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十二話 刃の切先
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もうダメだ。それでも、私だけ逃げる訳にはいかないじゃない。ポケットに手を突っ込み銃を手にする。こんな時、ピンクの髪のお姉さんがいてくれたらどんなに心強いか。
「次は貴様の番だから覚悟しとけ」
校長の首に刀はささり、鮮血が飛び散り、地面に倒れこんだ。
私の方へ魔物はゆっくりと歩いてくる。何か手はないのか考えるが浮かばない。
引き金に指をかけるが、魔物は剣で銃を払ってしまう。
「あ……あ……」
ポケットの中のお守りが光り始め、そこからの一筋の光が音を立てて空へと打ち上がる。
頭上の黒い雲から太い雷が魔物目掛けて落ちた。落ちたとこに、魔法陣がうっすらと光を放ち、突如、黒いシルエットが出現して、スプーンを手にした聖女様がキョトンとした顔で現れた。
「え? なに? 何が起こったの? 私は食堂でご飯食べてたのに。ここどこなの? メアリお久しぶりじゃないの! 私のシーフードシチューどこいった?」
聖女様は魔物と血だらけで地面に横たわる校長とマーガレットを見て何となく状況を把握する。
すぐさま腰の銃を校長目掛けて放つ。すると刺された首の傷がみるみる塞がっていく。
お姉さんが戦闘してるとこなんて見たことないけど戦えるんだろうか。聖女様だから、どう考えても回復役だと思うし。
お姉さんは鞄からあれでもないこれでもないと慌てていいる。何か袋を取り出した。
「さっきから邪魔ばかりしおって!」
魔物はイキリたち、お姉さんに刀を振り上げるが、お姉さんの姿がその場から消えた。
瞬きすると、ドンドンドンと、三発音がして、魔物のお腹に矢が突き刺さっていた。
口から血を吐き出した魔物は、観念したのか、笛を吹くと、どこからともなく翼竜が現れ、それに乗って飛んでいってしまった。
「ふう終わった……。メアリ大丈夫?」
お姉さんが姿を現す。
「お姉さんっ、大丈夫ですか」
「大丈夫にきまってるでしょ! 透明マント使ってたの。お嬢ちゃん大丈夫?」
「子供じゃないわ! なんであんたなんかに助けてもらわないといけないのよ。一応礼は生徒の手前しますがあなたがいなくてもやれたわ。勘違いだけはしないでちょうだい」
「あら、やだ。ミッシェルなら助けなくても良かったわ」
私は二人のやり取りを笑いながら眺めていた。マーガレットも、校長の薬で回復したようだ。
その後、ジャックが石化した事を伝えると聖女はしばらく考え込み。
「まずいわ。石化は術者を倒さないといけないのに、みすみす取り逃したわね。困ったわ。他に方法があるとするなら、神の薬と呼ばれるエリクサーなら治せるかもしれませんが、素材を集めるのが大変よ」
魔物を探すのも難しいし、素材集めも上手くいくかどうか分からない。
「お姉さんにも作れないものがあるのです?」
「メアリ。入手難易度の高い素材ばかりで全部揃えるには冒険に出るしかないわ。私は足が悪いから何もしてあげられそうにないし」
いつも自信のあるお姉さんが初めて弱音を吐いたところを見た。
「何とかなりませんか。私がお姉さんの足になれば……」
「もう一度聞くけど、石化しているのはただの友達? だとしたら諦めた方が賢明よ。こんなこと無理に決まってるわ。仮にどちらの道に進んだとしても、これから先あなたは今まで経験したことの無い地獄を味わうことになるわ。よく考えた方がいいんじゃないかしら」
お姉さんは、潤んだ目で申し訳なさそうな顔をする。
その横で、校長は、絶望的な顔をしているから、エリクサーなんて夢のまた夢の話なのかもしれない。
「エリクサーの素材を集めた調合師の成れの果てをあなたに教えましょうか」
「分かりません。まさか……」
お姉さんは自分の足を指さす。
