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九話
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学校に到着すると、私達は2階へと上がり調合する粉の保管されている倉庫を目指した。
「学校の生徒じゃない俺が入っても大丈夫か? 格式高い学校だから緊張するんだけど……そうそう夜の校舎って、出るらしいぞ。トイレの〇〇さんというのがいて、夜、学校に忍び込む生徒を脅して回っているらしい」
ジャックの顔が青ざめている。やめてよ……、冗談だよね……。あまり考えたくない。背筋がゾゾゾっとして寒気がする。
「大丈夫だよ。夜は誰もいないから。先生も校長先生1人で運営してるし、あともう一人は事務の人だけ。この時間は二人とも、いないから大丈夫」
自分に言い聞かせるようにして、進んでいく。ここに来る前に、授業で習った『透明粉』を肩がけのカバンに準備してきた。この粉を振りかければ、10分だけ透明なれるのだ。それを振りかけて、犯人を待ち伏せしようと思ってた。
「メアリ……」
か細い声がどこからか聞こえ、何となくマヨネーズのような匂いが漂ってくる。匂いのする方を見ると、倉庫の奥に、バスケットを持つマーガレットが、恥ずかしそうに立っていた。
それはまるで水のない砂漠でオアシスを見つけたようなそんな爽快な気持ちがした。
「マーガレットおおおー。来てくれたの? しかもカゴの中にサンドイッチも入ってるし」
よく見ると三個しかない。これ多分マーガレットのご飯だよね。
「聞いてくれ! 学校の怪談にこんな話があった。トイレにはスズメさんという女性がいて……夜トイレのドアを開けると……スズメさんの目が床にぼとりと落ちて、それを掴んで投げてくるとか……それで、当たらないと学校中を奇声を発しながら……」
薄暗い中、ジャックが私たちを怖がらせようとしてきたので、マーガレットは玉子サンドでジャックの口を塞いでた。
「ぐっ、うぐっ、マーガレット。やめろよ。やめろってば。悪かったよ。ふうーっ」
「ジャックが変なことばかり言うからよ。透明粉ふりかけて待機するよ! もしかしたら今日犯人が来るかもしれないし」
私の粉を三人で振り掛け合い、そのまま待つことにした。犯人が今日来るとは限らない。
壁時計は夜の九時を指していた。
「夜の校舎は何か怖い……後ろからトントンされるかもしれないし、こんなとこに盗みになんて入るのか? そんな高価な物なんてなさそうだけど。それにしてもここ粉っぽいよな」
「ここにはいる時は、普段は布を口元に縛って入るの。そうしないと肺に悪影響って先生が仰ってたわ。盗人がきたら、とっちめてやらないといけないわ」
「でも、大人ってこともありえるだろ? 勢いだけで来たけど、大丈夫なのか? もしもの時は逃げるからな」
ジャックなんて連れてこなければ良かった。情けないことを口に出すからテンション下がるじゃないの。
私は大きくため息を吐くと、倉庫の隅の椅子に腰掛け脚を組んだ。その隣でしゃがむジャックは欠伸をして、大きく腕をのばし伸びをした。この粉は透明になったもの同士は見ることができる。
「ふわーっ。もうさ……今日は泥棒来ないよ。帰ろうか?」
ジャックはタマゴサンドを飲み込みながら、やる気のないことを言い出す。
「まだ10分も経ってないわよ。もう少しだけ待ちましょ」
ガシャンと窓を割る音と共に、一匹の魔物が、倉庫に飛び込んできた。真っ黒い姿で、背中に大きな羽をつけ、爪が長く尖っていた。
ズボンを履いているが、上の服は着ていない。そいつはポケットから麻袋を出すと慣れた手つきで素材の粉を次々と入れていく。
――魔王の手下が夜な夜な粉を盗んでいたんだ……。人間じゃない。私たちはお互いの顔を見合わせて絶句していた。
ポカーンと口を開けて見ていたら、透明粉の効果が切れてしまった。
「は!? お前らどこから入った?」
魔物が、私をターゲットにすると掴みかかってきた。
「メアリっ!」
ジャックはそばにあった粉を混ぜるための一メートル位の棒を掴んで魔物を叩くが、魔物が硬すぎて棒が折れ、飛んでいく。
「痛いっ!」
私は魔物に捕まえられてしまい、尖った爪が腕にくい込む。もう、あれを使うしかない。聖女様に貰った銃を。
手をスカートのポケットに突っ込み、銃をとり、躊躇うことなく、魔物の横っ腹に向けてトリガーを引いた。
ゴーン!
