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グランディ帝国編-第二章
第六話 「平和の代償」
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「全軍――」
副官カイエンの声が、重々しい鐘の音のように、死のように静まり返った宮殿に響き渡る。
そこには、敵味方の境を超えた、純粋な軍人としての敬意が込められていた。彼はキャロラインが倒れた方角へと向き直り、粛然とした面持ちで、高らかに号令した。
「その忠誠を貫きし魂に――敬礼!」
数百、数千の兵士が、まるで一つの意志に操られるかのように、整然と、一斉に、片膝をついた。その、声なき、荘厳な光景は、キャロインの亡骸へ、敬意を表していた。
地に倒れ伏したままのベレーラは、全身を震わせ、涙で滲んだその両目を見開き、目の前の、あまりにも荒唐無稽で、しかし、この上なく荘厳な光景を、ただ呆然と見つめていた。己が敵が、己が親友の、弔いをしている様を。
彼女は、ついに、苦痛と共に、はっきりと、悟ったのだ。己が愚かさゆえに、最後まで自分を守るはずだったかけがえのない伴侶を、二度と戻れぬ袋小路へと、追い詰めたのだ……と。
腕の中のキャロインが、少しずつ、冷たくなっていく。
セリーヌは震える指で、血の気を失ったキャロラインの頬を、最後にもう一度、そっと撫でた。
涙が、なおも、糸の切れた真珠のように、制御を失い、固く閉ざされた瞼の隙間から滑り落ちる。キャロラインの冷たい鎧の上に、ぽつりと、落ち、弾け、砕け散り、とうに乾ききった血の痕と混じり合った。
やがて、セリーヌはゆっくりと顔を上げた。
その瞳から、個人的な哀しみは消えていた。後に残ったのは、深く、底なしの、暗い藍色。怒らずして自ずから発する威厳が、地に倒れ、見る影もない女王ベレーラへと、向けられた。
ベレーラは、その暗い藍色の瞳の中に、全てを、見た。
この異民族の統帥が抱く、戦争への憎悪、死者への悲憫、そして……その悲憫の下に隠された、この全ての元凶――即ち、己自身へと向けられた、果てなき、氷の如き、怒りを。
「知っているか、ベレーラ?」
セリーヌの声は平坦だったが、反論を許さぬ冷酷さが宿っていた。
「この三年間、我ら双方の死傷者は、数え切れぬ。罪なき民が家を追われ、故郷を破壊された。その全ては、そなたの傲慢と、貴族どもの貪欲さが招いたことだ」
彼女は、腕の中の亡骸を、さらに固く抱きしめた。
「平和とは、巨大な代償を以て贖うものだ!戦争がどれほど残酷か、私は身をもって知っている。だからこそ、私は願った……この戦の勝利を手にすると同時に、できる限り、無益な損失を減らすことを!」
セリーヌの声が、突如として甲高くなった。それは、世界に宣告するかのように、明確で、力強かった。
「我らアルタナスが、そなたらの帝国を踏み潰そうと思えば、赤子の手を捻るより容易い。まる三年も、必要ない」
「だが……」
セリーヌの口調が、僅かに、詰問するような色を帯びた。
「スカロディア女王陛下は、この私に大軍を率いさせ、この土地で、そなたと、そなたの軍と、まる三年間も、戦わせた」
彼女の視線が、ベレーラを、その深藍の瞳が、魂の奥底まで、射抜いた。
「……何故だと、思う?」
副官カイエンの声が、重々しい鐘の音のように、死のように静まり返った宮殿に響き渡る。
そこには、敵味方の境を超えた、純粋な軍人としての敬意が込められていた。彼はキャロラインが倒れた方角へと向き直り、粛然とした面持ちで、高らかに号令した。
「その忠誠を貫きし魂に――敬礼!」
数百、数千の兵士が、まるで一つの意志に操られるかのように、整然と、一斉に、片膝をついた。その、声なき、荘厳な光景は、キャロインの亡骸へ、敬意を表していた。
地に倒れ伏したままのベレーラは、全身を震わせ、涙で滲んだその両目を見開き、目の前の、あまりにも荒唐無稽で、しかし、この上なく荘厳な光景を、ただ呆然と見つめていた。己が敵が、己が親友の、弔いをしている様を。
彼女は、ついに、苦痛と共に、はっきりと、悟ったのだ。己が愚かさゆえに、最後まで自分を守るはずだったかけがえのない伴侶を、二度と戻れぬ袋小路へと、追い詰めたのだ……と。
腕の中のキャロインが、少しずつ、冷たくなっていく。
セリーヌは震える指で、血の気を失ったキャロラインの頬を、最後にもう一度、そっと撫でた。
涙が、なおも、糸の切れた真珠のように、制御を失い、固く閉ざされた瞼の隙間から滑り落ちる。キャロラインの冷たい鎧の上に、ぽつりと、落ち、弾け、砕け散り、とうに乾ききった血の痕と混じり合った。
やがて、セリーヌはゆっくりと顔を上げた。
その瞳から、個人的な哀しみは消えていた。後に残ったのは、深く、底なしの、暗い藍色。怒らずして自ずから発する威厳が、地に倒れ、見る影もない女王ベレーラへと、向けられた。
ベレーラは、その暗い藍色の瞳の中に、全てを、見た。
この異民族の統帥が抱く、戦争への憎悪、死者への悲憫、そして……その悲憫の下に隠された、この全ての元凶――即ち、己自身へと向けられた、果てなき、氷の如き、怒りを。
「知っているか、ベレーラ?」
セリーヌの声は平坦だったが、反論を許さぬ冷酷さが宿っていた。
「この三年間、我ら双方の死傷者は、数え切れぬ。罪なき民が家を追われ、故郷を破壊された。その全ては、そなたの傲慢と、貴族どもの貪欲さが招いたことだ」
彼女は、腕の中の亡骸を、さらに固く抱きしめた。
「平和とは、巨大な代償を以て贖うものだ!戦争がどれほど残酷か、私は身をもって知っている。だからこそ、私は願った……この戦の勝利を手にすると同時に、できる限り、無益な損失を減らすことを!」
セリーヌの声が、突如として甲高くなった。それは、世界に宣告するかのように、明確で、力強かった。
「我らアルタナスが、そなたらの帝国を踏み潰そうと思えば、赤子の手を捻るより容易い。まる三年も、必要ない」
「だが……」
セリーヌの口調が、僅かに、詰問するような色を帯びた。
「スカロディア女王陛下は、この私に大軍を率いさせ、この土地で、そなたと、そなたの軍と、まる三年間も、戦わせた」
彼女の視線が、ベレーラを、その深藍の瞳が、魂の奥底まで、射抜いた。
「……何故だと、思う?」
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