「あなたの目の前にいるでしょ。悪いことは言わないから諦めた方がいいわ」
心臓の鼓動が早まる。胃が痛い。でもジャックはいつも困っている私を助けてくれた。ただの友達なんかじゃない。
「――私の大切な人なんです!」
お姉さんは私の気持ちを汲んでくれて、その視線は遠くの宙に浮かんでいる。
「本当にどうなっても知らないわよ。学校の図書館に行きなさい。そこに私が若い頃、書いたエリクサーの本があるから、それを参考にしなさい。あと、一人では無理よ。協力してくれる仲間を見つけながら探すこと。そこだけは守って」
真剣な眼差しで私を凝視するお姉さん。校長はそんな二人のやり取りを黙って見ている。
「はい。必ず助けてみせます」
「何か困ったことがあったらまた相談にのるわ。お手伝いは図書館で私の本を探すこと。いいわね。また来週会いましょう! ミッシェルもお元気で」
手を振って帰っていくピンクの髪のお姉さんを見送る。
校長はジャックの親御さんには私が説明すると、仰ってくれた。でも、私も一緒に行って謝ることにした。
その日のうちにジャックのお母さんに話をすると。
「ジャックはメアリの王子様になりたいって小さい頃から私に話してたわ。あなたの顔を見てたら怒れないじゃないの。それよりも、いい? メアリも私の娘みたいなものだから、危険なことは絶対してはダメよ。しばらくジャックと会えないのは寂しいけど、まだ死んでるわけじゃないから悲しんでいられないわ」
私にそんな優しい言葉をかけないでよ。酷く叱られると予測してたから、その言葉に涙が止まらなくなってしまい、そんな私をジャックのお母さんは抱きしめてくれて一緒にしばらく泣いていた。
「私が絶対にエリクサーを作って元に戻します」
こんなんじゃダメっ。おばさんの顔を見上げてそう言い切った。おばさんはハンカチで涙を拭うと少し微笑んでくれた。
ミッシェル校長もできるだけ協力すると頭を下げて馬車で学校に戻ってきた。
ジャックの家は私の隣の家なので、顔を合わせるのが辛いだろうと思った校長は、その日から私を学校の寮に入れることにした。
私は校長にお礼をいうと、すぐに図書館に篭もり、聖女様の本を探すことにした。
「次は貴様の番だから覚悟しとけ」
校長の首に刀はささり、鮮血が飛び散り、地面に倒れこんだ。
私の方へ魔物はゆっくりと歩いてくる。何か手はないのか考えるが浮かばない。
引き金に指をかけるが、魔物は剣で銃を払ってしまう。
「あ……あ……」
ポケットの中のお守りが光り始め、そこからの一筋の光が音を立てて空へと打ち上がる。
頭上の黒い雲から太い雷が魔物目掛けて落ちた。落ちたとこに、魔法陣がうっすらと光を放ち、突如、黒いシルエットが出現して、スプーンを手にした聖女様がキョトンとした顔で現れた。
「え? なに? 何が起こったの? 私は食堂でご飯食べてたのに。ここどこなの? メアリお久しぶりじゃないの! 私のシーフードシチューどこいった?」
聖女様は魔物と血だらけで地面に横たわる校長とマーガレットを見て何となく状況を把握する。
すぐさま腰の銃を校長目掛けて放つ。すると刺された首の傷がみるみる塞がっていく。
お姉さんが戦闘してるとこなんて見たことないけど戦えるんだろうか。聖女様だから、どう考えても回復役だと思うし。
お姉さんは鞄からあれでもないこれでもないと慌てていいる。何か袋を取り出した。
「さっきから邪魔ばかりしおって!」
魔物はイキリたち、お姉さんに刀を振り上げるが、お姉さんの姿がその場から消えた。
瞬きすると、ドンドンドンと、三発音がして、魔物のお腹に矢が突き刺さっていた。
口から血を吐き出した魔物は、観念したのか、笛を吹くと、どこからともなく翼竜が現れ、それに乗って飛んでいってしまった。
「ふう終わった……。メアリ大丈夫?」
お姉さんが姿を現す。
「お姉さんっ、大丈夫ですか」
「大丈夫にきまってるでしょ! 透明マント使ってたの。お嬢ちゃん大丈夫?」
