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第二章
籠絡された公主
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不穏な響きに身構えた紫水の頭上で、笑いを噛んだ気配がしたと思うと、彼の右手が紫水の左胸をぎゅっと掴んた。
「…な、にっ」
「着痩せするのですね。手からこぼれそうですよ」
そう言うと指を折り、感触を確かめるように強弱をつけて何度も動かした。
「ひゃぁっ」
彼の手の中で自由に形を変える胸。紫水は目の前の光景に怖ろしさを感じて後退りしようとしたが、背中には彼の身体が隙間なく貼り着いて、少しの身動きも出来なかった。
「離してっ!」
「柔らかい…。ふんわりとしていて、ずっと触っていたいですね」
いちいち言葉にされ、恥ずかしさに頬を染めながらも、紫水はキッと彼を睨みあげる。
「ふざけないで―」
見上げた顔は信じられないほど、穏やかな笑みを湛えて紫水を見つめていた。こんな状況なのに、至って平常と云わんばかりの様子。どんな精神構造をしているのか、紫水には見当もつかない。
「綺麗な瞳だ。その名の通りに、深く澄んで」
左胸を弄んでいた右手が、そのまま紫水の左の頬に添えられた。
「我を映して」
饒舌な唇が紫水に覆いかぶさる。
ぷちゅっと音を立て、生き物のように蠢く温度に、紫水は背筋を凍らせる。
重なった部分から出る微かな水音が、静かな部屋に響く。
圧倒的な絶望が、締め付けられた身体に渦巻く。
唇に感じる熱と耳障りな音に、思考までかき消されそうな恐怖に肩を震わせる。
それでも斉穎は手を緩めることなく、接吻の雨を降らせる。
か細い身体を抱き留める腕にさらに力を込めると、斉穎は目線だけを上げ、格子戸の奥から覗く視線に焦点を合わせた。
「―」
目だけで射殺せる自信はある。
炯々と冷たい炎を灯した瞳にぶつかった小さな目が瞬きをすると、足音を忍ばせて奥へと戻っていった。
気配が途絶えたのを確認し、ふんっと鼻を鳴らした斉穎は紫水の頬に添えていた右手を耳の後ろに滑らせると、ぐっと自分に引き寄せた。
「…うっ…く…っ」
くぐもった声をかき消して、更に深く長く、喰らうような接吻を落とす。
気を散らすものが無くなった今、この時とばかりに淡い果実を貪る。
小さな唇を吸い上げながら、斉穎は縦横無尽に舌を這わせる。粘膜の重なりあう感触が理性を蹴散らし、ただの本能だけの生き物に塗り替わる。
抱きしめた身体が徐々に熱を持ち、甘い香りが匂い立つ。
鼻をかすめるその香りに静かな興奮を覚え、斉穎は武者震いをしながらひたすらに唇を重ねる。
胸の下に回した腕を掴む彼女の手に、ぎゅっと力が入った。そんな小さな抵抗も、斉穎にとっては最早刺激にしかならない。
頭を押さえていた右手に力を込め、口づけを更に深くする。舌を捕らえ、絡め合わせて心ゆくまで侵食する。
何度も繰り返し、己の熱を華奢な身体に注ぎ込む。
洩れる彼女の吐息を飲み下すと、胸に陶酔感が満ち溢れた。
「はぁっ…」
長い接吻を解くと、紫水の身体は糸が切れた人形のように力を失っていた。
紅く腫れた彼女の唇の端からはどちらのものか分からない透明な糸が垂れていて、それが余計に斉穎の血を滾らせた。
「…もっと、欲しくなりました」
「い、や…ぁっ」
息も絶え絶えな彼女を抱え上げ、そのまま奥の部屋の寝台に運び込む。
華々しい刺繍が施された紅色の敷布に横たえ、斉穎は組み敷いた上から紫水を眺めた。
上気した彼女の白肌に、絹の紅がよく映える。それが余計に痴情を煽る。
「な、なに、を…」
戸惑いがちに瞳を揺らして尋ねる紫水に、斉穎は平静を保ちつつも不埒な予告を口にする。
「決まってるでしょう。男女が閨ですることなんて」
「…」
閨、という単語に、紫水は息を呑んだ。
房中術というものを教えられたのは、あの忌々しい花嫁教育でだった。
今の今まで、そんな事が我が身に降りかかるなんて想像も、ましてや遭遇もしなかったのに、突然直面したって頭はついていけるはずもない。
しかし、現実問題、目の前の人間は獲物を見つけた肉食動物の顔をして、こちらを見下ろしている。
不穏な状況に、紫水は今更ながらに焦りを覚える。
「無理、むり、ムリだから。ほんと無理」
「今更何を。既成事実でしょう」
「は…」
微笑む顔は、捕食者の余裕。
整った顔に一瞬でもときめいた自分を、殴ってやりたい。このままだと、ほんとにマズイ。
目尻を下げて覆いかぶさる相手の胸に両手をあてがい、紫水は真剣な顔で押し戻す。
