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強行と喪失
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日は暮れて、夜。自室で一人座り込んでいた。どこからか、グラントとヴィーネの微かな話し声が聞こえる。あの二人だけの場所になりつつある部屋――本来ならあそこは私と夫が共に過ごすはずの寝室だった。
けれど今や、グラントもヴィーネも互いの存在がなければ夜を越えられないほど深く結びついてしまっている。共依存……それは神父さまが口にした言葉だけれど、まさしくそうなのだろう。
(戦場が生んだ絆、か……)
私にはどうしても理解できない。両親の"仇"であるはずの人と、どうしてそんなにも強く一緒にいられるのだろう。そして、グラントもどうして彼女なしでは眠れないのか。
最初は"こういう時期"なのだと、今だけのことだと自分に言い聞かせていた。でも、その“今だけ”が想像以上に長い。いつまでも続く。このまま放置していたら、グラントの心は完全にあの子に奪われてしまうかもしれない。
――夫を失いたくない。
自分の中で、不安と嫉妬が理性を追い払いはじめるのを感じた。なら、どうする? 見て見ぬふりをするの? それとも強引にでもあの子を引き離すの? もがき悩むうちに、ついにひとつの決意を固めていた。
(ごめんなさい、ヴィーネ。妻として夫を取り戻したい。たとえ大きな代償を払ってでも――)
◇◇◇
隣にいるはずの夫は今頃ヴィーネの部屋で眠れず苦しんでいるのか、それとも彼女と抱き合って安堵の眠りについているのか――どちらにせよ、ここにはいない。
時計の短針が深夜を回り、静寂に包まれた廊下。私は静かにベッドを出て、足音を忍ばせながら歩き出した。目指すはグラントがいる部屋。いつもならヴィーネと一緒に小さな寝台に入っているに違いない。そこに行ってどうするのか――自分でもはっきりとした結論はない。もう黙って見ているだけではいられない。
扉の前で一瞬、鼓動が高鳴る。手のひらは汗で湿っていた。息を殺し、ゆっくりとドアノブを回す。控えめに開けたドアの隙間から薄暗い部屋の様子がうかがえた。
――そこにはグラントとヴィーネの姿があった。
「リ、リリアナ……?」
寝入りばなの浅い眠りだったのか、私の気配に気づいたグラントが驚いたように声を上げる。ヴィーネもすぐに目を開き、慌てて体を起こそうとしていた。
私はドアを閉め、足早に二人のベッドに近づく。血の気が頭に上り、細かいことを考えられなくなる。ただひたすら言葉より行動が先に出てしまう。
「ちょっと待って、リリアナ、どうしたんだ……」
「ごめんなさいね、ヴィーネ。あなたにはもう少し離れてもらうわ」
私はヴィーネの腕をつかんだ。彼女は「ひっ……」と驚いたような声を出しながら身構える。その表情には混乱だけでなく恐怖も含まれていた。私だってこんな荒っぽいことはしたくない。もう歯止めが効かないのだ。
「やめて……っ、私、何かしましたか……?」
「あなたが悪いわけじゃない、わかってる。でも……もう私は限界。一緒のベッドに眠るのはやめて。グラントの妻は私よ!」
声が震える。涙が込み上げる。ヴィーネを乱暴に扱う気はないけれど、彼女を引きずり出す私の手は相手にとって相当に強く感じるだろう。
「リリアナ、落ち着いてくれ!」
グラントがあわてて私の腕を止める。私はその手を振り払うようにして叫んだ。
「落ち着けないわよ! ずっと我慢してきた。わかってるわ、あなたが苦しんでるのも、ヴィーネが頼る先を失ったのも。でもね、私だって妻なのよ!なぜ私を置き去りにするの?」
グラントは言葉を失い、ヴィーネは青ざめた顔で震えている。そこには言いようのない絶望感と罪悪感が漂っていた。私はその場にしゃがみ込み、涙をぽろぽろとこぼす。
「……ごめん。ヴィーネ、悪いけど今日は一人で寝てくれないか」
ようやくグラントがそう言葉を吐き出し、ヴィーネは「はい……」と蚊の鳴くような声で答えた。それは完全に納得した返事ではないだろう。彼女もまた共依存の相手を奪われるのだから。
