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プロローグ 「自助努力には限界があります」
第十三話 「心の闇」
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「…朝比奈…雄介様、ですね? ……ご本人で間違い…ありませんね?」
受付のねーちゃんは、何度も手元の書類と俺を見比べる。
まあ、そうだよな。普通そういう反応になるよな。
性別も年齢も、何一つ該当しそうな項目がないもんな。ガチで相手する方が馬鹿だよな。
「はい。間違いありません」
だから、俺はおっさんの野太い声ではなく、鈴のなるような可愛らしい声で応えてやったさ。
無駄に声が高いのは、単にビビって声が裏返ったわけじゃないからねっ! 断じて違うんだからねっ!
……いやー、でも、マジで嫌な汗掻いてきたよ。
「少々お待ち頂いてよろしいでしょうか…」
「あ、はぃ」
軽く引きつった顔で俺が応えると、ねーちゃんは急いで立ち上がり、奥の方に座っている男の職員と何やら話をしている。
あー。嫌な予感するなぁ。やっぱり無理があったか。何だか、こっちをチラチラ見てるし。完全に不審者扱いだよ。
うわー、くそー、来るんじゃなかった。誰だよ、さっきLet's go!スマイルとか言ってはしゃいでた奴は。
第一、何度も言うがコミュ障の俺には、この状況はハードル高すぎるって。さっきから妙にソワソワして、正直なところビビりまくりだって。あー、緊張で余計にノドが渇く。
そして、しばらくして、男の職員がこちらにやってくる。きっと役職も上の方なんですよねー。怒られないかなー。
「ご家族の方ですよね?」
……おい。お前はねーちゃんにきちんと話を聞かなかったのか。その決めつけるような話し方は何だ。
これだから、役所の人間ってのは困る。善良な区民をバカにしやがって!
と、強気に出たい所だが、俺は小市民なのでそんなことはしない。ここは下手に下手にでるべきだ。
べ、別に怖いわけじゃないぞ! 俺は税金払ってないし、偉そうなことは言えないと、心得るだけの分別ある大人なだけなんだからねっ!
「いえ…本人です」
「…では、本日は男性であることを証明できるようなものは、何かお持ちですか?」
なん…だと……チ○ポか。チン○を見せろっていう事か。男の一物を見たいとは、なんて好色な野郎なんだ。
見せてやっても良いが、今は張りのあるプリプリの縦筋一本線しかない。現在、我が息子は失踪中で行方知れずだからな。もちろんプリプリだからって、プリンセスでキュアでないことは明白だ。
しかし、いきなりエゲツない事を言いやがる男だなー。
だから、俺は説明に困りながらも仕方なく、
「あーいえ…今は女になってて、下の方も付いてないんですけど」と、ボソボソと小さな声で応える。
「いえいえっ! そういう事ではなく、その…ですね。手術した病院の領収書とか。医師の証明書とか…」
すると男の職員は、あからさまに慌てた様子で、それを否定する。
ですよねー。いきなり見せろなんて言うわけないよね。
しかも、普通の人は病院で取るよね。俺みたいに意味不明な状態で、突然取れちゃったなんてケースあり得ないもんね。
あーあ、どうするんだよ。何だかスッゲー気不味い雰囲気なんだけど。
いやー…言った俺も恥ずかしくて耳まで真っ赤だし……ははは。はぁ…。くっそぉ自爆したじゃねぇか!
紛らわしい言い方をするんじゃねーよっっ! このタコがぁっっ!!
