151 / 195
第二部
ビビアンside⑫
しおりを挟む
憂鬱な朝。毎日が憂鬱だわ。三男との婚約の日が迫っている。逃れられない運命を呪いながら毎日を過ごすわたくし。無理やり笑顔を作り幸せそうな顔で学園での日々を過ごすのにも疲れてしまった。
馬車から降りると学園の建物が見える。重い足取りで歩いていくと生徒達のざわめきが耳に入ってきた。
「あれは、もしや……」
「すごい。あの馬車って、もしかして」
口々に上がる驚愕の声に振り向くと一台の馬車が止まったところだった。
護衛騎士が六人ほど周りに配置されている。どんな要人が乗っているのかわからないけれど、警戒心の塊で物々しい雰囲気が漂っていた。
二頭立ての黒塗りに金の装飾がふんだんに施された上品で豪奢な馬車。何よりも目を引いたのは王家の紋章。
王族の馬車だと認めたとたんにざわざわとざわめく群衆達。
その馬車から誰が降りてくるのだろうと興味津々に見つめる中、御者が恭しく扉を開けた。
シンと静かになった空間。扉から姿を現したのは、レイニー殿下だった。
「キャー」
悲鳴にも似た黄色い声が辺りに響き渡る。彼の美貌に女子生徒達が浮足立ち彼の姿にうっとりと見惚れている。
久しぶりに見るレイニー殿下の姿。
その麗しき容姿や立ち姿に釘付けになりながら、もしかしたら、わたくしを迎えに来てくださったのかしらと一縷の望みに縋る。
ありえないと頭の片隅ではわかっていても、まだ諦めきれていない自分がいる。だって、わたくしの方がフローラよりも数倍相応しいと思うもの。このまま、あんな三男との縁談なんて蹴散らして、わたくしを連れ去って下さらないかしら。話を聞きつけて、そのために来てくださったのかもしれないわ。
次から次へと差し込む希望の光。
けれど、そんな望みも一瞬にして打ち砕かれた。
レイニー殿下が馬車の方を向き直って手を差し伸べる。誰かが中にいる。一人ではないと悟った時に殿下の手を取り中から出てきたのは、フローラだった。
「きゃあ」
今度は黄色い歓声が上がる。
レイニー殿下のエスコートで地に降り立つフローラは堂々としていた。殿下と向き合うと恥じらうような仕草を見せる様は二人の親密な関係を物語るようで、群衆達には微笑ましく映るかもしれない。
居合わせた生徒達は二人の様子に眼福とばかりに憧れの眼差しで見守っている。
こんな光景を見るために学園に来たわけではないのに。苦痛でしかないこんな場面、すぐに立ち去ってしまいたいのに、わたくしは地面に縫い留められたように動けない。
悔しさと虚しさと嫉妬が交差する胸の内、誰かわかってくれるだろうか。ずっと、思い続けた恋しい人が別の女性と寄り添っている姿なんて誰が見たいと思うの。
ギュウと締め付けられるような胸の痛み。泣き叫びたくなる衝動を抑えるために、皮膚に食い込むくらいに強く握りしめた手。
フローラは殿下の乗った馬車を見送るとディアナと共に歩き出した。待ち構えたように周りに集まる生徒達。
たちまち生徒達に囲まれたフローラは頬を染め照れくさそうに微笑みながらわたくしの前を通り過ぎていった。どんなに睨みつけても、意に介さずわたくしのことなど眼中にないとばかりに。
フローラがいなくなった後、それぞれの校舎に入っていく生徒達。誰もいなくなった停車場に一人残る。
学園では今日の二人の話題で持ち切りなのでしょう。そんなのは耐えられない。わたくしは具合が悪いことを理由に早退した。
これは夢かもしれない。夢であってほしいと願いながら。
けれど、その願いも空しく終わる。
畳みかけるように次の日、レイニー殿下とフローラの婚約が正式に発表されてしまった。
現実を突きつけられて。
僅かな希望も断たれて、粉々に完全に打ちのめされた絶望の瞬間。
何もかも人生が一変したこの日をわたくしは一生忘れない。
馬車から降りると学園の建物が見える。重い足取りで歩いていくと生徒達のざわめきが耳に入ってきた。
「あれは、もしや……」
「すごい。あの馬車って、もしかして」
口々に上がる驚愕の声に振り向くと一台の馬車が止まったところだった。
護衛騎士が六人ほど周りに配置されている。どんな要人が乗っているのかわからないけれど、警戒心の塊で物々しい雰囲気が漂っていた。
二頭立ての黒塗りに金の装飾がふんだんに施された上品で豪奢な馬車。何よりも目を引いたのは王家の紋章。
王族の馬車だと認めたとたんにざわざわとざわめく群衆達。
その馬車から誰が降りてくるのだろうと興味津々に見つめる中、御者が恭しく扉を開けた。
シンと静かになった空間。扉から姿を現したのは、レイニー殿下だった。
「キャー」
悲鳴にも似た黄色い声が辺りに響き渡る。彼の美貌に女子生徒達が浮足立ち彼の姿にうっとりと見惚れている。
久しぶりに見るレイニー殿下の姿。
その麗しき容姿や立ち姿に釘付けになりながら、もしかしたら、わたくしを迎えに来てくださったのかしらと一縷の望みに縋る。