「ほんと我、誰にも嫁ぐつもりないから」
「落ち着いて下さい、公主。貴女に兄上殿に逆らう権利はないでしょう?」
「いや、人の話聞いて?」
「諦めましょう、公主。大丈夫ですよ」
「どこが大丈夫なの!」
この男、全く話を聞いていない。
噛み付く紫水に、彼は好青年の顔で迫って来る。
手慣れた大人の余裕なのかはたまた無神経なのか、こんな状況でも爽やかな風を吹かせる彼に紫水は愕然とする。
「あの、ほんとに、我も忙しいし、結婚とかしてる暇ないの」
「あぁ。お仕事ですか」
「あっ…」
言わんほうが良かった。後悔先に立たず。
「叫んでましたもんね、頑張ってるんだって」
一番忘れてほしい所を掘り返され、紫水は頭から蒸気が出そうなほど顔を赤くする。
「あれは…、誰も居ないと…」
「不用心ですね、ほんとに。壁に耳ありと言うではありませんか」
爽やかに笑われ、紫水は恥ずかしさに身悶えるしかない。つらい。
「…なんで、よりによって、貴方なんですか…」
「出会ってしまった、それが全て」
今度は先ほどとは打って変わって柔らかい接吻が落とされた。かさなる手のひらに指を絡め、まるで本当の恋人同士の交わりのように甘く融かしていく。
何故この男のすることは、こんなに気持ち良いのだろうか。
唇を重ねただけで、紫水の脳は考える事を放棄する。
絶えなく注がれる甘美な戯れに流されそうになりながらも、紫水は拒絶の意志を腕に込める。
「我は、こんなことで流されません―。権力が目当てなら、他をあたってください」
「…そんなことばかり気にして」
「気にします。絶対に嫌です」
頑なに聞く耳を持たない紫水の態度に、斉潁の目の色がふっと深くなった。
「―そこまで嫌がる理由が、あるのですか?」
「…」
「心に決めた男がいる、とでも?」
隠していた傷跡を意図せず抉られ、紫水は唇を噛んだ。
分かってる。
いたとしても、叶わない。
願っても届かない、むなしい想い。
そんな淡い夢に、いつまでも縋っていたくない。
「…いませんよ」
悔し紛れに吐き捨てる台詞。
彼の近くにいられれば、それだけでいい。
振り向いて欲しいなんて、初めからそんな期待なんて、してないから。
「なら、よいでしょう?他国に嫁ぐ事に比べたら、貴女の負担は軽い」
斉潁は顔を反らす紫水の頬に指を寄せ、その瞳を覗いた。
鼻先が触れそうな距離で、彼を直視なんてできない。
「良くないです。これっぽっちも」
「不自由はさせませんよ」
「いいえ。婚姻なんかで縛られるのはまっぴらごめんです」
「束縛されるのはお嫌いですか?女性はみな、自分ひとりを愛して欲しいと言うのに」
「誰かと一緒にしないで下さい。我は人に頼らずとも、生きていけるので」
「頼ってくださればよいのに」
「人を選ぶので」
「見る目が無いですね」
「自分で言う人、信用できません」
「それもそうですね」
斉潁は切れ長の目じりを緩め、くすっと笑った。少年のような無邪気な笑顔に、紫水は視線を奪われる。
ズルい。この顔は反則だ。
「それか何か、『したくない事情』をお持ちなので?」
くだらない会話に突如差し込まれた、核心を突いた問い。虚を衝かれた紫水の顔が固まった。
押し問答は、ここに来るための前座に過ぎなかったらしい。何かに感づいた彼は少しずつ、核心に迫っていた。
なんて人だろう。
紫水は驚きと感嘆の交じったため息を漏らしたが、言葉にはしなかった。
事情なんて、そんなの言えるはずが無い。
「…あなたには、関係ありません」
「夫となる男に隠し事は良くないですよ」
「誰が夫ですか!」
「既に決まった事。では、身体を繋げたら、認めますか?」
「なに…、ひゃっ!」
閉じていた脚を膝で下から割られ、驚いた紫水が悲鳴を上げた。閉じようとしても、太腿を押し込まれて叶わない。重なった下半身の質量に彼を意識させられ、全身が強張る。
「今ここで、夫婦の契りを交わしましょうか」
「何言ってんの!」
「既定路線ですが」
「やだっ!!絶対やだ!」
この後は待ちに待った試合なのに。そんなことしてる場合じゃない。
ていうか、契りって何だ。冗談じゃない。
紫水は両手に力を込めて、彼を押す。が、まったく動じる気配はない。
それどころか、紫水が身動き取れないように、しっかりと四肢を抑え込んでしまった。位置を取った彼がはのんびりと構える。獲物が弱るのを待つ作戦だ。
「では、教えて下さい。兄君に内緒で、貴女は何をしているんですか。そして、どうして監視がつけられているんですか?」
「えっ…、監、視…?」
予想外の単語に、紫水は目を見開いた。
監視、されているって、どういうこと…?
