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その2
しおりを挟む私は混乱する頭を整理するように一度座り、目を閉じた。
この世界は、私の居た世界とは違うらしい。にわかには信じがたいが、先程の魔法陣と言い、神官という存在と言い、国王陛下といい、信じるしかない。言葉が通じるのは、まぁご都合主義なのだろう。
この世界『フィルブレム』には、魔法が存在している。
そして私達が召喚されたこの国は『ラムダ』というらしい。
近年ラムダは雨も降らず、しかし時には暴風雨などの異常気象も起き、凶作に見舞われている。
それが原因で国が逼迫している。
それを引き起こしているのが隣国『アウルリム』だと言うのだ。
ラムダは現在アウルリムという国と敵対関係にあるらしく、飢饉を起こしかねない今、いつ戦争が起きてもおかしくないんだとか。
この情報量だけで既にいっぱいいっぱいなのだが、この冷戦状態を打破すべく召喚されるのが聖主様という存在らしい。
異世界より召喚される聖主様は、召喚国に大いなる恩恵を与え、恵みをもたらしてくれるとされている。
まぁ具体的何をすればいいのかは誰にも分からないらしいが、とにかくアウルリムとの戦争に終止符を打つ決定打になると思っているらしい。なんとも曖昧なものだ。
その聖主様には私と一緒に召喚された女性――東雲絢香さんだけが認められ、私は完全におまけ……というか邪魔者扱いされ、今に至る。
なんでもこのフィルブレムには黒髪の人間は『呪い子』と呼ばれ、世界に厄をもたらすとされているらしいのだ。
なんだ、厄って。聖主様と言い、漠然としすぎている。
だったら元の世界に帰して、と何度も行ったのだが、この儀式は一方通行。
連れてくる手段は知っているが、戻す手段はないとキッパリ言われた。
最悪だ。なんて残酷な儀式だ。こっちの都合も考えないで。
次兵士が来たら文句言ってやる! そう意気込んでいたのだが、兵士はちっともやって来なかった。
風呂は愚か、食事も、一日一回だった。固いパンに味の薄いスープ。
ここを訪れる兵士の話を聞くと、絢香さんは高貴な客人として扱われ、今はお姫様のような生活をしているらしい。
別に羨ましいとは思わないが、ただ、どうして自分がこんな目に、と思わざるを得なかった。
「お願いです! 話を聞いてください! 私は『呪い子』なんかじゃない! この髪は、私の国では普通で、あの絢香さんだって、元々黒髪なんです! それを染めてるだけで……!」
「貴様……!『呪い子』の分際でアヤカ様を愚弄する気か……! 陛下の恩情で生かされている身で、たわけた事を!」
そう言って兵士は私を殴ってきた。
空腹もあり力が入らなかった私は、兵士に何度も殴られた。
その日から、色んな兵士が事あるごとに私に手を上げるようになった。
決して身体には手を出されなかったが、髪を掴まれ、頬をぶたれ、腕を捻り上げられた。
最初は抵抗していたが、大の男に女の私が勝てるはずもなく。
日に日に私は無抵抗になり、されるがままになっていった。きっと私は、兵士たちの憂さ晴らしの的にされているのだろう。
身体に手を出されないだけありがたい。
体中がアザだらけになるまで、そう時間は掛からなかった。
時計もカレンダーも無いので、今が一体いつだかは分からない。体感的には、半月程たったのだろうか。
一体いつまで私はこんなことに耐えなければならないのだろう。
絢香さんは、どうしてるだろうか。
「……あら、酷い有様ね」
「……!?」
不意に聞こえた懐かしい声に、私は弾かれるように顔を上げた。
「あ、絢香さん……!」
「それに、凄い臭い。貴方、お風呂も入れさせてもらえてないのね。可哀想に」
絢香さんは、まるで昔絵本で見たような綺麗なドレスを来て、私の前に現れた。
肌も髪もツヤツヤで、首元や指には高価そうなアクセサリー。元々整った顔立ちだった絢香さんに、それらはとても似合って見えた。
「絢香さん! 良かった! ずっと会いたかったんです!」
「へぇ? 私に?」
「はい! 私、ずっとここに閉じ込められてて……。黒髪が『呪い子』の象徴だって。これは私の世界では普通で、絢香さんも元々黒髪なんだって何度説明しても分かってもらえなくて……」
私は鉄格子にしがみつき、絢香さんに訴えかけた。
「お願いです! 絢香さんからも言ってもらえませんか? じゃないと私、ずっとここから出られないんじゃないかと思って――」
「いいんじゃない? ずっとここに居れば」
「…………え?」
「聞こえなかった? 貴方……沙羅さん、だっけ? ずっとここに居ればいいじゃない」
「な、何を言って……」
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