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17話
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お酒が入っているとはいえ、あの勇者寝るの早すぎて嫌な違和感を感じていた。
ドアを開けるとすぐ横に宿屋のおカミがウツラウツラと半分寝ながらカウンター越しにこっちを見ていたが、見た目は勇者なのでそのまま気にせず素通りしていくことにする。
「あのっ! 勇者様」
え? 勇者? どこ? 一瞬唖然とするものの、あ、私のことだと、その声がけに振り向く。
さっきの寝ボコ眼のおかみが目を大きく見開いて黄色い声を上げていた。
「勇者様……。私の孫がファンでいつも勇者ごっこなんてしてるものですから、サインをここにいただいてもよろしいですか?」
そう言って上着を捲り上げ、シャツ1枚となり、あろうことか胸のところに書いて欲しいと目線でアピールしてくる。
キツいよ。なんで私が、おばさんの胸にサインを書かないといけないわけ。こんなことしてる場合じゃないんだけど……。
「私ですか? いや、俺のことか」
キラキラした目の少女のようになってて、良心が痛むので、カウンターのペンにインクをつけ書くことにした。ここで、時間を取られる訳にはいかない。さっさと済ませて魔法使いの部屋に行かないと。
ふと思う。あの勇者って、名前何だった?
適当に誰かの名前を書くのもまずいし。おカミの口が緩んで、推しのアイドルでも見るかのように私をまじまじと凝視している。
ごめんなさい。私はシャツをめくると胸に直に『勇者降臨っ!』
と、書いてペンを置くことにした。ここで軽蔑されればいいんだわ。勇者いい気味ね!そう思ってたのに。なんでなの!
「きゃー! 嬉しいわ! 実は私が、勇者のファンなの」
そう言って顔をクシャクシャにしながら、その場でぴょんぴょん跳ねて、はしゃいでしまう。
あれっ! まさか真の推しというのは私の想像の斜め上をいくのかな。
「宿は無料にします。このことは二人だけの秘密にしとくわね!」
「あ、どうも」
虚しい気持ちになりながら、こんなことしてる場合では無いと思い直す。そして、私は勇者の隣の部屋のドアノブを回した。
「あら、アデル何よっ、酒が抜けたの? いつものように私のベッドで寝る?」
ベッドは二つあり、魔法使いの女はピンクの薄い肌の露出したネグリジェを着ている。女の私から見ても色っぽいけど、やっぱりメイクが少しケバくてキツイ。
「リンダ何言ってるんですか? ここはそういうことする場所ではありませんよ!」
この勇者、名前はアデル。魔法使いの方はリンダね。
私はリンダのことは無視して真面目そうな僧侶が座るベッドに近づくと一気に押し倒した。
リンダは勇者の彼女で、僧侶はただの仲間。だとしたら僧侶にちょっかいを出せば魔法使いのリンダは黙っていないのは目に見えている。
「え! 何するんですか?」
「このパーティは解散だー!」
そう言いながら、無理やり僧侶のスカートの中に手を入れてパンツをつかもうとすると。
「アデルっ! キャサリンに何やってんだよ!」
リンダが私の手の甲をつねりあげる。
「イタタタタっ、よせよ。リンダ。お前にはもう飽き飽きしてたんだよ! 部屋の外に出ていけよ。俺はキャサリンと楽しむからよ」
「はいっ? 私との関係を解消したいってこと? ふざけんじゃないわよ。あんた酔ってるの?」
「いちいち言わせんなって! お前なんて最初から好きでもなんでもねーんだよ」
うーん。普段悪口なんて言ったことないから、言えば言うほど胃がキリキリと痛くなってくる。変身はあと10分ぐらいかな。そろそろ戻らないといけない。
「いい加減にしてよ! あんたにどれだけ尽くしてきたって言うのよ! あんたが悪さをしても揉み消してきたのはわたしなのよ! なのにキャサリンなんてただ乳がでかいだけのホルスタイン。そんな小娘に目移りするなんて酷いじゃないの」
そう言うと顔を押さえて、凄い勢いで、ドアをばたんと閉めて出ていってしまった。
これでこのパーティも終わりでしょ。そう思って、僧侶のスカートから黄色いパンツを脱がすと、リンダと入れ替わりに本物の勇者が部屋に入ってきてしまった。
「は? おたく、どちらさん? 俺にそっくりだが、お前誰なんだ? あと手に持ってるのは何だ?」
お酒を飲んだせいで目が血走っているのか、ブチ切れてそうなっているのか、恐らく後者だと思う。
私は見に危険を感じて、咄嗟にポケットから透明粉を取ると振りかけて姿を隠す。
「まさかてめえ、昨日のやつか?」
走れば足音がしてしまう。ドアの前には勇者がいるので、外に出れない。困ったわ。どうしよう。
あと五分くらいで変身粉の効果が切れてしまう。悠長にしてる暇は無い。
「二度も同じ手は効くかよっ! どうせ姿をくらましてるだけだろ。だったらこうしてやる!」
そう言うと、後ろ手でドアに鍵をかけた。そして剣を構えこちらに突っ込んできた。見えてないはずなのに、あっ、手に持つキャサリンの黄色いパンツが見えてるんだ。
勇者目掛けて投げると、軽すぎて天井に当たり直ぐに床に落ちていく。
「もう袋のネズミだ。覚悟しやがれ」
言うが早いか勇者の剣は落ちるパンツを真っ二つにした。危なかった。あと数秒遅かったら、私の手が飛んでたかもしれない。
よりにもよって、自分のものでないものは透明にならないとか、透明粉のデメリットをこんなことで知るなんて。
勇者はその黄色い毛糸のパンツを拾い上げ。そして再びドアが開くと、さっきの魔法使いリンダが入ってきた。
「あんたね、いい加減にしなさいよ! なんで追いかけて来ないのよ。しかもキャサリンはあんたの妹でしょ。私はついていけないわ。身内を襲うなんて野獣なのあんたは!」
「いや、いや違うんだ。これはさっきの女が……」
勇者は部屋の中を指さすけど私の姿は見えないから、傍から見れば、おかしいのは勇者一人ということになる。
「誰も居ないわよ。ここには私とキャサリン、あなただけじゃないの」
今しかない、私は言い争う二人の間をぬけて、部屋をこっそりと出ていく。
そこへまた二人目のリンダが現れた。ハリソン余計なことを。
ハリソンが部屋に入ると勇者は、笑みを浮かべて。
「ほら、リンダ見てみろよ! そいつが犯人なんだよ。恐らく魔物が化けてやがる!」
「騙しやがってー、覚悟しな」
リンダは机に置いた杖を取ると、ハリソンに向かって詠唱を唱え始めた。
「私のこころを弄びやがって、息の根を止めてやる! アイスコールド!」
杖の先に青い透明な氷の塊が出現し、リンダが杖を降るとハリソンに向かって飛んでいく。
「うっ!」
その場で倒れ込むハリソン。やば、そうこうしているうちに、私の透明粉の効果がきれてしまった。
「やっと姿を現しやがったな! お前さっきの」
勇者はそう言うと、魔法使いの杖を奪い力を込めているように見える。杖が淡い光を帯びているから、何か魔法でも唱えるのかもしれない。
「真空魔法 エアートルネードっ!」
勇者の詠唱で、小さな竜巻がこちらに飛んできて、私とハリソンを巻き込み、宿屋の屋根を突き破り、上空に飛ばされ、最後は外の地面へと叩きつけられた。
――身体が痛すぎる。甘くみてた。
体が重くて、全体に強く打ったので、全身が痛い。顔を上げると目の前には勇者が剣を頭上に高く振り上げていた。
――諦めて目をつぶった。その時。
これはまさか。ピンクの髪のお姉さんの香水の香りに似たローズの香りがふわりと私の鼻腔を刺激した。
うっすら目を開けると、白い埃が舞う中、ピンクの長い髪が太陽の光に反射して風でサラサラと流れるのが目に入ってきた。
「え? またこんなとこに飛ばされたの? メアリ! キチガイ勇者! 私の弟子に何してるんだ!」
お姉さんは勇者に向かって怒鳴ると、勇者は剣を私の喉元へと近づけてきた。
「てめえ聖女だろ。お前俺の悪口言ってるらしいな。丁度いい二人まとめてぶっ殺してやる!」
「そう。あなたにそんなことできるかしら」
