52 / 56
52.雨音に隠した想い
しおりを挟む
太陽は陰っているけれど、もうすっかり暖かい気候になった今は、代わりに草木が晴れやかに視界を彩ってくれる。オルメアを街に誘ったはいいけれど、何をしよう。
考えなしに彼を連れ出してきたことを少し反省する。
隣を見上げると、オルメアは特に何の文句を零すこともなく、街を行き交う人々を眺めて朗らかな様子で歩いている。とりあえず、オールドカフェにでも行こうかな。でも、それじゃわざわざオルメアを誘った意味があるのか分からない。それに学院の生徒もいるかもしれないし、その場でプロムの話はしにくい。
私がうんうんと考えている間にもオルメアは通り過ぎる店を興味津々に見つめ、時折、物珍しそうに立ち止まって私にその店について尋ねてきた。
オルメアは普段、あまり私用でこの街に出ることがないのだろう。私は好奇心のままに目を煌めかせる彼に救われた。結局、行く当てもなく街を散歩する形になってしまったからだ。
プロムに彼を誘うのだと決めて、そのタイミングを窺っていたけれど、思いがけず街遊びをオルメアが満喫しているので、なかなか言い出せなかった。
「ロミィ、見て」
久しぶりに訪れたトイ・ポモドーリで、オルメアはマジックの道具を試している。アランドラさんは私が来たことに喜んでくれて、大サービスだとおすすめの新作を紹介してくれたのだ。
ステッキを操りながらトランプを浮かせるオルメアは、無邪気にその新作を楽しんでいた。
「ふふふ」
そんな姿を見ていると、もうプロムのことは話さなくてもいいかもとすら思ってしまう。だって今、こうやって笑い合えるのが楽しいから。
「ありがとうございます」
しばらくマジックを堪能した後で、オルメアは丁寧にお礼を言って店の出入り口に向かった。私もその後に続き、ふと彼が下げた視線の先を見る。
そこにあるのは、おもちゃとは思えないほど美しく輝くシルバーのティアラだった。
「……そういえば、ティアラ……」
オルメアがじっとそれを見つめて微かに眉を動かすので、私は慌てて彼の背中を押して店から出ようと急かす。
「あ、アランドラさんお邪魔しましたっ! ほ、ほらオルメア、行こう?」
「ロミィ? あ、うん……」
私に押されて、オルメアは不思議そうな顔をしながらもそのまま店を出る。アランドラさんは咄嗟の私の行動にくすっと笑いながら手を振って見送ってくれた。
危なかった。
ティアラと言えば、私たちの学院の習わしがある。
ジュニアプロムに関するしきたりで、シニアプロムでは皆、コサージュをつけるけれど、その代わりにペアの一人はティアラを付けることになっている。コサージュと同じで、ペアの相手から貰うものだ。
あのティアラを見て、オルメアはきっとプロムのことを思い出した。別に不都合ではないと思うけれど、トイ・ポモドーリですっかり気持ちが緩み、まだ心の準備が出来ていない私に突如として緊張が襲いかかる。
店を出て歩き始めた私を見て、オルメアは小首を傾げた。違和感に気づいてしまっただろうか。
「あ……」
するとオルメアはそっと空を見上げる。
左手をかざし、その手のひらにぽつりと一粒の雫が落ちてきた。
「……雨?」
私も空を見上げる。
灰色の雲から、シャワーのようにゆっくりと雨粒が降ってきて頬に着地した。
「降ってきちゃったね」
雫は次第に勢いを増し、オルメアは徐々に強くなっていく雨音から逃れようと、私の手を引いて一番近くに見えた屋根の下まで小走りで移動する。
突然の雨に耐え切れずに走る人や、変わらず冷静に歩く人、フードを被る人など、様々な反応を見せる街の人たちを屋根の下から眺めていると、濡れてしまった髪の毛から滴った雫が視界を縦に切った。
手元を見ると、鞄が濡れていたので持っていたハンカチで拭いてみる。思ったよりも濡れていた。ついでに見えるスカートにも、水玉模様が僅かに見える。
