1 / 37
1.小さな不安
しおりを挟む
「ねえエリス、聞いたわよ!昨日も中庭でアルバートと一緒だったんでしょ?」
「もう、頬が緩みっぱなしだったって噂よ」
ここはセント・ベルデ学園高等部の棟。
休み時間の3年F組の教室。
友人たちが私の机に集まってきて、キラキラした目で問い詰めてくる。私、エリス・リバーウッドは教科書を片付けるふりをしながら熱くなる頬を隠した。
「べ、別に普通よ。いつも通り話してただけだってば」
「その『いつも通り』が羨ましいの!学園の王子様を独り占めなんてシンデレラみたい」
「本当よねえ。私たちなんて遠くから眺めるだけで精一杯なのに」
からかうような、でもどこか本気のため息交じりの言葉に「もう!」と笑って見せるしかなかった。
アルバート・レヴィン。
同学年のC組に在籍する彼は誰もが振り返るほどの美しい容姿と、誰にでも優しい振る舞いで学園中の女子生徒の憧れの的。
そんな彼が私の恋人。
その事実が毎日を夢みたいに輝かせてくれていた。家に帰ると、妹のマリベルがすぐに駆け寄ってきた。
「お姉様、おかえりなさい!……わっ、その胸のネックレス、すごく綺麗!アルバートさんから?」
「マリベル、ただいま。ええ、まあ…」
「いいなあ!私もいつか、アルバートさんみたいな素敵な人に見つけてもらえるかしら?」
「マリベルはテニス部に夢中だから、あなたの恋人はテニスでしょ?」
「お姉様ったら!それとこれとは別よ!」
妹は頬を膨らませ優しく微笑みかけた。
胸元の小さな宝石にそっと指で触れる。
これは数日前の18歳の誕生日にアルバートがプレゼントしてくれたもの。
あの日の夜、心をくすぐる言葉が耳に蘇る。
「エリス、誕生日おめでとう。君にとてもよく似合うと思って」
「アルバート……ありがとう。すごく綺麗だわ。宝物にする」
箱を開けた瞬間、繊細なチェーンの先で輝く青い宝石に胸が高鳴った。彼は私の首にかけてくれると、後ろからそっと抱きしめた。
「喜んでくれて嬉しいよ。でもこれは序章にすぎない」
「え……?」
「卒業したら、これよりもっと素敵な指輪を贈るよ。僕だけの大切な君に」
「アルバート……!」
「卒業したら結婚しよう」
それは初めて言ってくれた時から変わらない二人の約束。疑うことなんて一度もなかった。アルバートの言葉はいつだって私のすべてだったから。
―――――なのに。
ここ最近、アルバートの様子が少しだけおかしかった。学園の噴水前。待ち合わせ場所にいた彼に私は小走りで駆け寄った。
「アルバート、お待たせ!」
「……」
「アルバート?」
名前を呼んでも彼は噴水の水面をぼんやりと見つめたまま。私が彼の腕にそっと触れると、彼はようやく私に気づいた。
「あ、ああ、エリス。ごめん、気づかなかった」
「ううん、大丈夫だけど…。どうしたの?何か考え事?」
「いや、なんでもないよ。少し疲れているだけかもしれない」
そう言って彼は力なく笑う。
二人で並んで歩き出しても、会話が時々途切れた。いつもなら他愛ない話で笑わせてくれる彼がどこか遠くを見ているような上の空な時間が流れる。
「ねえ、アルバート。今度の週末、街に新しくできた本屋に行かない?すごく雰囲気がいいって評判なの」
「……ああ、そうだね」
「じゃあ、土曜の午後、時計台の下で待ち合わせよっか?」
「……うん」
彼の返事は心ここにあらずといった感じ。
私は胸元のネックレスをぎゅっと握りしめる。
彼のくれた幸せの証。
これを身につけているだけでどんな不安も消え去るはずなのに。
彼の横顔を見つめる。
(どうしたの、アルバート……。何か悩み事でもあるの……?)
