婚約破棄から始まる恋~捕獲された地味令嬢は王子様に溺愛されています

きさらぎ

文字の大きさ
113 / 195
第二部

ビビアンside③

しおりを挟む
 今夜は最良の日になりそうですわ。
 第二王子であるユージン殿下の婚約祝賀会に公の場に滅多に姿を現さないレイニー殿下も出席されるということで、学園でもその話題で持ち切りでしたわ。

 レイニー殿下と言えば王妃陛下の美貌を受け継ぐ見目麗しき王子だと評判で、密かに憧れている令嬢も多いと聞くわ。未だに婚約者が決まっていないから、今夜を期に狙っている令嬢もいるかもしれませんわ。
 でも、どれほどの令嬢が狙っていようとも迫ろうとも無駄ですわよ。
 なぜって? わたくしがいるからですわ。
 身分も美貌も教養も兼ね備えたわたくしに誰がかなうというのでしょう? 誰もいませんわね。
 
 誰かが選ばずとも、わたくしたちは出会った瞬間に恋に落ちるのですわ。
 レイニー殿下の瞳にはわたくしが、わたくしの瞳にはレイニー殿下だけを映して他のことは目に入らない。二人だけの世界。
 そして、ひざまずいた殿下はわたくしに結婚を申し込むのです。
 周りからの祝福の拍手と歓声が二人を包み、わたくしたちは永遠の愛を誓う。
 なんてロマンティックで幸せな瞬間なのかしら。瞼の裏にその光景がハッキリと目に浮かびますわ。

 オーホホホ。
 楽しみだわ。早くその時が来ないかしら。
 
 前途洋々たる未来に思いを馳せて、期待に胸を膨らませて大ホールへと足を踏み入れたのです。



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢


 祝賀会は無事に閉会して、帰路に着くためにガタガタと微かに揺れる馬車の中。シートの背に身を委ねて座っていた。半ば放心状態で夜のとばりがおりた外に目を向けていた。
 一体、何があったというの。
 ファーストダンスを踊ったわ。レイニー殿下のリードは紳士的で優雅でターンさえも羽根が生えたように軽やかでとても素敵で夢の中にいるようだった。確かにあの時はわたくしたち二人の世界だった。
 永遠にその時間が続くと思っていたのに、あっけなく幕は下りてしまった。

 曲が終わるとダンスエリアから去った殿下は、フローラの元へ。
 えっ? ここは名残惜しそうに、もう一度ダンスに誘う場面ではないかしら? 

 二人が楽しそうに踊る様子を唇を噛みしめて見つめるしかなかった。フローラとダンスが終わると次の令嬢の手を取った殿下。フローラも別の子息と踊っていたわね。

 次々に子息達がダンスに誘ってきたけれど、丁寧にお断りしたわ。わたくしはレイニー殿下一筋ですから、見境なく誘いを受けるような尻軽とは違います。
 わたくしが身も心も捧げるのは殿下だけ。他の男に指一本だって触らせませんわ。
 それに、また殿下に誘われるでしょうから、待っていなくては。
 チャンスを逃してはいけない。きっと殿下も他の令嬢とも踊らないと立場上都合が悪いのでしょう。わたくしも心を広く持たなくてはいけないわね。未来の王子妃ですから。

 そして、どれくらいの時間が過ぎたのか、待てども待てども、一向にこちらに来る気配はなくて、それでも希望は捨てずに次々と他の令嬢と踊っている姿を見つめて、ジリジリと順番を待った。
 
 令嬢達に断りを入れたのかダンスの輪から外れたと思ったら、きょろきょろと辺りを見回していらっしゃったわ。
 ああ、わたくしを探しているのね。ずっと、この時を待っていましたわ。

 必死になってたくさんの人の中を歩き回って、わたくしは反対側よ。ここにいるわ。
 広すぎて、見つけることは困難なのかもしれないわ。手を振っても気づいて下さらない。わたくしの目からは、はっきりとわかるのに。仕方がないわ。わたくしの方から動きましょう。

 殿下を目指して歩いていた時に、ホールにいないと思ったのか外へと出ていってしまった。出会わないと何も始まらない、恋も結婚も。わたくしも必死になって殿下の後を追ったわ。
 今夜は直接会える絶好のチャンス。わたくしたちが恋に落ちるのに最高の場所。月明かりの下でプロポーズを受けるのもロマンティックだわ。

 気持ちを確かめ合ったわたくしたち。レイニー殿下がお祝いムード一色の大ホールで結婚の宣言をするのよ。重なる慶事に会場が湧きたって大喝采を浴びたわたくしたちは祝福の嵐に包まれる。
 なんて素晴らしいの。早くレイニー殿下を見つけなければ。わたくしの姿が見えなくて、焦っていらっしゃるかもしれないわ。

