残り一日で破滅フラグ全部へし折ります ざまぁRTA記録24Hr.

福留しゅん

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Interlude1 アレクサンドラのその後

王妃アレクサンドラの茶会①


 今日はささやかなお茶会が開かれる日だ。

 王妃という立場にあるなら国内外の有力者と良好な関係を築くことは義務だから、時間が開けば公爵から貧民まで立場を問わず国に貢献する者を王宮に招待し、おもてなしする。単なる雑談に留まらない意見の交換や支援、予算の話まで出るから重要だ。

 けれど、今日に限っては王妃に……いえ、生まれてから一番私的な理由で催そうとしている、と言って過言じゃない。参加者の名だけを眺めればそうは思われないんでしょうけれど、政治だの文化だのの話をする気は一切無いもの。

 ほんの少しだけ雲が漂うだけの良く晴れた空の下、王宮の庭に設けられた席で私は客人を待っている。先にお茶を飲み始めるとお花を積みに行きたくなっちゃうので、菓子を少しずつかじって暇を潰した。

「アレクサンドラ様。ごきげんよう」

 一番最初に姿を見せたのはルシアだった。
 乙女ゲームの『どきエデ』でヒロインだった彼女は、今や公爵夫人になっている。

 恐ろしいことに子供が成人を迎えてもなお彼女の可愛らしさと笑顔の素敵さが損なわれる様子が無い。更には私の婚約者だった当時の王太子アルフォンソ様の心を掴み続ける愛とやらはもはや認める他無いでしょうね。

「ごきげんようルシア。貴女の席はこっちよ」
「んもう、アレクサンドラ様ったら。わたしのことはお姉ちゃんって呼んでくれていいんですよ?」
「誰が誰の姉ですって?」
「第一王子だったアルフォンソ様の妻になったわたしが、第三王子だったジェラール殿下の妃になったアレクサンドラの、です」
「死んでもごめんだわ……」
「えー。あのアレクサンドラにお姉ちゃんって言われるのほんのちょっとだけ期待したのに。残念」

 ルシアが発する王妃に対して無遠慮な発言も今日だけは何も問題ない。だってこのお茶会はそういう趣旨だものね。アレクサンドラとして生きた私と、ルシアとして生きた彼女が、これまでを振り返って感想を述べ合うだけだもの。

「そういえば所感を聞いてなかったけれど、久しぶりのシャバの空気はどう?」
「娑婆って言ってもわたしにか通じませんよ。そうですね……『どきエデ』から大分離れちゃったなぁ、って」
「アルフォンソ様との夫婦生活は上手くやれているの?」
「意外です。まだアルフォンソ様に敬称を付けてるなんて」

 アルフォンソ様についてはもう意地以外の何物でもないわ。人生最大の汚点だって吐き捨てるのは簡単だけれど、彼に抱いた想い、彼と共に夢見た大志は確かに本物だったもの。ルシアに横取りされたからって自分を否定したくはない。

「上手くやれていますよ。学生時代みたいないかにも情熱的な青春って雰囲気にはなりませんけれど、互いに想い合い、尊重して、側にいてくれると幸せを感じます」
「ルシアが第一でアルフォンソ様達家族は二の次だ、って断言してた昔とは違うじゃないの。他の連中を全て排除してルシアを独占した貴女がアルフォンソ様を受け入れるなんてね」
「もうそんな些事に拘る必要は無くなりましたから。今は愛する夫と愛おしい子供が一番です」

 他の連中を排除してまでルシアを独占した真ルシアが長年の隔離生活で心境を変化させたとでも? あり得ないわ。けれど疑ったところで彼女からはごまかす様子が一切見られないし……。

 ルシアは自分で注ぎ入れた紅茶に口をつけ、吐息を漏らす。この場には現在私とルシア以外の者は誰もいない。給仕も護衛も離れてもらっている。ここでの発言はこの場限りにする、って約束もしている。完全に立場も関係ない、私とルシア個人のお茶会だ。

「わたし、『どきエデ』の逆ハーレムエンドって結構好きだったんですよ。あの悪役令嬢アレクサンドラをついに攻略出来たか、みたいに思えて」
「は? 解釈違いなんだけど? あんなヒロインに陥落しちゃったアレクサンドラなんて見たくなかったわ。最後の最後まで悪役を貫いて散っていく彼女だからこそ素晴らしいのに、アレ書いた公式は何も分かっちゃいないわ」
「あーあ。あのままアレクサンドラ様が前世を思い出さなきゃわたし達は熱い友情で結ばれてたのになぁ」
「今日だって他の客人がいなかったら貴女なんて……ちょっと待ちなさい」

 ルシアと喋っていてやはり違和感を覚えた。そう、確かルシアはこの世界に生を受けた本物のルシア、つまり真ルシアを乗っ取ってヒロインとして振る舞った。ざまぁされた後はルシアは真ルシアに攻略されてもう表に出ることはない筈よね。

「実際に『どきエデ』を遊んだのは転生者の方でしょうよ。どうしてあたかも自分が体験したような言い回ししてるのはおかしいんじゃない?」
「あぁ、そう言えばコレを誰かに話すのは初めてだったっけ」

 ルシアは自分の胸と首の間ぐらいに手を添えた。
 そして笑顔をこぼす。
 それはヒロインのでも、転生者のでも、この世界のでもない、初めて見せるものだ。

「あたしとわたし、つまりルシアは今一人だけなの」
「……っ!」

 合点がいったわ。
 これまでルシアと真ルシアでバラバラだった前世と今がようやく結びついたのね。
 同時にそれは前世との完全なお別れで、真ルシアが本懐を果たしたことでもある。
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