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四話 調合師になりたい
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沈黙が流れる。お姉さんは手を口に当てしばし考えたあと。
「私はそんなに凄くないわ。でも一つ大切にしてるのは直ぐに行動することかな。考えても時間の無駄よ。思い立ったら動くの。1歩でもいいから前に進んで。あとは突き進むのみよ。これ着てみる? 私の服だけど。」
そう言って私の頬を横に力強くつまむ。そしてカバンの中から白いローブを取り出した。
「またあなたとはどこかで会えるような気がする。どう? 身体ももう痛くないでしょ」
こくりと頷く。私が着替え終わると、お姉さんは手を振って小屋から出ていってしまった。
☆
なんでこんなかっこいいのだろう。でも不思議お姉さんと別れ、カティを抱きながら帰るけど、魔法のような塗り薬が作れるのに、どうして脚を引きずっていたの?
お姉さんにも治せない病気があるのかな。その辺は本人に聞かないと分からないけど。あんな風に人を助けられたらいいのに。腕の中のカティも潤んだ目で私を見てくる。
私も調合師になりたいな。カティ。なれると思う?
☆
家に帰る頃にはあたりは真っ暗になっていた。
私もカティも傷が治ったとはいえ、足や腕は泥や血で汚れていたから、厨房でお母さんが背中を向けてパンを捏ねている間に家の裏手に周り、井戸で水を汲みタオルを浸して身体を拭いた。
寒っ。お母さんにバレないようにしないといけない。
「こんな時間になってごめんなさい」
お母さんは、びっくりして皿を落とす。
「え! 何時だと思ってるの! 心配してずっと待ってたのよ」
何から話そうと思ったけど、勇者に殺されそぅになって、お姉さんに助けてもらった魔法のような話は自分の中に閉まっておこうと思った。
勇者が、村人を殺そうとするなんてありえないから。信じて貰えない。
「あのさ、変な話するけど、調合師になった人っている?」
「ご飯はまだよね。これ食べなさい。調合師ってどうしたのよ。あれはお勉強の出来るエリートしかなれないわよ。あんたは女の子なんだから、普通の学校を卒業して、うちのパン屋を継げばいいのよ。馬鹿なこと言ってないで早く食べて寝なさい」
と、身も蓋もないことを平気で言ってくる。食べ終わると横に並んでいつものようにお母さんが食器を洗い、隣にいる私に皿をどんどん渡してくるから、タオルで拭いて食器棚へと片付けていく。
どうして大人は私の話をしっかり聞いてくれないの?
「私とカティ二人とも勇者に殺されそうになったんだから……」
「嘘はいいから、あんたまさか、死にかけて調合師に命を助けて貰ったとでも言いたいわけ? そんな夢みたいな事言ってんじゃないわよ」
「証拠もあるし! 泥と血だらけの服も……」
お母さんの目の前に証拠の物を提出すると、服を巻くられて、
「キャッ」
「どこも怪我なんてしてないじゃない。この子は、どこでこんなに汚してきたのよ」
私だって塗り薬で骨折や打撲、内臓破裂が一瞬で治るなんて未だに信じられないし、それを説明するのは難しい。お姉さん簡単に治しすぎだよ。
ふと、私の肩を掴み、眼を真っ直ぐに見つめるお母さん。
「嘘はついてなさそうね。メアリがそんなつまらないこと言うわけないし」
言ったら分かってくれるはず。事細かく公園からの流れを説明した。
「死にかけた時、調合師のお姉さんが
助けてくれたから私も同じ仕事がしたいの!」
「その服しっかり見せなさい。こ、これは……」
ワナワナと手を震わせるお母さんは私を抱きしめる。
「怖い思いをしたのね。許せない! メアリを助けたのは、恐らく王国一の聖女様なんじゃないのかしら。もしかしてピンクの髪で、シリンダーをカバンに刺してなかった? 午前中、パンを買っていただいたの……国を回って困っている人を助けているとか」
私はため息をつく。聖女様が脚を引きずって諸国を旅するわけない。
「脚を引きずったお姉さんに助けてもらったの」
その言葉を発するとお母さんは手で口を隠し、目を大きく見開く。そして、ただ一言漏らした。
「そんな……聖女様……」
お母さんは手を組むと目を閉じて祈っていた。
次の日。登校して、先生の元へ急いだ。勇者に酷いことされた話は伝えずに、聖女様のような調合師になりたいと言うと先生は酷くびっくりしてたけど、「夢は叶えるためにあるの」とすぐに羊皮紙に一通の手紙を書いてくれた。
