片翼で空は翔べるか

秋月流弥

文字の大きさ
5 / 33

しおりを挟む
 あれから月日が経ち、私たちは中学生になった。

 くーちゃんは言っていた通り県外の進学校の葵坂付属中へ、私たち双子は小学校からすぐ隣の咲桜坂中学校へ進学した。

 中学に入学して私はそれまで瓜二つにしていた実琴との容姿を変えた。
 双子だから何もかも同じ、そういう概念を突き放すように。一人の個人として成立していると主張するように。
 私は外見を変えることによって実琴との差別化を図った。

 しかし、その差別化は良くない意味で発揮された。

 運動も勉強も出来て明るい性格の双子の姉と学力も運動神経も人並み以下で性格も気弱な双子の妹。
 極端に言えば、スペックの高い姉とスペックの低い妹。
 私たちのことを周囲の人間はこう揶揄した。


 “出来る方”と“出来ない方”と。


 容姿が似ていて中身が違うと、より二人の優劣が浮き彫りにされる。
 いっそ外見も中身も同じだったら比べられる必要もなかったのに。
 私は長く伸ばした髪を二つのお下げに。実琴は高い位置でくくったポニーテールにした。

 溌剌とした姉と大人しく控えめな妹という認識が見事に完成した。


 実琴は人気者だ。

    それはクラスが違ってもわかった。
 廊下ですれ違う時も体育の合同授業の時も、常に姉の周りには誰かがいた。
 逆をいえば、実琴が学校で一人でいるところを見たことがない。
 彼女は恐ろしく孤独が似合わない人間だった。

 反対に私はいつも学校で一人だった。

 中学校は小学校の隣にあるため、小学校の面子がそのまま中学校にくりあがることになる。
 したがって、中学から心機一転、新たな友達をつくるなんてことは難しい。難攻不落。

「くーちゃんがいればなぁ」
 小学生の時、まともに会話できたのは実琴を除きくーちゃんだけだ。
 そのくーちゃんもここにはいない。
 私が中学でひとりぼっちになるのは必然的だった。


***


 放課後になると実琴が私のクラスまで来ると言った。

「真琴。明野あけの円加まどかとテスト勉強するんだけどさ、カラオケ来ない?」

「え……」

 突然の誘いにしどろもどろになる。

 あと、何故テスト勉強でカラオケ?  

 素朴な疑問をぶつけたい気持ちもあるが、もっと先に聞かなくてはならないものがある。

「なんで私を誘うの?」
「んー、なんとなく?」

「なんとなくって」

 実琴の後ろには友人のアケノさんとマドカさんらしき人たちが立っている。
    目が合うとペコリと二人がお辞儀したのでつられてこちらも頭を下げた。
「紹介するね。こっち明野。こっち円加」

「おい紹介テキトーすぎかっての」
「百歩譲ってこっちとそっちっしょ」
「あははーごめんごめん!  真琴こいつら口悪いけど私と同じでいい奴らだから安心して」
「あはは……」

    この二人の話し方やノリを見た時点で自分とは合わないタイプと察した。

「よろしく……」
「「よろよろ~」」
「じゃあ紹介も済んだし行くか!」

 そう言って私の手を引っ張る。 これは一緒に行くパターンだ。
 こうなると私は断れない。

 実琴は私が押しに弱いことを知っている。知った上でのこの行動だ。
 実琴は「本人の了承を得ましたぜ!」なんてピースサインをしている。
    やっぱり、私の姉はずるい。

 友人の二人も実琴と同じくノリが良く明るいタイプだ。
 明るめの髪に短いスカート、鞄には派手な原色系のキャラクターのキーホルダーがいくつもぶら下がっている。

 この四人の中での私は完全にアウェイ。
 お呼びでない存在と感じてしまう。超がつくほど居心地が悪い。
 カラオケ店に行く足取りは重かった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】知られてはいけない

ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。 他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。 登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。 勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。 一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか? 心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。 (第二回きずな児童書大賞で奨励賞を受賞しました)

欠けるほど、光る

七賀ごふん
BL
【俺が知らない四年間は、どれほど長かったんだろう。】 一途な年下×雨が怖い青年

fall~獣のような男がぼくに歓びを教える

乃木のき
BL
お前は俺だけのものだ__結婚し穏やかな家庭を気づいてきた瑞生だが、元恋人の禄朗と再会してしまう。ダメなのに逢いたい。逢ってしまえばあなたに狂ってしまうだけなのに。 強く結ばれていたはずなのに小さなほころびが2人を引き離し、抗うように惹きつけ合う。 濃厚な情愛の行く先は地獄なのか天国なのか。 ※エブリスタで連載していた作品です

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...