残り一日で破滅フラグ全部へし折ります ざまぁRTA記録24Hr.

福留しゅん

文字の大きさ
56 / 88
Interlude1 アレクサンドラのその後

公爵嫡男セシリオの興味(後)

「良いところのお坊っちゃまではその程度の発想力しかありませんものね」

 接点が無いとは言え仕える家の嫡男に向けての非礼な態度にセシリオは怒鳴りたい衝動が湧き上がるが、かろうじて飲み込んだ。自分は上位者であるとの誇りがそうした感情を大衆の前で顕にする行為を許さなかった。

「知ってますか? 入学試験に望む者は何も貴族や学園に通いたい庶民ばかりではないんですよ」
「何だって……?」
「中には小遣い稼ぎが目的の子だっています。そう、まさに門外不出の筈の試験問題を可能な限り頭の中に叩き込み、その情報を売り払うんです。貴族が客先ですから結構高く買い取ってくれるらしいですね」

 試験官に見つからないよう机の下で必死に問題を書き写す輩もたまに現れるらしいですが、とセナイダは付け加えた。その恩恵に預かった筈の彼女は自分が全く悪いことをしていないような口ぶりだった。

 まさかの事実に周囲は騒然となった。そんな不正行為が横行していたしていたなんて夢にも思っていなかった者が多かったから。尤も、同時にその何割かに挙動不審な傾向が見られたのだが。

「貴族が何のために過去問とやらを買うんだ?」
「それは勿論入学後に見栄を張るためでしょう。あの難問でこれだけ高得点を取れたわたしって凄い、と思われたい方は貴方様の想像より多いんですよ」
「その中に君も含まれている、ってわけか」
「別に。実家からも公爵家からも特に指示は受けていませんし、わたし個人も点数が高かろうが低かろうが気にしません。学んで知識とすることが重要なんであって試験はその確認に過ぎませんから」

 セナイダの主張は矛盾していた。それなら何故高額で取引されているらしい過去問を入手してまで高得点にこだわったのか。実家や奉公先の意思が働いていないなら、一体何のためにそこまでしたのか。

 疑問を抱くセシリオに向けて、セナイダは相手から視線を外さないままでわずかに顎を上げた。鼻で笑っているように見え、見下してくるようにも見えてならない。何にせよ悪意を込めての仕草だとはセシリオにも分かった。

「それで、どんな気分ですか?」
「……は?」
「見下していた使用人風情より劣っているとの現実を突きつけられて、ですよ。英才教育を施された次期公爵閣下のお坊ちゃま」
「なっ……!」

 今度こそセシリオは我慢ならずにセナイダの胸ぐらをつかみ上げた。周囲にいた誰かが悲鳴を上げたものの、セナイダを睨みつけていたセシリオは気づかない。当のセナイダはセシリオから決して目を離さない。澄まし顔の瞳に怒る自分が映るぐらいに。

「お嬢様の言いなりになるわたしを一瞥した際の貴方様のお顔を見てからいつか鼻を明かしてやると決心しました。真面目な貴方様でしたらきっと入学試験も正当に臨むと踏んだので、決行したわけです」
「俺を出し抜くのが目的だったのか?」
「ええ。わたし、結構根に持つ方なので」
「……そうか」

 セシリオはセナイダから手を離して踵を返す。
 大事になると予想していた周囲の者達は肩透かしを食らった形で、セナイダも意外だとばかりに目を見開いてセシリオの背中を見つめ続ける。
 さすがにそんな反応が気になったのか、セシリオは立ち止まって彼女に顔を向けた。

「これで終わったと思わないでね。むしろこれが始まりさ」
「……はい?」
「勝つために限られた中で最善を尽くす。成程、確かに見直した。俺もまだまだ人を見る目を養わなきゃな。だけど、君のことは気に入った」
「興味を抱かれるのは光栄ですが、一回溜飲が下がってしまったのでご期待に添えるとは限りませんよ」
「今そんな風に断言しない方がいい。じきに今回のように俺ばかりを見つめ続けるようになるかもしれないからね」
「なんて自意識過剰な……。ありえませんよ」

 退屈だと思っていた学生生活も楽しそうだ、とセシリオは思った。
 セシリオにも付き合わなきゃいけないのか、とセナイダはため息を漏らした。
感想 249

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。