 そして、見つけた。

 喜び勇んで駆けつけようとしたわたくしの目の前に飛び込んできたのは、レイニー殿下だけではなかった。誰かと話している。女性の声。その姿には見覚えがある。嘘でしょう……フローラ⁈ 
 あっと声が出そうになる口を押えて、信じられない光景にへたりそうになった自分を何とか支えた。それから、木陰に隠れてジッと二人を観察していた。

『ローラ』

『レイ様』

 親し気に愛称で呼ぶ二人。
 これは何? わたくしは何を見せられているのかしら?

『隙あり』

『あー。レイ様』

『洗って返すからね』

『あの……レイ様はやめてくださいね』

『えっ?』

『ローラに洗えるなら俺にもできると思うんだよね。まかせて』

 ハンカチを取り合ってじゃれ合う二人。まるで恋人同士のような熱々ぶり。見るからに昨日今日のような間柄ではない仲睦まじい姿。
 信じがたい光景に眩暈がした。目の前で繰り広げられている二人のやり取りがすぐには理解できなかった。

 いったい、いつの間に、二人は知り合っていたの。
 自分を厳しく律してマナーも語学もその他の教養も一流だと認められるように頑張ってきた。それもひとえに王子妃に相応しくあるように。どれだけ、わたくしが努力したのか、フローラ、あなたは知らないでしょう。血の滲むような努力をして築き上げた成果が、これから花開く時だったのに。

 王子と知り合える機会なんてそんなにあるわけではない。レイニー殿下は公の場にもほとんど姿は現さなかったから、噂だけが先行していた幻の王子様だった。王太子殿下もも第二王子殿下も政略結婚。だから、レイニー殿下もそうだと思っていた。いつかは婚約者として声がかかるだろうと心待ちにしていたのに。
 どんな手管を使ったか知らないけれど、レイニー殿下の懐に入り込みわたくしから奪おうというの。許せない。
 

 憎らしい。
 レイ様と呼ぶフローラが。
 隣で当然のように微笑む姿が。

 羨ましくて妬ましくてたまらない。
 持っていた扇子を握りしめるとミシッと音がした。

 二人の声が突然止んだ。
 うっかり音を立ててしまったから、周りを警戒しているのかもしれない。動けば居場所がわかる。息をひそめてじっとしていると、二人が動き出すのがわかった。見つかる覚悟をしていたけれど、近づくどころか足音が遠くなっていった。
 見つからないように、さらに奥に逃げたのね。
 密会。逢瀬。
 考えたくもない言葉が頭に浮かんだ。
 逃がさないわ。
 このまま、引き下がったりしない。

 フローラ。
 レイニー殿下と仲良くするなんて、許さないわ。
 まさか……結婚の約束なんて、していないわよね。愛称で呼ぶ二人の姿がちらついて、どす黒い何かが全身を渦巻いていく。王子妃になるのはわたくしよ。王子妃に相応しいのはビビアン・シュミット公爵令嬢なの。わたくししかいないのよ。
 逃がさない。このままでは腹の虫がおさまらない。一部始終を見てやる。
 嫉妬心に駆られ好奇心に駆られ、足音を立てないように気をつけながら、あとを追っていった。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

お妃候補を辞退したら、初恋の相手に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のフランソアは、王太子殿下でもあるジェーンの為、お妃候補に名乗りを上げ、5年もの間、親元を離れ王宮で生活してきた。同じくお妃候補の令嬢からは嫌味を言われ、厳しい王妃教育にも耐えてきた。他のお妃候補と楽しく過ごすジェーンを見て、胸を痛める事も日常茶飯事だ。 それでもフランソアは “僕が愛しているのはフランソアただ1人だ。だからどうか今は耐えてくれ” というジェーンの言葉を糧に、必死に日々を過ごしていた。婚約者が正式に決まれば、ジェーン様は私だけを愛してくれる!そう信じて。 そんな中、急遽一夫多妻制にするとの発表があったのだ。 聞けばジェーンの強い希望で実現されたらしい。自分だけを愛してくれていると信じていたフランソアは、その言葉に絶望し、お妃候補を辞退する事を決意。 父親に連れられ、5年ぶりに戻った懐かしい我が家。そこで待っていたのは、初恋の相手でもある侯爵令息のデイズだった。 聞けば1年ほど前に、フランソアの家の養子になったとの事。戸惑うフランソアに対し、デイズは…

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

処理中です...