ありえないと頭の片隅ではわかっていても、まだ諦めきれていない自分がいる。だって、わたくしの方がフローラよりも数倍相応しいと思うもの。このまま、あんな三男との縁談なんて蹴散らして、わたくしを連れ去って下さらないかしら。話を聞きつけて、そのために来てくださったのかもしれないわ。
次から次へと差し込む希望の光。
けれど、そんな望みも一瞬にして打ち砕かれた。
レイニー殿下が馬車の方を向き直って手を差し伸べる。誰かが中にいる。一人ではないと悟った時に殿下の手を取り中から出てきたのは、フローラだった。
「きゃあ」
今度は黄色い歓声が上がる。
レイニー殿下のエスコートで地に降り立つフローラは堂々としていた。殿下と向き合うと恥じらうような仕草を見せる様は二人の親密な関係を物語るようで、群衆達には微笑ましく映るかもしれない。
居合わせた生徒達は二人の様子に眼福とばかりに憧れの眼差しで見守っている。
こんな光景を見るために学園に来たわけではないのに。苦痛でしかないこんな場面、すぐに立ち去ってしまいたいのに、わたくしは地面に縫い留められたように動けない。
悔しさと虚しさと嫉妬が交差する胸の内、誰かわかってくれるだろうか。ずっと、思い続けた恋しい人が別の女性と寄り添っている姿なんて誰が見たいと思うの。
ギュウと締め付けられるような胸の痛み。泣き叫びたくなる衝動を抑えるために、皮膚に食い込むくらいに強く握りしめた手。
フローラは殿下の乗った馬車を見送るとディアナと共に歩き出した。待ち構えたように周りに集まる生徒達。
たちまち生徒達に囲まれたフローラは頬を染め照れくさそうに微笑みながらわたくしの前を通り過ぎていった。どんなに睨みつけても、意に介さずわたくしのことなど眼中にないとばかりに。
フローラがいなくなった後、それぞれの校舎に入っていく生徒達。誰もいなくなった停車場に一人残る。
学園では今日の二人の話題で持ち切りなのでしょう。そんなのは耐えられない。わたくしは具合が悪いことを理由に早退した。
これは夢かもしれない。夢であってほしいと願いながら。
けれど、その願いも空しく終わる。
畳みかけるように次の日、レイニー殿下とフローラの婚約が正式に発表されてしまった。
現実を突きつけられて。
僅かな希望も断たれて、粉々に完全に打ちのめされた絶望の瞬間。
何もかも人生が一変したこの日をわたくしは一生忘れない。
3
あなたにおすすめの小説
お妃候補を辞退したら、初恋の相手に溺愛されました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のフランソアは、王太子殿下でもあるジェーンの為、お妃候補に名乗りを上げ、5年もの間、親元を離れ王宮で生活してきた。同じくお妃候補の令嬢からは嫌味を言われ、厳しい王妃教育にも耐えてきた。他のお妃候補と楽しく過ごすジェーンを見て、胸を痛める事も日常茶飯事だ。
それでもフランソアは
“僕が愛しているのはフランソアただ1人だ。だからどうか今は耐えてくれ”
というジェーンの言葉を糧に、必死に日々を過ごしていた。婚約者が正式に決まれば、ジェーン様は私だけを愛してくれる!そう信じて。
そんな中、急遽一夫多妻制にするとの発表があったのだ。
聞けばジェーンの強い希望で実現されたらしい。自分だけを愛してくれていると信じていたフランソアは、その言葉に絶望し、お妃候補を辞退する事を決意。
父親に連れられ、5年ぶりに戻った懐かしい我が家。そこで待っていたのは、初恋の相手でもある侯爵令息のデイズだった。
聞けば1年ほど前に、フランソアの家の養子になったとの事。戸惑うフランソアに対し、デイズは…
【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました
22時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。
華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。
そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!?
「……なぜ私なんですか?」
「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」
ーーそんなこと言われても困ります!
目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。
しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!?
「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」
逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?
灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。
しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる