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その5
しおりを挟む「こんばんは」
「っ……!?」
大樹の根元にそっと腰を下ろすと、そんな声を掛けられた。
なんか今日は妖精が居ないなぁなんて思いながら来てみれば、なんとそこには、一人の男性が居た。
私は驚いた拍子に立ち上がるも、腰が抜けてしまいそのままペタンと座り込んでしまった。
「ご、ごめん! そんなに驚くとは思わなくて……!」
その様子に慌てた男性が、急いで私を助け起こそうと手を伸ばしてくる。
殴られる!
反射的にそう思った私は、すぐに腕を顔の前に交差させた。
それを見た男性ははっと息を呑み、何かを察したのかゆっくりと私の前に跪き、穏やかな声で語りかけてきた。
「驚かせてごめんよ。怪我、してないといいんだけど」
「あ……」
敵意の感じない声音に、私は顔を上げた。
そして、また驚いた。そこにいたは、見たことない程綺麗な顔立ちをした男性だった。
30歳くらいだろうか。精悍な顔立ちなのに、一見女にも見えてしまう。男性特有の低い声が耳に心地いい。
月に照らされる長い髪は後ろで一つに緩く括られていて、風にそよそよと|靡《》なびいていた。
凄い……、銀髪だ……。初めて見た。
あまりに綺麗な髪色に、私は見入ってしまった。
「君は、昨日俺を助けてくれた子だよね?」
「えっ」
「ほら、俺に治癒魔法をかけてくれただろう? お礼が言いたくて、待ってたんだ」
「……あ! 貴方は、昨日の……!」
そうか、彼は昨日ここで倒れていた男の人だったのか。
あの時は外套で身をすっぽり覆っていたので、全然気付かなかった。
こんなに、綺麗な人だったんだ。
それにしても、昨日のお礼を言うために、来るかもわからない私をここで待っていたと言うのか。
私は今一度自分の身なりを確認する。今日も全身を外套で覆っているし、フードも目深に被っている。
姿は、ほとんど見えていないはずだ。声と背格好で女だと言うのはバレていると思うけど。
どうしたらいいか迷っている私の雰囲気を感じ取ったのか、男性は優しい声音で続けた。
「本当にありがとう。友人に傷を見せたら、『こんな腕のいい治癒師は見たことない』って褒めてたよ。君は凄いんだね」
「えっ、あ、あの、いえ、そんな……」
思えば、人とこんな風に話すのは本当に久しぶりだ。
その治癒という能力は妖精の力で、私の力ではないと伝えたいのに、上手く言葉が出ない。
自分に嫌悪、侮辱の目以外を向けられるのは、なんだかムズ痒かった。
少しも上手く話せない私に、それでも男性は嫌な顔一つせず話しかけてくれる。
「俺の名前はノア。君の名前を、聞いてもいいかな?」
「ぁ……。えっと、あの……」
どうしよう、どうしよう。
名前を教えても、いいのだろうか。もしかして、『呪いの子』として私の名前が広がっていたり……。
少し考えて、私は首を振った。
久方ぶりに自分を好意的な目で見てくれるこの人が、自分の名前を聞いて憎悪に顔を歪める姿を見たくなかった。
そうだ、どうせ私が何者か知れば、この人も私を、あの兵士のように罵るだろう。
きっとここに来ていることも陛下や絢香に告げ口し、今まで以上の地獄を見ることになる。
「ご、ごめんなさい……!」
「あ! 待って!」
そこまで考えて、私はすぐにその場を駆け出していた。
これ以上、辛い想いをしたくなかった。私は臆病になっていたのだ。
息を切らせて王宮まで走り、脇目もふらず地下牢獄に入る。
鍵を閉め、ほっと息を吐いた。
「あはは……」
なんてことだ。
こんな、苦痛しか感じない牢獄で、安堵するなんて……。
自分はとうとう壊れてしまったのかと思い、私は牢獄の隅で丸くなって目を閉じた。
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