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第2-1章 紅玉宮妃→????(新版)
「もううんざりです、逃げましょう」
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「青玉のお兄様。念の為お聞きしますが、皇帝陛下亡き今、何の権限で皇女たる私を捕らえるおつもりで?」
第二皇子に汝罪有りと言われた第二皇女は、しかし全く動じずに問いかけた。その堂々とした様子は傍らで不安に彩られながら見守る猫目宮の従者達にはとても頼もしく感じたことでしょうね。
「ふんっ、小賢しい猫目宮のことだからそう言うと思ったぞ。ほれ、貴様ご所望の令状はここにある」
「……成程。確かに青玉のお兄様と太尉閣下の連名で正規に発行されていますね」
第二皇女は第二皇子の後ろにいた太尉へと視線を向けた。太尉は一旦暁明様とのおしゃべりを中断し、大げさに肩をすくめてみせた。おそらくはその場にいた他の誰よりも落ち着き払っていたと思う。
「残念ですが猫目宮殿下が手綱を握っている赤き親衛隊の者が実行犯なのは疑いようもない事実ですじゃ。事情をお聞きしたいところですなあ」
「赤き親衛隊だと確信なさっている根拠が分からないのですが?」
「とぼけるな! 宮廷内でも方術を使える者は限られている! それも実戦向きの鍛錬を詰んでいる者など親衛隊連中以外にいるか!」
「……方術を使ってきた? それは本当ですか?」
方術、言われてみれば紅玉宮を襲ってきた輩も全く物音を立てなかったり手から衝撃波を発したりしていたっけ。わたしは偶然勘が働いて助かったけれど、青玉宮妃はきっと予知夢の能力で危機を切り抜けたんでしょうね。
「でしたら私から部隊長に事情を伺い、然るべき処罰を下します。それでよろしいでしょうか?」
「ならん。貴様が首魁である可能性があるからな」
「――それを仰るのでしたら、私は宮廷の秩序を任された者として事情を聞き出さなければいけませんね」
「……!? 殿下、私の後ろにお下がりを!」
最初に異変に気づいたのは青玉宮妃だった。すかさずわたしも周りを見渡すと、いつの間にかわたし達を包囲するように深紅の制服に身を包んだ者達が左右位置ずつ、そして猫目宮の屋根上からわたし達を半包囲しているではないか。
「青玉のお兄様には昨晩翠玉宮妃と黒曜宮妃を配下に襲わせた嫌疑があります。大人しく任意同行していただけますか?」
「何だと!?」
まさかの抵抗の姿勢に付き従っていた近衛兵達が一斉に抜刀し、第二皇子夫妻を守るよう周囲に展開した。人数だけを見れば十数名対三人だけれど、もし赤き親衛隊員が方士だったとしたらそんな頭数に意味はない。
「猫目宮、この期に及んでそんな嘘を付くなど……!」
「嘘ではありません。青玉のお兄様がいずれかの皇子妃が女狐の生まれ変わりなどと疑っていたのは周知の事実。今のような強硬手段に打って出られた際への対抗手段として私の責任で親衛隊の皆さんに守護を依頼していたのです」
激昂する第二皇子に軽蔑が混じった冷たい眼差しを送る第二皇女は、ゆっくりとした仕草で片手を上げた。それを合図にして猫目宮から新たに赤き親衛隊二名が現れ、運んできた何かをこちらへと放り捨てた。
ソレは、物言わなくなった死体だった。
それもわたしが仕留めた侵入者と似た黒装束に身を包んだ。
「それは、禁軍所属の者が真夜中に隠密行動を取る際の制服ではないか!」
そんな衝撃の展開に一番驚きをあらわにしたのは他でもない、第二皇子だった。
「制服は個人で乱用しないよう厳格に管理されているんでしたっけ? じゃあこの装束を着て黒曜宮を襲ったこの賊は何者なんですか?」
「こ、怖かったですぅ……」
黒曜宮妃は声を震わせて更に強く第二皇女へしがみついた。そんな彼女を安心させるように第二皇女は優しく微笑み、頭を優しくなでた。親子のような、姉妹のような、とにかく二人の間に結ばれた深い絆を感じさせた。
「まあ、青玉のお兄様が暗殺などという卑劣な手を用いるとは到底考えられませんし、軍部を暴走させるほど統率力が無いとも思えません。ですが、もはやお兄様を信用出来ないのは分かっていただけましたか?」
