赤い湖

リューイチ

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1日目 楽しいお茶会

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金髪で右から出ているサイドテールが特徴的な少女が、いかにもお金持ちっぽい衣装を着て椅子に座り、自分の私有している庭で花を鑑賞しながら執事の横で紅茶を飲んでいる。彼女の実年齢は10歳にも満たない筈なのに、その立ち振る舞いからはそれを感じさせない。

「今日も貴方がいれる紅茶は美味しいわね」
今持っているカップを置くと、その紅茶を注いだ者に視線を向ける。

「御口に合ったようでなによりでございます。アリエルスお嬢様」

令嬢と執事1人。まさにそれは貴族の優雅なティータイムと言った感じだった。

「...」
しかしアリエルスは何か考え事をしているのか、黙り込んでしまう。

「どうかされましたか。アリエルスお嬢様」
そんな状況を察して質問を投げかける。

「今更なんだけどカトレア...なんであんた男の格好してるわけ?」
カトレアはアリエルス専属の執事である。身長は170cm前後あり、所謂モデル体型と言われるものであった。黒髪ストレートでショートカット。中性的ではあったが女性らしさはしっかりと残っており、美人である。しかしアリエルスはそれなら何故男性の燕尾服を着ているのかが気になった。

「フフ、何故でしょうね?お嬢様が当ててみてください」

「何よそれ~!教えてくれたっていいじゃないの。まぁいいわ。う~ん、何故かしら...」

とてもいい笑顔ではぐらかすように質問に答えると、アリエルスが考え始めたのを確認して、カトレアは自分の世界に入ることにした。

(フゥ~!何とか誤魔化せた!それにしても真面目に考えてくれるお嬢様マジ天使!神!尊い!ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!)

そう。カトレアはお嬢様激推し百合執事であったのだ!

(それにしても今日も紅茶美味しいって言ってくれたしあーヤバいヤバいヤバい。楽園かな?)

よく分からない事を頭の中で巡らせながら心の中でガッツポーズをしていた。しかし表の顔は怖いほどニコニコしている。その表情は決して崩れなかった。腐っても執事であった。

「駄目だわカトレア。私にはわからなかっ......あら!鼻血出てるじゃないの!」

(しまったああああ!興奮のあまり鼻血が!)

「お嬢様!お気になさらず!自分で何とかしますので!」
そうしてアリエルスを着席させようとするが、彼女がそう簡単に止まってくれる人間ではないことも、5年専属をやってきたカトレアは知っていた。

「駄目よ!こういうのは早く処置した方がいいの。早く屈みなさい」

「わ、わかりました...」

そうしてカトレアはポタポタ鼻血を垂らしながら顔をアリエルスの高さまで持っていった。

「あら。結構勢いが凄いわね。これは大変だわ。私のハンカチ貸してあげる!止血のための道具取ってくるから大人しくしてなさいね!」

(お、おおおおおお嬢様のハンカチ!嬉しいけどお嬢様を一人で行かせるわけには...)

お嬢様の心遣いに圧倒的尊さを感じるが、そこは腐っても執事。

「お気持ちは嬉しいのですが、お嬢様を一人で行かせるわけには行きません。自分一人で処置は出来るのでお嬢様はティータイムの続きを...」

「嫌よ!あなたが元気じゃないと美味しい紅茶も全力で楽しめなくなってしまうもの!それに貴方は今病人よ。病人は人に甘えればいいのよ」

(ン゛ン゛ッ!このカワイイを生み出す天才め!存分に才能を生かしきっておるわ!)
もはや誰だよという人格が生まれでてきている。

「し、しかし...」

「いーの!取り敢えず私が戻ってくるまで此処で待ってること!いいわね!」
そうしてアリエルスは医療室まで走っていった。

お嬢様の言う通りじっとしてはいたものの、その小さな影が見えなくなるまで手を振っていた。そうしてアリエルスが見えなくなった。

「はぁ...お嬢様の可愛さは核ミサイル級じゃねぇか...ただお嬢様の事考えてて鼻血出しただけなのに自ら止血セットを取りに行ってくれるとは...もぅマヂ無理。しんどい。」
尊い。その感情だけ頭の中に巡っていた───
「医療室はここだったかしら?」
そうして沢山の部屋の中から医療室を探していく。玄関の近くの方にあるというのは覚えていたので、手当り次第探しに行くことにした。