「その…領収書とか証明書がないと、やっぱりダメでしょうか」
「大変申し訳ないのですが…」
「えっと、両方とも用意できなさそうなんですけど?」
そういうと、男の職員はこちらを気の毒そうな顔で見る。
考えてみたら、海外で性転換手術をして病院が潰れた場合とかだと確かにかなり深刻だよな。
まあ、ここはダメ元で食い下がってみるしかないか。無理なら無理であきらめがつくしな。
しかしまいったなぁ…このままだと本当に手詰まりだぞ。
「分かりました…少々お待ちください」
そう言って今度は男の職員が席を外す。そして、自席に戻るとどこかに電話をかけているようだった。
さらに上に問い合わせてるのかな…。
出来れば、あんまり大事にはしたくないんだけどね。
そして散々またされた挙句、男の職員はこちらにやってきて一言。
「大変失礼ですが…性同一性障害の方、という事で宜しいですよね?」
「…はぁ」
俺はあんまりな質問に、思わず間抜けな声を上げてしまった。
まさか性同一性障害という単語が出てくるとは予想しなかったけど、まぁ普通に冷静に考えればそりゃそうだよな。
本人詐称とかで、警察呼ばれなかっただけ良かったよ本当に。自分が自分であることを証明するのが、こんなに大変だとは思わなかった。
この質問の後、家庭裁判所の手続きやら、病院を紹介するやら何だの言われて、問題が大きくなりそうだったので、俺は話を適当に誤魔化し退席した。
なので、結局得られたものは何もなし。つまり、完全な無駄足だったわけだ。
――マジで詰んだ。
……ん? まてよ、性同一性障害か。もしかして戸籍上、性別を変えちゃった方が、何かとうまくいくんじゃないか?
確か、性同一性障害者への救済策として、戸籍上の性別を変更するルートがあったはずだ。
ちょっと調べてみるか。俺は前向きに生きるって決めたのさ!
早速、俺は家に帰って戸籍上の性別変更について調べ、そして、そのまま崩れるように項垂れる。
家庭裁判所ってこのことだったんだな。性別を変えるには、どうやら裁判を起こさないとダメらしい。なんだそれ、面倒くせー。
それと性別の変更には、戸籍謄本が必要となる。そして、その戸籍謄本を取得するためには、本人確認書類が必要なのだ。
俺はその本人確認書類が欲しいから困ってるんだっつーのっっっ!!!
だから役所の縦割りは嫌いなんだーーー!!!
もうダメだ。せっかく前向きになったのに、心が折れる。バカにすんじゃねー! くそ、くそ、くそー!
……ふうぅ。取り合えず落ち着こう。
いずれにせよ、このままでは金の問題は深刻だ。ここは何とかして誰か他の人間に頼るしかない。
まぁ…頼れそうな人間って、今の俺には悠翔くらいしかいないんだけどね。
あいつはいい奴だし、間違っても殺さないようにしないとな……とは言え、なんだか寄生するみたいで嫌だなぁ。
それにしても、何だか疲れたよ。本格的にノドも乾いて腹も減ってきたし、これはいよいよヤバいな。
受付のねーちゃんは、何度も手元の書類と俺を見比べる。
まあ、そうだよな。普通そういう反応になるよな。
性別も年齢も、何一つ該当しそうな項目がないもんな。ガチで相手する方が馬鹿だよな。
「はい。間違いありません」
だから、俺はおっさんの野太い声ではなく、鈴のなるような可愛らしい声で応えてやったさ。
無駄に声が高いのは、単にビビって声が裏返ったわけじゃないからねっ! 断じて違うんだからねっ!
……いやー、でも、マジで嫌な汗掻いてきたよ。
「少々お待ち頂いてよろしいでしょうか…」
「あ、はぃ」
軽く引きつった顔で俺が応えると、ねーちゃんは急いで立ち上がり、奥の方に座っている男の職員と何やら話をしている。
あー。嫌な予感するなぁ。やっぱり無理があったか。何だか、こっちをチラチラ見てるし。完全に不審者扱いだよ。
うわー、くそー、来るんじゃなかった。誰だよ、さっきLet's go!スマイルとか言ってはしゃいでた奴は。
第一、何度も言うがコミュ障の俺には、この状況はハードル高すぎるって。さっきから妙にソワソワして、正直なところビビりまくりだって。あー、緊張で余計にノドが渇く。
そして、しばらくして、男の職員がこちらにやってくる。きっと役職も上の方なんですよねー。怒られないかなー。
「ご家族の方ですよね?」
……おい。お前はねーちゃんにきちんと話を聞かなかったのか。その決めつけるような話し方は何だ。
これだから、役所の人間ってのは困る。善良な区民をバカにしやがって!
と、強気に出たい所だが、俺は小市民なのでそんなことはしない。ここは下手に下手にでるべきだ。
べ、別に怖いわけじゃないぞ! 俺は税金払ってないし、偉そうなことは言えないと、心得るだけの分別ある大人なだけなんだからねっ!