「子供じゃないわ! なんであんたなんかに助けてもらわないといけないのよ。一応礼は生徒の手前しますがあなたがいなくてもやれたわ。勘違いだけはしないでちょうだい」
「あら、やだ。ミッシェルなら助けなくても良かったわ」
私は二人のやり取りを笑いながら眺めていた。マーガレットも、校長の薬で回復したようだ。
その後、ジャックが石化した事を伝えると聖女はしばらく考え込み。
「まずいわ。石化は術者を倒さないといけないのに、みすみす取り逃したわね。困ったわ。他に方法があるとするなら、神の薬と呼ばれるエリクサーなら治せるかもしれませんが、素材を集めるのが大変よ」
魔物を探すのも難しいし、素材集めも上手くいくかどうか分からない。
「お姉さんにも作れないものがあるのです?」
「メアリ。入手難易度の高い素材ばかりで全部揃えるには冒険に出るしかないわ。私は足が悪いから何もしてあげられそうにないし」
いつも自信のあるお姉さんが初めて弱音を吐いたところを見た。
「何とかなりませんか。私がお姉さんの足になれば……」
「もう一度聞くけど、石化しているのはただの友達? だとしたら諦めた方が賢明よ。こんなこと無理に決まってるわ。仮にどちらの道に進んだとしても、これから先あなたは今まで経験したことの無い地獄を味わうことになるわ。よく考えた方がいいんじゃないかしら」
お姉さんは、潤んだ目で申し訳なさそうな顔をする。
その横で、校長は、絶望的な顔をしているから、エリクサーなんて夢のまた夢の話なのかもしれない。
「エリクサーの素材を集めた調合師の成れの果てをあなたに教えましょうか」
「分かりません。まさか……」
お姉さんは自分の足を指さす。
「あなたの目の前にいるでしょ。悪いことは言わないから諦めた方がいいわ」
心臓の鼓動が早まる。胃が痛い。でもジャックはいつも困っている私を助けてくれた。ただの友達なんかじゃない。
「――私の大切な人なんです!」
お姉さんは私の気持ちを汲んでくれて、その視線は遠くの宙に浮かんでいる。
「本当にどうなっても知らないわよ。学校の図書館に行きなさい。そこに私が若い頃、書いたエリクサーの本があるから、それを参考にしなさい。あと、一人では無理よ。協力してくれる仲間を見つけながら探すこと。そこだけは守って」
真剣な眼差しで私を凝視するお姉さん。校長はそんな二人のやり取りを黙って見ている。
「はい。必ず助けてみせます」
「何か困ったことがあったらまた相談にのるわ。お手伝いは図書館で私の本を探すこと。いいわね。また来週会いましょう! ミッシェルもお元気で」
手を振って帰っていくピンクの髪のお姉さんを見送る。
校長はジャックの親御さんには私が説明すると、仰ってくれた。でも、私も一緒に行って謝ることにした。
その日のうちにジャックのお母さんに話をすると。
「ジャックはメアリの王子様になりたいって小さい頃から私に話してたわ。あなたの顔を見てたら怒れないじゃないの。それよりも、いい? メアリも私の娘みたいなものだから、危険なことは絶対してはダメよ。しばらくジャックと会えないのは寂しいけど、まだ死んでるわけじゃないから悲しんでいられないわ」
私にそんな優しい言葉をかけないでよ。酷く叱られると予測してたから、その言葉に涙が止まらなくなってしまい、そんな私をジャックのお母さんは抱きしめてくれて一緒にしばらく泣いていた。
「私が絶対にエリクサーを作って元に戻します」
こんなんじゃダメっ。おばさんの顔を見上げてそう言い切った。おばさんはハンカチで涙を拭うと少し微笑んでくれた。
ミッシェル校長もできるだけ協力すると頭を下げて馬車で学校に戻ってきた。
ジャックの家は私の隣の家なので、顔を合わせるのが辛いだろうと思った校長は、その日から私を学校の寮に入れることにした。
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