「……黒曜宮と翠玉宮で起こった襲撃事件については俺が責任を持って調べよう」
「この期に及んでまだそんな事を言うんですか? 話し合いの段階はとっくの昔に過ぎ去りましたよ」
三方向に陣取る赤き親衛隊の者は各々独特の構えを取った。それが方術とやらの発動条件になるかは知らないけれど、相手の陣地に踏み込んだわたし達が圧倒的に不利な状況なのは誰の目からも明らかだった。
「今日はお引取りを。それともここで一戦交えますか?」
一触即発。この場に緊張が走った。
「……愛する妃よ、どう考える?」
「……対方士に特化した人員を揃えてきていません。敵の能力が不明な以上、迂闊に攻めるのは得策では無いかと」
第二皇子は小声で青玉宮妃に相談、状況が芳しくないとの回答を得た彼は悔しそうに歯ぎしりしながら顔を歪ませた。けれど怒りは第二皇女に向けず、「くそっ!」と吐き捨てて地団駄を扮で発散させただけに留まった。
「引き上げるぞ!」
彼は踵を返すと周りを囲んだ近衛兵や後ろに付いてきていたわたし達を押しのけるように大股で歩き始めた。慌てて近衛兵達も上官に付き従った。太尉はそんな緊迫した空気の中でも余裕綽々に「仕方がありませんな」とつぶやいて彼らに続いた。
「次に俺の女に手を出してみろ。二度と天を拝めなくしてやるぞ」
「なんて野蛮で感情的な。やっぱり青玉のお兄様には皇帝の座を任せられませんね」
負け惜しみとも取れる台詞を残して第二皇子達は退却。暁明様が彼らの後を追おうと足を動かし……始めたところをわたしが彼の袖を掴んで止めた。暁明様の反応は見ていない。わたしは視線を第二皇女達に向けていたから。
「紅玉宮妃、まだ何かあるかしら?」
「いえ、そう言えばこの宮廷が混沌の渦に叩き込まれたのは猫目宮殿下の一言がきっかけだったなあ、と思いまして」
思わずぶつけた不満が癪に障ったらしく、第二皇女はわずかに片眉を吊り上げた。
「全く心当たりが無いのだけれど?」
「皇子妃以外に諸侯王の娘を妃に迎えるのが皇子の義務だ、とのお言葉を頂戴してから程なく魅音様を迎えなくてはならなくなった、と記憶していますが? 言霊の方術でも使われた、と疑いたくもなります」
「それは何を意図しての発言かしら?」
「いえ、この所皇位継承者候補同士が仲違いするような出来事が続いているなぁ、と思っただけです」
晩の襲撃だってわたし達はまず第二皇子を疑い、第二皇子は第二皇女を疑い、そして第二皇女は第二皇子を疑った。まるで諍いを起こして潰し合わせるかのように事が運んでいるかのように思えてならないのよね。
そして、そうなったら誰が得をするか? 決まっている。漁夫の利を得ようとしている皇位継承者候補だ。そんな人を駒のように扱って最終的に天を掴もうとする存在として思いつくのはただ一人だ。
女狐と呼ばれる女傑だけでしょう?
「黒曜宮妃様も仰っていましたが、この宮廷には太上皇后様のような女狐の再誕を望んでいる方が少なからずいるそうですね。昨晩の騒ぎはそんな狂信者達の仕業では?」
「そんな、ありえません。春華国の兵士達は国と皇帝に絶対の忠誠を誓っています。独断で動くなど……」
「例外はありますよね? 例えば、皇太后様のご命令だった、みたいな」
「――ッ!?」
わたしが口にした一例は賢妃様が皇帝を殺害した正当性についてだった。その場には赤き親衛隊の者もいたから第二皇女の耳にも届いていた筈。彼女は予測通りの反応を示してくれたけれど、わたしが何を言いたいかも察してくれたようだった。
太上皇后の名のもとに天意を執行する、とかが動機かもしれないでしょう?
極端な話、第二皇子と第三皇子の支持率は互角。ならいっそ政治的駆け引きじゃなくて何かしらの勝負一発で上下を決めてしまっても良い。わざわざ皇子妃の殺害なんて危険を犯す必要は無いのよね。
「猫目宮殿下。お尋ねしますが、黒曜宮殿下ご夫妻は本当に信頼出来るのですか?」
「……――」
第二皇女は自分に縋っていた黒曜宮妃に視線を落とした。遠く離れたわたしにも彼女が恐怖を覚えているのが分かった。自分が彼女を守っているようで実は彼女の手の平で踊っているだけではないか、とでも頭によぎったかしら?
