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塁はすぐにやってきた。
そう、この呼び出しを、待ちかねていたかのように。
部屋の入口に立った彼女は、この時に備えてか、とてつもなくエロチックな格好をしていた。
黒いレオタードのようなものを身に着けているのだが、その生地が恐ろしく薄く、透けているのである。
だから、スレンダーな肢体が、隅々まで見えるのだ。
綺麗な鎖骨から、硬そうな乳房の膨らみ、小さ目な乳輪と尖った乳首。
流線形のへそと、筋肉の割れた贅肉のない平らな下腹。
そして、やはり脱毛しているのか、つるんとした陰部に盛り上がる恥丘の膨らみ…。
普段からジムにでも通っているのか、長身の塁は素晴らしい肉体の持ち主だった。
それこそ、先生と好一対といえそうなほど。
その塁は、ベッドの上に吊るされた、鮮魚市場の軒先の鮟鱇みたいな先生を、まじまじと見つめている。
お尻を真下に突き出し、開き切った肛門から直腸の一部をのぞかせ、水平に勃起ペニスを突き出した世にも恥ずかしい美青年の姿を。
先生の痴態は、部屋の片側の壁にはめ込まれた大きな鏡にも克明に映し出されている。
だから、鏡を見れば、背けられた先生の顔の表情も、じっくり確認できるのだ。
先生は、目をつぶるふりをして、横目で鏡を盗み見ていた。
自分の恥辱まみれの緊縛姿を目の当たりにして、ナルシストとしての欲望を満足させているに違いない。
「やっぱり、生で見ると、すごいわね…」
感に堪えぬように、塁がつぶやいた。
「まったく…って、人は」
…の部分で、塁はどうやら先生の名前を口にしたようだった。
その名前は当然僕も知っているけれど、僕にとって先生はあくまで先生だ。
だって、その呼び名でないと、いやらしさが感じられないから。
先生を見つめる類の眼には、複雑な表情が浮かんでいた。
こみあげる劣情に耐えているような、それでいて、ひどく悲しげな…。
僕はふと、何の前触れもなく、このふたりはかつて恋人同士だったのではないかと思った。
それは直感にすぎなかったけど、いざ意識にのぼせてみると、可能性としていかにもありそうだった。
先生は医学部の学生なのだ。
柚葉が看護学部に所属する、あの立派な図書館のある大学の…。
塁はその同じ大学出身の、いわゆる先輩医師といったところなのかもしれない。
「塁…」
先生が鏡に映る塁に向けて、小声で言った。
なんだか、母親に悪戯の現場を押さえられた幼児のような眼をしている。
「本当に、あなったって、救いようのない変態ね」
吐き捨てるように、塁が言った。
「自分がどれほど恥ずかしい格好をさせられてるのか、わかってるの?」
「知ってるさ…」
先生が、自嘲するように薄い唇をゆがめた。
「でも、そういうおまえも、俺のそこに惚れたんだろう?」
先生のひと言が、よほど正鵠を射ていたのだろう。
塁は「うっ」と喉を詰まらせ、顔を赤くすると、今度は僕のほうを向いて、苛立った口調で訊いてきた。
「それで少年、あなたはここで、私に何をさせたいの?」
そう、この呼び出しを、待ちかねていたかのように。
部屋の入口に立った彼女は、この時に備えてか、とてつもなくエロチックな格好をしていた。
黒いレオタードのようなものを身に着けているのだが、その生地が恐ろしく薄く、透けているのである。
だから、スレンダーな肢体が、隅々まで見えるのだ。
綺麗な鎖骨から、硬そうな乳房の膨らみ、小さ目な乳輪と尖った乳首。
流線形のへそと、筋肉の割れた贅肉のない平らな下腹。
そして、やはり脱毛しているのか、つるんとした陰部に盛り上がる恥丘の膨らみ…。
普段からジムにでも通っているのか、長身の塁は素晴らしい肉体の持ち主だった。
それこそ、先生と好一対といえそうなほど。
その塁は、ベッドの上に吊るされた、鮮魚市場の軒先の鮟鱇みたいな先生を、まじまじと見つめている。
お尻を真下に突き出し、開き切った肛門から直腸の一部をのぞかせ、水平に勃起ペニスを突き出した世にも恥ずかしい美青年の姿を。
先生の痴態は、部屋の片側の壁にはめ込まれた大きな鏡にも克明に映し出されている。
だから、鏡を見れば、背けられた先生の顔の表情も、じっくり確認できるのだ。
先生は、目をつぶるふりをして、横目で鏡を盗み見ていた。
自分の恥辱まみれの緊縛姿を目の当たりにして、ナルシストとしての欲望を満足させているに違いない。
「やっぱり、生で見ると、すごいわね…」
感に堪えぬように、塁がつぶやいた。
「まったく…って、人は」
…の部分で、塁はどうやら先生の名前を口にしたようだった。
その名前は当然僕も知っているけれど、僕にとって先生はあくまで先生だ。
だって、その呼び名でないと、いやらしさが感じられないから。
先生を見つめる類の眼には、複雑な表情が浮かんでいた。
こみあげる劣情に耐えているような、それでいて、ひどく悲しげな…。
僕はふと、何の前触れもなく、このふたりはかつて恋人同士だったのではないかと思った。
それは直感にすぎなかったけど、いざ意識にのぼせてみると、可能性としていかにもありそうだった。
先生は医学部の学生なのだ。
柚葉が看護学部に所属する、あの立派な図書館のある大学の…。
塁はその同じ大学出身の、いわゆる先輩医師といったところなのかもしれない。
「塁…」
先生が鏡に映る塁に向けて、小声で言った。
なんだか、母親に悪戯の現場を押さえられた幼児のような眼をしている。
「本当に、あなったって、救いようのない変態ね」
吐き捨てるように、塁が言った。
「自分がどれほど恥ずかしい格好をさせられてるのか、わかってるの?」
「知ってるさ…」
先生が、自嘲するように薄い唇をゆがめた。
「でも、そういうおまえも、俺のそこに惚れたんだろう?」
先生のひと言が、よほど正鵠を射ていたのだろう。
塁は「うっ」と喉を詰まらせ、顔を赤くすると、今度は僕のほうを向いて、苛立った口調で訊いてきた。
「それで少年、あなたはここで、私に何をさせたいの?」
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