闇の記憶

姫川 林檎

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記憶喪失の少年

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夕飯の前に家に着いた。
遊び疲れたのか春陽は帰りの車の中で寝ていたので少し元気だ。

水族館の感想を話しながら一緒に夕飯を食べ食後にお土産を春陽が渡す。

「おじいちゃんには・・・これを。」

「有難う。どれどれ何かな?・・・・おぉ!これは中々渋いのぅ。素敵な物を有難う理由を聞いてもいいかな?」

「いつも手拭いを使っているから・・・中でもこれが一番格好良かったので。」

「そうか有難う。」

デレデレのじぃさんは見ていていいもんではないな。
俺は元々甘える方じゃないし駿二も番が出来てもう俺達に甘えなくなっているから、春陽が可愛いのは解るが‟渋くて格好良いマスター”が見る影もない・・・。

駿二にもお土産を渡し喜んでもらい嬉しそうにほっとしている。
初めての遠出に海に入り体力を消費した春陽はお風呂に入ると髪を拭きながら船を漕ぎ始める、火傷をしたら危険なので交代して俺が乾かしてやると髪を触られるのが気持ちいのかそのまま寝てしまった。

ドライヤーを片付けて春陽を抱き抱えて2階に上がる。
ベットに寝かせるとジョンはベットの足元に愛は枕元で一緒に眠る。暑くなって来たので流石にくっ付いて眠る事はないが必ず側で今でも寝ている。

お蔭で俺は更に離れて眠る羽目になっているが、春陽の睡眠が最優先なのでここは我慢です。



7月に入り暑さが本格的になり店でも暑さ対策に店の窓の前には朝顔のグリーンカーテンで日陰を作り、入口には店のロゴが焼き印された簾を下げて入口の反対側にある大きな楓の枝にミストシャワーを付けて通行人にも涼んでもらっているが、あまりの暑さに気休めにしかならいだろう。

春陽は今の所夏バテする事無く元気に仕事をしている。
店内はあまり下げると外との温度差で具合が悪くなるといけないので出来るだけ温度を下げずに湿度を下げる様にしているのがいいのか、体力のないΩ達も皆大丈夫そうだ。因みに俺もじぃさんも元気です。


そんな暑いある日思いもよらない人達が来た。
来て欲しかった様な現れないで欲しかった様な複雑な気持ちになる。


カランコロン

「いらっしゃいませ。お好きな席へどうぞ。」

春陽が案内するがご夫婦の様なお客様は驚いた顔をして微動だにせず立ち尽くしていた。

「お客様?」

「・・・かっちゃん・・・。」

女性は泣きながら春陽に近付く。

「あ・・のぅ・・・。」

「かっちゃん?」

泣き止まない女性の方をそっと抱き締めながら春陽を見ている。
春陽は突然泣き出した女性に戸惑いどうしていいのか困っている。

「失礼ですがお2人は彼をご存知ですか?彼は頭を打って未だに記憶喪失何です。」
「!?」

「・・・そんな・・・・・」

「我々はかっちゃん、彼の名前は勝利かつとしと言います。彼の隣人です。」

「「勝利・・・」」

春陽の本当の名前は勝利と言うのか実感が湧かない。春陽を見る限り名前を聞いただけでは特に何かを思い出してはいない様だ。

「あの!記憶喪失って何も覚えていないんですか!?」

「すいません・・・。」

「どうして・・・かっちゃんばっかり・・・」

女性は更に泣き出してしまった。
俺達はどうする事も出来ずただ見守っていると男性が話し出した。

「・・・私は隣に住む森下博一ひろかずと言います、こっちが妻のはなです。我々は勝利と仲良くさせてもらってましたが、突然勝利が姿を消してずっと探していたんです。」
「かっちゃんは私達に黙って姿を消したりしません!だから!!」

本当に仲が良かったんだろう・・・。今までずっと探していたなんて。春陽はひょっとして親とは・・・。

「どこ探しても見つからず、警察に相談しても家族じゃないし・・・Ωが消えても・・・。」

「そんな時雑誌で見つけたの!斜め後ろ姿だったけど絶対にかっちゃんだと確信して今日来たんです!!なのに・・・」

その雑誌は多分先月末に発売された女性雑誌だろう。確かにあれに春陽は映っているが小さくてそれに彼女が言う通り斜め後ろ姿で知り合いでも判別し難い物だったはず。それだけ春陽を大事にしてくれていたのだろう‟勝利”が大事にされていた事が嬉しく思う。

「・・・すいません。」

春陽は俺の袖を掴んで不安そうだ。

「眞一、」
「あぁ、あのここでは何ですから奥にどうz・・・」

ガチャ!ガランカラン!

入口を雑に激しく開けて1人の男性が入って来て、

「フン、こんな所に隠れて生きていたのか。」

彼は品のない笑顔で春陽を見降ろしていた。

「ぃや・・・いやああああああああ!!!」


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