大人しい村娘の冒険

茜色 一凛

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マイが豚の丸焼きにされそう

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 家から一時間ほど歩くと、ようやくウォレット山脈の麓に到着した。

 麓には無人の販売所があり、桃のようなフルーツが売られていた。この先山登りには桃などいかがですか? 虫刺されに抜群の効果ありと、書かれた説明書きを読んだ。

「これってあれだよね。単なる宣伝文句であまり信ぴょう性ないよね」

「アタシは信じてないけど、美味しそうだから買っとく。これツグミのリュックに入れといて」

「重くなるじゃない」

「これからツグのお母さんから貰ったパンを食べるから大丈夫だって」

 何が大丈夫なのよ。桃は山の腐敗臭とは違い瑞々しい爽やかな甘い香りを放っていた。 

 芳香剤みたいなものよね。そう言いながら私はリュックに桃を押し込んだ。

 道中お母さんから貰ったパンを食べながら、マイとここまで歩く。辺りが臭くてはきそうになった。

「ツグミ帰ったらお母さんに謝んなよ!」

「そうだね。私も言いすぎたとこあるし。今更だけど、マイの格好はなんなの?」

 マイはこれから山に入るというのにTシャツに黒のタイトスカートと軽装だ。スカートから伸びる白い脚が女の私から見ても眩しい。長くてモデル体型だと思う。それに比べて私は幼児体型だ。誰もいないのに肌を露出させてホルモンを普段から出しているから成長が早いのかな。私はというと登山用に長袖長ズボンといったかっこうである。

「ツグミってほんと地味だな」

「何言ってんのよ。マイがおかしいのよ」

 私からするとマイはたまに痴女なんじゃないかと思うこともあるけど、それを言ったら逆鱗に触れそうで怖い。人ってそれぞれアイデンティティってものがあるから、バカにされると傷つくよね。

 麓には立て札があり、『この先ゴキリン地帯の為立ち入り禁止』と書かれてあった。

 マイは立て札を足蹴りしてボキッと折ってしまう。

「さてと、こんな立て札いらないよね。私たちが殲滅するんだから」

 胸を張るマイ。それに合わせて胸の膨らみが強調されたTシャツからはふたつのポッチが透けて見えている。こんな山の中だから誰も歩いていないし恥ずかしいとかないのだろうけど。

 そもそもマイは羞恥心といった感情が無いからその辺を心配する必要も無いのかもしれない。

 「それじゃあ早速いってみよー」

 マイはエイエイオーと拳を突き上げると、私の前に出てくれて先導する。

 立ち入り禁止と書かれてはいたもののしっかりとけもの道のような道があるから迷うことは無い。それは山の頂上へとくねりながら向かうように見えた。

 私はカバンからオレンジを取り出し食べ皮はその辺に捨てといた。

「ツグミ。ダメじゃない。ゴミをほかったら、それにしても蚊が多いな。あーもうッ、胸が痒いっ」

 マイは誰も見ていないことをいいことにTシャツ
をたくしあげるとポリポリと胸をかく。

「ツグミ問題発生だよ」

「なになに? 何か起きたの?」

「実はな、チクビを蚊に刺された」

「あっ……そう」

 うん。これは流すのが正解だよね。

「ここは臭いしほんとゴミの山だよ。1個捨てたって分かんないよ」

 山の入口はゴミの集積所で酷くにおった。ゴキリンの巣はどうやらこの先の中間地点にあるようだ。

「ゴキンリンの巣まで五分。また立て札あるな。ここに前誰か来たのか?」

 なんとなくその文字があのピンクの髪のお姉さんの文字に似てるような気がした。しかも塗料で書かれた文字を指でなぞると手に付く。これはどういうこと? 書かれてからそう時間は経っていないのかも。もしかしてお姉さん。この辺りで隠れて私たちの様子を探っているのかもしれない。

「あー、私苦手。ゴキリンの羽音聞くだけで腕に寒気ボロ出てきたし」

 私も手の甲を蚊に刺されたみたいで少し痒い。

「何言ってんだよ。ここまで来たんだぞ。疾風の粉があればオリハルコンを探しに行けるんだから。ちゃっちゃと行くぞ。ツグミのケツ叩いてやろうか?」

 マイは腰からムチを取り出すと空に向かって牽制するようにビュンと振り、私は慌ててオシリを押さえる。五分と書かれていたはずなのに、もうかれこれ30分は歩いている様な気もする。

 おかしいな。後ろを振り返ると私が30分前に捨てたオレンジの皮が見える。そんなばかなっ。おかしいよ。もしかして全然進んでない?