私の心に小さくて黒い影が落ちた。
キラキラと輝いていた世界にほんの少しだけかげりが見えたような気がした。
「もう、頬が緩みっぱなしだったって噂よ」
ここはセント・ベルデ学園高等部の棟。
休み時間の3年F組の教室。
友人たちが私の机に集まってきて、キラキラした目で問い詰めてくる。私、エリス・リバーウッドは教科書を片付けるふりをしながら熱くなる頬を隠した。
「べ、別に普通よ。いつも通り話してただけだってば」
「その『いつも通り』が羨ましいの!学園の王子様を独り占めなんてシンデレラみたい」
「本当よねえ。私たちなんて遠くから眺めるだけで精一杯なのに」
からかうような、でもどこか本気のため息交じりの言葉に「もう!」と笑って見せるしかなかった。
アルバート・レヴィン。
同学年のC組に在籍する彼は誰もが振り返るほどの美しい容姿と、誰にでも優しい振る舞いで学園中の女子生徒の憧れの的。
そんな彼が私の恋人。
その事実が毎日を夢みたいに輝かせてくれていた。家に帰ると、妹のマリベルがすぐに駆け寄ってきた。
「お姉様、おかえりなさい!……わっ、その胸のネックレス、すごく綺麗!アルバートさんから?」
「マリベル、ただいま。ええ、まあ…」
「いいなあ!私もいつか、アルバートさんみたいな素敵な人に見つけてもらえるかしら?」
「マリベルはテニス部に夢中だから、あなたの恋人はテニスでしょ?」
「お姉様ったら!それとこれとは別よ!」
妹は頬を膨らませ優しく微笑みかけた。
胸元の小さな宝石にそっと指で触れる。
これは数日前の18歳の誕生日にアルバートがプレゼントしてくれたもの。
あの日の夜、心をくすぐる言葉が耳に蘇る。
「エリス、誕生日おめでとう。君にとてもよく似合うと思って」
「アルバート……ありがとう。すごく綺麗だわ。宝物にする」
箱を開けた瞬間、繊細なチェーンの先で輝く青い宝石に胸が高鳴った。彼は私の首にかけてくれると、後ろからそっと抱きしめた。
「喜んでくれて嬉しいよ。でもこれは序章にすぎない」
「え……?」
「卒業したら、これよりもっと素敵な指輪を贈るよ。僕だけの大切な君に」
「アルバート……!」
「卒業したら結婚しよう」
それは初めて言ってくれた時から変わらない二人の約束。疑うことなんて一度もなかった。アルバートの言葉はいつだって私のすべてだったから。
―――――なのに。
ここ最近、アルバートの様子が少しだけおかしかった。学園の噴水前。待ち合わせ場所にいた彼に私は小走りで駆け寄った。
「アルバート、お待たせ!」
「……」
「アルバート?」
名前を呼んでも彼は噴水の水面をぼんやりと見つめたまま。私が彼の腕にそっと触れると、彼はようやく私に気づいた。
「あ、ああ、エリス。ごめん、気づかなかった」
「ううん、大丈夫だけど…。どうしたの?何か考え事?」
「いや、なんでもないよ。少し疲れているだけかもしれない」
そう言って彼は力なく笑う。
二人で並んで歩き出しても、会話が時々途切れた。いつもなら他愛ない話で笑わせてくれる彼がどこか遠くを見ているような上の空な時間が流れる。
「ねえ、アルバート。今度の週末、街に新しくできた本屋に行かない?すごく雰囲気がいいって評判なの」
「……ああ、そうだね」
「じゃあ、土曜の午後、時計台の下で待ち合わせよっか?」
「……うん」
彼の返事は心ここにあらずといった感じ。
私は胸元のネックレスをぎゅっと握りしめる。
彼のくれた幸せの証。
これを身につけているだけでどんな不安も消え去るはずなのに。
彼の横顔を見つめる。
(どうしたの、アルバート……。何か悩み事でもあるの……?)
私の心に小さくて黒い影が落ちた。
キラキラと輝いていた世界にほんの少しだけかげりが見えたような気がした。
41
あなたにおすすめの小説
心から信頼していた婚約者と幼馴染の親友に裏切られて失望する〜令嬢はあの世に旅立ち王太子殿下は罪の意識に悩まされる
佐藤 美奈
恋愛
公爵令嬢アイラ・ミローレンス・ファンタナルは虚弱な体質で幼い頃から体調を崩しやすく常に病室のベットの上にいる生活だった。
学園に入学してもアイラ令嬢の体は病気がちで異性とも深く付き合うことはなく寂しい思いで日々を過ごす。
そんな時、王太子ガブリエル・アレクフィナール・ワークス殿下と運命的な出会いをして一目惚れして恋に落ちる。
しかし自分の体のことを気にして後ろめたさを感じているアイラ令嬢は告白できずにいた。
出会ってから数ヶ月後、二人は付き合うことになったが、信頼していたガブリエル殿下と親友の裏切りを知って絶望する――
その後アイラ令嬢は命の炎が燃え尽きる。
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。
だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。
失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。
どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。
「悪女に、遠慮はいらない」
そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。
「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。
王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」
愛も、誇りも奪われたなら──
今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。
裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス!
⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。
婚約破棄、ありがとうございます
奈井
恋愛
小さい頃に婚約して10年がたち私たちはお互い16歳。来年、結婚する為の準備が着々と進む中、婚約破棄を言い渡されました。でも、私は安堵しております。嘘を突き通すのは辛いから。傷物になってしまったので、誰も寄って来ない事をこれ幸いに一生1人で、幼い恋心と一緒に過ごしてまいります。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
裏切ったのはあなたですよね?─湖に沈められ記憶を失った私は、大公女として返り咲き幸せを掴みます
nanahi
恋愛
婚約者ウィルとその幼馴染ベティに罠にはめられ、湖へ沈められた伯爵令嬢アミアン。一命を取り留め、公女として生まれ変わった彼女が見たのは、裏切り者の幸せな家庭だった。
アミアンは絶望を乗り越え、第二の人生を歩む決意をする。いまだ国に影響力を持つ先の王弟の大公女として、輝くほど磨き上げられていったアミアンに再会したウィルは激しく後悔するが、今更遅かった。
全ての記憶を取り戻したアミアンは、ついに二人の悪事を断罪する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる