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21.視線
「好きな人に、食べて貰いたいんだろ? 俺の好みに合わせちゃダメなんじゃないか?」
「大丈夫です。俺の好きな人は、店長さんの味が好きみたいなので……」
「そうなんだ! 気が合いそうだなぁ」
智明はあまり詳しくないが、シマの尊敬の眼差しから、店長が凄い人なのはもう確実だ。
ただ、シマ自身はこの店の事を知らなかった様子なので、シマの好きな人が店長のケーキを食べたのは別の場所に違いない。
もしここにシマの好きな人が通っていたなら、流石に知らないという事はないだろう。
とすると店長は、この小さな店を開く以前に、有名な店で腕を振るっていたりしたのだろうか。
シマの好きな人は、無類の甘い物好きだということだし、シマが必死にいろんなカフェをリサーチしているところを見ると、色んな場所を食べ歩いているのかもしれない。
だがどこで食べたにしろ、「店長のケーキを好きな人に、悪い奴はいない」これは確実である。
シマの隣に難なく立つ事のできる「シマの好きな人」を羨む気持ちと、同じものを好きな同士として好ましく思う気持ちが、せめぎ合う。
「おやおや……もしかして、全く伝わっていない感じなのかな?」
何かを確信した店長が、「片岡くん、モテるわりに結構鈍いからねぇ」などとため息をつきながら、シマにそっと耳打ちしている。
内容はわからなかったが、シマが神妙な様子でこくりと小さく頷いているので、二人の間に何か共通認識が出来た様子だった。
「店長さんから技を盗んで、絶対にトモさんの「美味しい」を勝ち取りますね」
「俺、今も結構言ってるけどな」
「今日のトモさんの顔を見たら、俺なんかまだまだだってわかります」
「え? 俺そんなに顔に出てる?」
「俺の手作りお菓子を食べた時と、今日店長さんのケーキを食べた時の顔、幸せ度が全然違いますもん」
「えー?」
「片岡くんは、確かにわかりやすくて可愛いよね」
「店長まで!?」
自分ではそんなに顔に出ているつもりはなかったので、両手で頬を押さえながら首を傾げていると、店長の明るい声が響く。
大学の友人達には結構「表情が硬い」と言われがちなのだが、それは望まない女性からのアプローチに困惑している場面を見る事が多いからなのだろう。
甘い物を前にすると、どうやらそれは崩壊するらしい。
幸せそうな表情ばかりを見ている店長やシマからすれば、むしろ「わかりやすい表情」の部類なのかもしれなかった。
「シマくんのその向上心も、凄く良いと思うよ。モチベーションは大切」
「ご指導、よろしくお願いします」
「うん、任せて。でもまずは、目の前の問題を解決しなくちゃね」
ぺこりと改めて頭を下げたシマの肩を叩いた店長が、次の瞬間今までと雰囲気を一変させた。
およそ明るい話題の続きとは思えない真剣さを含んでいて、ギクリと緊張する。
智明の視線を誘導するように、店長がチラリと店の外に視線を投げた。
そこには、今にも殴りかかってきそうな鬼の形相をしたストーカー女性が、外から店内を覗き込もうとしている姿が見えて、智明はガタンと立ち上がる。
ケーキを買いに客として店に入ってくる訳でもなく、かといってただ通りがかって中を覗いている様子でもなく、明確な目的を持って様子を窺っている感じが、余計に怖い。
「店長ごめん、帰るね。シマ、今日はここで解散しよう」
「警察に、相談した方が良いんじゃないかな?」
「それは……もう少しだけ、待って欲しい……です」
智明の日常が侵されているのは事実だし、然るべき機関に訴え出る方が良いのは確かなのだろう。
けれど、智明に執着を持つ前は店長のケーキを目当てに買いに来た、普通の客だったのだ。
智明の何が女性をそうさせてしまったのかはわからないが、自分にも何か原因の一端があるのかもしれないとすると、出来れば穏便に解決したい気持ちがまだある。
智明が女性の気持ちに応えてあげられれば良かったのかもしれないが、こればかりは諦めて貰うしかない。
「俺も行きます」
「いや、流石に危険そうだから……」
「尚更ですよ。家まで送ります」
「でも……」
きっぱりと宣言するシマに、決意が揺らぐ。
いつもの遠くから窺っている感じとは違って、今にも突撃してきそうな雰囲気を感じるので、正直これ以上の刺激は避けた方が良い気がする。
だがその分析とは逆に、「シマが傍に居てくれたら」という気持ちも湧き上がってしまう。
今は友人としても付き合ってくれているが、元々は単なる「レンタル彼氏」でしかないシマに、危険を伴うとわかっていてこれ以上頼っても良いものなのかは疑問だ。
「大丈夫、行きましょう」
「くれぐれも気をつけるんだよ」
躊躇する智明の手をぎゅっと握って、シマが店のドアを開ける。
シマはどうやら、智明の手を離すつもりはないらしい。
頼もしい力強さと温かさに、少しだけ不安が安らぐ。
心配そうな店長の声を背に、智明は覚悟を決めてシマと共に歩き出した。
「大丈夫です。俺の好きな人は、店長さんの味が好きみたいなので……」
「そうなんだ! 気が合いそうだなぁ」
智明はあまり詳しくないが、シマの尊敬の眼差しから、店長が凄い人なのはもう確実だ。
ただ、シマ自身はこの店の事を知らなかった様子なので、シマの好きな人が店長のケーキを食べたのは別の場所に違いない。
もしここにシマの好きな人が通っていたなら、流石に知らないという事はないだろう。
とすると店長は、この小さな店を開く以前に、有名な店で腕を振るっていたりしたのだろうか。
シマの好きな人は、無類の甘い物好きだということだし、シマが必死にいろんなカフェをリサーチしているところを見ると、色んな場所を食べ歩いているのかもしれない。
だがどこで食べたにしろ、「店長のケーキを好きな人に、悪い奴はいない」これは確実である。
シマの隣に難なく立つ事のできる「シマの好きな人」を羨む気持ちと、同じものを好きな同士として好ましく思う気持ちが、せめぎ合う。
「おやおや……もしかして、全く伝わっていない感じなのかな?」
何かを確信した店長が、「片岡くん、モテるわりに結構鈍いからねぇ」などとため息をつきながら、シマにそっと耳打ちしている。
内容はわからなかったが、シマが神妙な様子でこくりと小さく頷いているので、二人の間に何か共通認識が出来た様子だった。
「店長さんから技を盗んで、絶対にトモさんの「美味しい」を勝ち取りますね」
「俺、今も結構言ってるけどな」
「今日のトモさんの顔を見たら、俺なんかまだまだだってわかります」
「え? 俺そんなに顔に出てる?」
「俺の手作りお菓子を食べた時と、今日店長さんのケーキを食べた時の顔、幸せ度が全然違いますもん」
「えー?」
「片岡くんは、確かにわかりやすくて可愛いよね」
「店長まで!?」
自分ではそんなに顔に出ているつもりはなかったので、両手で頬を押さえながら首を傾げていると、店長の明るい声が響く。
大学の友人達には結構「表情が硬い」と言われがちなのだが、それは望まない女性からのアプローチに困惑している場面を見る事が多いからなのだろう。
甘い物を前にすると、どうやらそれは崩壊するらしい。
幸せそうな表情ばかりを見ている店長やシマからすれば、むしろ「わかりやすい表情」の部類なのかもしれなかった。
「シマくんのその向上心も、凄く良いと思うよ。モチベーションは大切」
「ご指導、よろしくお願いします」
「うん、任せて。でもまずは、目の前の問題を解決しなくちゃね」
ぺこりと改めて頭を下げたシマの肩を叩いた店長が、次の瞬間今までと雰囲気を一変させた。
およそ明るい話題の続きとは思えない真剣さを含んでいて、ギクリと緊張する。
智明の視線を誘導するように、店長がチラリと店の外に視線を投げた。
そこには、今にも殴りかかってきそうな鬼の形相をしたストーカー女性が、外から店内を覗き込もうとしている姿が見えて、智明はガタンと立ち上がる。
ケーキを買いに客として店に入ってくる訳でもなく、かといってただ通りがかって中を覗いている様子でもなく、明確な目的を持って様子を窺っている感じが、余計に怖い。
「店長ごめん、帰るね。シマ、今日はここで解散しよう」
「警察に、相談した方が良いんじゃないかな?」
「それは……もう少しだけ、待って欲しい……です」
智明の日常が侵されているのは事実だし、然るべき機関に訴え出る方が良いのは確かなのだろう。
けれど、智明に執着を持つ前は店長のケーキを目当てに買いに来た、普通の客だったのだ。
智明の何が女性をそうさせてしまったのかはわからないが、自分にも何か原因の一端があるのかもしれないとすると、出来れば穏便に解決したい気持ちがまだある。
智明が女性の気持ちに応えてあげられれば良かったのかもしれないが、こればかりは諦めて貰うしかない。
「俺も行きます」
「いや、流石に危険そうだから……」
「尚更ですよ。家まで送ります」
「でも……」
きっぱりと宣言するシマに、決意が揺らぐ。
いつもの遠くから窺っている感じとは違って、今にも突撃してきそうな雰囲気を感じるので、正直これ以上の刺激は避けた方が良い気がする。
だがその分析とは逆に、「シマが傍に居てくれたら」という気持ちも湧き上がってしまう。
今は友人としても付き合ってくれているが、元々は単なる「レンタル彼氏」でしかないシマに、危険を伴うとわかっていてこれ以上頼っても良いものなのかは疑問だ。
「大丈夫、行きましょう」
「くれぐれも気をつけるんだよ」
躊躇する智明の手をぎゅっと握って、シマが店のドアを開ける。
シマはどうやら、智明の手を離すつもりはないらしい。
頼もしい力強さと温かさに、少しだけ不安が安らぐ。
心配そうな店長の声を背に、智明は覚悟を決めてシマと共に歩き出した。
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