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第2-1章 紅玉宮妃→????(新版)
「皇帝に女狐かと疑われました」
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皇后の自害は宮廷中を震撼させた。
そして次には悲しみが襲う……ことはなく、恐怖に包まれた。
皇太后、皇太子ご夫妻、そして皇后。相次ぐ皇族の訃報は人々にある事象を思い起こさせるのに充分だったからだ。
「再臨だ! 太上皇后様は再び現れて春華国に太平の世をもたらしてくださる!」
と、臣下の一人が大衆の前でそう叫んだのを始め、春華国創立から度々現れたとされる女狐が再び暗躍を始めたのでは、との憶測が広まったためだ。なお、その臣下は宮廷に混乱をもたらした罪で肉刑の罰を受けることとなった。
宮廷は真っ二つに割れた。女狐と傾国が現れると常に宮廷に混乱を招いたのは事実。けれど女狐が伴侶を皇帝に据えた後は名君へと変わり、栄華をもたらしたのも否定出来ない。つまり、言い方が悪いけれど、間引きを許容するか否かで揉めたのだ。
となると、話題は次の皇帝が誰になるかに移った。
順当に行けば第二皇子、いやいや文官からの評価が高い第三皇子、それとも第二皇女が兄二人を片腕にして君臨するか、等様々に噂されたものの、そんな皇子皇女個人の評価はそっちのけだった。
要するに、女狐は成人していた皇子四名のうち誰を選んだか、につきた。
「まあ、つまり私達は女狐の再来ではないか、と疑われているのか」
「後の世を上手く統治出来るとしても、現時点では皇太子ご夫妻を謀殺した大罪人ってことですのね」
「そう疑われるなんて光栄ですけれどぉ、恐れ多いですよねぇ」
「勘弁してくださいよ……。そんな成り上がろうって気はこれっぽっちも無いのに」
皇后の自害より数日後、わたし達皇子妃四名は皇帝直々より命を受けて取り調べを受けることとなった。
主導は宮廷を守護する禁軍の中でも皇帝直属の近衛部隊だそうだ。それも皇帝の御前で行われるらしい。それも一人ずつ。
「それで、青玉宮妃様、そして紅玉宮妃様。今日こそは洗いざらい喋ってもらいますわよ。もう私は部外者だ、だなんて言わせませんわ」
「では白状するが、私達は黙秘するよう皇帝陛下に命じられている。許可が下りない限り翠玉宮妃様とて話せない」
「じゃあわたし達が勝手に喋る分にはいいですよねぇ? もしかしてぇ、皇太后様を初めとする方々の死には太上皇后様が関わっちゃったりするんですかぁ?」
「……お答えできませんね」
青玉宮妃、翠玉宮妃、黒曜宮妃、そしてわたしこと紅玉宮妃。四名の皇子妃は呼び出されるまで控室で待機することとなり、愚痴を言い合った。無論、近衛兵の監視付きだったので居心地は最悪。出されたお茶の味がしなかった。
「もしわたし達の誰かが太上皇后様の再来だったとしてぇ、太上皇后様の信望者の方々を扇動していないと思うんですけどぉ」
「おそらくだが連中は自分達で勝手に動き回っているだけだ。太上皇后様の為に、と口を揃えて万歳しながらな」
「そんな輩にとって私達の誰がそうであってもいいのでしょうね。再来した、って事実さえあれば良いのかしらね」
「はた迷惑ですよね。こっちは平穏に生きたいだけなのに巻き込まないで欲しいです」
この中の誰が女狐か? そういった疑いの声は起こらなかった。
あえて険悪な雰囲気にする必要はない、との思いで一致したからか。それとも調査は皇帝に任せるべきだ、とでも考えたか。わたしは前者だったけれど。
「そもそも、だ。本当に私達の中に女狐がいるのかも疑問だな。傾国の娘が現れたから、と疑心暗鬼に陥っているのが現状ではないか」
「青玉宮妃様、そのお言葉はあまりに不敬ですわ。歴史を紐解けば傾国の娘現れる時代は必ず女狐もまた現れていますの。疑うのは仕方がないのでは?」
