腹を割って話そう、夜が明けるまで

赤薔薇道 勝犬之助

文字の大きさ
2 / 3

獣の瞳

しおりを挟む
 引越しは案外早く終わった。親戚が慧人に興味がなかったのと彼には私物がなかったからだ。だだっ広いあの家には慧人のものなんてひとつもなかった。

 人が増えて少しだけ賑やかになった居間で雑談をする。2日前の自分には考えられない光景だ。何も持たないからっぽな彼を見てなにか与えてやりたいと思った。それが咲真のエゴだったとしても。

「明日買い物に行こうか、茶碗や洋服を買おう。」

 申し訳なさそうに笑う彼は昨日の無邪気さがすっかり鳴りを潜めていた。

「なんか出会ってまだ2日なのにこんなに良くしてもらって…申し訳ないっす。どうして俺なんかに構うんすか?」

「君が好きだからだよ。」

自信なさげに俯いてしまった慧人に迷うことなくそう告げる。その言葉に続いてとめどめなく愛の告白が口から溢れ出た。
 恥ずかしげもなく紡がれる褒め言葉に慧人は顔を真っ赤にして咲真の口を塞いだ。

「もう、わかったッスから!………そんな風に言われると照れるっす…。」

 咲真はなぜ慧人が照れているのかわからなかった。綺麗なものに綺麗と言うのは当たり前のことで恥などという概念は端からなかったのだ。
 未だ顔を赤く染めている慧人を見て咲真は思った。

『この子ものすごくチョロいのでは………。見ず知らずの男の家に転がり込んじゃうし、ちょっと強引に押したら付き合えちゃうのでは……!?』

「慧人君…その私たち付き合わないかい?」

「はぁ?!」

 そりゃ驚くだろう突然、ましてや同性に告白されたのだ。

「さっき言った通り私は君のことが好きだ、これからどうせ同じ屋根の下で暮らすんだ。この気持ちを隠すことなんてできないと思ってね!もし告白を受け入れられないならその時は同居の話はなしだ。」

 親戚の保護下を抜けた彼にとってほぼ脅しのようなものだろう。すこし…いやかなり卑怯だが仕方ない、昔から欲しいものはどんな手を使っても手に入れたい性分なのだ。

「………。」

 慧人は黙りこくってしまってピクリともしない。流石に大人げなかっただろうか。

「慧人君…っ!」

 咲真が言葉を発する前に慧人は咲真を押し倒した。そのまま上に覆いかぶさって唇を奪う。
 分厚い舌が口内を蹂躙する。ジュルルッと聞くに堪えない音が狭い居間に反響した。飲みきれなかった唾液が頬を伝ってフローリングにまだら模様を描いた。

「はぁはぁ…。」

「そんな卑怯な言い方しなくても俺は咲真さんを手放す気なんてないのに……。むしろそっちから告白してくれて俺嬉しいっす。」

 私はやばいものに手を出してしまったのかもしれない。昨日の夜コンビニで見た無邪気で無垢な少年はどこにもおらず。ただ獲物を前にした獣だけが若草色の瞳を細めて咲真を見ていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

そんなの聞いていませんが

みけねこ
BL
お二人の門出を祝う気満々だったのに、婚約破棄とはどういうことですか?

全速力の君と

yoyo
BL
親友への恋心に蓋をするために、離れることを決めたはずなのに

偽りの聖者と泥の国

篠雨
BL
「感謝すら忘れた者たちに、明日を語る資格はない」 自らの都合で聖王セシルを追放し、異世界から新たな「勇者」を召喚したアドレアン聖王国。 しかし、その身勝手な選択が、国を、大地を、そして人々の心を根底から腐らせていく。 壊れゆく少年勇者と、彼を歪に愛した騎士。 二人の執着が交わったとき、聖王国は二度と再生不能な終焉へと突き進む。 裏切り者たちには、因果応報という名の、容赦なき報いが下る。 これは、傲慢な国が崩壊するまでの、無慈悲な記録。 ----------------------------------------- 『嘘つき王と影の騎士』から引き続き読んでくださる皆様へ この物語は、セシルを虐げた者たちが、ただただ因果応報の末路を辿るだけの物語です。 本編に救いはありません。 セシルたちのその後が気になるという方は、本編は飛ばして、最終話の後に掲載する「閑話」のみをお読みいただくことをお勧めいたします。 本作は『嘘つき王と影の騎士』の続編となりますが、前作をお読みでない方でも一つの物語としてお楽しみいただけます。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

処理中です...