「ロミィ」
オルメアに呼ばれて斜め上を見上げると、雨に濡れて冷たくなった額に柔らかな布が覆いかぶさった。私の濡れた髪の毛を拭おうと、オルメアがハンカチを当ててくれたのだ。
「あ、ありがとう……」
大きな手がそっと髪に触れ、その向こうに見える彼の私を見つめる瞳に思わず目を逸らす。
そのままオルメアからハンカチを受け取り、自分で続きを拭いた。
オルメアは濡れてしまった髪の毛をかき上げ、参ったな、と笑う。雨は勢いを増して、すっかり街の外の人影は減ってしまった。
私たちが駆け込んだのは、今は閉店してしまっているドラッグストアの屋根の下。以前はこのお店も、軽食店として盛り上がっていたのに。締め切った扉をちらりと振り返ると、小さい頃のおもちゃをなくしてしまったような気持ちになった。
窓ガラスに映る冷たい雫の反射を眺めていると、ガラスの中のオルメアが私に声をかける。
「久しぶりに街を歩くと、色々と変化があるものだね。馴染みのお店ってものが僕にはないんだけど、それでも、昔見た店が姿を変えていると、意外と気がつくものだ。誘ってくれてありがとう、ロミィ」
視線を横にいるオルメアに移せば、誠意で模られた微笑みが建物を見上げていた。
「ううん。そう言ってもらえて嬉しい。雨が降ってきちゃって、ちょっと、残念だけど……」
オルメアに借りたハンカチを畳み直し、きゅっと掴む。
「しょうがないよ。天気は突然に変わるものだ。全く、気まぐれだね」
彼は私たちの頭上を覆う雨雲が風と共にゆらぎながら進んで行くのを屋根の下から覗き込む。私はハンカチをじっと見つめ、迷っていた。このまま返すべきなのか、洗って返した方がいいのか。オルメアにとって嬉しいのはどちらだろう。
「気まぐれでいいの。だから太陽も雨も、時に恋しくなってしまうの。私たちの心を揺さぶるのが得意なのね、空は」
「ああ、そうだな」
オルメアの声は優しい。だけど、芯が通っている彼の声から空気が抜けてしまっているように聞こえるのは何故だろう。もしかしたらオルメアは、私に遠慮しているのかもしれない。ふわふわと浮いてしまった心が、私から離れようとしていく。複葉機の練習をしたあの場所で、私に微かな悩みを打ち明けたことを彼は後悔しているのだろうか。
やっぱりハンカチは後で返そう。怖くなった私は勝手にそう決意した。濡れてしまったから、そのまま返すのは悪いという罪悪感もある。だけど本心は、今、彼と私を繋ぎとめているのはこのハンカチだけだと思ったからだ。オルメアはいつもと変わらない。だけど私には嫌でも分かってしまう。
彼が遠慮しているという事実が。
「オルメア、あのね」
ハンカチだけで繋ぎとめている二人の間に、私は一本の糸を投げかけた。その糸が彼に届くよう祈りを込めながら。
「私、オルメアが複葉機を操縦しているところ、夢中で見てしまったの」
「……ロミィ?」
ぽかんと目を開けたオルメアの髪から、雫が一つ落ちていく。
「私は、誰かをファッションで勇気づけたいと思った。それは昔からずっと、祖母や両親のことを見てきたからだと思うわ。彼らの送りだす魔法のような力に、夢中になった。それで、ゾイアと一緒に見よう見まねで色々な服や化粧に挑戦してみて……最初は、とてもじゃないけど褒められた出来じゃなかった。でも、両親はそんな私たちを見て、嬉しそうに笑ってくれたの。それがまた楽しくて、私は自分の道を見つけられた気がした」
自分のことを話すのが少し恥ずかしくて、私は目を伏せる。
「両親と同じ方向を見て、彼らの意思をただ継いでいく。そう思ってた。それだけで、きっと皆のことを幸せにできるんだって、それを私も求めているんだって、ずっとそう思っていたの。そうね……若くて綺麗な女性たちの力になれればいいって、真っ直ぐにそれだけを目指してきた」
ざあざあと、雨の音だけが私の声に応えてくれた。