心当たりがない。全く身に覚えがない。
油断していた。
自分を見張る人間がいるなんて―。
揺れる瞳に動揺を察したらしい。斉穎の声が低くなった。
「―展開が早すぎるでしょう。公主お披露目の宴席からわずか数日で降嫁先が内定し、屋敷まで用意され、引き合わせの日取りまで整えるなど、出来すぎている。初めから計画されていたとしか思えない」
言われてみれば、確かにそうだ。
そもそも今まで降嫁の話自体無かった。あの兄の性格からしたら、駒は最後まで取っておくと考えるのが自然だ。
「誰が、貴女を内廷から追い払おうとしているのです?」
「誰、かが、我を―」
動揺した紫水の言葉は途切れ、目線が宙を泳ぐ。
もしや、気づかれたのか?
足を付けないように細心の注意を払っていたはずなのに。
何処で、何時、誰が―。
駄目だ、見当がつかない。
あれほど慎重に動いていたのに、どうして気づかれたのか―。
唇を噛んだ紫水の顔を、斉穎が覗き込む。
「何を、隠しているんです?」
「…」
黙り込んだ紫水に、斉穎はわざとらしくため息をつく。
「私は公主をあの地獄からお救いしたい。降嫁はその為には最良な手段でしょう?どうか素直に受け入れて下さい」
そんなの口先だけの綺麗事。そんなものはとうに聞き飽きた。
体面ばかり取り繕う人間しかいない宮廷で、そんな言葉を信じるほど無知な子供じゃない。
「いいえ、嫌です。人を権力の道具としか見ない貴方たちに、使わたくありません」
紫水はしっかりと相手を見据えて、断固拒否の構えを崩さない。
「頑固ですな。それも一興です」
斉穎がいかにも楽しいという風情でくすっと笑った。
それが余計に腹立たしくて、紫水はキッと眼差しを強くする。
「いいでしょう―。視点を変えます。私を選べば、貴女にも利益があります」
「は?」
彼の口から出た言葉が想定外すぎて、紫水は地声で聞き返してしまった。
それにも表情をかえず、彼は滔々と続ける。
「私が留守の間は、行動の自由を保証します。今まで通り、仕事を続けてもいい」
「…」
紫水は不覚にも、心がゆらいだ。
外で動く時間があれば、どうにか調べ続けられる。
だが、そんな都合のイイ話、あるのだろうか。
「契約だと思ってくれればいいです。二人の時は、夫婦を演じ切る。それ以外は貴女の好きなようにできる」
「…本当に?」
「えぇ。ただ条件があります。貴方が隠している秘密事を共有できたなら、自由は保証します。ものによっては手助けも出来る」
「…」
確かに、この話にのる利益は十分にある。
だが、この男が信用に足りるかの判断がつかない。相手を知るにはもっと時間が必要だ。即答なんて出来ない。
「今は、話せません―。絶対に」
覚悟を宿した瞳に映った顔が眉をひそめ、小さくため息をついた。
「話してくださらないのなら、仕方ない…。では、今から抱きます」
「なっ―」
言い終わる前に、斉穎は紫水の両手の手首を頭上に抑え込み、抵抗の術を封じた。
そのまま唇を塞ぎ、言葉を奪い、右手で胸の下の帯を引き抜いて、衣を乱した。
紫水は抵抗しようも、組み敷かれたこの状態では微動だに出来ない。
手首を押さえつける力は、おふざけの範囲を越えている。
この人、本気だ―。
紫水は途端に怖くなり、身体をジタバタさせるがどうにも動かない。
彼の手は遠慮なく衣の袷を割り、人目につくことのなかった紫水の肌を露わにした。
「衣の下も、絹のように艶やかですね」
ほうっと感心したようにため息をついた斉穎は、開いた袷に手を入れると鎖骨から肩、胸から脇へと輪郭をなぞるように、何度も手のひらを滑らせた。
「なめらかで気持ちの良い肌だ。ずっと触っていられる」
上半身を撫で下ろした手が腰を滑り、臍の上でくるくると円を描く。
たったそれだけの行為なのに、紫水の全身が熱くなる。
「ひゃっぁ…」
角張った手がまた戻ってきて、はだけた袷からまろび出た胸を掴んだ。
「やはり布越しでなく、素肌がいいですね」
「やっ…」
耳朶に息を吹きかけられ、思わず身体をすくめたところ、斉穎が薄い桃色の尖端を指でピンと弾いた。
