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第一章
授業後(真弓)
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やっと終わったはずの授業の終わり際に、数学担当の教師は余計な言葉を付け加えた。
そのおかげで、真弓はさらに気が重くなった。
冷血な女性教師は言い放った。
「そう、そう。今日は昼休憩の時に担任の先生から模試の返却があると思いますが、返却されたらすぐ各教科の偏差値を前回と比べて、弱点が克服できているかどうか確認して下さい。もう九月に入っているのだから、偏差値が下がったなんてことのないように!」
ほんの一瞬教室がざわついた。
「あと、質問がある人は放課後、自習室に来て下さい!……それじゃあ!」
教師はそう言って颯爽と教室を出て行った。それでも静寂は続いている。
トイレに立つ者、その場で伏せる者もいたが、ほとんどの生徒がその場ですぐに自習自学を始めだした。
さきほど消しゴムを落とした真弓は、その消しゴムを手に静かに席から離れ、一人で教室の後方に進んだ。そして、手のひらに載せられた×の書かれた真新しい消しゴムをしばらく見つめてから、ゴミ箱に……投げ捨てた。
一度落ちた物を使うのは縁起が悪い……受験生としての験担ぎだった。これほどテクノロジーが進歩したこの時代に、馬鹿馬鹿しいことかも知れないが……、それは承知しているのだが……。メンタル面で悪影響なことほど、受験にとってはマイナスになる。だから、そういったことは極力除去したかった。それほど切羽詰まっていたのだ。
彼女は、しばらく、ゴミ箱の中の消しゴムを見つめたまま突っ立っていた。それでもクラスの中でだれ一人と真弓に声を掛けてくる者はいなかった。
真弓が通う高校は県内でも有数の進学校である。彼女がいる二年A組の教室は常にピリピリした雰囲気のクラスだった。そして、担任をはじめ、校内にいる『先生』と呼ばれる職業の大人たちは完全なティーチング・マシーンである。テレビや映画に出てくる若い教師と学生の熱い絆を謳った学園ドラマの脚本のような出来事も、恋愛などのドラマチックなイベントもここでは皆無なのだ。クリスマス? バレンタイン? 受験直前の者たちにとっては禁句中の禁句だった。偏差値が上がったか、下がったか? ここでのドラマは、すべてそこに集約される。校内にいる一日数時間の間に『偏差値』という言葉を何度耳にすることか……。
おまけに、真弓にとっては運がいいのか、悪いのか……、両親がともに受験に携わる仕事に就いている。父親は有名予備校の数学の教師、母親は名門私立高校の英語の教師……。ただただ、プレッシャーだった。
そのおかげで、真弓はさらに気が重くなった。
冷血な女性教師は言い放った。
「そう、そう。今日は昼休憩の時に担任の先生から模試の返却があると思いますが、返却されたらすぐ各教科の偏差値を前回と比べて、弱点が克服できているかどうか確認して下さい。もう九月に入っているのだから、偏差値が下がったなんてことのないように!」
ほんの一瞬教室がざわついた。
「あと、質問がある人は放課後、自習室に来て下さい!……それじゃあ!」
教師はそう言って颯爽と教室を出て行った。それでも静寂は続いている。
トイレに立つ者、その場で伏せる者もいたが、ほとんどの生徒がその場ですぐに自習自学を始めだした。
さきほど消しゴムを落とした真弓は、その消しゴムを手に静かに席から離れ、一人で教室の後方に進んだ。そして、手のひらに載せられた×の書かれた真新しい消しゴムをしばらく見つめてから、ゴミ箱に……投げ捨てた。
一度落ちた物を使うのは縁起が悪い……受験生としての験担ぎだった。これほどテクノロジーが進歩したこの時代に、馬鹿馬鹿しいことかも知れないが……、それは承知しているのだが……。メンタル面で悪影響なことほど、受験にとってはマイナスになる。だから、そういったことは極力除去したかった。それほど切羽詰まっていたのだ。
彼女は、しばらく、ゴミ箱の中の消しゴムを見つめたまま突っ立っていた。それでもクラスの中でだれ一人と真弓に声を掛けてくる者はいなかった。
真弓が通う高校は県内でも有数の進学校である。彼女がいる二年A組の教室は常にピリピリした雰囲気のクラスだった。そして、担任をはじめ、校内にいる『先生』と呼ばれる職業の大人たちは完全なティーチング・マシーンである。テレビや映画に出てくる若い教師と学生の熱い絆を謳った学園ドラマの脚本のような出来事も、恋愛などのドラマチックなイベントもここでは皆無なのだ。クリスマス? バレンタイン? 受験直前の者たちにとっては禁句中の禁句だった。偏差値が上がったか、下がったか? ここでのドラマは、すべてそこに集約される。校内にいる一日数時間の間に『偏差値』という言葉を何度耳にすることか……。
おまけに、真弓にとっては運がいいのか、悪いのか……、両親がともに受験に携わる仕事に就いている。父親は有名予備校の数学の教師、母親は名門私立高校の英語の教師……。ただただ、プレッシャーだった。
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