腹を割って話そう、夜が明けるまで

赤薔薇道 勝犬之助

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腹を割って得られたもの

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 最初の1ヶ月は順調だった。手を繋いだり、たまにキスをしたり。ショッピングモールへデートにだって行った。あんなに遠慮がちだった慧人も今じゃ咲真を尻に敷いて家事を取り締まっている。いつの間に仲良くなったのかアパートの大家と話し込むぐらいにはここに馴染んでいる。

 しかし咲真の欲求は満たされていなかった。決していかがわしいことがしたい訳では無い。元来そういった欲は人より少ない自覚があったならば何を悩んでいるのかと言うと。

 そう咲真は恋人―慧人の体を解剖したいのである。

 あの綺麗な小麦色の肌を開いて中を見てみたい。そういった欲望は日に日に大きくなり日常生活に異常をきたし始めた。


「最近変スよ、咲真さん。」

 いつも通り慧人の作ってくれた夕飯を2人でつつく。慧人の手料理はとても美味しくて興味がなかった食が少しだけ楽しみになったのは記憶に新しい。黙々と食べ進めていると突然慧人が切り出した。

「変…?何がかな。」

 逡巡するようにぐるりと目を回すと咲真に向き直った。

「もしかして心当たりない感じっすか?ココ最近ずーっと心ここに在らずって感じじゃないっすか!もしかして、浮気……!!」

 ぶわりと鳥肌が立つ。眼力で殺めんばかりに咲真を睨んだ。どうやら彼は嫉妬深く、自分を裏切るものにはそれ相応の罰を与えるタイプらしい。
 これは素直に答えないと殺されてしまうかも。

「はぁ、浮気なんかじゃないよ。」

 ぽつりぽつりと自分の汚い部分を吐露していく。君の皮膚のその下を見たいこと、内蔵の一つ一つを確認して生を確かめたいこと。ちらりと盗み見た慧人の顔はドン引きするでもなく恐怖を抱くわけでもなくただ真剣に話を聞いていた。

「…………。」

 気まずい沈黙が部屋を支配する。

「……。」

「…………。」

「……いいっすよ。俺をひらい解剖しても。」

 本当に?その言葉は口から出なかった。興奮と緊張で喉に言葉が張り付いたまま欲求に素直に慧人を壁に押付けた。









 2人で寝られるように大きめのサイズにしたベッドの上に慧人がひとり横たわっていた。麻酔が効いているのか眉一つ動かない。一人で寝るには広すぎるベッドの余白に咲真は腰掛けた。

「本当に…本当にいいのかな、私が君の全てを貰っても。」

 額に張り付いた髪を指先ではらう。パラパラと髪がベッドに散らばって綺麗だと思った。
 うちに医療器具なんてものは無いナイフを手に取るとゆっくりと褐色の肌に刃を入れた。さながらケーキ入刀のようだ。

 初めて慧人が作ってくれたオムライスを思い出す。ちょうどこの鮮血のような真っ赤なケチャップがかかっていたな。たこ焼きが好きだったけどいつの間にか1番好きな食べ物が増えていた。これじゃあ1番じゃないなって笑いあったっけ。

 どんどん冷たくなっていく慧人の手を握る。今この瞬間彼は自分だけのものになったのだ。夜、身を寄せあって一緒にホラー映画を見る人はいないけど。もうひとりじゃなくなったのだ。慧人は常に私の傍にいる。私の止められない探究心を満たしてくれたのは後にも先にも彼だけだろう。
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