「んぅっ!」
つま先が宙を蹴り、ぷっとりと腫れた唇から息が漏れる。肩を揺らした紫水に、斉穎は白い歯をこぼした。
「存分に、良くなって下さい」
紫水の耳元に響くのは、脳を溶かすほどの甘い囁き。注がれる快感に気がふれそうになるのを堪えながら、どうにか言葉を発する。
「おねが、いだから、ま、待っ、て…」
「いいえ。待ちません」
彼の右手はぐっと胸を掴むと、人差し指を埋めるようにして、くりくりと尖端を押し込む。痺れたような感覚が脳の後ろに燦めいて、ゆるんだ紫水の唇から吐息がこぼれた。
「ふぅっ、ん…」
甘えるような声が良かったのたか、斉穎はそれを何度も繰り返し、紫水を懊悩させた。右だけでなく左胸も責められ、逃れようと体をねじると更に快感を煽られ、余計に喘ぐはめになるだけだった。
「よい声だ。もっと鳴かせたくなる」
敏感になった紅い蕾はぷっくりとふくれ、息を吹きかけられるだけて、紫水は声を洩らしてしまう。
「んくっ…」
「ここが好きですか」
斉穎は嬌態をさらす紫水に追い撃ちをかけるように、空いている片方も口に含み、舌で押しつぶし転がしては遊ぶ。その度に紫水は反応し、彼を愉しませた。
「も、やめて…」
左右の胸を散々弄られ、羞恥で瞳を濡らす紫水を、静かな青瞳が見下ろす。
自分の輪郭をくっきりと映す彼の奥深い瞳。このままどこまでも沈んでしまいそうな感覚が恐ろしくて、ついに紫水は白旗を揚げた。
「言うから…。おねがい、終わりに、して…」
「気持よくないのですか。ここはこんなに可愛くなっているのに」
舌をのばし、紅く腫れた蕾を舐めながら見上げる彼の顔を、紫水は直視出来ない。
「公主」
ぴちゃぴちゃと胸の上で音を立てながら呼ぶ声に、唇を真一文字に結んで視線を下ろす。
刺すような瞳に見られて、恥ずかしさに全身が燃えるように熱くなる。
彼は紫水を見ながら、長い舌を絡ませて蕾を転がした。
耐えられなくて視線を逸らすと、今度は甘く咬まれ腰を震わせた。
「くぅ、んっ…」
もう限界だった。初めての快感は抗えるものでは無かった。
「は、犯人を、見、みつけっ、るの…っ」
固くなった蕾をくりくりと歯でこすられ、息が途切れて上手く言えない。
「なんの?言ってごらん」
幼子に語りかけるような優しい声色で斉穎が問う。
「華雲、外宮、のっ、真犯人を…っ!」
「よく言えました―」
堪らず背を反らして叫んだ紫水を見届けると、斉潁は上半身をずらし、額に接吻を落とした。
「もう、これ、で…」
また唇を塞がれ、言葉は音になる前に飲み込まれた。
口内を熱い舌が這いまわる。両の胸を揉まれながら尖端を爪先で弄られる。強烈な快感を逃せず、魚のように足先がピクピクと小刻みに震える。
もう駄目、来る―。
あっと目を見開くと、底知れない波が身体の奥から湧いて、下腹部で弾けた。
「良かったでしょう」
衝撃的な体験に、紫水はもはや何も考えられなかった。
四肢は糸が切れたように力なく垂れ下がり、言葉を紡げなくなった唇は茱萸のように腫れて震えるだけ。
「は…ぁ…」
脱力した身体も脳も、思うように動かせない。
ただ呆然とする紫水の唇を啄みながら、満足そうな顔して汗ばんだ身体を撫でる斉穎に、嫌味の一つも出てこない。
「溶けてしまいましたね。可愛い―」
そう言って紫水の髪を撫でる斉穎の顔は、今日一番に美しかった。
「…な、にっ」
「着痩せするのですね。手からこぼれそうですよ」
そう言うと指を折り、感触を確かめるように強弱をつけて何度も動かした。
「ひゃぁっ」
彼の手の中で自由に形を変える胸。紫水は目の前の光景に怖ろしさを感じて後退りしようとしたが、背中には彼の身体が隙間なく貼り着いて、少しの身動きも出来なかった。
「離してっ!」
「柔らかい…。ふんわりとしていて、ずっと触っていたいですね」
いちいち言葉にされ、恥ずかしさに頬を染めながらも、紫水はキッと彼を睨みあげる。
「ふざけないで―」
見上げた顔は信じられないほど、穏やかな笑みを湛えて紫水を見つめていた。こんな状況なのに、至って平常と云わんばかりの様子。どんな精神構造をしているのか、紫水には見当もつかない。
