返るほどの美しい容姿と、誰にでも優しい振る舞いで学園中の女子生徒の憧れの的。
そんな彼が私の恋人。
その事実が毎日を夢みたいに輝かせてくれていた。家に帰ると、妹のマリベルがすぐに駆け寄ってきた。
「お姉様、おかえりなさい!……わっ、その胸のネックレス、すごく綺麗!アルバートさんから?」
「マリベル、ただいま。ええ、まあ…」
「いいなあ!私もいつか、アルバートさんみたいな素敵な人に見つけてもらえるかしら?」
「マリベルはテニス部に夢中だから、あなたの恋人はテニスでしょ?」
「お姉様ったら!それとこれとは別よ!」
妹は頬を膨らませ優しく微笑みかけた。
胸元の小さな宝石にそっと指で触れる。
これは数日前の18歳の誕生日にアルバートがプレゼントしてくれたもの。
あの日の夜、心をくすぐる言葉が耳に蘇る。
「エリス、誕生日おめでとう。君にとてもよく似合うと思って」
「アルバート……ありがとう。すごく綺麗だわ。宝物にする」
箱を開けた瞬間、繊細なチェーンの先で輝く青い宝石に胸が高鳴った。彼は私の首にかけてくれると、後ろからそっと抱きしめた。
「喜んでくれて嬉しいよ。でもこれは序章にすぎない」
「え……?」
「卒業したら、これよりもっと素敵な指輪を贈るよ。僕だけの大切な君に」
「アルバート……!」
「卒業したら結婚しよう」
それは初めて言ってくれた時から変わらない二人の約束。疑うことなんて一度もなかった。アルバートの言葉はいつだって私のすべてだったから。
―――――なのに。
ここ最近、アルバートの様子が少しだけおかしかった。学園の噴水前。待ち合わせ場所にいた彼に私は小走りで駆け寄った。
「アルバート、お待たせ!」
「……」
「アルバート?」
名前を呼んでも彼は噴水の水面をぼんやりと見つめたまま。私が彼の腕にそっと触れると、彼はようやく私に気づいた。
「あ、ああ、エリス。ごめん、気づかなかった」
「ううん、大丈夫だけど…。どうしたの?何か考え事?」
「いや、なんでもないよ。少し疲れているだけかもしれない」
そう言って彼は力なく笑う。
二人で並んで歩き出しても、会話が時々途切れた。いつもなら他愛ない話で笑わせてくれる彼がどこか遠くを見ているような上の空な時間が流れる。
「ねえ、アルバート。今度の週末、街に新しくできた本屋に行かない?すごく雰囲気がいいって評判なの」
「……ああ、そうだね」
「じゃあ、土曜の午後、時計台の下で待ち合わせよっか?」
「……うん」
彼の返事は心ここにあらずといった感じ。
私は胸元のネックレスをぎゅっと握りしめる。
彼のくれた幸せの証。
これを身につけているだけでどんな不安も消え去るはずなのに。
彼の横顔を見つめる。
(どうしたの、アルバート……。何か悩み事でもあるの……?)
私の心に小さくて黒い影が落ちた。
キラキラと輝いていた世界にほんの少しだけかげりが見えたような気がした。
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