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地下を出るのは久しぶりだった。
見慣れた社内の風景だが、何を見てもキラキラ光り輝いて見えた。
足繫く行き交う社員たちの間を縫って、通路の奥へと向かう。
途中、受付カウンターの案内嬢たちが、僕のほうを盗み見てくすくす笑うのが視界の隅に入ってきた。
彼女らは、多分知っているのだろう、僕の正体を。
僕が社内では最下層に位置する、”肉便器”であったことを。
そしてもしかしたら、今はその職さえ解かれ、底辺どころか、会社のお荷物に成り下がってしまっていることも。
通路の奥のエレベーター前は空いていた。
ある意味それは当然だった。
この一基は、重役専門のエレベーターだからである。
運良く、箱は最初から一階で停まっており、ボタンを押すとすぐにドアが開いた。
一般社員用のエレベーターの前で待っていた数人が、なんであいつが? とでも言いたげに僕を見る。
乗るのは初めてだった。
箱の中はそれなりに豪奢で、秘書たちの香水のものなのか、空気にもほのかに良い香りが漂っていた。
エレベーターはかなりの高速で、乗っていた時間はわずか1分足らずに過ぎなかった。
音もなくドアが開くと、赤いカーペットが敷き詰められた長い通廊が目の前に現れた。
広い間隔で両側に重々しい扉が並ぶなか、息が詰まるような思いで指示された部屋まで歩く。
電話口で彼は「仕事がある」と告げた。
しかも、僕にしかできない仕事だと。
完全なる閑職に追いやられていた身にとって、これほどうれしい言葉はない。
なぜなら、まだ自分が他人に頼られているとわかったからだ。
しかし、その反面、不安も大きかった。
あの日以来、僕は後輩のKに、唯一の肩書だった”社内公認肉便器”の座を奪い取られてしまったのだ。
その僕に、今更何かできることがあるとは思えない。
そして、もっと気になるのが、僕の元調教者である彼の真意だった。
プライベートの面でも、彼が僕を捨て、若いKに心変わりしたのは、もう明白である。
なぜって、あれ以来、一度もコンタクトがなかったからだ。
僕は放置され、溜まる性的欲求を持て余していた。
自宅はもちろん、会社でも、トイレに籠ってよく自分を慰めたものだった。
彼との蜜月の日々を思い出し、懸命に彼の感触を性器や肛門で反芻しながら…。
”本部長室”のプレートを確認し、
「参りました」
ドアをノックし、名前を告げた。
「入れ」
ひと呼吸置いて、無機質な彼の声。
入ると、そこは、重々しい雰囲気の広々とした空間だった。
窓を背にして黒檀の大きなデスクがあり、そこに猪首の男がこちらを向いて座っていた。
「この男です。本部長も、何度かお使いになったことがおありかと」
その横に立っている彼が、僕を顎で示して、そう言った。
「ああ」
本部長、と呼ばれた猪首、短躰の男が重々しくうなずいた。
「その際は、いろいろ楽しませてもらったよ。抜群に感度がよかったのを覚えている」
「少々旬を過ぎてしまいましたが、まだまだ躰のほうは十分な機能を維持しているようです。やつなら、この任務にうってつけかと。この男、今やクビ寸前ですから、おそらく対象が満足するまで、死ぬ気で奉仕するでしょう」
「そうだな」
本部長はわが意を得たりとばかりにもう一度うなずくと、
「君、そんなところにいつまでも立っていないで、そこに座りたまえ」
やおら、僕に向かってそう言った。
見慣れた社内の風景だが、何を見てもキラキラ光り輝いて見えた。
足繫く行き交う社員たちの間を縫って、通路の奥へと向かう。
途中、受付カウンターの案内嬢たちが、僕のほうを盗み見てくすくす笑うのが視界の隅に入ってきた。
彼女らは、多分知っているのだろう、僕の正体を。
僕が社内では最下層に位置する、”肉便器”であったことを。
そしてもしかしたら、今はその職さえ解かれ、底辺どころか、会社のお荷物に成り下がってしまっていることも。
通路の奥のエレベーター前は空いていた。
ある意味それは当然だった。
この一基は、重役専門のエレベーターだからである。
運良く、箱は最初から一階で停まっており、ボタンを押すとすぐにドアが開いた。
一般社員用のエレベーターの前で待っていた数人が、なんであいつが? とでも言いたげに僕を見る。
乗るのは初めてだった。
箱の中はそれなりに豪奢で、秘書たちの香水のものなのか、空気にもほのかに良い香りが漂っていた。
エレベーターはかなりの高速で、乗っていた時間はわずか1分足らずに過ぎなかった。
音もなくドアが開くと、赤いカーペットが敷き詰められた長い通廊が目の前に現れた。
広い間隔で両側に重々しい扉が並ぶなか、息が詰まるような思いで指示された部屋まで歩く。
電話口で彼は「仕事がある」と告げた。
しかも、僕にしかできない仕事だと。
完全なる閑職に追いやられていた身にとって、これほどうれしい言葉はない。
なぜなら、まだ自分が他人に頼られているとわかったからだ。
しかし、その反面、不安も大きかった。
あの日以来、僕は後輩のKに、唯一の肩書だった”社内公認肉便器”の座を奪い取られてしまったのだ。
その僕に、今更何かできることがあるとは思えない。
そして、もっと気になるのが、僕の元調教者である彼の真意だった。
プライベートの面でも、彼が僕を捨て、若いKに心変わりしたのは、もう明白である。
なぜって、あれ以来、一度もコンタクトがなかったからだ。
僕は放置され、溜まる性的欲求を持て余していた。
自宅はもちろん、会社でも、トイレに籠ってよく自分を慰めたものだった。
彼との蜜月の日々を思い出し、懸命に彼の感触を性器や肛門で反芻しながら…。
”本部長室”のプレートを確認し、
「参りました」
ドアをノックし、名前を告げた。
「入れ」
ひと呼吸置いて、無機質な彼の声。
入ると、そこは、重々しい雰囲気の広々とした空間だった。
窓を背にして黒檀の大きなデスクがあり、そこに猪首の男がこちらを向いて座っていた。
「この男です。本部長も、何度かお使いになったことがおありかと」
その横に立っている彼が、僕を顎で示して、そう言った。
「ああ」
本部長、と呼ばれた猪首、短躰の男が重々しくうなずいた。
「その際は、いろいろ楽しませてもらったよ。抜群に感度がよかったのを覚えている」
「少々旬を過ぎてしまいましたが、まだまだ躰のほうは十分な機能を維持しているようです。やつなら、この任務にうってつけかと。この男、今やクビ寸前ですから、おそらく対象が満足するまで、死ぬ気で奉仕するでしょう」
「そうだな」
本部長はわが意を得たりとばかりにもう一度うなずくと、
「君、そんなところにいつまでも立っていないで、そこに座りたまえ」
やおら、僕に向かってそう言った。
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