「綺麗な瞳だ。その名の通りに、深く澄んで」
左胸を弄んでいた右手が、そのまま紫水の左の頬に添えられた。
「我を映して」
饒舌な唇が紫水に覆いかぶさる。
ぷちゅっと音を立て、生き物のように蠢く温度に、紫水は背筋を凍らせる。
重なった部分から出る微かな水音が、静かな部屋に響く。
圧倒的な絶望が、締め付けられた身体に渦巻く。
唇に感じる熱と耳障りな音に、思考までかき消されそうな恐怖に肩を震わせる。
それでも斉穎は手を緩めることなく、接吻の雨を降らせる。
か細い身体を抱き留める腕にさらに力を込めると、斉穎は目線だけを上げ、格子戸の奥から覗く視線に焦点を合わせた。
「―」
目だけで射殺せる自信はある。
炯々と冷たい炎を灯した瞳にぶつかった小さな目が瞬きをすると、足音を忍ばせて奥へと戻っていった。
気配が途絶えたのを確認し、ふんっと鼻を鳴らした斉穎は紫水の頬に添えていた右手を耳の後ろに滑らせると、ぐっと自分に引き寄せた。
「…うっ…く…っ」
くぐもった声をかき消して、更に深く長く、喰らうような接吻を落とす。
気を散らすものが無くなった今、この時とばかりに淡い果実を貪る。
小さな唇を吸い上げながら、斉穎は縦横無尽に舌を這わせる。粘膜の重なりあう感触が理性を蹴散らし、ただの本能だけの生き物に塗り替わる。
抱きしめた身体が徐々に熱を持ち、甘い香りが匂い立つ。
鼻をかすめるその香りに静かな興奮を覚え、斉穎は武者震いをしながらひたすらに唇を重ねる。
胸の下に回した腕を掴む彼女の手に、ぎゅっと力が入った。そんな小さな抵抗も、斉穎にとっては最早刺激にしかならない。
頭を押さえていた右手に力を込め、口づけを更に深くする。舌を捕らえ、絡め合わせて心ゆくまで侵食する。
何度も繰り返し、己の熱を華奢な身体に注ぎ込む。
洩れる彼女の吐息を飲み下すと、胸に陶酔感が満ち溢れた。
「はぁっ…」
長い接吻を解くと、紫水の身体は糸が切れた人形のように力を失っていた。
紅く腫れた彼女の唇の端からはどちらのものか分からない透明な糸が垂れていて、それが余計に斉穎の血を滾らせた。
「…もっと、欲しくなりました」
「い、や…ぁっ」
息も絶え絶えな彼女を抱え上げ、そのまま奥の部屋の寝台に運び込む。
華々しい刺繍が施された紅色の敷布に横たえ、斉穎は組み敷いた上から紫水を眺めた。
上気した彼女の白肌に、絹の紅がよく映える。それが余計に痴情を煽る。
「な、なに、を…」
戸惑いがちに瞳を揺らして尋ねる紫水に、斉穎は平静を保ちつつも不埒な予告を口にする。
「決まってるでしょう。男女が閨ですることなんて」
「…」
閨、という単語に、紫水は息を呑んだ。
房中術というものを教えられたのは、あの忌々しい花嫁教育でだった。
今の今まで、そんな事が我が身に降りかかるなんて想像も、ましてや遭遇もしなかったのに、突然直面したって頭はついていけるはずもない。
しかし、現実問題、目の前の人間は獲物を見つけた肉食動物の顔をして、こちらを見下ろしている。
不穏な状況に、紫水は今更ながらに焦りを覚える。
「無理、むり、ムリだから。ほんと無理」
「今更何を。既成事実でしょう」
「は…」
微笑む顔は、捕食者の余裕。
整った顔に一瞬でもときめいた自分を、殴ってやりたい。このままだと、ほんとにマズイ。
目尻を下げて覆いかぶさる相手の胸に両手をあてがい、紫水は真剣な顔で押し戻す。
「ほんと我、誰にも嫁ぐつもりないから」
「落ち着いて下さい、公主。貴女に兄上殿に逆らう権利はないでしょう?」
「いや、人の話聞いて?」
「諦めましょう、公主。大丈夫ですよ」
「どこが大丈夫なの!」
この男、全く話を聞いていない。
噛み付く紫水に、彼は好青年の顔で迫って来る。
手慣れた大人の余裕なのかはたまた無神経なのか、こんな状況でも爽やかな風を吹かせる彼に紫水は愕然とする。
「あの、ほんとに、我も忙しいし、結婚とかしてる暇ないの」
「あぁ。お仕事ですか」
