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十一話 聖女再び
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どうして……。なんでアイツがいるの!
私はあの悪魔に一度殺されかけた。そう、王冠を被り、マントを靡かせる勇者が、何故か魔物の傍にいるのだ。
あの時のことを思い出すと、心臓が握りつぶされそうになる。
「ごめん。先行ってて」
「どうかしました? 勇者様ですよね。以前勇者の任命式を城下町で行った時にパレードで拝見したことがあります」
その一方羨望の眼差しで目をキラキラ輝かせるマーガレット。
マーガレット違うの。あれは、勇者じゃないの。人でなしの悪魔よ! この場から一刻も早く逃げないといけないのに。
一般的には、勇者とは悪を払い弱い者を助けるという先入観があるから、たとえ悪魔でも簡単に信じてもらえない。
これまで私が勇者に酷い仕打ちを受けたことをマーガレットには一度として話したことがないからなおさらだ。
「メアリ、行きますよ」
脚が止まる私を校長は無理やり手を引っ張って連れていく。
「メアリ、あなたまさか震えてます?」
睨む視線の先には勇者が大きな口を開けて笑っている。
「ギャハハ! 俺たちツイてるぜ。こいつは魔王軍幹部『ブラックウイング』。しかも瀕死じゃねーか。大量の経験値ゲットだ」
「勇者さまー。 幸運ね 私たちのレベルもこれで簡単に上がりますわ。日頃の勇者様の行いが素晴らしいからですね」
勇者の隣にいる僧侶女は、頭の上から甲高い声を出す。スカートのスリットから見える白く長い脚をチラチラ見せ、勇者に抱きつき胸を押し付けている。
相変わらずね。冒険ごっこでもしているのかしら
「勇者様。お初におめにかかります。私はこの学園の校長です。魔物を見させて貰ってもよろしいですか?」
そういいながら、校長はおずおずと翼人の心臓の音を確かめようとしゃがんで翼人の胸に耳を近づけた。
「ダメね。全く動いてませんね。無機生物系の魔物ですと、心臓そのものが無いものもいますし。それにしても血行が良すぎます。死んでるように見えませんね」
「おい! どけ! クソチビが!」
勇者は校長の襟首を引っ張り、足蹴りする。校長はその場に倒れ込んだ。
「え? はいっ? 勇者さまです?」
その様子を後ろで見ていたマーガレットは困惑の表情で、口に手を当てて思わず絶句する。
「マーガレット離れて!」
勇者は腰の剣を引き抜くと。
「こいつらも、血祭りにあげてこの魔物がやった事にすればいいだろ。まさに死人に口なしだ」
「ですわ! まさかこの世界。魔物を倒すより人間を殺した方がレベルが上がりやすいなんて知ってるの私たちぐらいなのではありませんこと?」
「おいおい! それは内緒だろ。まあいいか。どうせこいつら皆殺しなんだから! ガハハハハっ」
やっぱりこいつらどうしようもないぐらいクソだった。
マーガレットだけは助けないと。猫のカティのような思いだけは絶対にさせたくない。なのに体が硬直して動いてくれない。
「ねえ、メアリ動いてない?」
マーガレットが耳元で小さく声を漏らす。
「え?」
地面に倒れていた魔物の手がピクリと動いたような気がした。できれば見間違いということにしたいけど。
目を擦り、もう一度魔物を凝視すると、指先がピクりと動き、後ろの羽がばさっと開き、ブラックウイングは地面に手をついて徐に立ち上がった。
「片方の心臓が潰れたか。……ん? お前たちは誰だ!」
ブラックウイングは勇者を見ている。
そう。そうよ。あの勇者をやっつけて! その隙に逃げないと。
「所詮瀕死の魔物だ。ぶっ殺してやる!」
勇者は剣を構え、魔法を唱える。剣は炎に包まれる。これは魔法剣とでもいうのだろうか。 ギョロっとした血走った赤い目のブラックウイングは、背中の刀を抜くと勇者目掛けて、突然切りかかってきた。
だが、勇者は軽やかなステップで振り下ろされた刀を横に避けると、すぐさま回し蹴りを魔物の腹にぶち込んだ。が、魔物は何事も無かったかのようにお腹をさするだけであった。
「そんな蚊のような攻撃。効くわけが無かろう」
勇者の攻撃はこの魔物に効かない?
