61 / 73
第九章
V3
しおりを挟む
真弓は揺らいでいた。本当に実行できるのであろうか。
小学四年生の誕生日に与えられたパソコン。当初は、五年生から受験生活が始まるために、受験データや資料の閲覧、問題のピック・アップを目的としていた。事実、その利用がほとんどだった。しかし、世間ではSNSをはじめ、数々のコミュニケーション・ツールが開発され、真弓も自然とその世界を知るようになる。
特に目を見張ったのが、自己育成型のAI機能を搭載した《V3》だった。そこには、フィールドという自分だけの世界を創り上げることができた。登場させる人物も、建物も文化も有形無形問わず、自分の思うように創造することできた。リアリティの追及も完ぺきだった。日々の日の出、日の入りは勿論、風が吹いた時の物体の動き、水流が起こす現象、動植物の進化の仕方、アバターが与える自然環境への影響などまでが考慮され、まさに天地創造を味わうことができたのだ。その正確さは日々、年々正確に、そして精密に表現されていく。
その逆に現実では味わえないような、魔法の世界も、未知の世界も、人間が決して行くことのできない深海の世界も空中での活動までも、設定さえすれば可能であった。
また、もともとコミュニケーションのツール・アプリとして登場した《V3》は、フィールド間の移動も自由だったので、みんなこぞって自分のフィールドを極めるようになり、ビジターと呼ばれる別のフィールドから来るアバターに喜ばれようと努めた。
世界遺産や有名な自然地形、レアな建造物など有料のパーツが売買されるのも言うまでもない。当然、フィールド上に再現するデータ・パーツを売買することをビジネスとする個人、企業も多数現れた。
自分のフィールドがネット上で話題になると、マスコミに取り上げられることもある。現実世界の有名人のアバターが自分のフィールドに訪れてくれるようになったりすれば、ますますオーナー達の熱は上がり、次々と自分のフィールドに贅をつくすようになったのだ。もはや、現実の生活に対しての希望を諦め、《V3》で夢の生活を過ごすことが生きる目的に変わってくる者もでてきた。
わずか十歳の女の子にとっては、まさに夢の世界だった。自分の憧れの生活をアバターに託すことができ、たくさんの登場人物を創り、細かい設定を与えフィールドを創り上げて言った。女の子特有の箱庭遊びのように……。そして、アバターたちはある程度の性格上の設定を与えれば勝手にコミュニティを創り上げて、成長していくのだ。
真弓は、ランというアバターを創り上げた。性格は明るく、友達も多い、いつも楽しく笑顔の絶えない毎日……そんな軽い設定であったが、ランは実際の思春期の少女のように育っていった。フィールドは自分のいる現実世界の街に合わせた。家の内外、近所の建物などかなり忠実に創り上げた。それはあくまでも、ランがもう一人の自分でいたいからなのだ。
当初は真弓の両親も反対もせず、箱庭的なシュミレーション・アプリぐらいのことにしか認識していなかったのだが、徐々に、《V3》の依存性の高さを知った。現実の生活から逃避し、《V3》の世界と、現実の世界の区別がつかない者が現れるという現象が社会問題にもなった。そんなことから真弓に対しては、《V3》との決別を促したが、あくまでも勉強の息抜きという名目で真弓はランを育て続けた。
そんな両親の心配をよそに、七年もの歳月、真弓はランの成長を見守り、フィールドを完成させてきた。もう真弓にとって、ランはただのアバターではないのだ。自分の分身なのだ。ランに魂を注ぐことで、真弓自身が抜け殻になりつつあった。
小学四年生の誕生日に与えられたパソコン。当初は、五年生から受験生活が始まるために、受験データや資料の閲覧、問題のピック・アップを目的としていた。事実、その利用がほとんどだった。しかし、世間ではSNSをはじめ、数々のコミュニケーション・ツールが開発され、真弓も自然とその世界を知るようになる。
特に目を見張ったのが、自己育成型のAI機能を搭載した《V3》だった。そこには、フィールドという自分だけの世界を創り上げることができた。登場させる人物も、建物も文化も有形無形問わず、自分の思うように創造することできた。リアリティの追及も完ぺきだった。日々の日の出、日の入りは勿論、風が吹いた時の物体の動き、水流が起こす現象、動植物の進化の仕方、アバターが与える自然環境への影響などまでが考慮され、まさに天地創造を味わうことができたのだ。その正確さは日々、年々正確に、そして精密に表現されていく。
その逆に現実では味わえないような、魔法の世界も、未知の世界も、人間が決して行くことのできない深海の世界も空中での活動までも、設定さえすれば可能であった。
また、もともとコミュニケーションのツール・アプリとして登場した《V3》は、フィールド間の移動も自由だったので、みんなこぞって自分のフィールドを極めるようになり、ビジターと呼ばれる別のフィールドから来るアバターに喜ばれようと努めた。
世界遺産や有名な自然地形、レアな建造物など有料のパーツが売買されるのも言うまでもない。当然、フィールド上に再現するデータ・パーツを売買することをビジネスとする個人、企業も多数現れた。
自分のフィールドがネット上で話題になると、マスコミに取り上げられることもある。現実世界の有名人のアバターが自分のフィールドに訪れてくれるようになったりすれば、ますますオーナー達の熱は上がり、次々と自分のフィールドに贅をつくすようになったのだ。もはや、現実の生活に対しての希望を諦め、《V3》で夢の生活を過ごすことが生きる目的に変わってくる者もでてきた。
わずか十歳の女の子にとっては、まさに夢の世界だった。自分の憧れの生活をアバターに託すことができ、たくさんの登場人物を創り、細かい設定を与えフィールドを創り上げて言った。女の子特有の箱庭遊びのように……。そして、アバターたちはある程度の性格上の設定を与えれば勝手にコミュニティを創り上げて、成長していくのだ。
真弓は、ランというアバターを創り上げた。性格は明るく、友達も多い、いつも楽しく笑顔の絶えない毎日……そんな軽い設定であったが、ランは実際の思春期の少女のように育っていった。フィールドは自分のいる現実世界の街に合わせた。家の内外、近所の建物などかなり忠実に創り上げた。それはあくまでも、ランがもう一人の自分でいたいからなのだ。
当初は真弓の両親も反対もせず、箱庭的なシュミレーション・アプリぐらいのことにしか認識していなかったのだが、徐々に、《V3》の依存性の高さを知った。現実の生活から逃避し、《V3》の世界と、現実の世界の区別がつかない者が現れるという現象が社会問題にもなった。そんなことから真弓に対しては、《V3》との決別を促したが、あくまでも勉強の息抜きという名目で真弓はランを育て続けた。
そんな両親の心配をよそに、七年もの歳月、真弓はランの成長を見守り、フィールドを完成させてきた。もう真弓にとって、ランはただのアバターではないのだ。自分の分身なのだ。ランに魂を注ぐことで、真弓自身が抜け殻になりつつあった。
0
あなたにおすすめの小説
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
繰り返しのその先は
みなせ
ファンタジー
婚約者がある女性をそばに置くようになってから、
私は悪女と呼ばれるようになった。
私が声を上げると、彼女は涙を流す。
そのたびに私の居場所はなくなっていく。
そして、とうとう命を落とした。
そう、死んでしまったはずだった。
なのに死んだと思ったのに、目を覚ます。
婚約が決まったあの日の朝に。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。
雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。
その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。
*相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる