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十四話 熾烈な冒険譚
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「うーん」
しばらく聖女様の書かれた『熾烈な冒険譚~エリクサーの素材編』を読んでいたのだが、文章が難解で眠くなってしまう。
しかも私は読書をするとお腹が痛くなる達で、慌ててトイレへ駆け込んだ。
もうっ! 紙がないじゃない……。
トイレットペーパーが芯に一巻だけ残され、手に取ると15センチぐらいしかない。
すぐに鞄を開けて紙を取り出す。
絶望的じゃないの。素材の一つに魔王を倒した際にドロップするアイテムが含まれていて絶句する。魔王を倒すなんて無理に決まってるじゃない。勇者達が魔王を討伐した後、アイテムを譲って欲しいけど、そう易々と彼らが手放すわけが無い。
聖女様諦めろとでも言うの?
ジャックはいつも私が困っている時、冗談交じりに、私に変な気遣いをかけないように助けてくれた。本当に変なやつだと思ってたけど、いざ、目の前から消えて居なくなってしまうと寂しい。
何なの!
本を手に取るまでは、素材を集めてエリクサーを作るのは容易いように思えたが、実際そうじゃない。
本を閉じて目を瞑ると、ジャックとのくだらない思い出が浮かんでくる。
去年の夏。山でかぶれの葉っぱを触ってしまい顔が柑橘系の皮みたいにブツブツにかぶれてクラスの女子に罵られた時。
その様子を教室で見たジャックは山に入り、かぶれの葉っぱを私の事バカにした女子の顔に塗り、かぶらせるという暴挙にでた。
しかも、バチが当たったのか、ジャックの手や顔までボロボロにかぶれた。最低なやり方しか出来ないのに、迷惑そうな顔をしつつも内心は少し嬉しかった。
今度は私が助ける番なのに……。詰んでいる。勇者をはじめ、王国騎士団長さえ手出できない魔王を15歳の女の子が一人でどうしようというのか。
魔王討伐は、選ばれた勇者や賞金稼ぎ等の冒険者の仕事で、誰が好んで命を懸けて危険なことをしようというのか。
そんなことを考えてたら、扉がガラッと開いて校長が気さくに手を振って入ってきた。
「メアリ、やってるわね。関心だわ。そうそうあなたに話したいことがあったの」
校長は帽子をテーブルの上に置き、私の前の席に座る。
「あなたは信じられないかもしれないけど、私もあなたと同じ15歳の頃があったのよ。丁度、いま、メアリが座ってる席でたくさんの本を読んだわ。私は子供の頃、物静かで本がお友達だったのよ。そんな時、お転婆マミが、私の読書の邪魔をしに来たのには腹たったけど」
「え?」
「つまり、あれよ! 誰だって頑張れば、聖女や、校長になれるってこと!」
校長は私の肩をガシッと掴み私の眼を凝視する。
そんなこと言われても、ピンと来ない。校長は私が納得したと勝手に思い、超満足気な表情で図書館を後にした。
私も家に帰ることにした。授業なんてこんな精神状態で聞いていられないから。
その道中、公園の前を通り過ぎると、マミさんがブランコをこいでた。私の顔を見るなり手を大きく振って呼び止める。
「あら、メアリ学校は? 私の本は見つけられた?」
「はい……でも、魔王なんて……」
「分かるわ。あなたの気持ち痛いほど」