「でも、オルメアと一緒に、イディナさんを訪ねた時から、私のそんな理想にほんの少しの変化が出たの。基本は変わらないわ。ミヨンレ・プロストで、皆に人生を彩って欲しいってね。だけど、それだけじゃないなって。その皆って、何も限られた人だけじゃないって、気づいたの」
面白くないかな。だけど、私はオルメアが沈めてしまった手をどうにかもう一度見つけたくて勇気を振り絞る。心臓が小刻みに震えて、微かに身体が冷えていく。
「私ね、我儘だから、皆のことを幸せにしたいって欲張ってしまうの。私はその術を必要としているって気づけたのは、オルメアのおかげなの。目を離しているうちにお店が変わってしまうように、晴れていたのに突然雨が降ってきてしまう気まぐれみたいに、私たちだって同じなのね」
伏せていた目を上げ、ドキドキしながらオルメアを見上げる。彼の深い瞳は、私のことを捉えたまま。彼が何を考えているのかは見えない。だけど、私は私の想いを告げる。私にできるのはそれだけなのだから。
「私が昔、ファッションに夢中になったように、私はあの日、オルメアの操縦に夢中になった。そうやって、私は夢見てしまいがちなの。かつての幼い私の誓いは、今やまた、私のものとなって生まれ変わった。見方を変えると、同じことでも全く違う扉が開けるの。道は変えられるんだって。ねぇオルメア、私たちって、意外と自由だったみたいなの」
一度、彼が瞬きをした。
「知っていた? 私はね、最近になって思い知ったの」
彼が抱えている苦悩や迷いをすべて分かった気になんてなれない。もし私が誰かにそんなことをされたら、憤ってしまうだろう。だから私は、私に言えることだけを言う。ただの私の見解で、数多の可能性の中のたった一つでしかないけれど。
また恥ずかしくなってオルメアから目を逸らす。唇を噛んで、小さく呼吸を整えた。
オルメアの声は聞こえない。雨音だけが世界に残ったような気がした。
考えなしに彼を連れ出してきたことを少し反省する。
隣を見上げると、オルメアは特に何の文句を零すこともなく、街を行き交う人々を眺めて朗らかな様子で歩いている。とりあえず、オールドカフェにでも行こうかな。でも、それじゃわざわざオルメアを誘った意味があるのか分からない。それに学院の生徒もいるかもしれないし、その場でプロムの話はしにくい。
私がうんうんと考えている間にもオルメアは通り過ぎる店を興味津々に見つめ、時折、物珍しそうに立ち止まって私にその店について尋ねてきた。
オルメアは普段、あまり私用でこの街に出ることがないのだろう。私は好奇心のままに目を煌めかせる彼に救われた。結局、行く当てもなく街を散歩する形になってしまったからだ。
プロムに彼を誘うのだと決めて、そのタイミングを窺っていたけれど、思いがけず街遊びをオルメアが満喫しているので、なかなか言い出せなかった。
「ロミィ、見て」
久しぶりに訪れたトイ・ポモドーリで、オルメアはマジックの道具を試している。アランドラさんは私が来たことに喜んでくれて、大サービスだとおすすめの新作を紹介してくれたのだ。
ステッキを操りながらトランプを浮かせるオルメアは、無邪気にその新作を楽しんでいた。
「ふふふ」
そんな姿を見ていると、もうプロムのことは話さなくてもいいかもとすら思ってしまう。だって今、こうやって笑い合えるのが楽しいから。
「ありがとうございます」
しばらくマジックを堪能した後で、オルメアは丁寧にお礼を言って店の出入り口に向かった。私もその後に続き、ふと彼が下げた視線の先を見る。
そこにあるのは、おもちゃとは思えないほど美しく輝くシルバーのティアラだった。
「……そういえば、ティアラ……」
オルメアがじっとそれを見つめて微かに眉を動かすので、私は慌てて彼の背中を押して店から出ようと急かす。
「あ、アランドラさんお邪魔しましたっ! ほ、ほらオルメア、行こう?」