隣で倒れる校長は起き上がると。
「メアリ、マーガレットここから離れなさい! 後は私に任せて」
そう言って校長はスカートを縦にビリッと破り、脚を開くと、太ももにベルトで括り付けた聖なるナイフを掴む。
ポケットに手を入れレオンさんから貰ったお守りを握り祈ることしか出来なかった。
「あー、駄目だ。退散だ!」
そう言うと勇者はすれ違いざまに、剣でマーガレットの胸を刺し、魔物の前へ剣の柄で突き飛ばした。
「なんてことを!」
校長はすぐさま魔物の前に立ちはだかり、右手で輝く粉をマーガレットに振り掛ける。
後ろを見て勇者を睨みつけるも。
「じゃあな、俺たちは先を急いでいるんで後は勝手に何とかしてくれ!」
「あなた自分が何をしてるのか分かってるの?
」
「知らねーよ! どうせお前らじゃ勝てねー。」
私たちを残して近くに停めた馬車に乗り込む。
「あれが勇者か! この国も終わってるな」
「校長。私のことは後でいいですから、ゴフッ」
「何言っているんですか! 傷口は塞ぎました。さっさと倒してきますから、待っててくださいね」
魔物と校長は激しい刀の打ち合いをくりひろげている。今の所、魔物の方が優勢のように見える。聖なるナイフは少しさびており、打ち合う度に、刃こぼれを起こしている感じがした。何度となく打ち合いの後、校長の刀身は折れて空を飛んでいく。
そして魔物は校長の首に刀のやいばを当てた。
私はあの悪魔に一度殺されかけた。そう、王冠を被り、マントを靡かせる勇者が、何故か魔物の傍にいるのだ。
あの時のことを思い出すと、心臓が握りつぶされそうになる。
「ごめん。先行ってて」
「どうかしました? 勇者様ですよね。以前勇者の任命式を城下町で行った時にパレードで拝見したことがあります」
その一方羨望の眼差しで目をキラキラ輝かせるマーガレット。
マーガレット違うの。あれは、勇者じゃないの。人でなしの悪魔よ! この場から一刻も早く逃げないといけないのに。
一般的には、勇者とは悪を払い弱い者を助けるという先入観があるから、たとえ悪魔でも簡単に信じてもらえない。
これまで私が勇者に酷い仕打ちを受けたことをマーガレットには一度として話したことがないからなおさらだ。
「メアリ、行きますよ」
脚が止まる私を校長は無理やり手を引っ張って連れていく。
「メアリ、あなたまさか震えてます?」
睨む視線の先には勇者が大きな口を開けて笑っている。
「ギャハハ! 俺たちツイてるぜ。こいつは魔王軍幹部『ブラックウイング』。しかも瀕死じゃねーか。大量の経験値ゲットだ」
「勇者さまー。 幸運ね 私たちのレベルもこれで簡単に上がりますわ。日頃の勇者様の行いが素晴らしいからですね」
勇者の隣にいる僧侶女は、頭の上から甲高い声を出す。スカートのスリットから見える白く長い脚をチラチラ見せ、勇者に抱きつき胸を押し付けている。
相変わらずね。冒険ごっこでもしているのかしら
「勇者様。お初におめにかかります。私はこの学園の校長です。魔物を見させて貰ってもよろしいですか?」
そういいながら、校長はおずおずと翼人の心臓の音を確かめようとしゃがんで翼人の胸に耳を近づけた。
「ダメね。全く動いてませんね。無機生物系の魔物ですと、心臓そのものが無いものもいますし。それにしても血行が良すぎます。死んでるように見えませんね」
「おい! どけ! クソチビが!」
勇者は校長の襟首を引っ張り、足蹴りする。校長はその場に倒れ込んだ。
