V3

チャッピー&せんせ

文字の大きさ
43 / 73
第七章

ビジター? ダスター?

しおりを挟む
 ランは諦めたようにベンチに腰かけていた。夕日が沈みかけている。世界がオレンジ色に染まりだした。美しい海岸の風景……さっきまでは疲れた心を癒してくれるはずの眺めだったが……一体……これから夜を迎える。このままここにいるのであろうか?
「ここには夜があるのね……」
 独り言をポツリと呟いた。
 あらためて周りを見た。空には桁はずれに大きい宇宙船。そして、よく見ると海には大きな船が浮かんでいる。戦争映画に出てくような大砲がたくさんついた戦艦だ。
 もういちいち驚く気にもならない。戦艦が夕日に映える。そして、変な人たち。そう、変なのだ。何がと言われても困るが、ドラム缶のようなロボット、金や銀に輝いているロボットが何体も右往左往しているし、見るからにグロテスクな怪物のようなものまでいる。こちらに危害を加えるようなことは無さそうなのだが、何とも奇妙な風景だった。
 ランはあらためて空を眺めた。やはりあの大きな宇宙船が浮かんでいる。数日の間に、おかしな体験をたくさんしてきたが、ここは最もおかしな所なのかも知れない。まず、人間ではないものがウロウロしているから、声を掛けることもできない。それよりも、それらに近づくことさえもできなかった。できれば視界に入れることもイヤだった。
「こんばんは!」
 不意に声を掛けられて、ランは飛び上がった。
 ランはすぐに声がしたベンチの横に体を向けた。しかし、そこには怪物ではなく、満面の笑顔の若い男が見下ろすように立っていた。
「いらっしゃい!」
 また、ランの思考の中にいくつもの? が浮かんだ。「いらっしゃい」とはどんな意味で言ったのだ。その若い男は腰からの上をベージュの布を巻いたような服を纏い、スパッツのようなものを履いていた。
「ようこそ! 僕はルーク・スカイウォーカー!」
「ルーク? スカイ?……日本人じゃないの?」
 若者の顔はどう見てみも東洋人……いや、日本人の顔だった。
「日本人だよ。そんなことより、すごいでしょ? エンタープライズ号だよ」
 そう言って自慢げに空を見上げて、空に浮かぶ大型宇宙船を指した。
「それに宇宙戦艦ヤマト!」
 そして、今度は海に浮いている大きな戦艦を指さした。するとランの方に振り向いて講釈が始まった。
「このフィールドは気付いたと思うけどチャルマンの酒場を意識しているんだ。乾燥地帯のイメージがあるから、いきなり海沿いにチャルマンって気付かない人もいると思うけど、よく見るとキャストのメンバーがマニアのツボをついていると思うんだよね。分かる人には分かるっていう設定なんだ。それに、本物のC3―POやR2―D2もいるんだけど、わざと同じ型式のロボットをたくさん配置しているから、ここにくるビジターは結構必死になって探してるんだ。本物に出会えたらラッキーだよ。僕だって年に数回しか会えないくらいだからね。結構、彼らを探しに訪れるビジターもいるんだ。みんな出会うと大喜びで記念写真を撮っているよ。それにあのエンタープライズ号もヤマトもすごいだろう? 日米の代表的な宇宙船機が同時に見ることができるなんて、ここだけだと思うよ。すごいアイディアだろ? 因みにあの中には実際に入ることもできるんだよ。でも、それは有料にしているんだ。だって、これ買うの、結構高かったんだぜ。それに、このあともパーツを増やしたいから、その資金にしようと思ってね。実は今度はジョルジュ・メリエスの『月世界旅行』の月を浮かべようと思ってるんだ。知っていると思うけど、あの目にロケットの刺さった月さ! これはレアだろう? ここに目をつけるヤツってなかなかいないと思うよ。それと『宇宙戦争』のテトラポットも検討中なんけど、ただ、師匠の話しだと、これは意外に持っている人も多いらしくて、あまりレアじゃないって言うんだよ。知っての通り、作りは単純っぽいからね。意外と個人で作っちゃうような人もいるかもね。まあ、取りあえず、それをさ、今師匠に頼んでいるところなんだ。そうそう、師匠っていうのはね、これらのパーツを作っている僕の相談役みたいな人なんだけど、何でも二千三十六年の未来から来たって言うんだけどね。それで、じゃあ、未来のことを教えてって頼むんだけど、あまり教えると未来が変わってしまい、自分が存在しなくなるおそれがあるから、あまり言えないってさ、ふふん、本当かどうか……」
 ランはルークといった男の話しの十分の一も理解できなかった。そして、返事に困った。正直、そんなものに興味もなく、どうでもよかった。
「あの~」
「なに?」
 男性はあくまでも笑顔を崩さずにいた。
「ここはどこですか?」
 予想外の言葉に、さすがに男は困惑の表情を見せた。
「えっ? どこって?知らないのにいるの? 僕のフィールドのビジターじゃないの?」
 ランは苦笑いで首を傾けた。
「じゃあ、どうしてここにいるの?」
「分かんない。いろんなことがあり過ぎて、何が何だか……」
「もしかして……」
 次の言葉が出るまで一息あった。
「ビジターじゃなくて……もしかして、ダスター?」
「ビジター? ダ、ダスター?」
 ランにとっては、結局は謎が増えるだけだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

処理中です...