「いえ…本人です」
「…では、本日は男性であることを証明できるようなものは、何かお持ちですか?」
なん…だと……チ○ポか。チン○を見せろっていう事か。男の一物を見たいとは、なんて好色な野郎なんだ。
見せてやっても良いが、今は張りのあるプリプリの縦筋一本線しかない。現在、我が息子は失踪中で行方知れずだからな。もちろんプリプリだからって、プリンセスでキュアでないことは明白だ。
しかし、いきなりエゲツない事を言いやがる男だなー。
だから、俺は説明に困りながらも仕方なく、
「あーいえ…今は女になってて、下の方も付いてないんですけど」と、ボソボソと小さな声で応える。
「いえいえっ! そういう事ではなく、その…ですね。手術した病院の領収書とか。医師の証明書とか…」
すると男の職員は、あからさまに慌てた様子で、それを否定する。
ですよねー。いきなり見せろなんて言うわけないよね。
しかも、普通の人は病院で取るよね。俺みたいに意味不明な状態で、突然取れちゃったなんてケースあり得ないもんね。
あーあ、どうするんだよ。何だかスッゲー気不味い雰囲気なんだけど。
いやー…言った俺も恥ずかしくて耳まで真っ赤だし……ははは。はぁ…。くっそぉ自爆したじゃねぇか!
紛らわしい言い方をするんじゃねーよっっ! このタコがぁっっ!!
「その…領収書とか証明書がないと、やっぱりダメでしょうか」
「大変申し訳ないのですが…」
「えっと、両方とも用意できなさそうなんですけど?」
そういうと、男の職員はこちらを気の毒そうな顔で見る。
考えてみたら、海外で性転換手術をして病院が潰れた場合とかだと確かにかなり深刻だよな。
まあ、ここはダメ元で食い下がってみるしかないか。無理なら無理であきらめがつくしな。
しかしまいったなぁ…このままだと本当に手詰まりだぞ。
「分かりました…少々お待ちください」
そう言って今度は男の職員が席を外す。そして、自席に戻るとどこかに電話をかけているようだった。
さらに上に問い合わせてるのかな…。
出来れば、あんまり大事にはしたくないんだけどね。
そして散々またされた挙句、男の職員はこちらにやってきて一言。
「大変失礼ですが…性同一性障害の方、という事で宜しいですよね?」
「…はぁ」
俺はあんまりな質問に、思わず間抜けな声を上げてしまった。
まさか性同一性障害という単語が出てくるとは予想しなかったけど、まぁ普通に冷静に考えればそりゃそうだよな。
本人詐称とかで、警察呼ばれなかっただけ良かったよ本当に。自分が自分であることを証明するのが、こんなに大変だとは思わなかった。
この質問の後、家庭裁判所の手続きやら、病院を紹介するやら何だの言われて、問題が大きくなりそうだったので、俺は話を適当に誤魔化し退席した。
なので、結局得られたものは何もなし。つまり、完全な無駄足だったわけだ。
――マジで詰んだ。
……ん? まてよ、性同一性障害か。もしかして戸籍上、性別を変えちゃった方が、何かとうまくいくんじゃないか?
確か、性同一性障害者への救済策として、戸籍上の性別を変更するルートがあったはずだ。
ちょっと調べてみるか。俺は前向きに生きるって決めたのさ!
早速、俺は家に帰って戸籍上の性別変更について調べ、そして、そのまま崩れるように項垂れる。
家庭裁判所ってこのことだったんだな。性別を変えるには、どうやら裁判を起こさないとダメらしい。なんだそれ、面倒くせー。
それと性別の変更には、戸籍謄本が必要となる。そして、その戸籍謄本を取得するためには、本人確認書類が必要なのだ。
俺はその本人確認書類が欲しいから困ってるんだっつーのっっっ!!!
だから役所の縦割りは嫌いなんだーーー!!!
もうダメだ。せっかく前向きになったのに、心が折れる。バカにすんじゃねー! くそ、くそ、くそー!
……ふうぅ。取り合えず落ち着こう。
いずれにせよ、このままでは金の問題は深刻だ。ここは何とかして誰か他の人間に頼るしかない。
まぁ…頼れそうな人間って、今の俺には悠翔くらいしかいないんだけどね。
あいつはいい奴だし、間違っても殺さないようにしないとな……とは言え、なんだか寄生するみたいで嫌だなぁ。
それにしても、何だか疲れたよ。本格的にノドも乾いて腹も減ってきたし、これはいよいよヤバいな。
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