重低音が響き、校舎中に響くぐらい大きな爆発音がした。撃たれた黒い魔物は、その勢いで窓へと激突した。
――この銃は慎重に扱わないといけないわ。だって危険すぎるもの。
魔物は壁に当たったおでこを両手で抑えてうんうん言いながら、うずくまっている。
「ぐっ、ぐおおおおおおっ! お前らわかってるんだろうなああああー!」
魔物は横っ腹と壁に激突した頭を押さえながら、血走った青い目で私たちを睨みつけた。
黒い魔物は背中の鞘から、刃渡り50cm以上はあるサーベルを抜くと体の前で構えた。窓から差し込む月明かりに照らされてノコギリ型の刃がギラリと光る。
「どうするつもりなの……」
マーガレットは顔をひきつらせ、後ずさるジャックは、顔をクシャクシャにして泣きそうな顔になる。どうしてみんなここに来てしまったのよ。もう後悔しかない。私がジャックを連れてこなければこんなことにはならなかったのに。
「ほらみろ、えらいことになったじゃないか」
――どうしよう。身体に力が入らない。脚がガクガクして動かない。あの剣で私を刺すんだわ。私ここで殺される……。
前に飛び出し、駆け寄る影。それはジャックだった。
「ふう、やれやれだぜ。メアリ姫の騎士隊長ジャックとは俺のこと。チャチャッと倒すから、安心して逃げていいぞ!」
ジャックは壁に立てかけてあった箒を掴んで、意気込んではいるが、顔は引きつって、脚も恐怖でプルプル震えている。しかも右手で自分の脚の太ももをつねっていた。
ジャックも逃げてよ! こんなのに立ち向かえる訳ないじゃないの!
「ダメだよ……」
アキラはそう言う私の身体をお姫様抱っこして持ち上げると、倉庫のドアを開け廊下に私をゆっくりと置いた。
「マーガレット頼みあるんだけど。ここはオレが何とかするからメアリのこと頼む」
いつになく真剣な眼差しをしたアキラは魔物のいる倉庫に一人で戻っていった。
「ダ、ダメッ……ダメだよ…… ジャックも早く逃げないと……」
私は声を出そうとするが、恐怖で喉が渇き声が全く出ない……。マーガレットは私をおんぶして下へと降りて行く。一階の教室の廊下を渡り、校舎を抜け、校門まで行ったところで、二回目の爆発音が鳴った。
マーガレットは校舎の裏庭に植えられた木に身を隠しがら私をおんぶして逃げている。
「マーガレット! 戻って! ジャックが……」
「メアリも分かっているでしょ。私たちを逃がしたのよ。勝てるわけないじゃない」
そして、それから数分後に、絶叫した魔物が窓から落下し、ドーンと地面に叩きつけられた。
「は? はいっ? 何? 何が起こった?」
「分かんない。見に行く?」
「今落ちたのってジャックじゃないよね? 魔物だよね?」
ダメだ。今度はマーガレットが恐怖で足がすくんで動けなくなってる。私の方は少し落ち着いてきた。震え出る場合じゃない。ジャックは大丈夫なの?
