降格処分寸前の人間嫌い淫魔ちゃん♂は頑張って働くことになりました

おさかな

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お邪魔します

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 渡されていた資料は、実は相手を知るのにはかなり不十分なものだった。
 人間界における相手の家の座標と詳細な住所、勤め先は座標しか書かれていない。あとは名前と生年月日、身長体重という基本的なプロフィールと、好きな食べ物や趣味なんかの割とどうでもいい情報しかなかった。

「ここから先は、まずはひとりで行ってみな」
「ええ! ラビちゃん、一緒に来てくれないの?」
 ラビは相手の家へ向かう道すがら、そうミリーに告げた。
「これはミリーの自立のためなんだから、最初から頼っちゃダメ。どうしようもなくなったら助けてあげるから」
「うう~……わかった」
 そう言われるとミリーも頷くしかない。これまで以上に何もできないやつにはなりたくなかった。

「大丈夫。ミリー顔だけは綺麗なんだから、人間のオスなんてすぐコロッと落ちちゃうよ」
「……うう、ありがとう」
「ほら、しゃんとして! 猫背はカッコ悪いよ!」

 ラビに背中をばしっと叩かれ、見送られた。


 人間界はいつ来ても夜がチカチカと明るくて、空を飛んでいたって目が眩んで迷子になってしまいそうだった。そういうところも嫌いだ。
 でもこれから、ここで過ごすのか。魔界にひきこもっていたから、それだけでも憂鬱だった。

「……着いちゃった」
 どんなに憂鬱でも、教えられた場所に向かえばたどり着けてしまうもので、目の前には目的地の家がある。
 少し古そうな、所謂日本家屋という感じの一軒家。都会からはほんの少し離れた落ち着いた町にあるそこに、ひとりの淫魔。
 なんともミスマッチな光景だが、ミリー本人はそんなことを考えている余裕はなかった。

 ここに、運命の人がいる。怖いけれど、少し怖さとは違うドキドキもあった。


 時刻は真夜中。普段人間の眠る場所に忍び込むことしかしてこなかったミリーには、正面から訪問するなんて考えはちっとも出てこなかった。
 すい、と音もなく飛んで、寝室を探す。唯一得意なすり抜けの魔法を使って部屋へと忍び込んだ。

「おじゃましま~す……」
 こそりと入った部屋には大きなベッドがあって、そこにはひとりの男が眠っている。ミリーはごくりと唾を飲む。
 淫魔は夜目がきく。部屋の中が暗くても、ある程度はものが見える。

 それでももっと近くで見たくて、顔を覗きこんだそのとき。
 眠っていた男は何か甘い香りを感じて意識がほんの少し浮上した。とても抗いがたい、魅惑的な香り。微かに香るそれはミリーのフェロモンだ。

「……ッ!?」
 男はミリーが無防備に伸ばした手を突然掴み、自らのほうへ引き寄せた。
 その力の強さと言ったら、ひょろひょろのミリーには抵抗ができなかった。されるがままに引き寄せられ、ぎゅうと抱き締められた。
「ひゃっ、うっ!」
 抱き締められたままのミリーのとがった耳の後ろにキスをされる。

 ちょっと待って。いきなりこんなこと、されると思ってなかった。

 触れられた手が生温い。いや、熱いというのか。
 交わったところからじわりと温度を分け与えられているみたいで、それがどうにも気持ち悪い。気持ち悪い……きもちわるい。
 ミリーのこれは生理的な感覚に近く、これが自分の義務だからと割り切るのは難しかった。
 だと言うのに、男はそのまま流れるようにミリーの首筋を撫で、今度は唇にキスをしようとする。

 唇が微かに触れるか触れないか、その刹那に、流石の鈍感なミリーもぴりりと感じ取った。
 いまはまだ得体の知れない、身体を震わせる何かを。
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