「でもぉ、必ずしもこのうちの誰かが女狐だとも限らないと思うんですぅ。例えばぁ、まだ成人になってない皇子様の妃になろうとしてる、とかですかぁ?」
「……その場合、目の上のたんこぶな兄皇子方、そしてわたし達はいずれ嵌め殺されるかもしれませんね」
容赦なく本音を語り合っているうち、ようやく準備が整ったのか、まずは青玉宮妃が呼び出された。
取り調べ……いや、尋問はそこまで時間がかからなかたのか、お茶をお代わりしている間に青玉宮妃は戻ってきた。
「相当お疲れのご様子ですわね。戻るのは許可されなかったのですか?」
「……しばらく待機だと命じられた。次は翠玉宮妃様の番だそうだ」
「分かりましたわ。覚悟を決めて行って参りましょう」
青玉宮妃はぐったりと椅子にもたれかかり、しばらく呆けるから声をかけるなと言って目をつむった。
わたしは残った黒曜宮妃と顔を見合わせるのが精一杯で、もはや雑談に花を咲かせようという気は削がれていた。
帰ってきた翠玉宮妃も青玉宮妃と同様に短時間で疲労が溜まったらしく、起きていたわたしに許可を求めてから机に突っ伏して身体から力を抜いた。
一体どんな事を聞かれたのか、だなんて聞く雰囲気ではなかった。
「終わりましたぁ。次は紅玉宮妃様ですよぉ」
「……黒曜宮妃様はお強いのですね。あまりお疲れではないご様子ですが」
「んー? 別にぃご心配には及びません。質問に素直に答えるだけですからぁ」
「わたしが本音を口にするとあらぬ誤解を招きそうですよ」
「あ、でもぉ、嘘は言わないよう気をつけた方がいいですよぉ」
「改まってどうしてそんな助言を……?」
黒曜宮妃が戻ってきたのでいよいよわたしの番となった。
意味深な発言の真意を聞く時間はなく、わたしは皇帝のもとに馳せ参じた。御前でかしずいた私は椅子に座るよう促され、奥の上座に皇帝が見ている形となった。
皇后の死は相当堪えたようで、皇帝は目に見えてやつれていた。なのにこちらを見据える双眸は恐怖を覚えるほどに鋭さを増していて、わたしの一挙一動全てを見逃さないよう目を光らせていた。
そして、わたしの対面に座っていたのは赤ずくめの近衛兵が三名。服は体格がわからないほど厚手、顔も面紗で覆い隠していて、男性か女性かの区別すらつかなかった。面紗には眼が大きく描かれていて、とても不気味だった。
「紅玉宮妃様は陛下の御前で嘘は言わぬと誓うか?」
「……誓います」
真正面の人は声からすると中年の男性だったか。
彼の質問に特に考えるまでもなく答えると、右側の傍らに控えていた赤い近衛兵から今度は若い男性の声が発せられた。
それもたった一言、「嘘」、と。
「皇帝陛下の御前で虚言を口にするつもりだった、と?」
顔が見えないのにほんの僅かな体勢、そして声の変化で分かった。質問は尋問に変わりつつあるのだ、と。
そして、その根拠はおそらく控えの若い赤ずくめの近衛兵。嘘だと断じたからには何らかの手で見破ってきたと推察した。
「言っておきますがわたしが忠誠を誓うのは実家の親や兄達、そして愛する夫であるわたしの殿下だけです。その方々に不利益になるようでしたら皇帝陛下が相手でも嘘を並べますので」
「……成程。真意は知れたので続けさせてもらう」
開き直って本音を暴露すると、中年の赤ずくめの近衛兵はさして気にする様子もなく次の質問へと移った。判断の根拠は若い赤ずくめの近衛兵が「真」と言ったからでしょうね。これが黒曜宮妃の忠告の正体か、と気を引き締め直した。
質問の内容は予想通り太上皇后に関わることが主だった。わたしは迷いなく「そんな人のことは知りません」的な回答を返すばかり。「皇后の地位も興味ありません」と断言した後は多少緊迫感が緩んだと感じた。
「わたしの殿下はどなたが皇帝になられようとも守り立てる所存ですし、わたしもそんな殿下に寄り添うまでですので」