「あっ…」
言わんほうが良かった。後悔先に立たず。
「叫んでましたもんね、頑張ってるんだって」
一番忘れてほしい所を掘り返され、紫水は頭から蒸気が出そうなほど顔を赤くする。
「あれは…、誰も居ないと…」
「不用心ですね、ほんとに。壁に耳ありと言うではありませんか」
爽やかに笑われ、紫水は恥ずかしさに身悶えるしかない。つらい。
「…なんで、よりによって、貴方なんですか…」
「出会ってしまった、それが全て」
今度は先ほどとは打って変わって柔らかい接吻が落とされた。かさなる手のひらに指を絡め、まるで本当の恋人同士の交わりのように甘く融かしていく。
何故この男のすることは、こんなに気持ち良いのだろうか。
唇を重ねただけで、紫水の脳は考える事を放棄する。
絶えなく注がれる甘美な戯れに流されそうになりながらも、紫水は拒絶の意志を腕に込める。
「我は、こんなことで流されません―。権力が目当てなら、他をあたってください」
「…そんなことばかり気にして」
「気にします。絶対に嫌です」
頑なに聞く耳を持たない紫水の態度に、斉潁の目の色がふっと深くなった。
「―そこまで嫌がる理由が、あるのですか?」
「…」
「心に決めた男がいる、とでも?」
隠していた傷跡を意図せず抉られ、紫水は唇を噛んだ。
分かってる。
いたとしても、叶わない。
願っても届かない、むなしい想い。
そんな淡い夢に、いつまでも縋っていたくない。
「…いませんよ」
悔し紛れに吐き捨てる台詞。
彼の近くにいられれば、それだけでいい。
振り向いて欲しいなんて、初めからそんな期待なんて、してないから。
「なら、よいでしょう?他国に嫁ぐ事に比べたら、貴女の負担は軽い」
斉潁は顔を反らす紫水の頬に指を寄せ、その瞳を覗いた。
鼻先が触れそうな距離で、彼を直視なんてできない。
「良くないです。これっぽっちも」
「不自由はさせませんよ」
「いいえ。婚姻なんかで縛られるのはまっぴらごめんです」
「束縛されるのはお嫌いですか?女性はみな、自分ひとりを愛して欲しいと言うのに」
「誰かと一緒にしないで下さい。我は人に頼らずとも、生きていけるので」
「頼ってくださればよいのに」
「人を選ぶので」
「見る目が無いですね」
「自分で言う人、信用できません」
「それもそうですね」
斉潁は切れ長の目じりを緩め、くすっと笑った。少年のような無邪気な笑顔に、紫水は視線を奪われる。
ズルい。この顔は反則だ。
「それか何か、『したくない事情』をお持ちなので?」
くだらない会話に突如差し込まれた、核心を突いた問い。虚を衝かれた紫水の顔が固まった。
押し問答は、ここに来るための前座に過ぎなかったらしい。何かに感づいた彼は少しずつ、核心に迫っていた。
なんて人だろう。
紫水は驚きと感嘆の交じったため息を漏らしたが、言葉にはしなかった。
事情なんて、そんなの言えるはずが無い。
「…あなたには、関係ありません」
「夫となる男に隠し事は良くないですよ」
「誰が夫ですか!」
「既に決まった事。では、身体を繋げたら、認めますか?」
「なに…、ひゃっ!」
閉じていた脚を膝で下から割られ、驚いた紫水が悲鳴を上げた。閉じようとしても、太腿を押し込まれて叶わない。重なった下半身の質量に彼を意識させられ、全身が強張る。
「今ここで、夫婦の契りを交わしましょうか」
「何言ってんの!」
「既定路線ですが」
「やだっ!!絶対やだ!」
この後は待ちに待った試合なのに。そんなことしてる場合じゃない。
ていうか、契りって何だ。冗談じゃない。
紫水は両手に力を込めて、彼を押す。が、まったく動じる気配はない。
それどころか、紫水が身動き取れないように、しっかりと四肢を抑え込んでしまった。位置を取った彼がはのんびりと構える。獲物が弱るのを待つ作戦だ。
「では、教えて下さい。兄君に内緒で、貴女は何をしているんですか。そして、どうして監視がつけられているんですか?」
「えっ…、監、視…?」
予想外の単語に、紫水は目を見開いた。
監視、されているって、どういうこと…?
