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39.都市拡張計画
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閉店後の『ひだまり亭』で想いを伝え合ってから数週間。
「―――この北側の未開拓地に新たな居住区を建設します。今の旧市街だけでは、急増する移住者を受け入れきれなくなるのは時間の問題ですから」
市長室で広げられた都市計画図を指し示しながら、職員たちを前に熱を込めて語っていた。『アトラ・ワークス』の成功は職を求める多くの人々をこの街に呼び寄せていた。嬉しい悲鳴ではあるが、住環境の整備を急いで行わなければならない。
「ただ住居を増やすだけではありません。この区画の中心に『魔源炉』を建設し、街全体に安定した魔力を供給するインフラを整えます。家庭の魔導灯から工場の大型機械まで、人々の生活と産業の双方を支える核となる施設です」
更に計画図の隅に描かれた一際大きな建物を指す。
「そしてここには技術専門学校を。優れた技術者の知識を次代に繋ぎ、アトランシア自身の力で明日を切り拓く人材を育てたい。子供たちが夢を持てる場所を作りたいんです」
計画が始動するとこれまで以上に多忙を極めた。土地の測量、都市設計の専門家との打ち合わせ、各部署との予算調整、そして専門学校のカリキュラム策定。文字通り、目が回るような毎日。市長室の灯りが消えるのはいつも深夜を過ぎてから。シオンが公務の合間にアトランシアを訪れてくれても、まともに顔を合わせられる時間はほとんどなかった。
その夜も山積みの書類と格闘していた。コンコンと控えめなノックの音に顔を上げると、シオンが温かい紅茶の入ったポットを手に静かに入ってきた。
「……シオン。来てくれたのね」
「ああ。どうしても顔が見たくて」
彼は慣れた手つきで淹れてくれる。その優しい心遣いが張り詰めていた心をふわりと解きほぐしていく。
「ごめんなさい。せっかく想いが通じ合ったというのに、仕事ばかりで……あなたとの時間もろくに作れなくて」
カップを受け取りながら、申し訳なさで俯いた。恋人らしい時間など片手で数えるほどしか持てていない。そんな私に彼は静かに首を横に振った。
「謝らないでくれ。君の成すべきことに全力を注いでいる姿は誰よりも美しい。……もっとも、そんな君を愛おしく思うのと同時に、独り占めしたいと思ってしまうのも事実だ」
向かいの椅子に腰かけると、真剣な眼差しで続けた。
「一つだけ約束してほしい。くれぐれも無理だけはしないでほしい。君は時々、自分の限界を忘れて走り続ける癖がある。アトランシアにとっても、そして俺にとっても君の代わりはいないのだから」
「……はい。ありがとう、シオン」
私たちは広げっぱなしになっていた未来の都市計画図を挟んで、しばらく言葉を交わした。今だけはすぐそばにある彼のぬくもりを感じていたい。紅茶の甘い香りの中で、愛しき人との安らかな時間を噛み締めていた。
「―――この北側の未開拓地に新たな居住区を建設します。今の旧市街だけでは、急増する移住者を受け入れきれなくなるのは時間の問題ですから」
市長室で広げられた都市計画図を指し示しながら、職員たちを前に熱を込めて語っていた。『アトラ・ワークス』の成功は職を求める多くの人々をこの街に呼び寄せていた。嬉しい悲鳴ではあるが、住環境の整備を急いで行わなければならない。
「ただ住居を増やすだけではありません。この区画の中心に『魔源炉』を建設し、街全体に安定した魔力を供給するインフラを整えます。家庭の魔導灯から工場の大型機械まで、人々の生活と産業の双方を支える核となる施設です」
更に計画図の隅に描かれた一際大きな建物を指す。
「そしてここには技術専門学校を。優れた技術者の知識を次代に繋ぎ、アトランシア自身の力で明日を切り拓く人材を育てたい。子供たちが夢を持てる場所を作りたいんです」
計画が始動するとこれまで以上に多忙を極めた。土地の測量、都市設計の専門家との打ち合わせ、各部署との予算調整、そして専門学校のカリキュラム策定。文字通り、目が回るような毎日。市長室の灯りが消えるのはいつも深夜を過ぎてから。シオンが公務の合間にアトランシアを訪れてくれても、まともに顔を合わせられる時間はほとんどなかった。
その夜も山積みの書類と格闘していた。コンコンと控えめなノックの音に顔を上げると、シオンが温かい紅茶の入ったポットを手に静かに入ってきた。
「……シオン。来てくれたのね」
「ああ。どうしても顔が見たくて」
彼は慣れた手つきで淹れてくれる。その優しい心遣いが張り詰めていた心をふわりと解きほぐしていく。
「ごめんなさい。せっかく想いが通じ合ったというのに、仕事ばかりで……あなたとの時間もろくに作れなくて」
カップを受け取りながら、申し訳なさで俯いた。恋人らしい時間など片手で数えるほどしか持てていない。そんな私に彼は静かに首を横に振った。
「謝らないでくれ。君の成すべきことに全力を注いでいる姿は誰よりも美しい。……もっとも、そんな君を愛おしく思うのと同時に、独り占めしたいと思ってしまうのも事実だ」
向かいの椅子に腰かけると、真剣な眼差しで続けた。
「一つだけ約束してほしい。くれぐれも無理だけはしないでほしい。君は時々、自分の限界を忘れて走り続ける癖がある。アトランシアにとっても、そして俺にとっても君の代わりはいないのだから」
「……はい。ありがとう、シオン」
私たちは広げっぱなしになっていた未来の都市計画図を挟んで、しばらく言葉を交わした。今だけはすぐそばにある彼のぬくもりを感じていたい。紅茶の甘い香りの中で、愛しき人との安らかな時間を噛み締めていた。
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