上 下
133 / 278
第2-1章 私は学院に通い始めました

私達は魔女研究会に乗り込みました

しおりを挟む
「……おい、どうして学院でこんな活動がされてるんだ?」

 オフェーリアが呆然としながらも呟いた一言が全てを物語っていました。

 私はこの間トリルビィから教えられた魔女崇拝について思い出します。悪魔でも異教の神でも偶像でもなく、魔女が崇拝する対象。今日まで聖都で過ごした限りそんな兆候は何処にも見られませんでしたが、教会にばれないようひっそりと行われているのだとしたら。

「行きましょう。私達まで異端扱いされたらたまらないわ」
「いえ、ここまで公にしているのですから学院から認可されているんでしょう。きっと蓋を開けてみれば真っ当な活動ではないかと」
「言われてみればそうだよな。ちょっと覗いてみようぜ」
「あ、ちょっとオフェーリア! 何勝手に……!」

 オフェーリアは魔女研究会と書かれた看板を軽く叩きつつ扉を開きました。続いて私が、最後にパトリツィアが慌てながら続きます。

 一体どんな様子かと気構えていましたが、意外にも大学院時代の研究室とそう大差無い様子でした。室内には個人用の机が並んでおり、資料の束や筆記具が置かれています。窓から差し込む夕日の光に本棚に並んでいる数多の本や画鋲で資料が刺さった掲示板が照らされていました。

 新たな来訪者に中にいた方々は視線を向けてきます。その中の一人がこちらに向けて口で三日月を描くように笑いかけました。しかも諸手を挙げてこちらへと歩み寄ってきます。まるで大歓迎状態のようで若干困惑しましたよ。

「やーやー三人共、ようこそ魔女研究会へ!」

 彼女、カロリーナ先生は会員に指示を送って椅子を用意します。木材に布を張り合わせた折り畳み式のものでしたが意外に座り心地は悪くありません。想像とは異なった雰囲気に私達は戸惑いを隠せませんでした。

「あの、先生。魔女研究会って何をやるんですか?」
「んじゃあオフェーリアさんは魔女って言ったら何を思い浮かべるっすか?」
「えっ? そりゃあ、悪魔に身体と魂を売り渡す代わりに魔法の力を得る、みたいな?」
「それはごく一部だけっすね。いいでしょう、このカロリーナさんが説明してあげちゃいましょう」

 そう言って先生は意気揚々と即席の講座を開催します。魔女の定義は私がいつぞやジョアッキーノに語ったものと同じで、大別すると悪魔崇拝者、異教徒の信者、そして教会に異端扱いされた者の三つに分かれるというものでした。

「悪魔崇拝者や異教徒は論ずるに値しませんね。うちで研究しているのは異端者っす」
「結局どれも一緒にしか思えませんけど、何が違うんですか?」
「中には教会の都合で異端の烙印を押された犠牲者もいるって言いたいんっすよ」

 先生ははっきりと持論を明かした。彼女は以前お昼時に教会の在り方を批難していましたが、この主張はそれに続く教会の否定に他なりません。魔女研究会会員達は一様に頷きますが、パトリツィアはこの部屋に入った事を後悔したかのように嫌な顔をします。

「まず知ってもらいたいのは教会の正義は決して絶対じゃあないんっす。その時の司教や枢機卿の私利私欲で相手を追い落とすなんて珍しくなかったっすから」
「ちょっと待って下さい。それって先生達の妄想とかじゃあないんですか?」
「いーえ、証拠も幾つか残ってるっすよ。教会がそいつは魔女だとか記録を改竄したってそれまでの日誌や足跡を追うと不自然さとか違和感が生じるんですね。どうして後世に残された記録が矛盾するのか、真実は何かを追い求めるのがカロリーナさん達の活動っす」

 先生曰く、教会にとって都合が悪かった者を異端審問にかけて魔女として処刑した例もあるんだとか。他の会員も同調して教会に楯突きたいわけではなく、一人でも多くの無実だったのに罪人として扱われた者達の名誉が回復出来ればとの理念があると力説しました。

 勿論オフェーリアとパトリツィアは教会が正しいと言いたそうでしたがあえて口には出しません。ここで議論を白熱させたら最後、夜が更けるどころか朝日が昇るまで拘束される気配がただよってきていましたから。それだけ彼女達は教会にも過ちがあると信じて疑いません。

「むむむ、その顔は信じてないっすね? なら最近の実例を挙げましょう。オフェーリアさんは魔女については詳しいっすか?」
「歴史を学ぶ際に挙げられるぐらいなら」
「姦淫の魔女ってご存知っすか?」

 姦淫の魔女。それは降誕の聖女コンチェッタが女教皇の策略で魔女とされた際の忌み名。
 オフェーリアも聞き及んでいたらしく、頷いて返事を示しました。先生もまたその回答に満足そうに頷きます。

「つい最近教会が過去の異端審問は間違っていたと非を認めて彼女は名誉を回復したんっすよ」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【完結】王女だった私が逃げ出して神子になった話

恋愛 / 完結 24h.ポイント:92pt お気に入り:597

真面目系眼鏡女子は、軽薄騎士の求愛から逃げ出したい。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,431pt お気に入り:246

片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,139pt お気に入り:19

お高い魔術師様は、今日も侍女に憎まれ口を叩く。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,479pt お気に入り:124

伯爵令嬢は執事に狙われている

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,132pt お気に入り:459

堅物監察官は、転生聖女に振り回される。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,808pt お気に入り:154

可哀想な私が好き

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:4,502pt お気に入り:541

夜の帝王の一途な愛

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,116pt お気に入り:86

運命の番を見つけることがわかっている婚約者に尽くした結果

恋愛 / 完結 24h.ポイント:23,025pt お気に入り:269

処理中です...