「そんな……。紅玉宮妃様、酷いですぅ……!」
一方の黒曜宮妃は涙をにじませて第二皇女に縋った。実に庇護欲を掻き立てるあざとさだ。ただ先日の書院でのやり取りから判断するに演技が半分といったところか。天然との境界を伺い知れない辺り、その底知れ無さが不気味でしかなかった。
第二皇女は顔を振ってからこちらを見据えてきた。こちらを睨んでくるのもまるで疑念を振り払うかのようで、先程まで第二皇子と対峙していた際の覚悟が揺らいでいるのが見て取れた。その証拠に目力が弱まっている風に受け取れた。
「そう言って疑うよう仕向ける紅玉宮妃の方こそ女狐の再来ではなくて?」
「否定する材料はありませんね」
「自滅を促して立場を盤石にしようとする青玉妃のお義姉様がそうかもしれないわ」
「その可能性も否定しません」
わたしが提示したのはあくまで可能性であって明確に決めつけるものじゃない。あと第二皇女と第四皇子の絆にヒビを入れる意図もあまり無い。
単に一方的に第二皇子が悪いと決めつけた彼女が癪に障っただけだった。
「ですがわたしの殿下に危険をもたらした元凶、との疑惑が晴れたわけではありませんよね。なら、わたしはこれ以上貴女様と良好なお付き合いは致しかねます」
「それは私達への宣戦布告、と受け取って良いかしら?」
「最低でも支持はしませんから。さあ、もう行きましょう」
「え? あ、うん」
わたしは暁明様の手を取って早足で猫目宮を立ち去った。門をくぐって第二皇女達の姿が見えなくなってようやく速度を落とし、手を絡め直した。それから二人肩を並べて紅玉宮への帰路についた。
「暁明様、一つ提案がありますけどいいですか?」
「……奇遇だね。僕も雪慧にお願いがあるんだけど、先に言って」
「なら遠慮なく」
もはや他の皇子や皇女は誰も彼も油断ならない。いつ暁明様の身に危険が及ぶか分かったものじゃない。もはや一刻を争う緊急事態、と言い切ってしまっていい。そんな醜い皇位継承争いに巻き込まれるなんて御免だ。
「一緒にここから逃げましょう。今すぐにでも」
なら、こんな魔窟からは速やかにおさらばするのが吉だ。
第二皇子に汝罪有りと言われた第二皇女は、しかし全く動じずに問いかけた。その堂々とした様子は傍らで不安に彩られながら見守る猫目宮の従者達にはとても頼もしく感じたことでしょうね。
「ふんっ、小賢しい猫目宮のことだからそう言うと思ったぞ。ほれ、貴様ご所望の令状はここにある」
「……成程。確かに青玉のお兄様と太尉閣下の連名で正規に発行されていますね」
第二皇女は第二皇子の後ろにいた太尉へと視線を向けた。太尉は一旦暁明様とのおしゃべりを中断し、大げさに肩をすくめてみせた。おそらくはその場にいた他の誰よりも落ち着き払っていたと思う。
「残念ですが猫目宮殿下が手綱を握っている赤き親衛隊の者が実行犯なのは疑いようもない事実ですじゃ。事情をお聞きしたいところですなあ」
「赤き親衛隊だと確信なさっている根拠が分からないのですが?」
「とぼけるな! 宮廷内でも方術を使える者は限られている! それも実戦向きの鍛錬を詰んでいる者など親衛隊連中以外にいるか!」
「……方術を使ってきた? それは本当ですか?」
方術、言われてみれば紅玉宮を襲ってきた輩も全く物音を立てなかったり手から衝撃波を発したりしていたっけ。わたしは偶然勘が働いて助かったけれど、青玉宮妃はきっと予知夢の能力で危機を切り抜けたんでしょうね。
「でしたら私から部隊長に事情を伺い、然るべき処罰を下します。それでよろしいでしょうか?」
「ならん。貴様が首魁である可能性があるからな」
「――それを仰るのでしたら、私は宮廷の秩序を任された者として事情を聞き出さなければいけませんね」
「……!? 殿下、私の後ろにお下がりを!」
最初に異変に気づいたのは青玉宮妃だった。すかさずわたしも周りを見渡すと、いつの間にかわたし達を包囲するように深紅の制服に身を包んだ者達が左右位置ずつ、そして猫目宮の屋根上からわたし達を半包囲しているではないか。
「青玉のお兄様には昨晩翠玉宮妃と黒曜宮妃を配下に襲わせた嫌疑があります。大人しく任意同行していただけますか?」
「何だと!?」
まさかの抵抗の姿勢に付き従っていた近衛兵達が一斉に抜刀し、第二皇子夫妻を守るよう周囲に展開した。人数だけを見れば十数名対三人だけれど、もし赤き親衛隊員が方士だったとしたらそんな頭数に意味はない。