 その時、茂みの奥から黒光りしたアイツが現れた。その数およそ10匹。

「マイッ。どうしよう」

「任せとけって! 私が仕留めてやるから。その隅の方で座って見とけって」

 私は少し離れた場所で身をかがめてマイを見つめる。

 マイはムチを慣れた手つきで振り回す、向かってくるゴキリンに一発おみまいする。

 だが、ゴキリンはそんな攻撃をいとも簡単に避けると1歩踏み込み、パンチをマイのお腹に叩きつけた。

 パーン。甲高い音が山にこだまする。
 思わず蹲るマイ。それに合わせて三びきのゴキリン達が、マイの服を脱がせようと必死だ。

「まずいっ」

 マイのスカートの下に手を入れピンクのパンツをはぎ取るもの。Tシャツは破られあっという間に裸にされて服はその辺に乱散していた。
 1本の木に豚の丸焼きのようにマイのムチで縛りあげられ二体のごきりんが担いで持っていく。よく見るとマイの行動がスローモーションのように遅い。

 これはどうなってんの?

 脚が震えて声も出ない。多分私が出ても一緒に捕えられて終わりだ。どうしようマイっ。マイをたすけないと。友達だよね。行くしかない!

「待ちなさい! 私が来たからにはキツイお仕置が必要ね!」

 言って見て少し恥ずかしかった。これってマイの言いそうなセリフじゃないの。

 私は銃に透明粉をセットするとマイに向かって打つ。玉はマイの身体にヒットしみるみる透明となった。


「どういうことだ。消えたぞ?」

 マイを担いでいたゴキリ達はキョロキョロして辺りを見回す。マイを縛った棒を投げ出し私の方を凝視してきた。

 やばい。私はポケットから透明粉を掴むと自分に振りかける。

 あとは銃にお姉さんから貰った玉を込めてマイに打つ!


 ドンッ!

 マイのムチが目印になってるからそこ目掛けて弾丸を撃ち込んだ。

 ムチがブチッと切れて、

「良くもやってくれたわね。ツグミサンキュっ。なんだか力が湧いてきたけど、なに打ったのよ」

 裸のマイが目の前に現れた。筋肉がついている。ゴキリンはキョロキョロ見回すがマイの姿が見えないのだから、もう勝負にはならないと思っていたのに。

 マイは回し蹴りでゴキリン達を攻撃していくが、やっぱり動きが遅い。何かの効果で鈍足になってる。

「ふふっ」

 その時、ピンクのお姉さんの微笑む声が聞こえたような気がした。

 ドンッドンッドンッと遠くの方から銃を打つ音が聞こえ、ゴキリン達が衝撃で跳ね飛ばされていく。

 もしかしてお姉さんがきてくれた?

 玉を受けたゴキリンの動きがスローモーションのようになり、私やマイよりも鈍足になっている。鈍足ゴキリンをターゲットにマイは回し蹴りを繰り出し、一匹また1匹と殲滅し、ジュエルを生み出していく。そして7匹目のゴキリンを倒した後、袋がドロップして、私はそれを拾い上げた。

 これが恐らく疾風の粉だ。少しだけマイに振りかけると、これまでにないぐらいのスピードで、体感的に5倍ぐらいの速さでマイが攻撃を繰り出す。

 元々10匹ほどいたゴキリンも最後の1匹となり、マイはそいつに向かって正拳突きを、繰り出すが、何かアイテムを使いその場から逃げていった。

「マイっ、ありがとう。何とかなったね」

「ツグミーっ! 助けに入るの遅すぎるわ! あのまま連れていかれてゴキリンの食べ物にされてたかもしれないんだぞどうしてくれるんだ」

 マイは鬼の形相でこちらを睨んでいる。とりあえずその辺の枝に引っかかっているパンツを履いて私の黒のコートを貸してあげた。

 スカートはどこにいったのよ。よくみるとべりっと半分に破られていた。どうしよう。その隣にはTシャツもべりっと半分になってる。

 私はカバンから裁縫道具を取り出すとハサミで生地を整えて、針と糸で縫い合わせて新たにスカートを作ってあげた。取り敢えずないよりはマシだよね。夕方帰ればそれほどめにたかないはずだし。何とかなるよ。

 はいっとマイにスカート渡すと、目が潤んだマイが。

「一応礼を言っとくよ。ありがとな!」

 よほど嬉しかったのか顔を手で隠して耳が真っ赤になってた。意外と簡単に疾風の粉をゲット出来た。あとは山を下って降りていこう。

 二人で降りようとしたが、疾風の粉が切れてまた鈍足となってしまった。

「なんなのよ。あそこに私の食べかすのオレンジの皮があるから、全然進んでないよね」

「また疾風の粉使うか?」
「これ使っても効力は10分くらいしかもどうしてこんな鈍足になったのか分からないと……。まさか」

「蚊?」

「それぐらいしか思い浮かばないな」

「まさか桃?」

 桃を取り出して食べようとしたその時。

「さっきはよくもやってくれたな! 親分やっちゃってください」

 先程の逃げたゴキリンが連れてきたのは普通のごきりんの3倍はある巨大なゴキリンだった。

「俺はゴキリンでは無い。ゴキキングだ!」

 背中の羽が凄まじい音を立て、私たちは青ざめすくみ上がった。
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