V3

チャッピー&せんせ

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第九章

V3

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 真弓は揺らいでいた。本当に実行できるのであろうか。
 小学四年生の誕生日に与えられたパソコン。当初は、五年生から受験生活が始まるために、受験データや資料の閲覧、問題のピック・アップを目的としていた。事実、その利用がほとんどだった。しかし、世間ではSNSをはじめ、数々のコミュニケーション・ツールが開発され、真弓も自然とその世界を知るようになる。
 特に目を見張ったのが、自己育成型のAI機能を搭載した《V3》だった。そこには、フィールドという自分だけの世界を創り上げることができた。登場させる人物も、建物も文化も有形無形問わず、自分の思うように創造することできた。リアリティの追及も完ぺきだった。日々の日の出、日の入りは勿論、風が吹いた時の物体の動き、水流が起こす現象、動植物の進化の仕方、アバターが与える自然環境への影響などまでが考慮され、まさに天地創造を味わうことができたのだ。その正確さは日々、年々正確に、そして精密に表現されていく。
 その逆に現実では味わえないような、魔法の世界も、未知の世界も、人間が決して行くことのできない深海の世界も空中での活動までも、設定さえすれば可能であった。
 また、もともとコミュニケーションのツール・アプリとして登場した《V3》は、フィールド間の移動も自由だったので、みんなこぞって自分のフィールドを極めるようになり、ビジターと呼ばれる別のフィールドから来るアバターに喜ばれようと努めた。
 世界遺産や有名な自然地形、レアな建造物など有料のパーツが売買されるのも言うまでもない。当然、フィールド上に再現するデータ・パーツを売買することをビジネスとする個人、企業も多数現れた。
 自分のフィールドがネット上で話題になると、マスコミに取り上げられることもある。現実世界の有名人のアバターが自分のフィールドに訪れてくれるようになったりすれば、ますますオーナー達の熱は上がり、次々と自分のフィールドに贅をつくすようになったのだ。もはや、現実の生活に対しての希望を諦め、《V3》で夢の生活を過ごすことが生きる目的に変わってくる者もでてきた。
 わずか十歳の女の子にとっては、まさに夢の世界だった。自分の憧れの生活をアバターに託すことができ、たくさんの登場人物を創り、細かい設定を与えフィールドを創り上げて言った。女の子特有の箱庭遊びのように……。そして、アバターたちはある程度の性格上の設定を与えれば勝手にコミュニティを創り上げて、成長していくのだ。
真弓は、ランというアバターを創り上げた。性格は明るく、友達も多い、いつも楽しく笑顔の絶えない毎日……そんな軽い設定であったが、ランは実際の思春期の少女のように育っていった。フィールドは自分のいる現実世界の街に合わせた。家の内外、近所の建物などかなり忠実に創り上げた。それはあくまでも、ランがもう一人の自分でいたいからなのだ。
 当初は真弓の両親も反対もせず、箱庭的なシュミレーション・アプリぐらいのことにしか認識していなかったのだが、徐々に、《V3》の依存性の高さを知った。現実の生活から逃避し、《V3》の世界と、現実の世界の区別がつかない者が現れるという現象が社会問題にもなった。そんなことから真弓に対しては、《V3》との決別を促したが、あくまでも勉強の息抜きという名目で真弓はランを育て続けた。
 そんな両親の心配をよそに、七年もの歳月、真弓はランの成長を見守り、フィールドを完成させてきた。もう真弓にとって、ランはただのアバターではないのだ。自分の分身なのだ。ランに魂を注ぐことで、真弓自身が抜け殻になりつつあった。
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