「成程。あい分かった」
赤ずくめの近衛兵二名は踵を返し、皇帝に恭しく頭を垂れた。
皇帝は愕然とした様子で近衛兵を見つめていたが、やがて玉座を思いっきり叩いて立ち上がった。拳を握り締めて腕を振るわせ、顔が真紅に染まらせたことから、お怒りなのだと簡単に分かった。
「偉大なる皇帝陛下に申し上げます。紅玉宮様への問いはつつがなく終了しましてございます」
「どういうことだ! つまり貴様等は皇子妃の中に女狐めがおらぬと申すのか!?」
「残念ながらこの場で断言出来るのは、わたくし共は皇子妃様方の回答に嘘偽りが無いことを証明した、とだけです」
「役立たずめ……! それを調べるのが貴様等の仕事であろう!」
赤ずくめの近衛兵の弁明から察するに、再来しただろう女狐はこの宮廷内で全く尻尾を掴ませないらしい。この段階だと金剛宮の侍女頭を筆頭に、あくまで太上皇后を敬うがあまりに暴走している、と推測するしかないんだとか。
唾を飛ばしながら激昂する皇帝はあまりにもおいたわしかった。名君とまでは言われずとも即位からこれまでずっと春華国を治めてきた天主としての姿は見る影もなかった。身内の死亡が堪えたのは同情するけれど……君主がこの有様だと実にまずい。
「太上皇后様がいずれ現れる誰それに加担せよ、との類の遺言を残された形跡も無く、皇子妃様方と結びつけることは難しいかと……」
「黙れぇ! 傾国の娘が現れ我が愛する后と息子が奪われたのだ、女狐めは必ずどこかで潜んでいるに違いない!」
おのれおのれ、と呟きながら髪をかきむしる様子からは気が触れたとしか思えなかった。しかし、突如静かになったかと思ったら皇帝は軽く笑い声を上げた。目が座っていたのものあって、軽く恐怖を覚えた。
「そうだ。やはり避けていたからまずかったのだ。最初からこうすれば良かったのだ」
「陛下、しかし――!」
赤ずくめの近衛兵が静止しようとするも、その声さえ耳に届いていないかのように皇帝は全く気にする素振りを見せなかった。
そして、皇帝は最終手段とも取れる命令を下した。
「魅音を呼べ。今すぐにだ――!」
そして次には悲しみが襲う……ことはなく、恐怖に包まれた。
皇太后、皇太子ご夫妻、そして皇后。相次ぐ皇族の訃報は人々にある事象を思い起こさせるのに充分だったからだ。
「再臨だ! 太上皇后様は再び現れて春華国に太平の世をもたらしてくださる!」
と、臣下の一人が大衆の前でそう叫んだのを始め、春華国創立から度々現れたとされる女狐が再び暗躍を始めたのでは、との憶測が広まったためだ。なお、その臣下は宮廷に混乱をもたらした罪で肉刑の罰を受けることとなった。
宮廷は真っ二つに割れた。女狐と傾国が現れると常に宮廷に混乱を招いたのは事実。けれど女狐が伴侶を皇帝に据えた後は名君へと変わり、栄華をもたらしたのも否定出来ない。つまり、言い方が悪いけれど、間引きを許容するか否かで揉めたのだ。
となると、話題は次の皇帝が誰になるかに移った。
順当に行けば第二皇子、いやいや文官からの評価が高い第三皇子、それとも第二皇女が兄二人を片腕にして君臨するか、等様々に噂されたものの、そんな皇子皇女個人の評価はそっちのけだった。
要するに、女狐は成人していた皇子四名のうち誰を選んだか、につきた。
「まあ、つまり私達は女狐の再来ではないか、と疑われているのか」
「後の世を上手く統治出来るとしても、現時点では皇太子ご夫妻を謀殺した大罪人ってことですのね」
「そう疑われるなんて光栄ですけれどぉ、恐れ多いですよねぇ」
「勘弁してくださいよ……。そんな成り上がろうって気はこれっぽっちも無いのに」
皇后の自害より数日後、わたし達皇子妃四名は皇帝直々より命を受けて取り調べを受けることとなった。
主導は宮廷を守護する禁軍の中でも皇帝直属の近衛部隊だそうだ。それも皇帝の御前で行われるらしい。それも一人ずつ。