どうにか場所を譲るように促すと、ヴィーネは震えながら部屋を後にした。廊下を通って自分の部屋へ向かう足音が遠ざかっていく。
けれど今や、グラントもヴィーネも互いの存在がなければ夜を越えられないほど深く結びついてしまっている。共依存……それは神父さまが口にした言葉だけれど、まさしくそうなのだろう。
(戦場が生んだ絆、か……)
私にはどうしても理解できない。両親の"仇"であるはずの人と、どうしてそんなにも強く一緒にいられるのだろう。そして、グラントもどうして彼女なしでは眠れないのか。
最初は"こういう時期"なのだと、今だけのことだと自分に言い聞かせていた。でも、その“今だけ”が想像以上に長い。いつまでも続く。このまま放置していたら、グラントの心は完全にあの子に奪われてしまうかもしれない。
――夫を失いたくない。
自分の中で、不安と嫉妬が理性を追い払いはじめるのを感じた。なら、どうする? 見て見ぬふりをするの? それとも強引にでもあの子を引き離すの? もがき悩むうちに、ついにひとつの決意を固めていた。
(ごめんなさい、ヴィーネ。妻として夫を取り戻したい。たとえ大きな代償を払ってでも――)
◇◇◇
隣にいるはずの夫は今頃ヴィーネの部屋で眠れず苦しんでいるのか、それとも彼女と抱き合って安堵の眠りについているのか――どちらにせよ、ここにはいない。
時計の短針が深夜を回り、静寂に包まれた廊下。私は静かにベッドを出て、足音を忍ばせながら歩き出した。目指すはグラントがいる部屋。いつもならヴィーネと一緒に小さな寝台に入っているに違いない。そこに行ってどうするのか――自分でもはっきりとした結論はない。もう黙って見ているだけではいられない。
扉の前で一瞬、鼓動が高鳴る。手のひらは汗で湿っていた。息を殺し、ゆっくりとドアノブを回す。控えめに開けたドアの隙間から薄暗い部屋の様子がうかがえた。
――そこにはグラントとヴィーネの姿があった。
「リ、リリアナ……?」
寝入りばなの浅い眠りだったのか、私の気配に気づいたグラントが驚いたように声を上げる。ヴィーネもすぐに目を開き、慌てて体を起こそうとしていた。
私はドアを閉め、足早に二人のベッドに近づく。血の気が頭に上り、細かいことを考えられなくなる。ただひたすら言葉より行動が先に出てしまう。
「ちょっと待って、リリアナ、どうしたんだ……」
「ごめんなさいね、ヴィーネ。あなたにはもう少し離れてもらうわ」
私はヴィーネの腕をつかんだ。彼女は「ひっ……」と驚いたような声を出しながら身構える。その表情には混乱だけでなく恐怖も含まれていた。私だってこんな荒っぽいことはしたくない。もう歯止めが効かないのだ。
「やめて……っ、私、何かしましたか……?」
「あなたが悪いわけじゃない、わかってる。でも……もう私は限界。一緒のベッドに眠るのはやめて。グラントの妻は私よ!」
声が震える。涙が込み上げる。ヴィーネを乱暴に扱う気はないけれど、彼女を引きずり出す私の手は相手にとって相当に強く感じるだろう。
「リリアナ、落ち着いてくれ!」
グラントがあわてて私の腕を止める。私はその手を振り払うようにして叫んだ。
「落ち着けないわよ! ずっと我慢してきた。わかってるわ、あなたが苦しんでるのも、ヴィーネが頼る先を失ったのも。でもね、私だって妻なのよ!なぜ私を置き去りにするの?」
グラントは言葉を失い、ヴィーネは青ざめた顔で震えている。そこには言いようのない絶望感と罪悪感が漂っていた。私はその場にしゃがみ込み、涙をぽろぽろとこぼす。
「……ごめん。ヴィーネ、悪いけど今日は一人で寝てくれないか」
ようやくグラントがそう言葉を吐き出し、ヴィーネは「はい……」と蚊の鳴くような声で答えた。それは完全に納得した返事ではないだろう。彼女もまた共依存の相手を奪われるのだから。
どうにか場所を譲るように促すと、ヴィーネは震えながら部屋を後にした。廊下を通って自分の部屋へ向かう足音が遠ざかっていく。
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