一家で異世界に引っ越ししたよ!

シャア・乙ナブル

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28話 異世界学園共学(驚愕)編

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「にゃっ!? ダラン一体にゃにをやってるにゃ!」

 元気よく鼻歌交じりにログハウスに入ってきたヒラリエはダランを見て思わず壁際まで飛び退いた。そこには反対側の壁際で、両手に持った煉瓦をくっつけたり離したりしながら、猛烈な勢いで反復横跳びを繰り返す一人のドワーフがいた。ダランは近寄ってきたヒラリエにすら気付かず、ひたすら先述の行動を繰り返している。

「へ、変にゃ筋肉トレーニングにでも目覚めたのかにゃあ? 正直動きが気持ち悪いにゃが」
「なぜだ......なぜうまくいかんのだ......」

 ダランは一人で何事か呟いている。ヒラリエは薄気味悪い感覚に襲われ耳をプルプルと震わせたが、外から近付いてくるキエルとルミナの気配を感じ、意識をそちらに向け暖炉前の事務用イスに座る。それと同時にログハウスのドアが開き二人が入ってきた。

「おかえりにゃ、キエルにルミ......にゃっ!?」

 入ってきたのはキエルでもルミナでもなく、生ける屍......いわゆるアンデッドだった。

「か......かゅ......うま......」
「ふ、ふふふ......役立たず......わたくしが......」
「ちょおっ!?」

 視点が定まらず、青い顔をしてフラフラ入ってくる二人にヒラリエはイスの上で跳び上がって驚く。オーシンも似たような事をしてイスから落ちているので、ヒラリエのバランス感覚は大変優れていると言える。 

「キ、キエル? ルミにゃも一体どうしたにゃ!?」

 ヒラリエは恐る恐る二人に話しかける。二人は視点の定まらないままイスの前まで来ると、

「こ、これくらいの試練に屈したりする訳ないではありませんか!」

 キエルは突然天井を向いて叫び、力なくイスに座りこみ、再びふふふと薄ら笑いを浮かべている。ヒラリエは初めて見るキエルの姿に狼狽える。

「にゃ、にゃにがあったにゃキエル? ハッ! 殺気にゃ!」
「ファイヤー!」
「ぎにゃー!!」

 突然ヒラリエの正面のイスの前に立っていたルミナから魔法が放たれ、ヒラリエはダランの方向にイスごと転がってそれを避ける。炎は暖炉に入れてある薪に直撃し燃え広がる(暖炉内で)。

「フーッ! ルミにゃいきにゃりにゃにするにゃ! アタイがニュータイプにゃ獣人じゃにゃければ即死だったにゃりよ! 大変遺憾にゃ! 厳重に抗議するにゃ! 圧力外交にゃ!」

 ヒラリエは立ち上がり、耳と尻尾をピンと立て、全身を総毛立てて捲し立てる。

「これは攻撃魔法? 私は攻撃魔法を使ったはず......では生活魔法とは? ふ、ふふふ」

 ルミナはヒラリエを認識していないかのように薪が燃える様を見ながら呟き、糸の切れた人形のようにドサリとイスに座り込んだ。

「ちょっ! か、完全無視にゃ!?」
「土魔法じゃないとでも言うのかぁ!」
「に゛ゃあ゛!?」

 突然後ろからダランに叫ばれ、あまりの驚きにヒラリエは天井に爪を立ててしがみついた。そして遂に......

「み、みんにゃ一体どうしたのにゃー!」

 ヒラリエの叫びがログハウスを中心として辺り一帯に響いた。


~時は少し遡る~

「これで全員のサイズは測れましたので問題はなさそうですね、ルミナ」
「そうね、あのメジャーという道具は便利だったわね。おかげで捗ったわ」
「ええ、お借りしたノートにペンでみんなのサイズを書き込んでありますから、忘れる事もなく慌てずに作れます」

