残り一日で破滅フラグ全部へし折ります ざまぁRTA記録24Hr.

福留しゅん

文字の大きさ
58 / 88
Interlude1 アレクサンドラのその後

公爵家侍女セナイダの青春(後)

「助かりました。ありがとうございます」
「全く、セナイダならあんな連中ぐらい軽く蹴散らせただろう。知っているんだぞ、護身術を嗜んでいるんだってな」
「あれぐらい大勢に囲まれた後だと暴力に訴えないと切り抜けられませんよ」
「壁に押し付けられてたな。怪我してないか見せろ」

 セシリオは有無を言わさずセナイダの顎を掴むと自分の方へと顔を向けさせた。壁でこすったからか、セナイダの頬には若干の擦り傷が見られる。彼女を傷つけた令嬢達に殺意が湧いたセシリオを尻目に、セナイダは彼の手を払い除けた。

「過剰ですよ。この程度なら唾付ければ直りますって」
「ほう、唾ねえ。こんな風にか?」
「は? え、ちょっと……!」

 セシリオはセナイダが自分の指を舐めようとしたのを止めると、彼女の傷ついた頬へと口元を近づけ、軽くなめた。わずかににじみ出た血がすくい取られ、口の中で鉄の味が広がっていく。

 セナイダは恥ずかしさで耳まで真っ赤にしてセシリオを睨みつけ、初々しい反応を示したセナイダにセシリオは満足げに笑った。セナイダが舐められた頬を擦ろうとする手を掴み、傷口に口づけしてにじみ出てきた血を吸い上げる。

「こ、こ、このケダモノ……!」
「いいね。今のセナイダは実にそそる」
「わたしを弄んで楽しいの……!?」
「セナイダが俺を意識してくれるのは嬉しいね」

 このようにセシリオとセナイダの関係は単なる主従関係や学友より踏み込んだ距離になっていったが、それ以上に縮まりはしなかった。それは二人が自分達はあくまで悪友の範囲の収まるべきだ、との認識で一致したからだ。

「ところで、いちいち敬称とかお坊ちゃま呼びとか鬱陶しいんだけど」
「ならどのようにお呼びすれば?」
「名前を呼び捨てればいい。二人きりの時、学園内とかもな」
「我儘ですね……。それでセシリオが満足するなら」

 セナイダは自分はあくまで子爵家の令嬢であり、アレクサンドラの従者である。公爵家嫡男のセシリオとはつり合わないし、公爵夫人としての責務など重すぎる。何より、自分より遥かに彼の伴侶として相応しい素敵なご令嬢は大勢いる。

 そのように自分を弁えているからこそ、セナイダは次第に彼に惹かれていく自分の心に蓋をした。学園の中だけで織りなすひと時は夢のようだけれど、夢はいつか覚めるもの。いつまでも尾を引かないよう必死に自分に言い聞かせた。

「今度の学期末試験はわたしの勝利ですね」
「げっ。アレクサンドラの我儘に振り回されてるくせに勉強する暇なんかあったのか」
「約束した勝ったご褒美、何にしてもらいましょうかね。今度豪勢な夕食でも奢ってもらいますか」
「……ああ、セナイダが望むならどこにだって連れてってやるよ」

 一方のセシリオもまたいつしかセナイダが好きになっていた。公爵家の嫡男だからと媚を売ってこず、それどころか遠慮なくぶつかってくる。けれど決して無礼ではなく立場を心得ている。付かず離れず、そんな彼女が恋しくなった。

 けれどセナイダを自分の伴侶として望めないのも承知している。個人的な好意と公爵家にとっての利は別の話。セナイダ個人の能力だけでは父親である公爵を説得する材料に乏しい。駆け落ちぐらいしか方法は無いが、セナイダはそれで幸せだろうか?

「終わっちゃいましたね。わたし達の学生生活」
「そうだな。これで俺は本格的に父上の後を継ぐために勉強あるのみだ」
「わたしはもう少し奉公して稼がなければいけませんね。もう少しお世話になります」

 結局、二人の関係は進展しないままとなった。
 それでいい、と二人は納得していた。大人になるとはそういうものだ、とも。

「セナイダ。最後だし思い出が欲しい」
「どうぞご随意に」
「抱き締めてもいいか?」
「好きになさってください」
「温かいな。それに柔らかくて良い匂いがする」
「……馬鹿言っているなら引き剥がしますよ」
「なあ、口付けしていいか?」
「んっ……! じ、事後承諾なんて卑怯ですよ……」

 こうして二人の青春時代は終わった。
 二人は元の在るべき姿で自分達の生活に戻ったのだった。
 互いに相手に伴侶が見つかれば笑顔で祝福しよう、と心に決めて。

 ――そんな決心は三年後に覆ることになる。
 アレクサンドラの覚醒によって。
感想 249

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。