【完結】廃墟送りの悪役令嬢、大陸一の都市を爆誕させる~冷酷伯爵の溺愛も限界突破しています~

遠野エン

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52.二人の時間※シオンside

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その週末、俺たちは市庁舎の厨房に立っていた。白いエプロンをつけたルティアは普段の凛とした姿とは違い、新鮮で魅力的だった。彼女が楽しげに袖をまくる。

「いくつか特別な具材を考えてみたんだ」

そう言って、故郷から取り寄せた具材の数々を広げてみせる。黒く艶やかな発酵調味料、舌を刺激する香辛料で炒めた肉そぼろ、独特な風味の漬物。俺の故郷の香りに彼女が「わあ……いい匂い」と目を輝かせる。炊き立てのご飯の甘い湯気と混じり合い、厨房は幸福な香りに包まれた。

公務から離れ、こうして二人で料理をする。ただそれだけのことが、これほどまでに満たされた時間になるとは。興味深げに具材を覗き込む彼女の横顔から目が離せなかった。

「さあ、握ってみてくれ」

俺も見様見真似で握ろうとすると、米粒が手についてうまくいかない。そんな俺の不格好な手つきを見て、ルティアがくすくすと笑いながら、手水をつけて形を整えるコツを教えてくれた。

「力を入れすぎず、優しく包み込むように……ほら、こうやって愛情を込めるのよ」

彼女の指がいとも簡単に見事な三角形を作り上げていく。

「できた……!」

弾むような声。照れを隠すように赤くなった頬がたまらなく愛らしい。彼女はその熱を誤魔化すように、次々と新しいおにぎりを握り始めた。俺が考案した肉そぼろ、彼女が提案したハーブを混ぜ込んだ焼き鮭、二人で味を調整した特製の野菜漬け。テーブルに試作品が並び、俺たちは汗にまみれて笑い合った。

試食の時間。向かい合って椅子に座った。

「まずはシオンが作った『故郷の肉そぼろ』から……ん、美味しい!」

嬉しそうに頬張る彼女を見て、こちらまで頬が緩む。

「君が作った鮭ハーブもなかなかのものだ。鮭の旨味とハーブの爽やかさが口の中に広がる」

褒めると、彼女は花が咲くように笑った。政策論議でも都市計画でもない。ただ、目の前のおにぎりの味加減を語り合う。この他愛もない会話がどれほど大事なものか。

ふと、悪戯心が芽生えた。彼女の作ったおにぎりを一つ手に取り、

「ルティア、口を開けて」
「えっ?」
「ほら、『あーん』だ」

顔を真っ赤にして戸惑いながらも彼女が小さく口を開ける。その無防備な仕草に胸が高鳴るのを抑え、ふっくらとしたおにぎりを優しく差し入れた。咀嚼する彼女の顔を、俺はどんな顔で見つめていただろうか。

俺も出来上がったばかりのおにぎりを頬張ると、米の香ばしさと具材の旨味が口の中に広がる。ただそれだけなのに、今まで食べたどんなご馳走よりも心が満たされる気がした。

「美味しいな」
「ええ、とても」

この穏やかな時間の中で、彼女の心がゆっくりと解きほぐされていくのを感じた。ここにはアトランシアの市長も、クレイヴァーンの領主でもない。誰かのための二人じゃなくて、ルティアとシオンという一組の恋人でいさせてほしい。

「当日がなんだかとても楽しみになってきたわ」

はにかんだ笑顔とともに彼女の口から言葉がこぼれた。その飾らない表情が見たくて、この計画を立てたのだ。

「ああ。きっと、最高のおにぎり屋になるさ」

俺はこの幸福な時間がどうか少しでも長く続くようにと静かに願った。
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