「猫目宮、この期に及んでそんな嘘を付くなど……!」
「嘘ではありません。青玉のお兄様がいずれかの皇子妃が女狐の生まれ変わりなどと疑っていたのは周知の事実。今のような強硬手段に打って出られた際への対抗手段として私の責任で親衛隊の皆さんに守護を依頼していたのです」
激昂する第二皇子に軽蔑が混じった冷たい眼差しを送る第二皇女は、ゆっくりとした仕草で片手を上げた。それを合図にして猫目宮から新たに赤き親衛隊二名が現れ、運んできた何かをこちらへと放り捨てた。
ソレは、物言わなくなった死体だった。
それもわたしが仕留めた侵入者と似た黒装束に身を包んだ。
「それは、禁軍所属の者が真夜中に隠密行動を取る際の制服ではないか!」
そんな衝撃の展開に一番驚きをあらわにしたのは他でもない、第二皇子だった。
「制服は個人で乱用しないよう厳格に管理されているんでしたっけ? じゃあこの装束を着て黒曜宮を襲ったこの賊は何者なんですか?」
「こ、怖かったですぅ……」
黒曜宮妃は声を震わせて更に強く第二皇女へしがみついた。そんな彼女を安心させるように第二皇女は優しく微笑み、頭を優しくなでた。親子のような、姉妹のような、とにかく二人の間に結ばれた深い絆を感じさせた。
「まあ、青玉のお兄様が暗殺などという卑劣な手を用いるとは到底考えられませんし、軍部を暴走させるほど統率力が無いとも思えません。ですが、もはやお兄様を信用出来ないのは分かっていただけましたか?」
「……黒曜宮と翠玉宮で起こった襲撃事件については俺が責任を持って調べよう」
「この期に及んでまだそんな事を言うんですか? 話し合いの段階はとっくの昔に過ぎ去りましたよ」
三方向に陣取る赤き親衛隊の者は各々独特の構えを取った。それが方術とやらの発動条件になるかは知らないけれど、相手の陣地に踏み込んだわたし達が圧倒的に不利な状況なのは誰の目からも明らかだった。
「今日はお引取りを。それともここで一戦交えますか?」
一触即発。この場に緊張が走った。
「……愛する妃よ、どう考える?」
「……対方士に特化した人員を揃えてきていません。敵の能力が不明な以上、迂闊に攻めるのは得策では無いかと」
第二皇子は小声で青玉宮妃に相談、状況が芳しくないとの回答を得た彼は悔しそうに歯ぎしりしながら顔を歪ませた。けれど怒りは第二皇女に向けず、「くそっ!」と吐き捨てて地団駄を扮で発散させただけに留まった。
「引き上げるぞ!」
彼は踵を返すと周りを囲んだ近衛兵や後ろに付いてきていたわたし達を押しのけるように大股で歩き始めた。慌てて近衛兵達も上官に付き従った。太尉はそんな緊迫した空気の中でも余裕綽々に「仕方がありませんな」とつぶやいて彼らに続いた。
「次に俺の女に手を出してみろ。二度と天を拝めなくしてやるぞ」
「なんて野蛮で感情的な。やっぱり青玉のお兄様には皇帝の座を任せられませんね」
負け惜しみとも取れる台詞を残して第二皇子達は退却。暁明様が彼らの後を追おうと足を動かし……始めたところをわたしが彼の袖を掴んで止めた。暁明様の反応は見ていない。わたしは視線を第二皇女達に向けていたから。
「紅玉宮妃、まだ何かあるかしら?」
「いえ、そう言えばこの宮廷が混沌の渦に叩き込まれたのは猫目宮殿下の一言がきっかけだったなあ、と思いまして」
思わずぶつけた不満が癪に障ったらしく、第二皇女はわずかに片眉を吊り上げた。
「全く心当たりが無いのだけれど?」
「皇子妃以外に諸侯王の娘を妃に迎えるのが皇子の義務だ、とのお言葉を頂戴してから程なく魅音様を迎えなくてはならなくなった、と記憶していますが? 言霊の方術でも使われた、と疑いたくもなります」
「それは何を意図しての発言かしら?」
「いえ、この所皇位継承者候補同士が仲違いするような出来事が続いているなぁ、と思っただけです」
晩の襲撃だってわたし達はまず第二皇子を疑い、第二皇子は第二皇女を疑い、そして第二皇女は第二皇子を疑った。まるで諍いを起こして潰し合わせるかのように事が運んでいるかのように思えてならないのよね。
そして、そうなったら誰が得をするか? 決まっている。漁夫の利を得ようとしている皇位継承者候補だ。そんな人を駒のように扱って最終的に天を掴もうとする存在として思いつくのはただ一人だ。
女狐と呼ばれる女傑だけでしょう?