心当たりがない。全く身に覚えがない。
油断していた。
自分を見張る人間がいるなんて―。
揺れる瞳に動揺を察したらしい。斉穎の声が低くなった。
「―展開が早すぎるでしょう。公主お披露目の宴席からわずか数日で降嫁先が内定し、屋敷まで用意され、引き合わせの日取りまで整えるなど、出来すぎている。初めから計画されていたとしか思えない」
言われてみれば、確かにそうだ。
そもそも今まで降嫁の話自体無かった。あの兄の性格からしたら、駒は最後まで取っておくと考えるのが自然だ。
「誰が、貴女を内廷から追い払おうとしているのです?」
「誰、かが、我を―」
動揺した紫水の言葉は途切れ、目線が宙を泳ぐ。
もしや、気づかれたのか?
足を付けないように細心の注意を払っていたはずなのに。
何処で、何時、誰が―。
駄目だ、見当がつかない。
あれほど慎重に動いていたのに、どうして気づかれたのか―。
唇を噛んだ紫水の顔を、斉穎が覗き込む。
「何を、隠しているんです?」
「…」
黙り込んだ紫水に、斉穎はわざとらしくため息をつく。
「私は公主をあの地獄からお救いしたい。降嫁はその為には最良な手段でしょう?どうか素直に受け入れて下さい」
そんなの口先だけの綺麗事。そんなものはとうに聞き飽きた。
体面ばかり取り繕う人間しかいない宮廷で、そんな言葉を信じるほど無知な子供じゃない。
「いいえ、嫌です。人を権力の道具としか見ない貴方たちに、使わたくありません」
紫水はしっかりと相手を見据えて、断固拒否の構えを崩さない。
「頑固ですな。それも一興です」
斉穎がいかにも楽しいという風情でくすっと笑った。
それが余計に腹立たしくて、紫水はキッと眼差しを強くする。
「いいでしょう―。視点を変えます。私を選べば、貴女にも利益があります」
「は?」
彼の口から出た言葉が想定外すぎて、紫水は地声で聞き返してしまった。
それにも表情をかえず、彼は滔々と続ける。
「私が留守の間は、行動の自由を保証します。今まで通り、仕事を続けてもいい」
「…」
紫水は不覚にも、心がゆらいだ。
外で動く時間があれば、どうにか調べ続けられる。
だが、そんな都合のイイ話、あるのだろうか。
「契約だと思ってくれればいいです。二人の時は、夫婦を演じ切る。それ以外は貴女の好きなようにできる」
「…本当に?」
「えぇ。ただ条件があります。貴方が隠している秘密事を共有できたなら、自由は保証します。ものによっては手助けも出来る」
「…」
確かに、この話にのる利益は十分にある。
だが、この男が信用に足りるかの判断がつかない。相手を知るにはもっと時間が必要だ。即答なんて出来ない。
「今は、話せません―。絶対に」
覚悟を宿した瞳に映った顔が眉をひそめ、小さくため息をついた。
「話してくださらないのなら、仕方ない…。では、今から抱きます」
「なっ―」
言い終わる前に、斉穎は紫水の両手の手首を頭上に抑え込み、抵抗の術を封じた。
そのまま唇を塞ぎ、言葉を奪い、右手で胸の下の帯を引き抜いて、衣を乱した。
紫水は抵抗しようも、組み敷かれたこの状態では微動だに出来ない。
手首を押さえつける力は、おふざけの範囲を越えている。
この人、本気だ―。
紫水は途端に怖くなり、身体をジタバタさせるがどうにも動かない。
彼の手は遠慮なく衣の袷を割り、人目につくことのなかった紫水の肌を露わにした。
「衣の下も、絹のように艶やかですね」
ほうっと感心したようにため息をついた斉穎は、開いた袷に手を入れると鎖骨から肩、胸から脇へと輪郭をなぞるように、何度も手のひらを滑らせた。
「なめらかで気持ちの良い肌だ。ずっと触っていられる」
上半身を撫で下ろした手が腰を滑り、臍の上でくるくると円を描く。
たったそれだけの行為なのに、紫水の全身が熱くなる。
「ひゃっぁ…」
角張った手がまた戻ってきて、はだけた袷からまろび出た胸を掴んだ。
「やはり布越しでなく、素肌がいいですね」
「やっ…」
耳朶に息を吹きかけられ、思わず身体をすくめたところ、斉穎が薄い桃色の尖端を指でピンと弾いた。
「んぅっ!」
つま先が宙を蹴り、ぷっとりと腫れた唇から息が漏れる。肩を揺らした紫水に、斉穎は白い歯をこぼした。
「存分に、良くなって下さい」
紫水の耳元に響くのは、脳を溶かすほどの甘い囁き。注がれる快感に気がふれそうになるのを堪えながら、どうにか言葉を発する。
「おねが、いだから、ま、待っ、て…」
「いいえ。待ちません」
彼の右手はぐっと胸を掴むと、人差し指を埋めるようにして、くりくりと尖端を押し込む。痺れたような感覚が脳の後ろに燦めいて、ゆるんだ紫水の唇から吐息がこぼれた。
「ふぅっ、ん…」
甘えるような声が良かったのたか、斉穎はそれを何度も繰り返し、紫水を懊悩させた。右だけでなく左胸も責められ、逃れようと体をねじると更に快感を煽られ、余計に喘ぐはめになるだけだった。
「よい声だ。もっと鳴かせたくなる」
敏感になった紅い蕾はぷっくりとふくれ、息を吹きかけられるだけて、紫水は声を洩らしてしまう。
「んくっ…」
「ここが好きですか」
斉穎は嬌態をさらす紫水に追い撃ちをかけるように、空いている片方も口に含み、舌で押しつぶし転がしては遊ぶ。その度に紫水は反応し、彼を愉しませた。
「も、やめて…」
左右の胸を散々弄られ、羞恥で瞳を濡らす紫水を、静かな青瞳が見下ろす。
自分の輪郭をくっきりと映す彼の奥深い瞳。このままどこまでも沈んでしまいそうな感覚が恐ろしくて、ついに紫水は白旗を揚げた。
「言うから…。おねがい、終わりに、して…」
「気持よくないのですか。ここはこんなに可愛くなっているのに」
舌をのばし、紅く腫れた蕾を舐めながら見上げる彼の顔を、紫水は直視出来ない。
「公主」
ぴちゃぴちゃと胸の上で音を立てながら呼ぶ声に、唇を真一文字に結んで視線を下ろす。
刺すような瞳に見られて、恥ずかしさに全身が燃えるように熱くなる。
彼は紫水を見ながら、長い舌を絡ませて蕾を転がした。
耐えられなくて視線を逸らすと、今度は甘く咬まれ腰を震わせた。
「くぅ、んっ…」
もう限界だった。初めての快感は抗えるものでは無かった。
「は、犯人を、見、みつけっ、るの…っ」
固くなった蕾をくりくりと歯でこすられ、息が途切れて上手く言えない。
「なんの?言ってごらん」
幼子に語りかけるような優しい声色で斉穎が問う。
「華雲、外宮、のっ、真犯人を…っ!」
「よく言えました―」
堪らず背を反らして叫んだ紫水を見届けると、斉潁は上半身をずらし、額に接吻を落とした。
「もう、これ、で…」
また唇を塞がれ、言葉は音になる前に飲み込まれた。
口内を熱い舌が這いまわる。両の胸を揉まれながら尖端を爪先で弄られる。強烈な快感を逃せず、魚のように足先がピクピクと小刻みに震える。
もう駄目、来る―。
あっと目を見開くと、底知れない波が身体の奥から湧いて、下腹部で弾けた。
「良かったでしょう」
衝撃的な体験に、紫水はもはや何も考えられなかった。
四肢は糸が切れたように力なく垂れ下がり、言葉を紡げなくなった唇は茱萸のように腫れて震えるだけ。
「は…ぁ…」
脱力した身体も脳も、思うように動かせない。
ただ呆然とする紫水の唇を啄みながら、満足そうな顔して汗ばんだ身体を撫でる斉穎に、嫌味の一つも出てこない。
「溶けてしまいましたね。可愛い―」
そう言って紫水の髪を撫でる斉穎の顔は、今日一番に美しかった。
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