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第七章

母親のバスタイム

　真弓は自室で二時間ほど数学に向き合っていた。分厚いセンター入試の過去問題の一つに夢中だった。解答を導き出し、「よしっ！」と小声を出す。別巻の解答集から今格闘した問題を探し出し、答えを見比べた。「やったー！」と、見事に自分のマークと全問一致したことに満足し、一旦小休止を入れることにした。そして、階下に降り飲み物を一杯とって、ネットを確認しようとした。
　しかし、いつの間にか母親が帰ってきているようだった。真弓は舌打ちをしたい気分だったが、それはさすがにできない。
「あら、真弓、勉強中だったの？」
「うん」
　数日前の機嫌の悪い母親の姿ではなかった。今日の休日をショッピングで満喫してストレスを発散でもしてきたのだろうか？
「晩御飯できているわよ」
「うん、ありがと。でも、今、問題解いている途中だから。飲み物だけで……」
「そう、じゃあ、置いておくから自分で温めて食べてね」
「分かった」
「おかあさん、先にお風呂いってくるね」
　シメたと思った。母親は風呂時間が長いのだ。準備から完全に出るまでが異常に長いのだ。そのことでよく父親と喧嘩のタネになるのだ。それこそ予備校講師の父親がいない休日は思う存分風呂に浸かれる。真弓にとってはラッキーだった。
　母親の準備が始まると、麦茶の入ったグラスを持って、そそくさと二階に上がった。そして、ドア越しに母が浴室に入るのを確認し、シャワーの音が始まるのを待った。
「ここからが長いのよね」
　脱衣所のドアが開く音を聞くと、ドアを半開きにして、音を窺った。数分後、浴室のドアの開く音がして、いよいよシャワー音が始まった。