お姉さんは、しゃがむと、綺麗な白い長い足がスカートからちらりと見えた。太ももにバンドで取り付けたナイフを勇者に目掛けて投げた。
勇者は私から剣を離すと、そのナイフを剣で打ち、ナイフを粉砕する。
そしてその横で魔法使いが手を胸の前で掲げて。
「かのものを焼き払え! ファイヤーボール」
1メートル位の火球が脚の悪いお姉さんに向かって飛んでいくが、お姉さんは試験官を手にするとその中に火球が吸い込まれた。
そしてもう片方の手に持つ銃を撃った。
ドーンと音がして中から、網のような物が飛び出し、勇者と魔法使いの身体を身動き出来なくさせた。
「なんだこれ。ふざけやがって。おいっ、キャサリン! 手をかせ!」
「お兄様嫌です! 先程私を襲おうとしましたよね」
「なわけあるか!」
「煩わしいハエみたいな勇者ね。ほんとうるさいわ。どうメアリ仇はうったわよ!」
腰に手を当ててエッヘンといった仕草をするお姉さん。勇者の網はどんどん大きくなり、どうやらもがくほど絡まる網のようだった。
ポーズが気に入ったのか、数回繰り返すが、地面に倒れる私とハリソンを見て、慌てて鞄から袋を取り出すと、それを私達に向かって振りかけてくれた。
「ゴホッゴホッ、この粉はなんです?!」
「あー、それ小麦粉だったわ! ごめんなさいね」
軽くウインクすると、恥ずかしそうな素振りをする。御年70は超えてるのに見た目は薬のおかげで10代に見える。中身も若くて、私は魅力を感じてる。小麦粉で真っ白になった私の頭にさらにピンクの粉をふりかけ始めた。
――お姉さん大丈夫なのかな……。
私の身体は眩い光を放ち、すぐに痛みが引いてくるのを感じた。
「痛みが引いてきました。ありがとうございます。こんな粉まみれになっちゃいましたけど、治ったみたいです」
「聖女様、まさかこんなところでお会い出来るとはわ、わたしら、失礼いたしました」
ハリソンは声にならない、途中どもってる。
お姉さんはにっこりと微笑むと。
「たまたまこの辺を散歩してたからいいものの、無理はダメよ。あの網は30分しかもたないわ」
――あまりにも無鉄砲だった。お姉さんの言う通りだ。顔バレしたのも後から報復される恐れもあるし。
「でもメアリのそんなとこも好きなの。あなたの計算高くなく、無理やりでも何とかしようとする姿見てたら、こっちも助けたくなっちゃうのよ。それにしてもいつもあなた勇者に殺されそうになってわね」
お姉さんは人差し指を立てて口元に持ってくると風向きを確認してそっと微笑む。
「やっぱり、少しおイタ勇者に私からプレゼント差し上げないとね!」
ドアを開けるとすぐ横に宿屋のおカミがウツラウツラと半分寝ながらカウンター越しにこっちを見ていたが、見た目は勇者なのでそのまま気にせず素通りしていくことにする。
「あのっ! 勇者様」
え? 勇者? どこ? 一瞬唖然とするものの、あ、私のことだと、その声がけに振り向く。
さっきの寝ボコ眼のおかみが目を大きく見開いて黄色い声を上げていた。
「勇者様……。私の孫がファンでいつも勇者ごっこなんてしてるものですから、サインをここにいただいてもよろしいですか?」
そう言って上着を捲り上げ、シャツ1枚となり、あろうことか胸のところに書いて欲しいと目線でアピールしてくる。
キツいよ。なんで私が、おばさんの胸にサインを書かないといけないわけ。こんなことしてる場合じゃないんだけど……。
「私ですか? いや、俺のことか」
キラキラした目の少女のようになってて、良心が痛むので、カウンターのペンにインクをつけ書くことにした。ここで、時間を取られる訳にはいかない。さっさと済ませて魔法使いの部屋に行かないと。
ふと思う。あの勇者って、名前何だった?
適当に誰かの名前を書くのもまずいし。おカミの口が緩んで、推しのアイドルでも見るかのように私をまじまじと凝視している。
ごめんなさい。私はシャツをめくると胸に直に『勇者降臨っ!』
と、書いてペンを置くことにした。ここで軽蔑されればいいんだわ。勇者いい気味ね!そう思ってたのに。なんでなの!