 二人は違和感なく会話しているが、メジャーに表記されている数字は朋広の世界のものであり、キエル達がノートに書き込んだ文字や数字も同じ世界のものである。勿論、本来なら使われているものは当然違うのだが、ここに正和がシロッコに頼んだ力が働いていた。二人は無意識下でそれを受け入れて使っているのである。神であるシロッコにしか出来ない力技だった。

「そのペンもノートもすごく実用的に洗練された道具だと思うわ、人族も短命種なのに大したものね」
「とりあえずこれでわたくし達も幸依様の手伝いに向かえます」

 家事を手伝う事になっていたのは正和の指示だからだ。別に不自然な事ではない。

「幸依様、お待たせいたしました」
「私達は何をお手伝いしましょうか?」
「ありがとうございます。ではそちらの食器を洗っていただけますか。私はこっちで洗濯をやってしまうので」

 キエルとルミナは食器を手に取り洗い始める。人数が増えた分、結構な量がある。

「料理の味ばかりに関心がいっていて気付かなかったけど、この食器も随分精巧に出来てるわ。......美術品なのかしら」
「し、慎重に扱わないといけませんね」
「あらあら、そんな大層なものじゃありませんから平気ですよ~」

 幸依から声をかけられ二人はそちらをみる。幸依はログハウスで見たお風呂より大きさではるかに上回る木でできた何かをアイテムボックスから出していた。中はくりぬかれているが、ふちの内側部分には奇妙な形の凹凸があり、幸依は中央上部に橋の様に板を渡している。幸依は板の上を歩き容器の真ん中へ行くと、大量の洗濯物を出してその中へ入れ、粉末状洗剤を撒き、大量の水を発生させて準備を完成させた。
 
 それだけでキエルとルミナには圧巻の光景であるのだが、幸依はさらに小舟を漕ぐオールのような物を出して水を混ぜ始める。適当に混ぜて、適当に逆に混ぜる。それだけで容器の中は荒れ狂う海の様だ。汚れ物は互いと水流とふちの凹凸で揉まれて綺麗になる。洗濯板を発展させて正和が考案し、朋広が形にしたものだった。普通の人間にはとても扱える代物ではないが、洞口家の者ならば、洗濯機並の効果を出す事ができた。

「なにこの不自然な光景」

 ルミナがぽつりと言った。だがそれはまだ終わりではない。幸依は洗濯物を一度取り出し、板を外してふちから水に腕を入れ、瞬時に『水』だけを凍らせた。そのまま腕を引くとなぜか氷の塊が抜き取れる。幸依は少し離れた地面に煉瓦が並べてある場所に塊を置くと、腕をするりと氷から抜いた。次はゆすぎね、ともう一度水と洗濯物だけを投入し、さっきの洗い方を行い最後はやはり凍らせた。先程の場所に氷の塊が二個になった時に、正和が何かを持ってやってきた。

「母さん、トイレがいっぱいになってきたから持ってきたよ」
「あらあら、分かったわ。やっておくから氷の所に置いておいてね」
「うん、このまま父さんに新しいトイレ作ってって伝えてくるよ」

 正和はキエルとルミナに会釈し、お疲れ様ですと言って次の現場へと去って行った。その後幸依は棒の両側に無数の小さな穴の開いた箱がついている箱の中へ洗濯物を入れ、棒を持って脱水開始~、と言いながら頭上で高速回転させた。幸依の周囲にいくつか虹ができていた。

「か、神よ。こ、ここではこれが自然な光景なのですね......」
「幸依さん鼻歌まで......私ならすでに魔力が枯渇して命が危険な状態になってるかもしれないのに」

 キエルとルミナの顔は青くなっているが、幸依は脱水を終わらせ、ささっと洗濯物を干すと、先程の氷の場所へ移動する。

「でておいで~、私の炎~」
「え?」
「な、なによ今の瞬間魔力量......」

 一瞬だった。あの一言で、ボンッ! ジュッ! と音がして、大きな氷の塊二つとトイレが焼失した。フランス語で、おはよう、こんにちは、と挨拶するよりも短い間なのだ。キエルとルミナが愕然とするのも無理はない。幸依は二人が呆然として自分を見ている事に気付いて、

