『人類を裏切った少年、魔族の総帥に拾われる』 ~国を毒殺して処刑されるはずが、深淵の力で魔界の英雄(?)に成り上がるようです~

M_mao

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グランディ帝国編

第2話 『豚』に見下ろされる気分

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リサは絨毯じゅうたんの上で、ただ眼球だけをギョロギョロと痙攣けいれんさせていた。

身体が鉛になったかのように重い。
動かない肉体の中で、早鐘を打つ心臓の音だけがうるさいほどに響いている。

(な、なによこれ……!?)
(なんで動かないのよッ!?)

思考を塗りつぶす恐怖の中、その「音」は聞こえた。

――カツン、カツン。

石造りの廊下を叩く、無機質な足音。
急ぐでもなく、躊躇ためらうでもなく。

音はリサの部屋の前でピタリと止まった。

コン、コン。

礼儀正しく、軽やかなノックが二回。
リサは声を出そうとした。だが、舌が鉛のように重い。

「……ダ、レ……」

ドォォォンッ!!

返事など待っていなかった。

厚手あつでのオーク材の扉が蹴り破られ、砕け散った鍵の木片がバラバラと床に散らばる。

硝煙しょうえんのような埃の中、そこに立っていたのは――油汚れに塗れた一人の少年。
その手には、不吉な輝きを放つ短剣ダガーが握られている。

(あいつ……雑用係ゴミ……?)

リサの瞳孔が針のように収縮する。
毎日アタシの足元に這いつくばって、靴を舐めるような目で媚びていたあのゴミが?

(まさか……あいつがやったの?)

エドは壊れた扉を無造作に閉めると、部屋の中へと足を踏み入れた。

その表情はなぎのように静かだ。
あまりに静かすぎて、肌があわ立つほどに。

彼の視線が、ベッドサイドに置かれた銀白の長靴ブーツに注がれる。

「……綺麗だ」

恍惚こうこつとした溜息。
彼はゆっくりと、床に転がるリサへと顔を向けた。

「この三ヶ月、俺が丹精込めて磨き上げましたからね」

一歩。また一歩。

エドが近づくたび、リサの絶望が深まっていく。
動け。動け。指一本でいいから!

「あ……ぅ、う……!」

眼球を限界まで動かし、視線だけで慈悲を乞う。

エドが目の前でしゃがみ込む。
いつも従順に伏せられていたその瞳には今、呼吸が止まるほど冷酷な光が宿っていた。

ガシッ。

「――がッ!?」

エドの手が伸び、手入れの行き届いたリサの金髪を乱暴に鷲掴みにした。
そのまま無理やり、後方へと引き倒す。

強制的に顎を上げさせられ、細い首筋が無防備に晒される。

「どうですか? 尊敬するリサ様」

切っ先が、ゆっくりと唇に這い寄る。
冷たい金属の感触。

鋭利えいりな刃先が薄皮を裂き、ツーッと鮮血せんけつの筋が顎へと伝う。

「あなたが『豚』と呼んだ人間に、こうして見下ろされる気分は」

「……喋れよ。昨日の夜みたいに俺の頭を踏みつけて、『残飯がお似合いのゴミクズ』って罵倒してみろよ」

エドの手が小刻みに震えている。
頭の中で、何かが囁く。

『やれ。その口に刃物を突っ込んで、舌をズタズタに引き裂いてやれ』

(……落ち着け)

(こいつ一人に構ってる暇はない……まだ、終わってないんだ)

エドは深く息を吸い込み、眼底に渦巻く狂気を理性の檻へと押し込める。

ドンッ!

「がはッ……!」

髪を掴んだまま、リサの後頭部を床板に叩きつける。

「本当なら百倍返しにしてやりたいところですが……生憎、時間がなくてね」

リサの瞳に、愕然がくぜんとした色が浮かんだ。
その表情が最期だった。

――ザシュッ。

銀閃ぎんせんが一文字に走る。

赤い噴水が舞い、エドの油で汚れた頬を温かい液体が濡らした。

エドは何の感慨もなく立ち上がる。
物言わぬ肉塊にくかいとなった「元・隊長」の頭髪を結び、腰ベルトに無造作にぶら下げた。

まるで市場で買った果物でも扱うような手つきだった。

窓を開け放つ。
視線の先にあるのは、遠く霞む渓谷だ。

「……待たせたな」

風が吹き込み、カーテンが揺れる。
部屋に残されたのは、首のない死体と、床一面に広がった鮮血の「利息」だけだった。


【本日はあと3話投稿します!(20時~21時頃)】

読んでいただきありがとうございます!
作者のM-maoです。

続きが気になる方へ朗報です。
本日、夜の20時~21時頃に、第3話~第5話までを一気に3話連続で投稿します!

エドの復讐劇はここからさらに加速します。
(特に第3話の展開は、ぜひ見ていただきたいです……!)

投稿通知を受け取るためにも、今のうちに【お気に入り登録(本棚に追加)】をしていただけると嬉しいです!

海外からの投稿で時差ボケと戦いながら執筆していますが、皆さんの応援が何よりのガソリンです。

それでは、今夜の更新でお会いしましょう!
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