「え? はいっ? 勇者さまです?」
その様子を後ろで見ていたマーガレットは困惑の表情で、口に手を当てて思わず絶句する。
「マーガレット離れて!」
勇者は腰の剣を引き抜くと。
「こいつらも、血祭りにあげてこの魔物がやった事にすればいいだろ。まさに死人に口なしだ」
「ですわ! まさかこの世界。魔物を倒すより人間を殺した方がレベルが上がりやすいなんて知ってるの私たちぐらいなのではありませんこと?」
「おいおい! それは内緒だろ。まあいいか。どうせこいつら皆殺しなんだから! ガハハハハっ」
やっぱりこいつらどうしようもないぐらいクソだった。
マーガレットだけは助けないと。猫のカティのような思いだけは絶対にさせたくない。なのに体が硬直して動いてくれない。
「ねえ、メアリ動いてない?」
マーガレットが耳元で小さく声を漏らす。
「え?」
地面に倒れていた魔物の手がピクリと動いたような気がした。できれば見間違いということにしたいけど。
目を擦り、もう一度魔物を凝視すると、指先がピクりと動き、後ろの羽がばさっと開き、ブラックウイングは地面に手をついて徐に立ち上がった。
「片方の心臓が潰れたか。……ん? お前たちは誰だ!」
ブラックウイングは勇者を見ている。
そう。そうよ。あの勇者をやっつけて! その隙に逃げないと。
「所詮瀕死の魔物だ。ぶっ殺してやる!」
勇者は剣を構え、魔法を唱える。剣は炎に包まれる。これは魔法剣とでもいうのだろうか。 ギョロっとした血走った赤い目のブラックウイングは、背中の刀を抜くと勇者目掛けて、突然切りかかってきた。
だが、勇者は軽やかなステップで振り下ろされた刀を横に避けると、すぐさま回し蹴りを魔物の腹にぶち込んだ。が、魔物は何事も無かったかのようにお腹をさするだけであった。
「そんな蚊のような攻撃。効くわけが無かろう」
勇者の攻撃はこの魔物に効かない?
隣で倒れる校長は起き上がると。
「メアリ、マーガレットここから離れなさい! 後は私に任せて」
そう言って校長はスカートを縦にビリッと破り、脚を開くと、太ももにベルトで括り付けた聖なるナイフを掴む。
ポケットに手を入れレオンさんから貰ったお守りを握り祈ることしか出来なかった。
「あー、駄目だ。退散だ!」
そう言うと勇者はすれ違いざまに、剣でマーガレットの胸を刺し、魔物の前へ剣の柄で突き飛ばした。
「なんてことを!」
校長はすぐさま魔物の前に立ちはだかり、右手で輝く粉をマーガレットに振り掛ける。
後ろを見て勇者を睨みつけるも。
「じゃあな、俺たちは先を急いでいるんで後は勝手に何とかしてくれ!」
「あなた自分が何をしてるのか分かってるの?
」
「知らねーよ! どうせお前らじゃ勝てねー。」
私たちを残して近くに停めた馬車に乗り込む。
「あれが勇者か! この国も終わってるな」
「校長。私のことは後でいいですから、ゴフッ」
「何言っているんですか! 傷口は塞ぎました。さっさと倒してきますから、待っててくださいね」
魔物と校長は激しい刀の打ち合いをくりひろげている。今の所、魔物の方が優勢のように見える。聖なるナイフは少しさびており、打ち合う度に、刃こぼれを起こしている感じがした。何度となく打ち合いの後、校長の刀身は折れて空を飛んでいく。
そして魔物は校長の首に刀のやいばを当てた。
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