聖女は復讐の為なら何でもします!

茜色 一凛

文字の大きさ
11 / 23

九話 強襲

しおりを挟む
 私達はコンクリートの階段を上がり校舎の奥に位置する倉庫へ向かってゆっくりと歩き出す。

「学園の生徒じゃない俺が入って大丈夫か? 誰かに見つかったらやばいよな。それにしても暗いし。でそうじゃない? 学校の七不思議でトイレの〇〇さんが、夜中の学校で校舎を徘徊してるとか聞いたことあるけど」

 ジャックは怖い言葉をなげかけてくる。思わず寒気ボロが腕に出てきた。

 やめて! そんなこと言わないで。

「大丈夫。幽霊なんているわけないし」

 胸に手を当てて、自分に言い聞かせるように進んでいく。カバンをゴソゴソ探り、『透明粉』があるか確認する。ちなみに透明粉とは、振りかければ、30分だけ透明になれる調合薬。犯人を待ち伏せするのに便利だと思って持ってきた。

「メアリ……」

 え?

 ジャックが指さす方を見ると、倉庫の手前の教室から、か細い女の子の声が聞こえた。

 こんな時間に私たち以外に誰かいるの?

「メアリ……私よ」
 
 目を擦り、ランプを近ずけると、教室のドアの下に蹲る髪の長い女の子が見えた。


「ウギャー!」

「キャー!」

 すぐさま後ろを振り返り、ジャックを置いて元きた階段へとダッシュする。

「うわああああー」

 後ろを振り向くとジャックが凄い形相で叫びながら私を抜かそうとする。

「ヤバい、追いかけてくる。トイレの〇〇だあー!」

「いやあああー」

 私も必死でジャックに抜かされる訳にはいかない。持ってたカバンが手から落ち、それに引っかかってコケるジャック。

 私たちの後ろからはパタパタとスリッパの音がして、さっきの女が髪を振り乱しながら追っかけてくるのが外から差し込む月明かりで、シルエットが映し出される。

「助けてくれーーー」

「私ですー! マーガレットです!」

 え? マーガレット? マーガレットってッ言った? 私は足を止めると、恐る恐る声のする方へと警戒しながら戻る。すると、バスケットを持つマーガレットが、怒った形相で私を睨みつけてた。

 なんで……。

「嘘でしょ。まさか私たち以外に人なんていないと思ったから。もしかしてあなた一人で犯人見つけるつもりだったの? しかもカゴの中にサンドイッチも入ってるし。どのタイミングで食べるのよ……」