「きゃー! 嬉しいわ! 実は私が、勇者のファンなの」
そう言って顔をクシャクシャにしながら、その場でぴょんぴょん跳ねて、はしゃいでしまう。
あれっ! まさか真の推しというのは私の想像の斜め上をいくのかな。
「宿は無料にします。このことは二人だけの秘密にしとくわね!」
「あ、どうも」
虚しい気持ちになりながら、こんなことしてる場合では無いと思い直す。そして、私は勇者の隣の部屋のドアノブを回した。
「あら、アデル何よっ、酒が抜けたの? いつものように私のベッドで寝る?」
ベッドは二つあり、魔法使いの女はピンクの薄い肌の露出したネグリジェを着ている。女の私から見ても色っぽいけど、やっぱりメイクが少しケバくてキツイ。
「リンダ何言ってるんですか? ここはそういうことする場所ではありませんよ!」
この勇者、名前はアデル。魔法使いの方はリンダね。
私はリンダのことは無視して真面目そうな僧侶が座るベッドに近づくと一気に押し倒した。
リンダは勇者の彼女で、僧侶はただの仲間。だとしたら僧侶にちょっかいを出せば魔法使いのリンダは黙っていないのは目に見えている。
「え! 何するんですか?」
「このパーティは解散だー!」
そう言いながら、無理やり僧侶のスカートの中に手を入れてパンツをつかもうとすると。
「アデルっ! キャサリンに何やってんだよ!」
リンダが私の手の甲をつねりあげる。
「イタタタタっ、よせよ。リンダ。お前にはもう飽き飽きしてたんだよ! 部屋の外に出ていけよ。俺はキャサリンと楽しむからよ」
「はいっ? 私との関係を解消したいってこと? ふざけんじゃないわよ。あんた酔ってるの?」
「いちいち言わせんなって! お前なんて最初から好きでもなんでもねーんだよ」
うーん。普段悪口なんて言ったことないから、言えば言うほど胃がキリキリと痛くなってくる。変身はあと10分ぐらいかな。そろそろ戻らないといけない。
「いい加減にしてよ! あんたにどれだけ尽くしてきたって言うのよ! あんたが悪さをしても揉み消してきたのはわたしなのよ! なのにキャサリンなんてただ乳がでかいだけのホルスタイン。そんな小娘に目移りするなんて酷いじゃないの」
そう言うと顔を押さえて、凄い勢いで、ドアをばたんと閉めて出ていってしまった。
これでこのパーティも終わりでしょ。そう思って、僧侶のスカートから黄色いパンツを脱がすと、リンダと入れ替わりに本物の勇者が部屋に入ってきてしまった。
「は? おたく、どちらさん? 俺にそっくりだが、お前誰なんだ? あと手に持ってるのは何だ?」
お酒を飲んだせいで目が血走っているのか、ブチ切れてそうなっているのか、恐らく後者だと思う。
私は見に危険を感じて、咄嗟にポケットから透明粉を取ると振りかけて姿を隠す。
「まさかてめえ、昨日のやつか?」
走れば足音がしてしまう。ドアの前には勇者がいるので、外に出れない。困ったわ。どうしよう。
あと五分くらいで変身粉の効果が切れてしまう。悠長にしてる暇は無い。
「二度も同じ手は効くかよっ! どうせ姿をくらましてるだけだろ。だったらこうしてやる!」
そう言うと、後ろ手でドアに鍵をかけた。そして剣を構えこちらに突っ込んできた。見えてないはずなのに、あっ、手に持つキャサリンの黄色いパンツが見えてるんだ。
勇者目掛けて投げると、軽すぎて天井に当たり直ぐに床に落ちていく。
「もう袋のネズミだ。覚悟しやがれ」
言うが早いか勇者の剣は落ちるパンツを真っ二つにした。危なかった。あと数秒遅かったら、私の手が飛んでたかもしれない。
よりにもよって、自分のものでないものは透明にならないとか、透明粉のデメリットをこんなことで知るなんて。
勇者はその黄色い毛糸のパンツを拾い上げ。そして再びドアが開くと、さっきの魔法使いリンダが入ってきた。
「あんたね、いい加減にしなさいよ! なんで追いかけて来ないのよ。しかもキャサリンはあんたの妹でしょ。私はついていけないわ。身内を襲うなんて野獣なのあんたは!」
「いや、いや違うんだ。これはさっきの女が……」
勇者は部屋の中を指さすけど私の姿は見えないから、傍から見れば、おかしいのは勇者一人ということになる。
「誰も居ないわよ。ここには私とキャサリン、あなただけじゃないの」
今しかない、私は言い争う二人の間をぬけて、部屋をこっそりと出ていく。
そこへまた二人目のリンダが現れた。ハリソン余計なことを。