「それで、青玉宮妃様、そして紅玉宮妃様。今日こそは洗いざらい喋ってもらいますわよ。もう私は部外者だ、だなんて言わせませんわ」
「では白状するが、私達は黙秘するよう皇帝陛下に命じられている。許可が下りない限り翠玉宮妃様とて話せない」
「じゃあわたし達が勝手に喋る分にはいいですよねぇ? もしかしてぇ、皇太后様を初めとする方々の死には太上皇后様が関わっちゃったりするんですかぁ?」
「……お答えできませんね」
青玉宮妃、翠玉宮妃、黒曜宮妃、そしてわたしこと紅玉宮妃。四名の皇子妃は呼び出されるまで控室で待機することとなり、愚痴を言い合った。無論、近衛兵の監視付きだったので居心地は最悪。出されたお茶の味がしなかった。
「もしわたし達の誰かが太上皇后様の再来だったとしてぇ、太上皇后様の信望者の方々を扇動していないと思うんですけどぉ」
「おそらくだが連中は自分達で勝手に動き回っているだけだ。太上皇后様の為に、と口を揃えて万歳しながらな」
「そんな輩にとって私達の誰がそうであってもいいのでしょうね。再来した、って事実さえあれば良いのかしらね」
「はた迷惑ですよね。こっちは平穏に生きたいだけなのに巻き込まないで欲しいです」
この中の誰が女狐か? そういった疑いの声は起こらなかった。
あえて険悪な雰囲気にする必要はない、との思いで一致したからか。それとも調査は皇帝に任せるべきだ、とでも考えたか。わたしは前者だったけれど。
「そもそも、だ。本当に私達の中に女狐がいるのかも疑問だな。傾国の娘が現れたから、と疑心暗鬼に陥っているのが現状ではないか」
「青玉宮妃様、そのお言葉はあまりに不敬ですわ。歴史を紐解けば傾国の娘現れる時代は必ず女狐もまた現れていますの。疑うのは仕方がないのでは?」
「でもぉ、必ずしもこのうちの誰かが女狐だとも限らないと思うんですぅ。例えばぁ、まだ成人になってない皇子様の妃になろうとしてる、とかですかぁ?」
「……その場合、目の上のたんこぶな兄皇子方、そしてわたし達はいずれ嵌め殺されるかもしれませんね」
容赦なく本音を語り合っているうち、ようやく準備が整ったのか、まずは青玉宮妃が呼び出された。
取り調べ……いや、尋問はそこまで時間がかからなかたのか、お茶をお代わりしている間に青玉宮妃は戻ってきた。
「相当お疲れのご様子ですわね。戻るのは許可されなかったのですか?」
「……しばらく待機だと命じられた。次は翠玉宮妃様の番だそうだ」
「分かりましたわ。覚悟を決めて行って参りましょう」
青玉宮妃はぐったりと椅子にもたれかかり、しばらく呆けるから声をかけるなと言って目をつむった。
わたしは残った黒曜宮妃と顔を見合わせるのが精一杯で、もはや雑談に花を咲かせようという気は削がれていた。
帰ってきた翠玉宮妃も青玉宮妃と同様に短時間で疲労が溜まったらしく、起きていたわたしに許可を求めてから机に突っ伏して身体から力を抜いた。
一体どんな事を聞かれたのか、だなんて聞く雰囲気ではなかった。
「終わりましたぁ。次は紅玉宮妃様ですよぉ」
「……黒曜宮妃様はお強いのですね。あまりお疲れではないご様子ですが」
「んー? 別にぃご心配には及びません。質問に素直に答えるだけですからぁ」
「わたしが本音を口にするとあらぬ誤解を招きそうですよ」
「あ、でもぉ、嘘は言わないよう気をつけた方がいいですよぉ」
「改まってどうしてそんな助言を……?」
黒曜宮妃が戻ってきたのでいよいよわたしの番となった。
意味深な発言の真意を聞く時間はなく、わたしは皇帝のもとに馳せ参じた。御前でかしずいた私は椅子に座るよう促され、奥の上座に皇帝が見ている形となった。
皇后の死は相当堪えたようで、皇帝は目に見えてやつれていた。なのにこちらを見据える双眸は恐怖を覚えるほどに鋭さを増していて、わたしの一挙一動全てを見逃さないよう目を光らせていた。