「黒曜宮妃様も仰っていましたが、この宮廷には太上皇后様のような女狐の再誕を望んでいる方が少なからずいるそうですね。昨晩の騒ぎはそんな狂信者達の仕業では?」
「そんな、ありえません。春華国の兵士達は国と皇帝に絶対の忠誠を誓っています。独断で動くなど……」
「例外はありますよね? 例えば、皇太后様のご命令だった、みたいな」
「――ッ!?」
わたしが口にした一例は賢妃様が皇帝を殺害した正当性についてだった。その場には赤き親衛隊の者もいたから第二皇女の耳にも届いていた筈。彼女は予測通りの反応を示してくれたけれど、わたしが何を言いたいかも察してくれたようだった。
太上皇后の名のもとに天意を執行する、とかが動機かもしれないでしょう?
極端な話、第二皇子と第三皇子の支持率は互角。ならいっそ政治的駆け引きじゃなくて何かしらの勝負一発で上下を決めてしまっても良い。わざわざ皇子妃の殺害なんて危険を犯す必要は無いのよね。
「猫目宮殿下。お尋ねしますが、黒曜宮殿下ご夫妻は本当に信頼出来るのですか?」
「……――」
第二皇女は自分に縋っていた黒曜宮妃に視線を落とした。遠く離れたわたしにも彼女が恐怖を覚えているのが分かった。自分が彼女を守っているようで実は彼女の手の平で踊っているだけではないか、とでも頭によぎったかしら?
「そんな……。紅玉宮妃様、酷いですぅ……!」
一方の黒曜宮妃は涙をにじませて第二皇女に縋った。実に庇護欲を掻き立てるあざとさだ。ただ先日の書院でのやり取りから判断するに演技が半分といったところか。天然との境界を伺い知れない辺り、その底知れ無さが不気味でしかなかった。
第二皇女は顔を振ってからこちらを見据えてきた。こちらを睨んでくるのもまるで疑念を振り払うかのようで、先程まで第二皇子と対峙していた際の覚悟が揺らいでいるのが見て取れた。その証拠に目力が弱まっている風に受け取れた。
「そう言って疑うよう仕向ける紅玉宮妃の方こそ女狐の再来ではなくて?」
「否定する材料はありませんね」
「自滅を促して立場を盤石にしようとする青玉妃のお義姉様がそうかもしれないわ」
「その可能性も否定しません」
わたしが提示したのはあくまで可能性であって明確に決めつけるものじゃない。あと第二皇女と第四皇子の絆にヒビを入れる意図もあまり無い。
単に一方的に第二皇子が悪いと決めつけた彼女が癪に障っただけだった。
「ですがわたしの殿下に危険をもたらした元凶、との疑惑が晴れたわけではありませんよね。なら、わたしはこれ以上貴女様と良好なお付き合いは致しかねます」
「それは私達への宣戦布告、と受け取って良いかしら?」
「最低でも支持はしませんから。さあ、もう行きましょう」
「え? あ、うん」
わたしは暁明様の手を取って早足で猫目宮を立ち去った。門をくぐって第二皇女達の姿が見えなくなってようやく速度を落とし、手を絡め直した。それから二人肩を並べて紅玉宮への帰路についた。
「暁明様、一つ提案がありますけどいいですか?」
「……奇遇だね。僕も雪慧にお願いがあるんだけど、先に言って」
「なら遠慮なく」
もはや他の皇子や皇女は誰も彼も油断ならない。いつ暁明様の身に危険が及ぶか分かったものじゃない。もはや一刻を争う緊急事態、と言い切ってしまっていい。そんな醜い皇位継承争いに巻き込まれるなんて御免だ。
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