ハリソンが部屋に入ると勇者は、笑みを浮かべて。
「ほら、リンダ見てみろよ! そいつが犯人なんだよ。恐らく魔物が化けてやがる!」
「騙しやがってー、覚悟しな」
リンダは机に置いた杖を取ると、ハリソンに向かって詠唱を唱え始めた。
「私のこころを弄びやがって、息の根を止めてやる! アイスコールド!」
杖の先に青い透明な氷の塊が出現し、リンダが杖を降るとハリソンに向かって飛んでいく。
「うっ!」
その場で倒れ込むハリソン。やば、そうこうしているうちに、私の透明粉の効果がきれてしまった。
「やっと姿を現しやがったな! お前さっきの」
勇者はそう言うと、魔法使いの杖を奪い力を込めているように見える。杖が淡い光を帯びているから、何か魔法でも唱えるのかもしれない。
「真空魔法 エアートルネードっ!」
勇者の詠唱で、小さな竜巻がこちらに飛んできて、私とハリソンを巻き込み、宿屋の屋根を突き破り、上空に飛ばされ、最後は外の地面へと叩きつけられた。
――身体が痛すぎる。甘くみてた。
体が重くて、全体に強く打ったので、全身が痛い。顔を上げると目の前には勇者が剣を頭上に高く振り上げていた。
――諦めて目をつぶった。その時。
これはまさか。ピンクの髪のお姉さんの香水の香りに似たローズの香りがふわりと私の鼻腔を刺激した。
うっすら目を開けると、白い埃が舞う中、ピンクの長い髪が太陽の光に反射して風でサラサラと流れるのが目に入ってきた。
「え? またこんなとこに飛ばされたの? メアリ! キチガイ勇者! 私の弟子に何してるんだ!」
お姉さんは勇者に向かって怒鳴ると、勇者は剣を私の喉元へと近づけてきた。
「てめえ聖女だろ。お前俺の悪口言ってるらしいな。丁度いい二人まとめてぶっ殺してやる!」
「そう。あなたにそんなことできるかしら」
お姉さんは、しゃがむと、綺麗な白い長い足がスカートからちらりと見えた。太ももにバンドで取り付けたナイフを勇者に目掛けて投げた。
勇者は私から剣を離すと、そのナイフを剣で打ち、ナイフを粉砕する。
そしてその横で魔法使いが手を胸の前で掲げて。
「かのものを焼き払え! ファイヤーボール」
1メートル位の火球が脚の悪いお姉さんに向かって飛んでいくが、お姉さんは試験官を手にするとその中に火球が吸い込まれた。
そしてもう片方の手に持つ銃を撃った。
ドーンと音がして中から、網のような物が飛び出し、勇者と魔法使いの身体を身動き出来なくさせた。
「なんだこれ。ふざけやがって。おいっ、キャサリン! 手をかせ!」
「お兄様嫌です! 先程私を襲おうとしましたよね」
「なわけあるか!」
「煩わしいハエみたいな勇者ね。ほんとうるさいわ。どうメアリ仇はうったわよ!」
腰に手を当ててエッヘンといった仕草をするお姉さん。勇者の網はどんどん大きくなり、どうやらもがくほど絡まる網のようだった。
ポーズが気に入ったのか、数回繰り返すが、地面に倒れる私とハリソンを見て、慌てて鞄から袋を取り出すと、それを私達に向かって振りかけてくれた。
「ゴホッゴホッ、この粉はなんです?!」
「あー、それ小麦粉だったわ! ごめんなさいね」
軽くウインクすると、恥ずかしそうな素振りをする。御年70は超えてるのに見た目は薬のおかげで10代に見える。中身も若くて、私は魅力を感じてる。小麦粉で真っ白になった私の頭にさらにピンクの粉をふりかけ始めた。
――お姉さん大丈夫なのかな……。
私の身体は眩い光を放ち、すぐに痛みが引いてくるのを感じた。
「痛みが引いてきました。ありがとうございます。こんな粉まみれになっちゃいましたけど、治ったみたいです」
「聖女様、まさかこんなところでお会い出来るとはわ、わたしら、失礼いたしました」
ハリソンは声にならない、途中どもってる。
お姉さんはにっこりと微笑むと。
「たまたまこの辺を散歩してたからいいものの、無理はダメよ。あの網は30分しかもたないわ」
――あまりにも無鉄砲だった。お姉さんの言う通りだ。顔バレしたのも後から報復される恐れもあるし。
「でもメアリのそんなとこも好きなの。あなたの計算高くなく、無理やりでも何とかしようとする姿見てたら、こっちも助けたくなっちゃうのよ。それにしてもいつもあなた勇者に殺されそうになってわね」
お姉さんは人差し指を立てて口元に持ってくると風向きを確認してそっと微笑む。
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