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その4
しおりを挟む「……あ」
そして視界の隅に写る、一際大きな木を見つけた。
自分の世界ではまず見ることが出来ないであろう大樹だった。
私は何かに導かれるように、その大樹に向かって歩いて行った。
距離はそこそこあったけど、どうせ時間はたっぷりある。
大樹に着く頃には私の足はフラフラになっていたけど、それを上回る感動が、そこにはあった。
「うわぁ……! おっきい……!」
樹齢何年だろう? いや、そういう次元じゃないかもしれない。
魔法とかある世界だって言ってたし、これも魔法でこんなに大きくなったのかな?
大樹に手を触れると、私の周りにふわふわと白い光が漂い始めた。
よく見るとその白くて丸い光には小さな羽が生えていて、まるで妖精のようだった。
「そっか。魔法だってあるんだし、妖精? 精霊? みたいなものいるのかな?」
その妖精は少しずつ増えていき、私の周りをふわふわ漂っているようだった。
「綺麗……。励ましてくれるの? 優しんだね」
決して妖精にそのつもりは無いんだろうけど、私はまた目頭が熱くなった。
どれくらいそうしていただろう。
こんなに心穏やかになるのは久しぶりで、ついつい居座ってしまった。
妖精もそんな私を嫌だと思わないのか、ずっと傍を漂ってくれていた。
あ、この世界で出来た初めてのお友達かもしれない。そう思って、ちょっと嬉しくなった。
また、来よう。
そう思い、私は朝になる前に王宮の地下牢獄に戻ったのだ。
何も変わらない日々が続いた。
変わらない食事に、変わらない暴力。
たまに訪れる絢香が、私を嘲笑うような目で見てくる。
それも、今はどうでもよくなってしまった。
ただ、夜に私が脱走している事には誰も気付いていないみたいだった。
脱走中に川を見つけ、そこでお風呂がてら水浴びをする知恵も身につけた。震える程冷たいけど、浴びないよりはずっと良い。
大樹の所に行くと、いつも妖精が出迎えてくれた。
言葉は何も交わさないけれど、それがどうしようもなく嬉しかった。
そんなある日、私はいつものように夜、大樹の元へ向かった。
しかし、いつも出迎えてくれる妖精の様子がおかしい。どうしたんだろう。
よく見ると、妖精は一箇所に群がっているようだ。
地面に群がるようにして集まる精霊に近づくと、驚いた。
「ひ、人……!?」
そこには、人が倒れていた。
私と同じく外套を目深に被っているせいで顔は見えないけど、体格からして男の人だろう。
どうしよう……!? もし私のことがバレたら、王宮でどんな目に合うか……!
私は急いでこの場を離れようと踵を返すが、後ろから苦しそうな呻き声が聞こえて足を止めた。
よく見ると男の人は、怪我をしているようだった。
その場にしゃがみ込むと、地面がしっとり濡れている。暗くてよく分からないか、もしかして血……?
だとしたら凄い出血量だ。このまま放っておいたら死ぬかもしれない。
「どうしよう……」
王宮に戻っても薬は無い。そもそもそう言った知識がないため、どうしていいかも分からない。
ここは日本と違って救急車も無いし……!
王宮に連れて行っても、私が連れてきた人ってだけで、この人もどんな目に合うか……。
あたふたしていると、まるで見兼ねたように妖精が私の手のひらに集まってきた。
私の手が妖精たちの光と呼応するように眩く光り始め、その光はやがて目の前に倒れ込む男の人を包み込んだ。
「な、何!? どうなって……」
次の瞬間光りは止み、妖精達は散り散りに何処かへ消えてしまったのだ。
え、ちょっと!置いて行かないでー!
どうしたらいいのかキョロキョロ辺りを見回していると、男の人から規則正しい息が聞こえた。
さっきまでの荒々しいものとは違い、落ち着いた呼吸。
もしかして、傷が塞がった……? まさか今の妖精の力なんだろうか?
そっと手首に触れると、脈もしっかりしている。もう大丈夫そうだ。
そっか。魔法のある世界だから、治癒魔法もあるんだ、きっと。
それを妖精がしてくれたんだね。ありがとう。
そう勝手に結論付け、私は彼が起き上がる前に王宮に戻ったのだった。
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