もしかしてトントン拍子に進むんじゃないのかなって思えた。
「いい? アップル王国には調合師になるための学校があるわ。そこに推薦状を送るから楽しみに待っててね」
「ありがとうございます。そんな簡単になれるものなんです?」
「いいえ。難しいわ。私が子供の頃に受けたとして受かると思えないし。でも生徒が望むことなら、小さなチャンスでも与えたいのまあ、メアリが有名な調合師になったら安くしてね。頼んだわよ!」
先生悪い目つきしてるし。ちゃっかりしてる。私は唖然としてしまう。
それから数日が経ち、私の家に、調合学園から手紙が届いた。封を切り、少し読んだところで、頭を撃ち抜かれたような衝撃を受けた。
――手紙の1番上には重要項目とあり、そこには現役の調合師の推薦が必要条件である。と書かれていた。この身内しか受け入れないような文言はいったい。
どうしよう……私を推薦してくれる調合師なんて一人もいやしない。しかも学費は親に見せたら、1000万ジュエルという値段。この国ではそれだけあれば、小さな一軒家が買えてしまう程の値段で諦めるしかない。
「メアリっ、残念だけどウチでは無理よ。学費が高すぎるもの。無理なものは無理。諦めた方がいいわ……」
「もういいよ……」
お母さんに期待して相談してたけどやっぱり無理だよね……。けれども、頭では分かってるけど納得できない。涙がブワッと溢れてしまい、カティを連れてあの公園に向かって家を飛び出した。
公園の真ん中に位置する木のブランコに腰掛け、膝の上で気持ちよさそうに欠伸をするカティを撫でる。
まだお昼前で太陽が眩しくてイライラする。
――あのお姉さん。今何してるのかな? また誰かを助けてるのかな。この世の中って不公平…。貧乏な家に生まれたせいで。悔しい。
ぼんやりと目の前の小さな噴水をただただ眺めていた。
お姉さんの言葉が浮かぶ。即行動だっけ。
流れる水を見るとなんだか少し気持ちが落ち着いてくる。――お金なんて調合師になってから働いて返せばいい。取り敢えず推薦してくれる人を探そう。
でも、どこに?
こないだの薬屋に行こうと思った。お金がかかるわけじゃないし、推薦くらいしてくれるでしょ。私は軽く考えていた。
足取りが、重い。薬屋の窓を覗くと、また無愛想なメガネの男がいるのが見えた。
またあの男。胃が少し痛い。正直気が乗らないけど……行くしかない。
「あ、あのっ、調合師になりたいので、推薦して貰えませんか?」
「また君? 調合師になりたいの? 君も本当に懲りないね。あと僕が推薦なんか出来るわけないだろ? だって君のこと何も知らないし」
「そこをなんとかお願いできませんか?」
彼の視線が私の身体を舐めるようにして上下にゆっくりと動き、胸の辺りでピタリと止まる。
「まー、三年後に付き合ってくれるなら書いてもいいけど」
メガネの男は気持ちの悪い笑いをニタニタ浮かべる。
背筋に寒気が走る、ダメっ、生理的に受け付けない。でも、調合師になるためには、この気色悪い男に頼るしか道は無いの?
ここでこの人に書いてもらえばあとはお金の都合だけ何とかすればいい。それでいいの?
お姉さんの顔がうかぶ。
そんなのダメよ! そんな声が聞こえたような気がした。
その男は私の手を取りさすってくる。無理。その手を払い除けると、
「結構です。ここにはもう二度と来ることはありません」
一瞬。お願いしますと言いそうになった自分にビンタをお見舞いしたい。
ドアをバタンと閉めて薬屋を後にする。
やっぱりダメ……。次々、城下町にある他の薬屋を回るが、やはり見ず知らずの人を推薦してくれる人なんて誰もいるわけが無い。
日が暮れて、いつの間にか辺りは薄暗くなってきた。
それでも何か手はあるはず……。そんなのない。本当は何もないのは分かってた。コネなんてパン屋の村娘にあるわけないし、最初から調合師を目指すなんて無謀過ぎた。家に向かって歩きながら抱きかかえたカティの目を覗き込む。
「カティ。私のこと、推薦してくれそうな人いない?」
そう、問いかけると、カティの顔が、微笑んだような気がした。そしてカティは目を逸らし横を見る。私も同じように視線を向けると、そこには憧れのお姉さんが立っていた。
「久しぶりね! 一ヶ月ぶりかしら? この間は聞くの忘れたけど、あなたお名前は?」
この時、私には綺麗な大きな翼のある神様がこの世界に舞い降りたのかと思った。
相変わらず白衣を身にまとい、胸元に大きな胸が主張している。それに圧倒されてしまいどもってしまう。