そして、わたしの対面に座っていたのは赤ずくめの近衛兵が三名。服は体格がわからないほど厚手、顔も面紗で覆い隠していて、男性か女性かの区別すらつかなかった。面紗には眼が大きく描かれていて、とても不気味だった。
「紅玉宮妃様は陛下の御前で嘘は言わぬと誓うか?」
「……誓います」
真正面の人は声からすると中年の男性だったか。
彼の質問に特に考えるまでもなく答えると、右側の傍らに控えていた赤い近衛兵から今度は若い男性の声が発せられた。
それもたった一言、「嘘」、と。
「皇帝陛下の御前で虚言を口にするつもりだった、と?」
顔が見えないのにほんの僅かな体勢、そして声の変化で分かった。質問は尋問に変わりつつあるのだ、と。
そして、その根拠はおそらく控えの若い赤ずくめの近衛兵。嘘だと断じたからには何らかの手で見破ってきたと推察した。
「言っておきますがわたしが忠誠を誓うのは実家の親や兄達、そして愛する夫であるわたしの殿下だけです。その方々に不利益になるようでしたら皇帝陛下が相手でも嘘を並べますので」
「……成程。真意は知れたので続けさせてもらう」
開き直って本音を暴露すると、中年の赤ずくめの近衛兵はさして気にする様子もなく次の質問へと移った。判断の根拠は若い赤ずくめの近衛兵が「真」と言ったからでしょうね。これが黒曜宮妃の忠告の正体か、と気を引き締め直した。
質問の内容は予想通り太上皇后に関わることが主だった。わたしは迷いなく「そんな人のことは知りません」的な回答を返すばかり。「皇后の地位も興味ありません」と断言した後は多少緊迫感が緩んだと感じた。
「わたしの殿下はどなたが皇帝になられようとも守り立てる所存ですし、わたしもそんな殿下に寄り添うまでですので」
「成程。あい分かった」
赤ずくめの近衛兵二名は踵を返し、皇帝に恭しく頭を垂れた。
皇帝は愕然とした様子で近衛兵を見つめていたが、やがて玉座を思いっきり叩いて立ち上がった。拳を握り締めて腕を振るわせ、顔が真紅に染まらせたことから、お怒りなのだと簡単に分かった。
「偉大なる皇帝陛下に申し上げます。紅玉宮様への問いはつつがなく終了しましてございます」
「どういうことだ! つまり貴様等は皇子妃の中に女狐めがおらぬと申すのか!?」
「残念ながらこの場で断言出来るのは、わたくし共は皇子妃様方の回答に嘘偽りが無いことを証明した、とだけです」
「役立たずめ……! それを調べるのが貴様等の仕事であろう!」
赤ずくめの近衛兵の弁明から察するに、再来しただろう女狐はこの宮廷内で全く尻尾を掴ませないらしい。この段階だと金剛宮の侍女頭を筆頭に、あくまで太上皇后を敬うがあまりに暴走している、と推測するしかないんだとか。
唾を飛ばしながら激昂する皇帝はあまりにもおいたわしかった。名君とまでは言われずとも即位からこれまでずっと春華国を治めてきた天主としての姿は見る影もなかった。身内の死亡が堪えたのは同情するけれど……君主がこの有様だと実にまずい。
「太上皇后様がいずれ現れる誰それに加担せよ、との類の遺言を残された形跡も無く、皇子妃様方と結びつけることは難しいかと……」
「黙れぇ! 傾国の娘が現れ我が愛する后と息子が奪われたのだ、女狐めは必ずどこかで潜んでいるに違いない!」
おのれおのれ、と呟きながら髪をかきむしる様子からは気が触れたとしか思えなかった。しかし、突如静かになったかと思ったら皇帝は軽く笑い声を上げた。目が座っていたのものあって、軽く恐怖を覚えた。
「そうだ。やはり避けていたからまずかったのだ。最初からこうすれば良かったのだ」
「陛下、しかし――!」
赤ずくめの近衛兵が静止しようとするも、その声さえ耳に届いていないかのように皇帝は全く気にする素振りを見せなかった。
そして、皇帝は最終手段とも取れる命令を下した。
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