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その20
しおりを挟むノアが初めて反応を示したのが嬉しかったのか、アヤカは更に饒舌に続けた。
「えぇ、そうですの! あの子は私、聖主をこちらに喚び寄せた際に付いてきてしまった副産物。哀れな、黒髪の『呪い子』なんですの。でも私とて聖主、彼女の呪いを少しでも和らげてあげられないかと、日夜彼女と行動を共にしているのですよ」
「それはそれは。しかし、彼女が黒髪だからという理由だけで『呪い子』と呼んでいる訳ではありませんよね?」
流石のアラルドも苛立ってきたのか、挑発的にアヤカに言った。
「私、この世界の事はまだよく知らないのですが、こちらでは黒髪の子は『呪い子』なのでしょう? その風習に従ったまでですわ」
「それはまた、随分と昔の風習を持ち出されたようで」
あからさまに小馬鹿にしたように、アラルドは笑った。
アヤカは自分が冷やかされた事に気付いたのか、目尻を釣り上げてアラルドに食ってかかる。
「しかし、黒髪というのは……!」
「あの子が来てから、何か不幸でも起こったんですか?」
「そ、それは……」
「まぁ、今このラムダ自体が不幸の真っ最中ですからねぇ。四六時中不幸と言っても差し支えありませんが」
「な、なんなんですの! 貴方達!」
「いえ別に。俺達は騎士団なんで。証拠や現場がないのにそう決め付けてるのを見て、どうかなぁって思っただけですよ」
アラルドが困ったように頭を掻きながらそう言うと、アヤカは顔を真っ赤にして踵を返した。
周囲の兵士に「行くわよ!」と荒々しく告げ、ズカズカとその場を去っていく。
「……」
最後に一人、メイドの子だけが、こちらに深々と会釈をして去っていった。
「可哀想に。聖主にあんな風に扱われて」
「……」
「何が副産物だよ。あの子もきっと、聖主と一緒で別の世界から連れて来られたんだろ? こっちの都合で連れて来られて『呪い子』なんて、どうかしてるよ」
「別の、世界から……」
アラルドの何気ない言葉に、ノアは顎に手を当てる。
異世界から来た聖主。
彼女は最初この世界のことを全く知らず、王宮でそれらを学んだらしい。
つまり学ぶ機会がなければ、この世界の常識は彼女には通用しなかったということだ。
――……あ、あのっ、でも、私、魔法は使えないんです!
ノアの深手を治癒魔法で傷痕すら残さず消し去ってくれたくせに、自分に魔法は使えないと言っていた彼女。
……まさか、彼女も。
「こらお前達! いつまで巡回してるんだ!」
そこまで考えた所で、頭上にいきなり拳が落ちてきた。
不意のことだったので真っ向から受けてしまった衝撃に、アラルドもノアも頭を押さえて痛みに耐える。
「じょ、上官……」
アラルドが恨めしく呟いた先には、自分達の上官……レイニールが腕を組んで仁王立ちしていた。
レイニールは御年50後半を迎えるらしいが、騎士団長を勤めているだけあって老いは感じさせない、逞しい体つきをしている。
かろうじて白髪交じりなのが歳相応なくらいか。
この男を見ては、巷の女性は「渋くて格好良い」と黄色い声をあげているらしい。
世も末だ。
「ったく。ちっとも戻らんと思えば、またお前達はこんな所で油を売って」
長い説教になりそうだ。
世間的に見れば騎士団長として優秀な男なのだろうが、ノアにしてみれば「私もそろそろ歳だし隠居生活を楽しみたいからノアに騎士団長任せようかなぁ」なんてほざくような男なので、正直にあまり関わりたくない。
ノアは遠く空を見上げながら、アラルドに全て押し付けてばっくれようかとため息を吐くのだった。
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