「え、えっ、メ……メアリです。お、お姉さん……」
「あ、あらっ、どうしたの? ネコちゃんは元気そうだけど、あなたは少し元気ないみたいね。力になれそうなことがあったらなんでも言ってくれていいのよ」
お姉さんは切り株に腰を落として、私の顔をまじまじと見てくる。お姉さんならどうしたらいいのか教えてくれそう。そんな淡い期待を胸に秘めて、
「調合師の学校に通いたいんですけど、推薦がいるんです」
私は何を言っているんだろう。何回も見ず知らずの人が助けてくれるわけないのに。
「そんなことなら私がいくらでも書いてあげるわよ! あとは服と学費ね。それも用意しとくわ! あなたみたいに人の痛みを知ってる人で、なお、自分のことは後回しに出来るような人なら、きっといい調合師になれると思うの! メアリのこと気に入ったからお姉さんに任せなさいな」
なんでよ。どうしてお姉さん。そんなに優しくしないでよ…。目頭から涙が溢れてくる。お姉さんの瞳はキラキラ輝いている。
「そんな、一回しか会ったことないのにどうしてそんなに親切にしてくれるんですか?」
「まあいいじゃないの。私も子供の時同じようなことをしてもらったから、恩返ししたいのよ。だからメアリは気にしなくていいの」
「そんな……。こんなことって、嬉しいですけど。私の気が収まりません」
このお姉さんにしてあげられることないの?
「いいのよ。足長おじさんみたいなものだから。って、今の子はそんなの知らないわよね!」
「よくわからないですけど、ご迷惑でなければ休みの日にお姉さんのお手伝いをさせて貰えませんか? 足でまといですよね……」
私は助けて貰うだけなのは嫌だ。だったら憧れのお姉さんの近くで、お手伝いさせてもらいたい。
「そんなことないわ! そうねー。ほんと気にしなくてもいいのに! まー、メアリ学校もあるし、私は足を少し不自由してるから、一週間に一日ぐらいお手伝いしてもらおうかしら」
「ありがとうございます! 私誰よりも頑張ってお姉さんみたいになります」
お姉さんはふふっと笑いながら、私の頬っぺをつまむと「じゃあ早速、野草取りに行くわ。付いてきて」
と言いながら手招きする。
「えっ? 今から?」
「そう。さあ行くわよ!」
「私はそんなに凄くないわ。でも一つ大切にしてるのは直ぐに行動することかな。考えても時間の無駄よ。思い立ったら動くの。1歩でもいいから前に進んで。あとは突き進むのみよ。これ着てみる? 私の服だけど。」
そう言って私の頬を横に力強くつまむ。そしてカバンの中から白いローブを取り出した。
「またあなたとはどこかで会えるような気がする。どう? 身体ももう痛くないでしょ」
こくりと頷く。私が着替え終わると、お姉さんは手を振って小屋から出ていってしまった。
☆
なんでこんなかっこいいのだろう。でも不思議お姉さんと別れ、カティを抱きながら帰るけど、魔法のような塗り薬が作れるのに、どうして脚を引きずっていたの?
お姉さんにも治せない病気があるのかな。その辺は本人に聞かないと分からないけど。あんな風に人を助けられたらいいのに。腕の中のカティも潤んだ目で私を見てくる。
私も調合師になりたいな。カティ。なれると思う?
☆
家に帰る頃にはあたりは真っ暗になっていた。
私もカティも傷が治ったとはいえ、足や腕は泥や血で汚れていたから、厨房でお母さんが背中を向けてパンを捏ねている間に家の裏手に周り、井戸で水を汲みタオルを浸して身体を拭いた。
寒っ。お母さんにバレないようにしないといけない。
「こんな時間になってごめんなさい」
お母さんは、びっくりして皿を落とす。
「え! 何時だと思ってるの! 心配してずっと待ってたのよ」
何から話そうと思ったけど、勇者に殺されそぅになって、お姉さんに助けてもらった魔法のような話は自分の中に閉まっておこうと思った。
勇者が、村人を殺そうとするなんてありえないから。信じて貰えない。
「あのさ、変な話するけど、調合師になった人っている?」
「ご飯はまだよね。これ食べなさい。調合師ってどうしたのよ。あれはお勉強の出来るエリートしかなれないわよ。あんたは女の子なんだから、普通の学校を卒業して、うちのパン屋を継げばいいのよ。馬鹿なこと言ってないで早く食べて寝なさい」
と、身も蓋もないことを平気で言ってくる。食べ終わると横に並んでいつものようにお母さんが食器を洗い、隣にいる私に皿をどんどん渡してくるから、タオルで拭いて食器棚へと片付けていく。
どうして大人は私の話をしっかり聞いてくれないの?
「私とカティ二人とも勇者に殺されそうになったんだから……」
「嘘はいいから、あんたまさか、死にかけて調合師に命を助けて貰ったとでも言いたいわけ? そんな夢みたいな事言ってんじゃないわよ」
「証拠もあるし! 泥と血だらけの服も……」
お母さんの目の前に証拠の物を提出すると、服を巻くられて、
「キャッ」
「どこも怪我なんてしてないじゃない。この子は、どこでこんなに汚してきたのよ」
私だって塗り薬で骨折や打撲、内臓破裂が一瞬で治るなんて未だに信じられないし、それを説明するのは難しい。お姉さん簡単に治しすぎだよ。
ふと、私の肩を掴み、眼を真っ直ぐに見つめるお母さん。
「嘘はついてなさそうね。メアリがそんなつまらないこと言うわけないし」
言ったら分かってくれるはず。事細かく公園からの流れを説明した。
「死にかけた時、調合師のお姉さんが
助けてくれたから私も同じ仕事がしたいの!」
「その服しっかり見せなさい。こ、これは……」
ワナワナと手を震わせるお母さんは私を抱きしめる。
「怖い思いをしたのね。許せない! メアリを助けたのは、恐らく王国一の聖女様なんじゃないのかしら。もしかしてピンクの髪で、シリンダーをカバンに刺してなかった? 午前中、パンを買っていただいたの……国を回って困っている人を助けているとか」
私はため息をつく。聖女様が脚を引きずって諸国を旅するわけない。
「脚を引きずったお姉さんに助けてもらったの」
その言葉を発するとお母さんは手で口を隠し、目を大きく見開く。そして、ただ一言漏らした。
「そんな……聖女様……」
お母さんは手を組むと目を閉じて祈っていた。
次の日。登校して、先生の元へ急いだ。勇者に酷いことされた話は伝えずに、聖女様のような調合師になりたいと言うと先生は酷くびっくりしてたけど、「夢は叶えるためにあるの」とすぐに羊皮紙に一通の手紙を書いてくれた。
もしかしてトントン拍子に進むんじゃないのかなって思えた。
「いい? アップル王国には調合師になるための学校があるわ。そこに推薦状を送るから楽しみに待っててね」
「ありがとうございます。そんな簡単になれるものなんです?」
「いいえ。難しいわ。私が子供の頃に受けたとして受かると思えないし。でも生徒が望むことなら、小さなチャンスでも与えたいのまあ、メアリが有名な調合師になったら安くしてね。頼んだわよ!」
先生悪い目つきしてるし。ちゃっかりしてる。私は唖然としてしまう。
それから数日が経ち、私の家に、調合学園から手紙が届いた。封を切り、少し読んだところで、頭を撃ち抜かれたような衝撃を受けた。
――手紙の1番上には重要項目とあり、そこには現役の調合師の推薦が必要条件である。と書かれていた。この身内しか受け入れないような文言はいったい。
どうしよう……私を推薦してくれる調合師なんて一人もいやしない。しかも学費は親に見せたら、1000万ジュエルという値段。この国ではそれだけあれば、小さな一軒家が買えてしまう程の値段で諦めるしかない。
「メアリっ、残念だけどウチでは無理よ。学費が高すぎるもの。無理なものは無理。諦めた方がいいわ……」
「もういいよ……」
お母さんに期待して相談してたけどやっぱり無理だよね……。けれども、頭では分かってるけど納得できない。涙がブワッと溢れてしまい、カティを連れてあの公園に向かって家を飛び出した。
公園の真ん中に位置する木のブランコに腰掛け、膝の上で気持ちよさそうに欠伸をするカティを撫でる。
まだお昼前で太陽が眩しくてイライラする。
――あのお姉さん。今何してるのかな? また誰かを助けてるのかな。この世の中って不公平…。貧乏な家に生まれたせいで。悔しい。
ぼんやりと目の前の小さな噴水をただただ眺めていた。
お姉さんの言葉が浮かぶ。即行動だっけ。
流れる水を見るとなんだか少し気持ちが落ち着いてくる。――お金なんて調合師になってから働いて返せばいい。取り敢えず推薦してくれる人を探そう。
でも、どこに?
こないだの薬屋に行こうと思った。お金がかかるわけじゃないし、推薦くらいしてくれるでしょ。私は軽く考えていた。
足取りが、重い。薬屋の窓を覗くと、また無愛想なメガネの男がいるのが見えた。
またあの男。胃が少し痛い。正直気が乗らないけど……行くしかない。
「あ、あのっ、調合師になりたいので、推薦して貰えませんか?」
「また君? 調合師になりたいの? 君も本当に懲りないね。あと僕が推薦なんか出来るわけないだろ? だって君のこと何も知らないし」
「そこをなんとかお願いできませんか?」
彼の視線が私の身体を舐めるようにして上下にゆっくりと動き、胸の辺りでピタリと止まる。
「まー、三年後に付き合ってくれるなら書いてもいいけど」
メガネの男は気持ちの悪い笑いをニタニタ浮かべる。
背筋に寒気が走る、ダメっ、生理的に受け付けない。でも、調合師になるためには、この気色悪い男に頼るしか道は無いの?
ここでこの人に書いてもらえばあとはお金の都合だけ何とかすればいい。それでいいの?
お姉さんの顔がうかぶ。
そんなのダメよ! そんな声が聞こえたような気がした。
その男は私の手を取りさすってくる。無理。その手を払い除けると、
「結構です。ここにはもう二度と来ることはありません」
一瞬。お願いしますと言いそうになった自分にビンタをお見舞いしたい。
ドアをバタンと閉めて薬屋を後にする。
やっぱりダメ……。次々、城下町にある他の薬屋を回るが、やはり見ず知らずの人を推薦してくれる人なんて誰もいるわけが無い。
日が暮れて、いつの間にか辺りは薄暗くなってきた。
それでも何か手はあるはず……。そんなのない。本当は何もないのは分かってた。コネなんてパン屋の村娘にあるわけないし、最初から調合師を目指すなんて無謀過ぎた。家に向かって歩きながら抱きかかえたカティの目を覗き込む。
「カティ。私のこと、推薦してくれそうな人いない?」
そう、問いかけると、カティの顔が、微笑んだような気がした。そしてカティは目を逸らし横を見る。私も同じように視線を向けると、そこには憧れのお姉さんが立っていた。
「久しぶりね! 一ヶ月ぶりかしら? この間は聞くの忘れたけど、あなたお名前は?」
この時、私には綺麗な大きな翼のある神様がこの世界に舞い降りたのかと思った。
相変わらず白衣を身にまとい、胸元に大きな胸が主張している。それに圧倒されてしまいどもってしまう。
「え、えっ、メ……メアリです。お、お姉さん……」
「あ、あらっ、どうしたの? ネコちゃんは元気そうだけど、あなたは少し元気ないみたいね。力になれそうなことがあったらなんでも言ってくれていいのよ」
お姉さんは切り株に腰を落として、私の顔をまじまじと見てくる。お姉さんならどうしたらいいのか教えてくれそう。そんな淡い期待を胸に秘めて、
「調合師の学校に通いたいんですけど、推薦がいるんです」
私は何を言っているんだろう。何回も見ず知らずの人が助けてくれるわけないのに。
「そんなことなら私がいくらでも書いてあげるわよ! あとは服と学費ね。それも用意しとくわ! あなたみたいに人の痛みを知ってる人で、なお、自分のことは後回しに出来るような人なら、きっといい調合師になれると思うの! メアリのこと気に入ったからお姉さんに任せなさいな」
なんでよ。どうしてお姉さん。そんなに優しくしないでよ…。目頭から涙が溢れてくる。お姉さんの瞳はキラキラ輝いている。
「そんな、一回しか会ったことないのにどうしてそんなに親切にしてくれるんですか?」
「まあいいじゃないの。私も子供の時同じようなことをしてもらったから、恩返ししたいのよ。だからメアリは気にしなくていいの」
「そんな……。こんなことって、嬉しいですけど。私の気が収まりません」
このお姉さんにしてあげられることないの?
「いいのよ。足長おじさんみたいなものだから。って、今の子はそんなの知らないわよね!」
「よくわからないですけど、ご迷惑でなければ休みの日にお姉さんのお手伝いをさせて貰えませんか? 足でまといですよね……」
私は助けて貰うだけなのは嫌だ。だったら憧れのお姉さんの近くで、お手伝いさせてもらいたい。
「そんなことないわ! そうねー。ほんと気にしなくてもいいのに! まー、メアリ学校もあるし、私は足を少し不自由してるから、一週間に一日ぐらいお手伝いしてもらおうかしら」
「ありがとうございます! 私誰よりも頑張ってお姉さんみたいになります」
お姉さんはふふっと笑いながら、私の頬っぺをつまむと「じゃあ早速、野草取りに行くわ。付いてきて」
と言いながら手招きする。
「えっ? 今から?」
「そう。さあ行くわよ!」
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