目頭が熱くなってくる。マミさんの瞳も潤んで充血している。
「ごめんなさい。私にはできそうにありません」
「この世には100パーセント無理なこともあると思うの。悪いけど、学校の先生じゃないから、真実を話すと希望や期待でなんとかなるものでもないと」
「ですよね。諦めた方がいいのかな」
脱力して嗚咽しか出ない。もう何も言えない。俯いてマミの顔をなるたけ見ないようにする。
マミは腰を落として上目遣いで私を見あげる。目がつり上がって怖い。
「だからと言って後悔だけはしないで。そんな簡単に諦めていいものなの?」
「どうしたらいいんですか?」
私の返答に聖女マミはクスッと笑う。
「あなたなら、やると思ってたわ! 何も魔王を一人で倒さないといけないなんて決まりはないでしょ。メアリ一人で無理なら仲間を集めたらどう? 私なら勇者を利用するわ! 勇者の剣 エクスカリバーが魔王には有効だと昔から言い伝えがあるし」
え? あの残酷で人を人と思わないあの勇者と仲良くなれると思えない。考えられない。
「勇者に殺されそうになったのに……」
「とにかく、仲間を集めることよ! 私も60年前同じことしてたような気がするわ。ま、そんなことはさておき、やるの? やらないの?」
しばし、考える。15歳で冒険の旅? 学校はどうしよう。卒業して調合師の資格を貰わないと、ここに入った意味が無い。
「学校はどうしたら……」
「そんなもの私の一声で卒業証書ぐらい出せるから心配しないで」
なんて私は最低なんだ。自分のことばかり考えてる。これではあの自分勝手な勇者と同じじゃないの。魔王を倒せる確率。0パー。ふう。ジャックにはいつも迷惑ばかりかけてた。ダメ元でやってみよう。こんな気持ちで学園生活なんて楽しく送れるわけない。
「聖女マミ様! やってみます」
「そう! やっぱりアメリは、私が見こんだ子ね! どうしようかな……」
マミはそう言うと胸元の裏ポケットから、一冊の手帳を取り出す。
「餞別よ! 私が80年生きてきてよく使う調合が書かれてるわ! これを覚えながら冒険しなさい」
「そんな大切なもの、頂いていいんですか?」
「貸すだけよ。自分のノートに書き写したらまた返してね! やるだけやってみなさい」
そう言うと聖女は私の頭を撫でて微笑む。
聖女マミに何度も何度も頭を下げて別れると城下町にある露店へと歩いていく。商売をしてる人なら冒険者について何か知っているかもしれない。
早速、聞いて回らないと。
しばらく聖女様の書かれた『熾烈な冒険譚~エリクサーの素材編』を読んでいたのだが、文章が難解で眠くなってしまう。
しかも私は読書をするとお腹が痛くなる達で、慌ててトイレへ駆け込んだ。
もうっ! 紙がないじゃない……。
トイレットペーパーが芯に一巻だけ残され、手に取ると15センチぐらいしかない。
すぐに鞄を開けて紙を取り出す。
絶望的じゃないの。素材の一つに魔王を倒した際にドロップするアイテムが含まれていて絶句する。魔王を倒すなんて無理に決まってるじゃない。勇者達が魔王を討伐した後、アイテムを譲って欲しいけど、そう易々と彼らが手放すわけが無い。
聖女様諦めろとでも言うの?
ジャックはいつも私が困っている時、冗談交じりに、私に変な気遣いをかけないように助けてくれた。本当に変なやつだと思ってたけど、いざ、目の前から消えて居なくなってしまうと寂しい。
何なの!