「医療室医療室...あっ!あった!ここね!」
ついに見つけた医療室にて、鼻血の為のセットを1式手に取ると、医療室をでようとした。その時だった。

「よぅ嬢ちゃん。ここが名高きウィンザー家で良かったかい?ゲハハハハ!」

賊であった。貴族の家に無断で上がり込み、大方金品を盗むという魂胆なのだろうが、アリエルスを怯えさせるには十分すぎた。

「あ、あなた達...誰なのよ...」
足はガクガクに震えており、まるで生まれたての子鹿であった。

「嬢ちゃんも運が悪いねぇ...俺らに会いさえしなければ金品を盗まれるだけですんだのによぉ...見られちまったら女子供だろうが容赦できないのがこの仕事の辛いところさぁ...」
そうしてサーベルを抜き、今にも切りかかろうとしたその時だった。

「カ...カトレアぁあああああああああああ!!」
助けて。そんな意味を渦巻いた叫びが館内に響いた。

「て、てめぇ!叫びやがってふざけんな!今すぐにでもひき肉にしてやるよォ!」
サーベルがカトレア目掛けて振り下ろされようとした瞬間。

ガキィン!

鉄がぶつかる音だった。本来アリエルスに刺さっていたであろうサーベルはアリエルスの見覚えのあるレイピアによって受け止められていた。

「お呼びでしょうか。アリエルスお嬢様?」
鼻血がだっくだくになっているものの、なんとか間に合った。

「カ...カトレアぁ...来てくれたのね...」
涙を今にも零しそうなくらい浮かべていたアリエルスに笑顔を向けて、賊の方に顔を向けた。

「テメェおい!良くも堂々とアリエルスお嬢様に汚ぇもん向けてくれたな!ぶっ潰してくれる!」
アリエルスには絶対見えない角度で、まるで鬼のような形相で賊を威嚇する。相手は幸い1人なので負ける気はしなかった。

「鼻血噴き出した女だか男だか分からんハンパ野郎に俺が殺せるかなァ!」
そう言い放つと、賊はサーベルで切りかかってきた。

「甘い!」
サーベルでの攻撃をを軽くいなし、レイピアで武器を弾き飛ばした。その後首元にレイピアをあてがった。

「...勝負ありだな。降参しろ。お嬢様に血を見せたくはない」

「くっ......なぁんてなぁ!」
男は服の中にナイフを隠し持っていた。そのナイフを胸めがけて立てつけた。

「なにっ!クソ!」
あまりに突然な出来事だったため、手のひらで受け止めてしまい、もろに刺さってしまった。

「ぐおおああ!!」

「ほう。中々の反応速度だな。手で受け止めるとは」

(不味い...鼻血も相まって出血がひどい...こっちが怯んでいるあいだに相手は準備万端になってしまった...)

勝負は振り出しにもどった。いや、カトレアが不利な状況で再開された。もうダメかと思われたその時

「カトレア!負けちゃ嫌!貴方なら勝てる!信じてるわ!」
どこにも根拠がない応援だが、カトレアには効果が抜群であった。

「うおおおおおおああああああ!!!」
推しメンの生応援。元気が出ない方がおかしいぜ!

「チィ!こいつさっきまでとは目付きが違うじゃねぇか!」
カトレアは正確にレイピアを賊に向けて降っていくが、それは全て持っている武器を弾き飛ばすために使われた。そうしてついに賊を追い詰めた。

「殺しはしない...今すぐに出ていけ」

「ヒ...ヒィぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
賊はそのあまりの精度に尻尾を巻いて逃げていった。

「うぅ...」
力が抜けてその場に座り込んだカトレア。燕尾服は腕と鼻の血で真っ赤になっていた。

「カトレア!しっかりして!今止血するわ!」
教育のお陰なのか、手際はかなり良い。

「お嬢様...無事で...良かったです...」
手当をしてくれているアリエルスを見届けながらカトレアからガクンと力が抜けて、体がだらんとなった。

「...カトレア?カトレア!?」

「すぅ...すぅ...」
戦闘の疲れで眠ってしまったようだ。

「何よカトレア...こんな状態でも寝れるのね貴方...ウフフッ」
アリエルスも安心したのか笑がこぼれた。

「カトレア...今日くらい私がお世話してあげようと思ったけどやっぱり私がお世話になっちゃったわね...ありがとう」
そうしてアリエルスはカトレアの前髪をよけて柔らかいキスをした。しかしその直後。

「んあっ...お嬢様すみません。寝てしまいまし...んなぁああ!」

「あらおはよう。丁度いいわね。おはようのキスよカトレア。フフ。」

(お嬢様のキスお嬢様のキスお嬢様のキスン゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!)

ぶしゃああああ!!!

石油を掘り当てた時のような見事な鼻血噴射であった。

「あら!止血したはずなのにまた吹き出してしまったわ!」

「あばばばばばばばば」

こうしてアリエルスとカトレアの長い一日は幕を閉じた。
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