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20.有望
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「片岡くんは、本当に美味しそうに食べてくれるから、作りがいがあるよ」
「全面的に同意します」
「シマくんは、卒業したらどこかの店に入るつもりかな?」
頷きながらも智明の表情から視線を逸らさないシマに、店長は何かを感じ取ったのか、くすりと笑いながら疑問を投げかけた。
店長からの質問にようやく顔を上げたシマが、少しだけ考える仕草をして、真剣な表情で頷く。
「将来的には自分の店を持つのが夢ですけど、最初は修行と資金貯めを兼ねて、どこかに就職するつもりではいます」
まだ将来どうするかを決めかねている智明と違って、シマには未来のビジョンが明確に見えているらしい。
将来を見据えて製菓専門学校を進学先に選んだのだろうから、ただ幼馴染みに恋心を抱いた事に罪悪感を抱いて逃げてきた智明とは、スタート地点が違う。
恐らくシマが「レンタル彼氏」という特殊な仕事をしているのも、早く開店資金を貯めたいからなのだろうと容易に想像がついた。
(シマは凄いな)
二つも年下なのに、智明よりも何倍も色々と考えているし、何よりも頼りになる。
シマがナンバーワンなのは、そのルックスや優しさも勿論だろうけれど、努力や考え方が行動に滲み出ていて、沢山の人に好かれるからだろう。
「もしよかったらなんだけど、うちに来ない?」
「え?」
「え!?」
シマに尊敬の眼差しを送っていたら、急に店長がシマをスカウトし始めたので、思わず反応してしまった。
ポカンとした顔で聞き返すシマの声と、智明の驚きの声が重なる。
「そんなに驚かなくても。シマくんは、片岡くんのお墨付きなんだろう?」
「うん。シマの作るお菓子、めちゃくちゃ美味しい」
「それはトモさんの贔屓目ですよ。まだ俺、全然初心者ですし……」
「もちろん、素質はあるかもしれないとは思っていても、即戦力になるなんて考えてないよ。ただ、僕もそろそろ若い子を育ててみたいと思っていたところだったし、悪い条件ではないんじゃないかな」
「店長とシマの作るケーキ……最高かよ」
「片岡くんは、乗り気みたいだけど?」
店長とシマが作る新作ケーキに想いを馳せ、うっとりとする智明を横目に、店長がシマにパチリとウィンク混じりで合図を送っている。
「でも……」
智明から見てもいい話だと思うのだが、何か秘密がバレたみたいな顔をして、シマは気まずそうに言い淀む。
気の合うシマと店長の間には、智明にはわからない言葉とは違う何かが交わされている様にも見えて、また少し嫉妬の気持ちが湧き上がってしまった。
「不安なら、そうだな……学生の間にバイトとしてお試しで働いてみるのはどう? 忙しいかな?」
「いえ。時間の自由は比較的ききますし、店長さんのところで勉強させて貰えるのは、正直凄くありがたいです。だけど、こんな風に甘えてもいいのかなって……」
「使えるようになるかどうかは、君次第だよ。僕はダメだと思ったら、ハッキリそういうからね」
「俺も、シマと働けたら嬉しいなぁ」
「……わかりました。お世話になります」
「優秀な店員経由で、可愛い助手をゲットだ!」
智明の一言が背中を押したのか、シマが頷いて店長に頭を下げた。
神妙なシマとは正反対に、店長はお気楽に「僕、ついてるなぁ」なんて言いながら笑っている。
店長に見いだされたシマを羨ましいと思うと同時に、智明が二人を引き合わせたのだと思うと誇らしくもあった。
「シマの新作の試食は、絶対俺にさせろよ」
「いつか絶対トモさんに、店長さんより俺の作ったケーキの方が好きだって、言って貰えるように頑張ります!」
店長へ謎の対抗心を本気で燃やし始めているシマの顔が、ふと幼馴染みの和志と重なる。
いつもはプロの彼氏として智明をエスコートしてくれるシマだが、友人として接するようになってから、幾度もこうして少し幼い言動を見せてくれるようになっていた。
そうした機会が増えると同時に、何故か和志の事を思い出す時間もまた増えている。
智明の中で、和志への想いが燻ったままだという自覚はあるけれど、シマを和志と重ねているつもりはない。
和志に会えない寂しさを埋めてくれそうだからとか、ましてや代わりにしたいとか、そんな風に思った事は一度もない。
シマには好きな人がいるとわかっているので、智明が抱いているのは成就するはずのない想いだということも理解している。
(イメージは、全然違うんだけどな)
そもそも、初めて会った時に見間違えたくらいには、シマと和志の見た目は似ているのだ。
シマの髪の色も、身につけているアクセサリーや服装の趣味も、和志のそれとは違う。
甘い物が好きだとか、パティシエを目指しているなんて将来像も、聞いた事はない。
だがふとした瞬間、シマから年下らしい可愛さを感じる時の笑顔などは、随分似ている様にも思えた。
シマの事は、和志と似ているからとかそういう単純な理由で惹かれているわけではない感覚も、ちゃんとある。
だからこそ、ふとした瞬間に重なって胸がぞわぞわする感覚が、不思議でならない。
「全面的に同意します」
「シマくんは、卒業したらどこかの店に入るつもりかな?」
頷きながらも智明の表情から視線を逸らさないシマに、店長は何かを感じ取ったのか、くすりと笑いながら疑問を投げかけた。
店長からの質問にようやく顔を上げたシマが、少しだけ考える仕草をして、真剣な表情で頷く。
「将来的には自分の店を持つのが夢ですけど、最初は修行と資金貯めを兼ねて、どこかに就職するつもりではいます」
まだ将来どうするかを決めかねている智明と違って、シマには未来のビジョンが明確に見えているらしい。
将来を見据えて製菓専門学校を進学先に選んだのだろうから、ただ幼馴染みに恋心を抱いた事に罪悪感を抱いて逃げてきた智明とは、スタート地点が違う。
恐らくシマが「レンタル彼氏」という特殊な仕事をしているのも、早く開店資金を貯めたいからなのだろうと容易に想像がついた。
(シマは凄いな)
二つも年下なのに、智明よりも何倍も色々と考えているし、何よりも頼りになる。
シマがナンバーワンなのは、そのルックスや優しさも勿論だろうけれど、努力や考え方が行動に滲み出ていて、沢山の人に好かれるからだろう。
「もしよかったらなんだけど、うちに来ない?」
「え?」
「え!?」
シマに尊敬の眼差しを送っていたら、急に店長がシマをスカウトし始めたので、思わず反応してしまった。
ポカンとした顔で聞き返すシマの声と、智明の驚きの声が重なる。
「そんなに驚かなくても。シマくんは、片岡くんのお墨付きなんだろう?」
「うん。シマの作るお菓子、めちゃくちゃ美味しい」
「それはトモさんの贔屓目ですよ。まだ俺、全然初心者ですし……」
「もちろん、素質はあるかもしれないとは思っていても、即戦力になるなんて考えてないよ。ただ、僕もそろそろ若い子を育ててみたいと思っていたところだったし、悪い条件ではないんじゃないかな」
「店長とシマの作るケーキ……最高かよ」
「片岡くんは、乗り気みたいだけど?」
店長とシマが作る新作ケーキに想いを馳せ、うっとりとする智明を横目に、店長がシマにパチリとウィンク混じりで合図を送っている。
「でも……」
智明から見てもいい話だと思うのだが、何か秘密がバレたみたいな顔をして、シマは気まずそうに言い淀む。
気の合うシマと店長の間には、智明にはわからない言葉とは違う何かが交わされている様にも見えて、また少し嫉妬の気持ちが湧き上がってしまった。
「不安なら、そうだな……学生の間にバイトとしてお試しで働いてみるのはどう? 忙しいかな?」
「いえ。時間の自由は比較的ききますし、店長さんのところで勉強させて貰えるのは、正直凄くありがたいです。だけど、こんな風に甘えてもいいのかなって……」
「使えるようになるかどうかは、君次第だよ。僕はダメだと思ったら、ハッキリそういうからね」
「俺も、シマと働けたら嬉しいなぁ」
「……わかりました。お世話になります」
「優秀な店員経由で、可愛い助手をゲットだ!」
智明の一言が背中を押したのか、シマが頷いて店長に頭を下げた。
神妙なシマとは正反対に、店長はお気楽に「僕、ついてるなぁ」なんて言いながら笑っている。
店長に見いだされたシマを羨ましいと思うと同時に、智明が二人を引き合わせたのだと思うと誇らしくもあった。
「シマの新作の試食は、絶対俺にさせろよ」
「いつか絶対トモさんに、店長さんより俺の作ったケーキの方が好きだって、言って貰えるように頑張ります!」
店長へ謎の対抗心を本気で燃やし始めているシマの顔が、ふと幼馴染みの和志と重なる。
いつもはプロの彼氏として智明をエスコートしてくれるシマだが、友人として接するようになってから、幾度もこうして少し幼い言動を見せてくれるようになっていた。
そうした機会が増えると同時に、何故か和志の事を思い出す時間もまた増えている。
智明の中で、和志への想いが燻ったままだという自覚はあるけれど、シマを和志と重ねているつもりはない。
和志に会えない寂しさを埋めてくれそうだからとか、ましてや代わりにしたいとか、そんな風に思った事は一度もない。
シマには好きな人がいるとわかっているので、智明が抱いているのは成就するはずのない想いだということも理解している。
(イメージは、全然違うんだけどな)
そもそも、初めて会った時に見間違えたくらいには、シマと和志の見た目は似ているのだ。
シマの髪の色も、身につけているアクセサリーや服装の趣味も、和志のそれとは違う。
甘い物が好きだとか、パティシエを目指しているなんて将来像も、聞いた事はない。
だがふとした瞬間、シマから年下らしい可愛さを感じる時の笑顔などは、随分似ている様にも思えた。
シマの事は、和志と似ているからとかそういう単純な理由で惹かれているわけではない感覚も、ちゃんとある。
だからこそ、ふとした瞬間に重なって胸がぞわぞわする感覚が、不思議でならない。
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