「ロミィ? あ、うん……」
私に押されて、オルメアは不思議そうな顔をしながらもそのまま店を出る。アランドラさんは咄嗟の私の行動にくすっと笑いながら手を振って見送ってくれた。
危なかった。
ティアラと言えば、私たちの学院の習わしがある。
ジュニアプロムに関するしきたりで、シニアプロムでは皆、コサージュをつけるけれど、その代わりにペアの一人はティアラを付けることになっている。コサージュと同じで、ペアの相手から貰うものだ。
あのティアラを見て、オルメアはきっとプロムのことを思い出した。別に不都合ではないと思うけれど、トイ・ポモドーリですっかり気持ちが緩み、まだ心の準備が出来ていない私に突如として緊張が襲いかかる。
店を出て歩き始めた私を見て、オルメアは小首を傾げた。違和感に気づいてしまっただろうか。
「あ……」
するとオルメアはそっと空を見上げる。
左手をかざし、その手のひらにぽつりと一粒の雫が落ちてきた。
「……雨?」
私も空を見上げる。
灰色の雲から、シャワーのようにゆっくりと雨粒が降ってきて頬に着地した。
「降ってきちゃったね」
雫は次第に勢いを増し、オルメアは徐々に強くなっていく雨音から逃れようと、私の手を引いて一番近くに見えた屋根の下まで小走りで移動する。
突然の雨に耐え切れずに走る人や、変わらず冷静に歩く人、フードを被る人など、様々な反応を見せる街の人たちを屋根の下から眺めていると、濡れてしまった髪の毛から滴った雫が視界を縦に切った。
手元を見ると、鞄が濡れていたので持っていたハンカチで拭いてみる。思ったよりも濡れていた。ついでに見えるスカートにも、水玉模様が僅かに見える。
「ロミィ」
オルメアに呼ばれて斜め上を見上げると、雨に濡れて冷たくなった額に柔らかな布が覆いかぶさった。私の濡れた髪の毛を拭おうと、オルメアがハンカチを当ててくれたのだ。
「あ、ありがとう……」
大きな手がそっと髪に触れ、その向こうに見える彼の私を見つめる瞳に思わず目を逸らす。
そのままオルメアからハンカチを受け取り、自分で続きを拭いた。
オルメアは濡れてしまった髪の毛をかき上げ、参ったな、と笑う。雨は勢いを増して、すっかり街の外の人影は減ってしまった。
私たちが駆け込んだのは、今は閉店してしまっているドラッグストアの屋根の下。以前はこのお店も、軽食店として盛り上がっていたのに。締め切った扉をちらりと振り返ると、小さい頃のおもちゃをなくしてしまったような気持ちになった。
窓ガラスに映る冷たい雫の反射を眺めていると、ガラスの中のオルメアが私に声をかける。
「久しぶりに街を歩くと、色々と変化があるものだね。馴染みのお店ってものが僕にはないんだけど、それでも、昔見た店が姿を変えていると、意外と気がつくものだ。誘ってくれてありがとう、ロミィ」
視線を横にいるオルメアに移せば、誠意で模られた微笑みが建物を見上げていた。
「ううん。そう言ってもらえて嬉しい。雨が降ってきちゃって、ちょっと、残念だけど……」
オルメアに借りたハンカチを畳み直し、きゅっと掴む。
「しょうがないよ。天気は突然に変わるものだ。全く、気まぐれだね」
彼は私たちの頭上を覆う雨雲が風と共にゆらぎながら進んで行くのを屋根の下から覗き込む。私はハンカチをじっと見つめ、迷っていた。このまま返すべきなのか、洗って返した方がいいのか。オルメアにとって嬉しいのはどちらだろう。
「気まぐれでいいの。だから太陽も雨も、時に恋しくなってしまうの。私たちの心を揺さぶるのが得意なのね、空は」
「ああ、そうだな」
オルメアの声は優しい。だけど、芯が通っている彼の声から空気が抜けてしまっているように聞こえるのは何故だろう。もしかしたらオルメアは、私に遠慮しているのかもしれない。ふわふわと浮いてしまった心が、私から離れようとしていく。複葉機の練習をしたあの場所で、私に微かな悩みを打ち明けたことを彼は後悔しているのだろうか。