「見てくる」
私は脚に力を入れて無我夢中で二階の倉庫へ走った。しかし扉を開けると、そこには酷い有様のジャックが佇んでいた……。
「いやあああああああーー」
力が抜けて床にへたり、私は泣き崩れた。
「学校の生徒じゃない俺が入っても大丈夫か? 格式高い学校だから緊張するんだけど……そうそう夜の校舎って、出るらしいぞ。トイレの〇〇さんというのがいて、夜、学校に忍び込む生徒を脅して回っているらしい」
ジャックの顔が青ざめている。やめてよ……、冗談だよね……。あまり考えたくない。背筋がゾゾゾっとして寒気がする。
「大丈夫だよ。夜は誰もいないから。先生も校長先生1人で運営してるし、あともう一人は事務の人だけ。この時間は二人とも、いないから大丈夫」
自分に言い聞かせるようにして、進んでいく。ここに来る前に、授業で習った『透明粉』を肩がけのカバンに準備してきた。この粉を振りかければ、10分だけ透明なれるのだ。それを振りかけて、犯人を待ち伏せしようと思ってた。
「メアリ……」
か細い声がどこからか聞こえ、何となくマヨネーズのような匂いが漂ってくる。匂いのする方を見ると、倉庫の奥に、バスケットを持つマーガレットが、恥ずかしそうに立っていた。
それはまるで水のない砂漠でオアシスを見つけたようなそんな爽快な気持ちがした。
「マーガレットおおおー。来てくれたの? しかもカゴの中にサンドイッチも入ってるし」
よく見ると三個しかない。これ多分マーガレットのご飯だよね。
「聞いてくれ! 学校の怪談にこんな話があった。トイレにはスズメさんという女性がいて……夜トイレのドアを開けると……スズメさんの目が床にぼとりと落ちて、それを掴んで投げてくるとか……それで、当たらないと学校中を奇声を発しながら……」
薄暗い中、ジャックが私たちを怖がらせようとしてきたので、マーガレットは玉子サンドでジャックの口を塞いでた。
「ぐっ、うぐっ、マーガレット。やめろよ。やめろってば。悪かったよ。ふうーっ」
「ジャックが変なことばかり言うからよ。透明粉ふりかけて待機するよ! もしかしたら今日犯人が来るかもしれないし」
私の粉を三人で振り掛け合い、そのまま待つことにした。犯人が今日来るとは限らない。
壁時計は夜の九時を指していた。
「夜の校舎は何か怖い……後ろからトントンされるかもしれないし、こんなとこに盗みになんて入るのか? そんな高価な物なんてなさそうだけど。それにしてもここ粉っぽいよな」
「ここにはいる時は、普段は布を口元に縛って入るの。そうしないと肺に悪影響って先生が仰ってたわ。盗人がきたら、とっちめてやらないといけないわ」
「でも、大人ってこともありえるだろ? 勢いだけで来たけど、大丈夫なのか? もしもの時は逃げるからな」
ジャックなんて連れてこなければ良かった。情けないことを口に出すからテンション下がるじゃないの。
私は大きくため息を吐くと、倉庫の隅の椅子に腰掛け脚を組んだ。その隣でしゃがむジャックは欠伸をして、大きく腕をのばし伸びをした。この粉は透明になったもの同士は見ることができる。
「ふわーっ。もうさ……今日は泥棒来ないよ。帰ろうか?」
ジャックはタマゴサンドを飲み込みながら、やる気のないことを言い出す。
「まだ10分も経ってないわよ。もう少しだけ待ちましょ」
ガシャンと窓を割る音と共に、一匹の魔物が、倉庫に飛び込んできた。真っ黒い姿で、背中に大きな羽をつけ、爪が長く尖っていた。
ズボンを履いているが、上の服は着ていない。そいつはポケットから麻袋を出すと慣れた手つきで素材の粉を次々と入れていく。
――魔王の手下が夜な夜な粉を盗んでいたんだ……。人間じゃない。私たちはお互いの顔を見合わせて絶句していた。
ポカーンと口を開けて見ていたら、透明粉の効果が切れてしまった。
「は!? お前らどこから入った?」
魔物が、私をターゲットにすると掴みかかってきた。
「メアリっ!」
ジャックはそばにあった粉を混ぜるための一メートル位の棒を掴んで魔物を叩くが、魔物が硬すぎて棒が折れ、飛んでいく。
「痛いっ!」
私は魔物に捕まえられてしまい、尖った爪が腕にくい込む。もう、あれを使うしかない。聖女様に貰った銃を。
手をスカートのポケットに突っ込み、銃をとり、躊躇うことなく、魔物の横っ腹に向けてトリガーを引いた。
ゴーン!
重低音が響き、校舎中に響くぐらい大きな爆発音がした。撃たれた黒い魔物は、その勢いで窓へと激突した。
――この銃は慎重に扱わないといけないわ。だって危険すぎるもの。
魔物は壁に当たったおでこを両手で抑えてうんうん言いながら、うずくまっている。
「ぐっ、ぐおおおおおおっ! お前らわかってるんだろうなああああー!」
魔物は横っ腹と壁に激突した頭を押さえながら、血走った青い目で私たちを睨みつけた。
黒い魔物は背中の鞘から、刃渡り50cm以上はあるサーベルを抜くと体の前で構えた。窓から差し込む月明かりに照らされてノコギリ型の刃がギラリと光る。
「どうするつもりなの……」
マーガレットは顔をひきつらせ、後ずさるジャックは、顔をクシャクシャにして泣きそうな顔になる。どうしてみんなここに来てしまったのよ。もう後悔しかない。私がジャックを連れてこなければこんなことにはならなかったのに。
「ほらみろ、えらいことになったじゃないか」
――どうしよう。身体に力が入らない。脚がガクガクして動かない。あの剣で私を刺すんだわ。私ここで殺される……。
前に飛び出し、駆け寄る影。それはジャックだった。
「ふう、やれやれだぜ。メアリ姫の騎士隊長ジャックとは俺のこと。チャチャッと倒すから、安心して逃げていいぞ!」
ジャックは壁に立てかけてあった箒を掴んで、意気込んではいるが、顔は引きつって、脚も恐怖でプルプル震えている。しかも右手で自分の脚の太ももをつねっていた。
ジャックも逃げてよ! こんなのに立ち向かえる訳ないじゃないの!
「ダメだよ……」
アキラはそう言う私の身体をお姫様抱っこして持ち上げると、倉庫のドアを開け廊下に私をゆっくりと置いた。
「マーガレット頼みあるんだけど。ここはオレが何とかするからメアリのこと頼む」
いつになく真剣な眼差しをしたアキラは魔物のいる倉庫に一人で戻っていった。
「ダ、ダメッ……ダメだよ…… ジャックも早く逃げないと……」
私は声を出そうとするが、恐怖で喉が渇き声が全く出ない……。マーガレットは私をおんぶして下へと降りて行く。一階の教室の廊下を渡り、校舎を抜け、校門まで行ったところで、二回目の爆発音が鳴った。
マーガレットは校舎の裏庭に植えられた木に身を隠しがら私をおんぶして逃げている。
「マーガレット! 戻って! ジャックが……」
「メアリも分かっているでしょ。私たちを逃がしたのよ。勝てるわけないじゃない」
そして、それから数分後に、絶叫した魔物が窓から落下し、ドーンと地面に叩きつけられた。
「は? はいっ? 何? 何が起こった?」
「分かんない。見に行く?」
「今落ちたのってジャックじゃないよね? 魔物だよね?」
ダメだ。今度はマーガレットが恐怖で足がすくんで動けなくなってる。私の方は少し落ち着いてきた。震え出る場合じゃない。ジャックは大丈夫なの?
「見てくる」
私は脚に力を入れて無我夢中で二階の倉庫へ走った。しかし扉を開けると、そこには酷い有様のジャックが佇んでいた……。
「いやあああああああーー」
力が抜けて床にへたり、私は泣き崩れた。
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