 これ多分マーガレットの晩ご飯だよね。

「ふうふう、ぜいぜい。なんなんだよっ。メアリの知り合い?」

「初めましてアップル調合学園初等科、マーガレットと申します」
 
 乱れた髪をクシでとかしながら、マーガレットは自己紹介する。なんだかモジモジしてるし。マーガレットは人見知りなとこがあるのだろうか。


「マーガレット来てくれたの。嬉しい! 今日犯人が現れるか分からないけど、危ないと思ったら逃げて」

 私は透明粉を三人で掛け合い、原料が盗まれる倉庫の端の方に座り待機することにした。

 落ち着いてみると、どんな人が現れるか分からない。大人だったら私たちに勝ち目はない。

 カチリと鳴る壁時計が夜の九時を指していた。

「心臓飛び出そうなぐらい怖いな。こんなとこに盗みに入るやつなんてほんとにいるのか? それにしてもここ粉っぽいよな」

「ここにはいる時は、普段は布で鼻と口を覆って入るの。そうしないと肺に悪影響があるって先生が仰ってたわ。これをはめて」

 そう言いながら私は布の端切れをジャックに渡す。マーガレットはもうしていた。準備いい。

「勢いで来たけど、大丈夫なのか? もしもの時は俺が一目散に逃げるからな」

 そう言っても最後は守ってくれる。そういう男の子だってことは私は分かってる。

 大きくため息を吐くと、椅子に腰掛け脚を組む。その隣でしゃがむジャックは天井に向けて腕を伸ばすと欠伸をする。

「ふわーっ。もうさ……今日は泥棒来ないよ。帰ろうか?」

 ジャックはマーガレットにタマゴサンドを貰いながら、パクつき始める。

「少しマヨネーズが足らないな」

「何文句ばっか言ってんの! 10分も経ってないし。もう少しだけ待ちましょ」

 ガシャンと窓を割る音と共に、一匹の黒い魔物が、倉庫に飛び込んできた。

 ズボンを履いているが、上の服は着ていない。そいつはポケットからゴソゴソと麻袋を取り出すと、慣れた手つきで素材の粉を次々と袋の中に入れていく。
 
 なんで。こんなのどうしようもないじゃない。どうして魔物が調合学園に。

 ヤバい。逃げないと。

 人間じゃない。私たちはお互い顔を見合わせて絶句するしかなかった。

 ジャックなんかはポカーンと口を開けて白目をむいている。


 私の合図でジャックの服を掴み、ドアへ向かってゆっくり歩き始める。

「は!? お前らどこから入った?」

 どうやら透明粉の効力が切れたようだ。魔物が、私をターゲットにして掴みかかってきた。

「メアリっ!」

 ジャックはそばにあった粉を混ぜるための棒を掴んで魔物を叩くが、魔物が硬すぎて棒が折れ、飛んでいく。

「グオオオッ」

「ダメっ!」

 横にいたマーガレットが私を突き飛ばし魔物の前へと飛び出した。

「マーガレットー!」

 どうして、私なんかを庇うのよ。

「イタッ!」

 マーガレットの腕は魔物の爪がくい込み、血が流れる。

 さらに魔物は大きな口を開けて、頭を後ろに引き、鋭い歯で食べようとしている。

 床に転がった私は、ポケットの銃を掴み、魔物に照準を合わせるが、手が震えて打てない。

 怖い……。こんなの打てない。

「早く打て、メアリ!」

 ジャックは掃除道具の入ったロッカーからデッキブラシを手にすると魔物の頭目掛けて一撃を放つ。

 だが虚しくも、先端のデッキ部分が折れて空を飛ぶ。魔物の手が伸び、ジャックの首を掴む。

「うわああああー」

 ダメっ。打てない。両手でトリガーをひこうにも、手が震えて照準が合わない。

「メアリ。撃ってください!」

「ダメなの、手が」

 誰か助けて。誰かいないの? 

 魔物はジャックを壁へ投げつけ、1メートルはある陶器の壺を摘むとジャック目掛けて振り下ろそうとする。

 お願いだから動いてー!

 震えが止まり、私はトリガーを弾いた。

 校舎中に響いた爆発音と共に黄色い光を放ち、弾丸は羽の生えた黒い魔物に突き刺ささった。その勢いで魔物は窓へ激突した。

 耳が痛ったあ。

 ガラス片が魔物の頭に刺さり、おでこを両手で抑えて、しゃがみこんでいる。

 もしかしたらいけるかもしれない。そんな期待を裏切るかのように。
 直ぐに頭を上げて。

「ぐっ、ぐおおおおおおっ! お前ら分かってるんだろうなああああー!」

 血走った冷酷な青い目で私たちを睨みつけた。

 魔物は背中の鞘から、刃渡り50cm以上はあるダンベラを抜くと正中線で構えた。窓から差し込む月明かりに照らされてノコギリ型の刃がギラリと光る。

「どうするつもりなの……」

 マーガレットは顔をひきつらせ、床に座り込む。ジャックは、私の方を見て顔をクシャクシャにして今にも泣きそうだ。

 私のせいで取り返しのつかない状況になってしまった。

 ――どうしよう。もう身体に力が入らない。脚がガクガクして動かない。あの剣で私を刺すんだわ。私ここで殺される……。

「チャチャッと倒すから、逃げろ」

 ジャックは壁に立てかけてあった箒を掴んで、意気込んではいるが、脚が恐怖でプルプル震えている。しかも右手で自分の脚の太ももをつねっていた。

 こんなのに立ち向かえる訳ないじゃないの!

「ダメだよ……」

 何も聞いてないフリをするジャックは私をお姫様抱っこすると、倉庫のドアを開け廊下にゆっくりと置いた。

「マーガレット頼みあるんだけど。ここはオレが何とかするからあとはメアリのこと頼んでもいいか?」

 いつになく真剣な眼差しをしたジャックは魔物のいる倉庫に一人で戻っていった。

「ダメだよ…… ジャックも早く逃げないと……」

 私は声を出そうとするが、声が全く出ない……。マーガレットは私をおんぶして降りて行く。一階の教室の廊下を渡り、下駄箱を抜け、校門までたどり着いたところで、再び爆発音がした。

 マーガレットは校庭の周りの木に身を隠しながら逃げている。

「マーガレット! 戻って! ジャックが……」

「メアリも分かっているでしょ。私たちを逃がしてくれたんです」

 そして、それから数分後に、絶叫した魔物が窓から落下し、地面に叩きつけられた。

「何? 何が起こったの?」

「分かりません。見に行きましょう」

「落ちたのってジャックじゃないよね? 魔物だよね?」

 ダメだ。今度はマーガレットが恐怖で足がすくんで動けなくなってる。私の方は少し落ち着いてきた。震えてる場合じゃない。ジャックは大丈夫なの?

「見てくる」

 私は脚に力を入れて無我夢中で二階の倉庫へ走った。しかし扉を開けると、そこには酷い有様のジャックが佇んでいた……。

「いやあああああああーー」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

社畜聖女

碧井 汐桜香
ファンタジー
この国の聖女ルリーは、元孤児だ。 そんなルリーに他の聖女たちが仕事を押し付けている、という噂が流れて。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

処理中です...