「あらあら、恥ずかしいからあんまり見ないでくださいね~」

 と言いながらもニコニコと二人に近寄ってきた。だがキエルもルミナも真に驚愕する場面はまだ訪れていなかった事に気付いていない。

「あらあら? 文化が違うから作業の勝手が分からなかったですか? では私もお手伝いしますね~」

 二人はそこで初めて、洗い物がほぼ最初から全く進んでいなかった事に気が付き、またもや顔が青くなった。


「華音ハンマー!」

 武器名なのか技名なのかはわからない。ただ、災害みたいなものなのだろうな......。ダランはそう考える事にした。正和の言ったメインストリートになる範囲を圧倒的な破壊の力が暴れまわっている。草や土や石が宙を舞い、と表現するよりも、地表が剥がされていく。この方がしっくりくるような。そして地面が踏み固められ、次々と煉瓦が敷き詰められていく。権兵衛が種まきゃカラスがほじくる、ではないが、華音が煉瓦を敷きゃ朋広が接合していった。ダランが興味津々にしていた技法である。

「そ、その技は純粋な技術ですか? それとも魔法?」
「え? 技術と魔法をあわせたような......感じ......ですかね?」
「ほうほう! やはり魔法の属性は土なんでしょうか?」
「え? そ......うですね、たぶんそんな感じ?」
「わ、儂でも身につける事できますか? 道具も使わず接合したり、曲げたりとかが!」
「え? う、う~ん、努力すればいつかは? 確実とは言えませんけど?」

 朋広自身、自らの力の発現理由も方向性も理解している訳ではないのだが、曖昧に返事をしたせいで、ダランに都合よく受け取られてしまった。

「おお! 早速今日から儂も始めてみますぞ!」

 その言葉は朋広には届かず、すでに朋広はまるで分身しているかのように残像を残しながら、あちこちで作業を開始していた。

「成る程! 残像が残せる位の素早さもあれば作業が捗るのも道理。......だとすると現在の儂では何も手伝えない......? か、仮にもドワーフの儂が得意分野で足手まとい......?」

 ダランは驚愕したが、その言葉通り本日はほぼ見学で、せいぜい邪魔なものをどかす事位しかできなかった。


「オーシン、これはそちらへ。ヒラリエさん、そこはもう少し土を盛っていただけますか」
「はい、母上」
「了解にゃ」

 畑組は作業人員の身体能力に雲泥の差がないため、スムーズな連携で作業が進んでいた。強化された農作業用の道具もあるため正和に畑の拡張も申し出て了承を得、併せてその作業もしている。

「薬草も自生している分だけでなく栽培もし、常に絶やさず有事に備える。最初は都から遠く離れ不安もありましたが、私にもやれる事が分かってくると活力が湧き、楽しみさえ感じる様になりました」
「彼等の衛生的な生活を実践しているせいか、体力、気力ともに充実しております。母上も若返ったかのようで、とても逃亡中の身の上とは思えませぬ」
「アタイはお風呂はちょっと苦手にゃりね。体を動かす事は好きにゃけども。この道具もすごいから畑をつくるのも楽しいにゃ! にゃはは」
「お疲れ様です、少し休憩されてはいかがですか?」

 正和が様子を見にやってきたので皆一旦手をとめて正和に近寄る。四人は和気藹々(わきあいあい)と雑談から今後の動きまでを話した。


「カブ神様~♪ カブ神様~♪ どうして酢漬けは始末するにゃりか~♪」

 ヒラリエは正和との雑談で出てきたカブが好きすぎて女の子から女神にまで昇華した(と、ヒラリエは思い込んでいる)話に即興の歌をつけ、上機嫌で作業を終わらせログハウスに戻ってきた。

「今日は楽しかったにゃあ! これでにゃかまも増えるにゃら言う事にゃしにゃ! まだまだ良い事ありそうだにゃ~」

 ヒラリエはログハウスのドアに手をかける。......ヒラリエの異世界学園共学(驚愕)編が幕を開けようとしていた。
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