聖女は復讐の為なら何でもします!

茜色 一凛

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十話 古代の災厄

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 心臓が飛び出しそうになりながら、倉庫の扉を静かに開けた。部屋に入ると目を疑う光景が待ち構えていた。

 なんとそこには、さっきまでなかったはずのグレーの銅像が置かれているだけだった。顔を近ずけて見ると、それはジャック。

「ジャック! ジャック! 返事してよ! 何で、何で……」

 銅像の顔に触れると氷のようにひんやりと冷たくなっていた。コツンと叩くと、まるで石のように硬い。

 力が抜けてしまい床に腰を落とし、銅像を眺める。どれぐらいの時間が流れたのか分からない。

 嘘でしょ。

 誰かが扉を開けて部屋に入る足音でハッとして我に返った。

 まさか、石にされたの? そんなわけないよね。

「メアリ! 大丈夫ですか? えっ?」

 マーガレットは、私と同じように銅像に触れると、頭を左右に振った。

「もしかしたら石化の呪いを受けたのかもしれません」

「そんなこと言われても、分かんないから。分かんない。ジャックなんて連れてこなければ良かった……」


「そんな事言わないで、前に校長先生の授業でこんな話をされたことがあるの。太古の魔法で石化の呪術があるらしいのです。校長なら何とかしてくれるかもしれません。このままにしとくとまずいので銅像を隠した方が良さそうです」

「どこに? そもそもこれを動かして大丈夫なの? 壊れたりしない?」

 もうどうしたらいいのか分からない。マーガレットの冷静な態度に腹が立ってくる。

 勇敢に立ち向かってくれたジャックは素敵だけど、こんな結末になるぐらいなら一緒に逃げるべきだった。どうしてあの時私は動けなくなったんだろうか。悔やんでも悔やみきれない。

「運ぶものないか探してきます」

 マーガレットはそう言うと、どこからか台車を持ってきてくれた。二人で校庭にある普段使わない小屋へと運ぶことにした。

 ――ほっとしたのも束の間、ジャックの親にこのことを報告しなくてはない。

 お宅のお子さんが私を庇って石になりました。助かるかどうか分かりません。なんて、そんな非現実的で残酷なこと言えるわけないじゃない。

「ジャックの親には連絡した方がいいよね?」

「早めに知らせた方がいいですけど、時間は夜の九時。一旦落ち着いて明日にでも私と一緒に話に行きましょうか?」

「明日先生に相談してからにしない? ジャックの親に迷惑かけたくないし。家が隣で小さい頃から親同士とも付き合いがあるの」

 ピンクの髪のお姉さんに相談した方がいいのかもしれない。聖女様なら私を治してくれたように、ジャックも容易く治してくれるかもしれないし。ライバル視してる校長先生の立場もあるから、今回は校長に頼んだ方がいいかもしれない。

「ですね。校長の薬で治せるかもしれませんし、そうなれば親御さんには心配かけなくてもすみますからね」

 そうして、私達は自宅に帰ることにした。

 部屋に戻っても全く眠れず、布団に頭までくるまって横になった。何度かこの事が夢であって欲しいと願うけど、どうしようもなく、時間だけは過ぎ、次第に明るい光が窓から差しこみ朝になる。

 寝てないせいか頭が重く吐き気がしてくる。

 朝食もとらず、学園に急ぎ校長室へと向かった。マーガレットが目の下にクマを作って校庭で待ってくれていたのには驚いた。二人で校長室のドアをノックする。

 コン、コンッ

「どうぞー! 入っていいわよ」

 早朝に、につかわしくないくらい明るい声が部屋の中から返ってきた。

「失礼します。あ、あのっ、先生っ……」

「まあ! おはようございます! 生徒でこんなに早く登校するなんて、今日は記念すべき日よ! なんて勉強熱心なのかしら。憧れの伝説の調合師である私に何か質問したいことでもあるの?」

 校長は満面の笑みで口角を上げて私たちを見るが、私とマーガレットの顔色が良くないことに気づき声のトーンが少し下がった。

「何か問題が起こったのかしら? こないだの薬草の件で? まさかっ……犯人はメアリなの?」

「いえ、そうじゃないんです。そんなことよりも、もっと大変なことがおこったんです」

 なかなか私が言い出せないでいると、マーガレットが、私の前に割って入り昨夜の倉庫で起こったことを逐次説明してくれた。

「先生、石化した生徒を元に戻す方法ってありませんか?」

「石化? 魔物の中には人間を石化させる能力をもつものもいますけど、まさか誰かが石に変えられたのです?」

 みるみる顔が青ざめ、目を泳がす校長。簡単に考えてたけどそうじゃないのかもしれない。大量の嫌な汗が背中から湧き出す。

 お願い。対処法があると仰ってください。

「昨夜、薬草泥棒を捕まえようと倉庫に侵入したら魔物が現れて、友達が石にされてしまったんです。治す方法はありませんか?」

「はっ? 不法侵入なんて、どんな理由があってもしてはなりません。本当にまずい。まずいわっ。石化はその魔物を倒さないと解けないの。薬で解いた事例はありませんし。その生徒は今どこにいるの?」

 数年前まで鶏小屋だった場所へと校長を案内した。

「ここは普段誰にも使われてませんから、ここに運ぶことにしたんです」

 校長は銅像を軽くコツンと叩くと、金属音のような乾いた音がした。

「素晴らしい判断だわ! それにしてもここまで石化が完全なものだとしたら、魔王の幹部クラス以上にかけられたのでしょう。よくあなた達無事に帰ってこられたわね。ここだと安全とは言えないわ。校長室に運びましょう。あと私から親御さんに連絡しときます。怖かったでしょう。よく勇気を出して話してくれたわ」

「ごめんなさい。ごめんなさい。本当にごめんなさい。まさかこんなことになるなんて夢にも思いませんでした」

 涙が止まらない。胸の中のつかえが少し取れて気持ちが楽になったような気がした。校長に許してもらってもジャックが元通りになる訳じゃないけど。

「そうね。……あらっ、あそこに何か黒い翼の人が倒れてない?」

 昨日の魔物だ……。

「もしかしたらジャックを石化させた魔物かもしれません」

 だとしたらその魔物を倒せばジャックは元通りになるはず。

「そんな……有り得ないわ」

 100メートルぐらい先をポケットから出した筒のようなもので確認する校長の顔色が良くない。私達の顔を交互に見てため息を吐いた。

「とにかく見に行きましょう」

 どういうことなんだろう。魔物が建物から落ちて死んでいるなら、ジャックの石化が解けても良さそうなものなのに。

 今は校長もいるし、不安なんてない。

 私たちは魔物の元へと急いだ。

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