本を手に取るまでは、素材を集めてエリクサーを作るのは容易いように思えたが、実際そうじゃない。
本を閉じて目を瞑ると、ジャックとのくだらない思い出が浮かんでくる。
去年の夏。山でかぶれの葉っぱを触ってしまい顔が柑橘系の皮みたいにブツブツにかぶれてクラスの女子に罵られた時。
その様子を教室で見たジャックは山に入り、かぶれの葉っぱを私の事バカにした女子の顔に塗り、かぶらせるという暴挙にでた。
しかも、バチが当たったのか、ジャックの手や顔までボロボロにかぶれた。最低なやり方しか出来ないのに、迷惑そうな顔をしつつも内心は少し嬉しかった。
今度は私が助ける番なのに……。詰んでいる。勇者をはじめ、王国騎士団長さえ手出できない魔王を15歳の女の子が一人でどうしようというのか。
魔王討伐は、選ばれた勇者や賞金稼ぎ等の冒険者の仕事で、誰が好んで命を懸けて危険なことをしようというのか。
そんなことを考えてたら、扉がガラッと開いて校長が気さくに手を振って入ってきた。
「メアリ、やってるわね。関心だわ。そうそうあなたに話したいことがあったの」
校長は帽子をテーブルの上に置き、私の前の席に座る。
「あなたは信じられないかもしれないけど、私もあなたと同じ15歳の頃があったのよ。丁度、いま、メアリが座ってる席でたくさんの本を読んだわ。私は子供の頃、物静かで本がお友達だったのよ。そんな時、お転婆マミが、私の読書の邪魔をしに来たのには腹たったけど」
「え?」
「つまり、あれよ! 誰だって頑張れば、聖女や、校長になれるってこと!」
校長は私の肩をガシッと掴み私の眼を凝視する。
そんなこと言われても、ピンと来ない。校長は私が納得したと勝手に思い、超満足気な表情で図書館を後にした。
私も家に帰ることにした。授業なんてこんな精神状態で聞いていられないから。
その道中、公園の前を通り過ぎると、マミさんがブランコをこいでた。私の顔を見るなり手を大きく振って呼び止める。
「あら、メアリ学校は? 私の本は見つけられた?」
「はい……でも、魔王なんて……」
「分かるわ。あなたの気持ち痛いほど」
目頭が熱くなってくる。マミさんの瞳も潤んで充血している。
「ごめんなさい。私にはできそうにありません」
「この世には100パーセント無理なこともあると思うの。悪いけど、学校の先生じゃないから、真実を話すと希望や期待でなんとかなるものでもないと」
「ですよね。諦めた方がいいのかな」
脱力して嗚咽しか出ない。もう何も言えない。俯いてマミの顔をなるたけ見ないようにする。
マミは腰を落として上目遣いで私を見あげる。目がつり上がって怖い。
「だからと言って後悔だけはしないで。そんな簡単に諦めていいものなの?」
「どうしたらいいんですか?」
私の返答に聖女マミはクスッと笑う。
「あなたなら、やると思ってたわ! 何も魔王を一人で倒さないといけないなんて決まりはないでしょ。メアリ一人で無理なら仲間を集めたらどう? 私なら勇者を利用するわ! 勇者の剣 エクスカリバーが魔王には有効だと昔から言い伝えがあるし」
え? あの残酷で人を人と思わないあの勇者と仲良くなれると思えない。考えられない。
「勇者に殺されそうになったのに……」
「とにかく、仲間を集めることよ! 私も60年前同じことしてたような気がするわ。ま、そんなことはさておき、やるの? やらないの?」
しばし、考える。15歳で冒険の旅? 学校はどうしよう。卒業して調合師の資格を貰わないと、ここに入った意味が無い。
「学校はどうしたら……」
「そんなもの私の一声で卒業証書ぐらい出せるから心配しないで」
なんて私は最低なんだ。自分のことばかり考えてる。これではあの自分勝手な勇者と同じじゃないの。魔王を倒せる確率。0パー。ふう。ジャックにはいつも迷惑ばかりかけてた。ダメ元でやってみよう。こんな気持ちで学園生活なんて楽しく送れるわけない。
「聖女マミ様! やってみます」
「そう! やっぱりアメリは、私が見こんだ子ね! どうしようかな……」
マミはそう言うと胸元の裏ポケットから、一冊の手帳を取り出す。
「餞別よ! 私が80年生きてきてよく使う調合が書かれてるわ! これを覚えながら冒険しなさい」
「そんな大切なもの、頂いていいんですか?」
「貸すだけよ。自分のノートに書き写したらまた返してね! やるだけやってみなさい」
そう言うと聖女は私の頭を撫でて微笑む。
聖女マミに何度も何度も頭を下げて別れると城下町にある露店へと歩いていく。商売をしてる人なら冒険者について何か知っているかもしれない。
早速、聞いて回らないと。
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