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第五章
バイカーとの遭遇
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庵を出てから、四人は三十分ほど、なだらかな草原を歩き続けた。空は相変わらず薄明るかった。喧騒は遠くの方で鳴り響いている。
「ヴァレーって、何ですか?」
「……」
三人とも口が重かった。
「ここにいる人たちのほとんどが、いつか行く場所よ」
やがて、上り坂の端が見えてきた。すると頂きを越えてくる数台のバイクが見えた。
バイクは後輪が二つついた三輪式のバイク三台だった。グループは四人の方へ近づいてきた。
間もなくバイクは四人のすぐ前で止まった。三人揃って背が高く、髪にテカテカにポマードを塗ったロックン・ローラー系の男三人組のグループである。男の一人がバイクにまたがったまま三人に声を掛けた。
「やあ」
「こんにちは」エリカが臆することなく先頭に立った。
男は不思議そうに四人を見た。
「あれ、だれを?」
エリカは首を横に振った。「だれを?」という言葉がランをまた悩ませた。
「違うの、この子にヴァレーを見せようと思って……」
そう言って、エリカはランの方を見た。
「新人?」
「そう。何も分かってない子」
「候補か……」
「バカ言わないで、そんなのじゃないわ。そっちは?」
「ダチだよ」
「そう……」
ラン以外の三人は、その言葉を聞いて、やるせなさそうだった。ランは会話の意味がまったく分からなかった。
「乗せていこうか?」
「ううん、結構よ」
そして二組は別れの言葉を交わした。そして、それぞれの方向へ向かった。バイクは轟音を響かせ、下っていった。女子高生四人組は再び登り始めた。しかし、すっかり会話は途切れて、無言のまま進んだ。重たい空気に変わってきたことを、ランは肌で感じた。それからさらに十分ほど歩き続けただろうか、丘の頂きにたどり着いた。「着いたわ」
エリカは見下ろすように谷間の方を指した。ランは目を細めたが、よく分からない。ただ広大な平地が広がっているだけのように見えのだが……。
「ここがヴァレー?」
ランは合点がいかなかった。一体、エリカたちが何を見せたく、何を伝えたいのか……、まったく分からない。ここに来れば、施設の利用や飲食が無料である意味が分かると言ったが、この広大な平地のどこにその答えがあるというのだ。
戸惑っているランを見て、エリカがいった。
「もう少し近づきましょう」
ここまで来て、今度はユイとリホが躊躇っているようだった。それを見たエリカが今度は二人に言った。
「ユイ、あなたが言い出したのよ」
四人は頂上を越え再びゆっくりと下りだした。
ランは足が止まった。視界には徐々に動きが見えてきた。初めは動物がいると思った。しかし、それらは人間らしい、それも一人、二人ではない。何百、何千……いや何万という人の群れだった。もしかしたら、もっといるかも知れない。それが一応に動いているのか、立ち止まっているのか分からないような様子だった。風になびく背の高い草のようにユラユラと揺れているように見える。
「ねえ、あ、あれって、にん……」
言葉を言い切る前に、三人の目の前でランの姿が消えた。
「ラ、ランちゃん……」
残された三人はさほど驚きもせずに目を合わせた。
「見てたのね。良かったわ」
空を見上げたエリカがポツリと呟いた。
「いいなぁ」
リホも空を仰いだ。
ユイは涙を流してその場で崩れた。
「ヴァレーって、何ですか?」
「……」
三人とも口が重かった。
「ここにいる人たちのほとんどが、いつか行く場所よ」
やがて、上り坂の端が見えてきた。すると頂きを越えてくる数台のバイクが見えた。
バイクは後輪が二つついた三輪式のバイク三台だった。グループは四人の方へ近づいてきた。
間もなくバイクは四人のすぐ前で止まった。三人揃って背が高く、髪にテカテカにポマードを塗ったロックン・ローラー系の男三人組のグループである。男の一人がバイクにまたがったまま三人に声を掛けた。
「やあ」
「こんにちは」エリカが臆することなく先頭に立った。
男は不思議そうに四人を見た。
「あれ、だれを?」
エリカは首を横に振った。「だれを?」という言葉がランをまた悩ませた。
「違うの、この子にヴァレーを見せようと思って……」
そう言って、エリカはランの方を見た。
「新人?」
「そう。何も分かってない子」
「候補か……」
「バカ言わないで、そんなのじゃないわ。そっちは?」
「ダチだよ」
「そう……」
ラン以外の三人は、その言葉を聞いて、やるせなさそうだった。ランは会話の意味がまったく分からなかった。
「乗せていこうか?」
「ううん、結構よ」
そして二組は別れの言葉を交わした。そして、それぞれの方向へ向かった。バイクは轟音を響かせ、下っていった。女子高生四人組は再び登り始めた。しかし、すっかり会話は途切れて、無言のまま進んだ。重たい空気に変わってきたことを、ランは肌で感じた。それからさらに十分ほど歩き続けただろうか、丘の頂きにたどり着いた。「着いたわ」
エリカは見下ろすように谷間の方を指した。ランは目を細めたが、よく分からない。ただ広大な平地が広がっているだけのように見えのだが……。
「ここがヴァレー?」
ランは合点がいかなかった。一体、エリカたちが何を見せたく、何を伝えたいのか……、まったく分からない。ここに来れば、施設の利用や飲食が無料である意味が分かると言ったが、この広大な平地のどこにその答えがあるというのだ。
戸惑っているランを見て、エリカがいった。
「もう少し近づきましょう」
ここまで来て、今度はユイとリホが躊躇っているようだった。それを見たエリカが今度は二人に言った。
「ユイ、あなたが言い出したのよ」
四人は頂上を越え再びゆっくりと下りだした。
ランは足が止まった。視界には徐々に動きが見えてきた。初めは動物がいると思った。しかし、それらは人間らしい、それも一人、二人ではない。何百、何千……いや何万という人の群れだった。もしかしたら、もっといるかも知れない。それが一応に動いているのか、立ち止まっているのか分からないような様子だった。風になびく背の高い草のようにユラユラと揺れているように見える。
「ねえ、あ、あれって、にん……」
言葉を言い切る前に、三人の目の前でランの姿が消えた。
「ラ、ランちゃん……」
残された三人はさほど驚きもせずに目を合わせた。
「見てたのね。良かったわ」
空を見上げたエリカがポツリと呟いた。
「いいなぁ」
リホも空を仰いだ。
ユイは涙を流してその場で崩れた。
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