やっぱりハンカチは後で返そう。怖くなった私は勝手にそう決意した。濡れてしまったから、そのまま返すのは悪いという罪悪感もある。だけど本心は、今、彼と私を繋ぎとめているのはこのハンカチだけだと思ったからだ。オルメアはいつもと変わらない。だけど私には嫌でも分かってしまう。
彼が遠慮しているという事実が。
「オルメア、あのね」
ハンカチだけで繋ぎとめている二人の間に、私は一本の糸を投げかけた。その糸が彼に届くよう祈りを込めながら。
「私、オルメアが複葉機を操縦しているところ、夢中で見てしまったの」
「……ロミィ?」
ぽかんと目を開けたオルメアの髪から、雫が一つ落ちていく。
「私は、誰かをファッションで勇気づけたいと思った。それは昔からずっと、祖母や両親のことを見てきたからだと思うわ。彼らの送りだす魔法のような力に、夢中になった。それで、ゾイアと一緒に見よう見まねで色々な服や化粧に挑戦してみて……最初は、とてもじゃないけど褒められた出来じゃなかった。でも、両親はそんな私たちを見て、嬉しそうに笑ってくれたの。それがまた楽しくて、私は自分の道を見つけられた気がした」
自分のことを話すのが少し恥ずかしくて、私は目を伏せる。
「両親と同じ方向を見て、彼らの意思をただ継いでいく。そう思ってた。それだけで、きっと皆のことを幸せにできるんだって、それを私も求めているんだって、ずっとそう思っていたの。そうね……若くて綺麗な女性たちの力になれればいいって、真っ直ぐにそれだけを目指してきた」
ざあざあと、雨の音だけが私の声に応えてくれた。
「でも、オルメアと一緒に、イディナさんを訪ねた時から、私のそんな理想にほんの少しの変化が出たの。基本は変わらないわ。ミヨンレ・プロストで、皆に人生を彩って欲しいってね。だけど、それだけじゃないなって。その皆って、何も限られた人だけじゃないって、気づいたの」
面白くないかな。だけど、私はオルメアが沈めてしまった手をどうにかもう一度見つけたくて勇気を振り絞る。心臓が小刻みに震えて、微かに身体が冷えていく。
「私ね、我儘だから、皆のことを幸せにしたいって欲張ってしまうの。私はその術を必要としているって気づけたのは、オルメアのおかげなの。目を離しているうちにお店が変わってしまうように、晴れていたのに突然雨が降ってきてしまう気まぐれみたいに、私たちだって同じなのね」
伏せていた目を上げ、ドキドキしながらオルメアを見上げる。彼の深い瞳は、私のことを捉えたまま。彼が何を考えているのかは見えない。だけど、私は私の想いを告げる。私にできるのはそれだけなのだから。
「私が昔、ファッションに夢中になったように、私はあの日、オルメアの操縦に夢中になった。そうやって、私は夢見てしまいがちなの。かつての幼い私の誓いは、今やまた、私のものとなって生まれ変わった。見方を変えると、同じことでも全く違う扉が開けるの。道は変えられるんだって。ねぇオルメア、私たちって、意外と自由だったみたいなの」
一度、彼が瞬きをした。
「知っていた? 私はね、最近になって思い知ったの」
彼が抱えている苦悩や迷いをすべて分かった気になんてなれない。もし私が誰かにそんなことをされたら、憤ってしまうだろう。だから私は、私に言えることだけを言う。ただの私の見解で、数多の可能性の中のたった一つでしかないけれど。
また恥ずかしくなってオルメアから目を逸らす。唇を噛んで、小さく呼吸を整えた。
オルメアの声は聞こえない。雨音だけが世界に残ったような気がした。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
5
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる